「時間オーバーしたらもちろん追加料金。一時間につき2万円だ。QRコードはここに」伶は引き出しからpaypayの受取コードを取り出し、机の上に置いた。悠良は目を丸くした。まさかまだそれを持っているとは思わなかったのだ。急に疑いが芽生える。「ちょっと......このコードって、もしかして専用じゃないでしょうね?」伶は顎に手をやり、まるで彼女に気づかされたように頷いた。「ふむ、言われてみれば筋が通るな。じゃあ『悠良専用』って文字を入れておくか」悠良は慌てて首をすくめる。「やっぱりやめて。一時間で十分よ」外のカフェを借りた方がよほど安い。一時間2万なんて、いくらなんでも法外だ。伶は指先で彼女の鼻梁を軽くなぞり、くすっと笑う。「ほんと用心深いな。君から金なんか取れそうにないな」もちろん悠良も分かっている。伶にとって2万円なんてはした金だ。むしろ最近は、自分がここで好き放題食べて飲んで、彼に散々出費させている。多分これは、男の悪趣味だろう。金があり余ると、こんな遊びを思いつくものなのかもしれない。だが、この罪なら......自分が背負っても悪くないかもしれない。部屋を出ると、葉がすぐさま駆け寄ってきた。「正直に言って。中で何してたの?あんなに長いこと」悠良はさっきの「追加料金」の話を思い出し、ため息をついた。「危うくぼったくられるところだったわ。行きましょ、一時間しかないの」そう言って彼女の腕を取り、伶の書斎へ向かう。だが中に入った瞬間、ようやく理解した。どうして彼が「一時間2万円」と言ったのかを。これは単なる書斎じゃない。まるで人間界の楽園だった。こんなに長くここに住んでいながら、彼女自身も初めて足を踏み入れる。男の聖域に勝手に入らない、それが暗黙のルールだと自覚していたからだ。秘密でも漏れたら、自分が困るのは目に見えている。葉も周囲を見回し、思わず感嘆の声を上げる。「な、何これ......本当に書斎?」室内はクールな色調で、照明は落ち着いていながらも洗練されている。棚に並ぶ書籍と高価な美術品は、間接照明に照らされて、まるで浮遊するオブジェのよう。さらに視線を向けると、書架の対面には赤ワイン専用のラックがあり、銘柄を見ただけでも目が飛
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