悠良の瞳孔に一瞬慌てた色が走ったが、すぐにその感情を押し込めた。彼女は我に返って体を少し横にずらす。「もう使ったから、入っていいよ」そう言って、悠良はうつむいたまま部屋に戻ろうとした。だが、伶がすぐさま入り口を塞いでしまった。悠良は危うく彼にぶつかりそうになる。不思議そうに顔を上げる。「どうしたの?」伶は目を細め、今夜彼女が三ツ橋に行ったのか、本当は自分と若菜の関係が気になって行ったのかと、問いかけそうになった。心の中で少しでも自分を気にしてくれたのかと。だが、すぐに思い直す。悠良のように素直じゃない人間にそんなことを真正面から聞いたら、きっとまた殻に閉じこもってしまう。結局、彼は言葉を飲み込んだ。「いや、何でもない。様子を見に来ただけだ」「ただ顔を洗っていただけだよ」「ならもう休め。明日の朝七時にホテルの入口に集合だ」「うん」表面上は何事もなかったように見える二人だったが、それぞれ胸の奥に複雑な思いを抱えていた。伶は身支度をしてからシャワーへ。悠良はベッドの端に座り、急に眠気が吹き飛んでしまった。胸のあたりに何かがつかえているようで、理由も分からずただ息苦しい。ちょうどそのとき、葉からメッセージが届いた。【仕事の話どうなった?】悠良【一言じゃ言えないけど......まあ悪くはないと思う。ただ最終的に契約できるかはまだ分からない】葉は驚いた顔文字を送ってきた。【それどういう意味?契約できるの?できないの?ていうか、あの女そんなに手強い?悠良と寒河江社長が揃ってもダメなんて】葉にとって、伶と悠良は「無敵」な存在だった。どちらか一人が動けば必ず決まるし、二人同時なら失敗なんてありえない。長年彼女のそばにいたが、こんなに不確かな言葉を悠良の口から聞くのは初めてだった。悠良は伶と若菜のやりとりを大まかに説明した。それを聞いた葉は、驚いたスタンプを次々と送ってきた。【冗談でしょ?寒河江社長と鳥井社長?ありえないって。寒河江社長みたいな人が、そんなことで鳥井社長と一緒になるわけないじゃん】【悠良は寒河江社長と一緒にいる時間長いでしょ?なら分かってるはずだよ。あの人は「好きだから一緒にいる」、それだけの人よ。「何かの理由で一緒にいる」なんて絶対にないから
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