若さに任せてイキってるタイプの男は、こうやって煽られるとまず黙っていられない。伶にそう言われた途端、松倉はすぐさま言い返した。「俺の義兄はな、この辺一帯の区長だぜ!実の姉の旦那だ。もう忠告してやったからな。これ以上なめたら承知しないぞ!」その得意げで尊大な表情があまりにも鼻につき、若菜は今すぐ張り倒したい衝動に駆られる。対して悠良は、むしろ静かで落ち着いたままだ。「『天網恢恢疎にして漏らさず』って言葉、聞いたことある?」「知らねぇし聞きたくもねぇわ。俺はイキって何が悪い。どうだ美人さん、俺と一緒になって損はねぇぞ?兄貴は区長、姉貴は銀行の支店長だ。うちの家柄考えてみろよ?どこの娘だって俺を選びたがるに決まってんだ。調子乗んなよ」最初、悠良はこの男の言動そのものに嫌悪感しかなかった。だが今はもう、気持ちは別の方向へ変わっていた。気色悪さより、哀れみのほうが勝る。哀れな人間には、必ず憎たらしい面もあるものだ。伶は眉間を揉み、口の端に嘲りを浮かべる。「その兄夫婦も可哀そうだ。すぐに職失って調査対象になるだろう」銀行関係なんて、クリーンな人間のほうが少ない。しかも夫婦そろって銀行の支店長と区長の組み合わせ。癒着の温床みたいなもんだ。松倉は目を見開き、思わず声を荒げる。「俺がホラ吹いてると思ってんのか?今すぐ兄貴に電話かけてやるよ。ただまあ、今ここでその女二人を渡すなら許してもいいぜ?子分たちが遊び終わったら返してやるよ。だが聞き分けねぇなら──覚悟しろよ?」伶は拳を握った。指の骨がゴリゴリと鳴る。「くだらない脅しはいいから、さっさとお得意の『顔が利く義兄』とやら呼べ。じゃないと、次は本気でぶん殴るかもな」自分が区長の名を出せば相手が引き下がると思っていた松倉は、それでも怯まない伶に逆に面食らう。「へぇ、いい度胸じゃねぇか。そこまで言うなら、見せてもらおうじゃねぇか。そこで待ってろ!」そう言い放ち、松倉はすぐ義兄に電話をかけ、開口一番こうだ。「兄貴......やられた!アイツらわざと女を使って俺をハメたくせにしらばっくれて、警察署で殴ってきやがったんだ!」「何だと?誰がそんな真似を?今行く」電話の向こうからそんな声が返ってくると、松倉は気分よさそうに鼻をすすった。「頼んだぜ
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