Semua Bab ロホ ~歩き続ける者~: Bab 1 - Bab 10

16 Bab

僅かな希望で前に向かう人

雪が舞っていた。「ロホ!もう少しで町だよー!」前を飛ぶ小さなドラゴンがくるくると宙を回る。だが、その羽ばたきも少し重たそうだった。ロホと呼ばれた女性は「……飛ばなくていい。疲れるから歩きなさい、ファド」「えー、でも、空のほうが見通し良いんだもん」「おまえの羽、濡れてる。羽風で雪を巻き込んでるよ。歩く方が賢明」「……はーい……」不服そうにファドと呼ばれたドラゴンがロホの肩に乗った。流麗な白い鬣を持つ馬は鼻をふん、と鳴らして雪を蹴る。細い道を縫うように進むぺガスの背中で、ロホは空を見上げた。空は白く、どこまでも遠かった。銀髪は腰まで伸び、今日は気まぐれに編み込んである。翠の瞳の奥に炎のような静けさを宿し、ロホは雪を踏みしめていた。左に剣、右に小剣、太ももにはナイフ。背には弓。フードを被り皮鎧とローブを重ね、常に“戦い”と“日常”の狭間にいる魔法戦士。その隣を、翼を小刻みに揺らしながら飛ぶのはドラゴンの子供・ファド。中型犬ほどの体躯で、おしゃべりといたずらが大好きな旅の相棒。そして、ロホの背に静かに寄り添うのは、流麗な白い鬣を持つ馬――ぺガス。言葉は話さないが、その瞳と言動で十分すぎるほど意志が伝わる、誇り高き旅の仲間。「私がその人に出会ったのは、その町に入ってすぐのことです」その町の名前は「カイレ」。 雪と霧に包まれる、小さな谷間の町だった。町の宿屋は古びていたが、火の温もりがあった。「……いらっしゃいませ。雪の旅、お疲れ様でした」出迎えたのは、まだ十にも満たない少女だった。母親は病気らしく、代わりに受付をしているのだという。名をティレといった。「お客様申し訳ございませんが、お馬のほうはご自身で小屋につないでいただけますでしょうか、一人しかいないので・・・」 ロホは頷きペガスを馬小屋に連れていき、まぐさもたっぷり与えた。「宿、空いてる?後お風呂も・・・」ロホの問いに、ティレはこくりと頷く。「一番奥の部屋です。……あの……ローブ、濡れてます」「ありがとう。でも乾かすから、大丈夫」ファドはストーブの前で大の字になって伸びていた。「天国ぅ……」「……こいつ、火があるといつもこうなるんだよね」「……ふぅ……」宿の共同浴場に音を立てず湯に沈む、湯殿にはロホしかおらず足を伸ばし、腕を伸ばして伸びをする。湯気が舞い、ローブを脱い
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焚火の夜に語るもの

火は、静かに燃えていた。ぱち、ぱち、と木が弾ける音だけが、夜の闇に浮かんでいた。ロホは焚火の前に腰を下ろし、肩まで垂れた銀の髪を、そっと編み直していた。ファドは丸くなり、ぺガスは焚火の輪から少し離れて立っている。夜は冷たかったが、不思議と、心は静かだった。やがて、ファドがぽつりと呟いた。「ねえ、ロホ……」「ん?」「ロホってさ、すごいのに……なんで、あんまり怒らないの?」ロホは、少しだけ考えた。そして、編んでいた髪をそっと下ろし、焚火を見つめながら語り始めた。「……昔、聞いた話があるの。」「天の神様が、地上を歩いていてね。道端で、足の不自由な人を見つけた。可哀想に思って、その足を治してあげたんだって。」ファドは、目をぱちくりさせながら聞いている。「また歩き出した神様は、今度は目の見えない人に会った。また可哀想に思って、目を治してあげた。」「でもね――最後に出会ったのは、この国の将軍だった。」ロホの声は、焚火の揺らめきと同じくらい、静かだった。「将軍は泣いていた。“また戦に出て、人を殺さなければならない”って。」「神様は、もう、何もできなかった。足を治すことも、目を治すこともできたけど、その人の“背負ったもの”だけは、治せなかった。」「だから、神様は、ただ隣に座って、一緒に泣いたんだって。」しばらく、誰も何も言わなかった。火が、ぱち、ぱち、と静かに鳴っただけだった。ファドは、焚火の明かりの向こうで、小さく首をかしげた。「……ロホ、それ、神様でもどうしようもないってこと?」ロホは、小さく笑った。「うん。だからね、わたしも……全部を救えるとは思ってない。」「でも、だからって、歩くのをやめるつもりもないよ。」「わたしにできるのは――隣に座って、泣いてあげること。そして、また、歩き出すこと。」ファドは、しばらく考えて、やがて、にっと笑った。「じゃあオレも! ずっとロホの隣に座ってる! 泣くときも、笑うときも!」ぺガスが、鼻をふんと鳴らして、しっかりと蹄で地面を踏みしめた。ロホは、ふっと目を細めた。焚火の火は、静かに、あたたかく揺れていた。そしてまた、新しい夜が、明けようとしていた。
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よくある光景・・・

戦は、終わった。血と灰と、燃え残った焦げた布の匂いだけが、まだ重たく空気を押し潰している。ロホは剣を鞘に収め、泥と煤で黒くなった手袋を外した。ぺガスは静かに地を踏みしめ、ファドも無言でロホの後ろにぴたりとついていた。今、この場でなすべきはただひとつ――終わったものたちを、きちんと弔うこと。ロホは、倒れたまま動かない人影に近づいた。それは、布を巻き付けただけの粗末な防具を着た、若い女だった。顔に、苦悶の色はない。まるで、眠るような静けさだった。ロホはそっとしゃがみ、彼女を抱え、静かな場所へ運ぼうと手を伸ばした――その瞬間。小さな影が、ロホの手を遮った。女の子だった。年のころは七つか八つ。服はぼろぼろで、顔も手も煤にまみれていた。それでも、彼は必死にロホの腕をつかみ、首を横に振った。声は出ない。ただ、泣きそうな顔で、必死に首を振り続けた。ロホは手を止めた。その子にとって――この女性は、まだ"ここにいる"存在だった。たとえ、息をしていなくても。たとえ、冷たくなっていても。それでも、まだ――“お母さん”だった。ロホは、ゆっくりと膝をつき、目線を合わせる。そして、そっと手を引いた。女の遺体に触れず、何も言わず、ただその場にひざまずき、祈った。風が、すすり泣くように草を揺らしていく。ファドが、何も言えずに肩を震わせた。ぺガスは、鼻先を低く鳴らして、そっと少女の背を押した。ロホは、誰にも聞こえないほどの声で呟いた。「……ごめんね。それでも、あなたが、また歩ける日が来ることを願うよ。」彼女は、少女の背中に手を伸ばしはしなかった。慰めることも、約束することも、今はまだできなかった。できることは、ただ一つ。そっと、そこにいてあげること。少女は、ずっと、母親の手を握りしめたまま、空を見上げていた。ロホは、少女の必死の抵抗に触れながら、しばらくその場に留まっていた。だが、時間だけは無情に過ぎていく。吹きつける風は冷たく、夜が来れば獣たちが遺体を汚すかもしれない。放置することは、できなかった。ロホはそっと立ち上がり、小さく呟いた。「……でも、このままにしてはおけない。」少女は、母親の冷たい手を握りしめたまま、か細く呟いた。「……お母さん……」その声には、わずかに、ほんのわずかに、母が目を開き、自
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賢者の最期にて

夜は、静かだった。焚火も絶え、月だけが、冷たく白く照らしている。小さな庵の中、藁の上に寝かされた老人――賢者ルヴェールは、既にその手足に力がなく、呼吸も細く、かすかなものになっていた。ロホは、ただ静かに、彼の枕元に座っていた。ファドもぺガスも、遠くで気配を消している。ここに必要なのは、ただ“聞く耳”だけだった。賢者は、乾いた唇を微かに動かした。ロホは水を含ませた布で、そっと彼の口元を拭った。それから――賢者は、ゆっくりと、語り始めた。「生と死はね、誰にでも訪れるもの……不吉でも、悲劇でもないのですよ。」「精一杯生きた人生はね、お腹いっぱいにご馳走を食べたようなものなの。」「だから私は、満足してる。」賢者の声は、掠れていたが、どこまでも澄んでいた。ロホはただ、黙って聞いていた。「でもね――精一杯生きなかった人の人生は、飢えに苦しむようなものだから、死が、怖くなるんだ。」ロホは目を閉じた。誰よりも多くの生と死を見てきた彼女には、その言葉の重みが、痛いほどわかった。賢者は、にじむような微笑みを浮かべ、小さく、こう続けた。「だからね……私にとって、死は――ご褒美みたいなものなの。」しばらく、静寂が流れた。ロホは、ゆっくりと賢者の手を取った。冷たく、しかし、確かに生きていた手。「……お疲れさまでした。」ロホは、それだけを告げた。賢者は、小さく、小さく頷いて、まるで眠るように、息を引き取った。夜風が、庵の隙間を通り抜け、星々が、静かにまたたいた。ロホは目を閉じ、一言だけ、心の中で祈った。「どうか、あなたの旅が、もう飢えることのないものになりますように。」そして、また、歩き出す。新しい朝に向かって。
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幸福な男と裸の真実

ある国を旅していたとき、ロホは、町の広場で妙な御触れを見かけた。「我こそはこの国で最も幸福な者なりと思う者は、名乗り出よ。」掲げられた木札には、続きがあった。「王が病に伏せ、治すためには、最も幸福なる者の肌着を必要とする。」ロホは、立ち止まって、それを眺めた。ぺガスは蹄を鳴らし、ファドは肩の上でくすぐったそうに動いた。「また変なことしてるね、ロホ?」ロホは、ふっと微笑んだ。「……さて、旅を続けよう。」国中が、奇妙な騒ぎに包まれていた。金持ちも、貴族も、兵士も、皆「自分が一番幸福だ」と名乗り出た。だが、誰の話を聞いても、どこかに欲や虚栄が透けて見えた。王子は頭を抱え、「真に幸福な者など、どこにもいないのでは」と嘆いた。そんな中。ロホは、人里離れた小さな谷にたどり着いた。そこで出会ったのは――背中を丸め、川べりで石を打ち、陽気に歌う、ひとりの老人だった。「ああ、なんて幸せな一日だ!今日も川は流れ、空は青い!」老人は、笑いながら、子供のように歌っていた。ロホは、しばらくその様子を見ていた。そして、そっと町に戻り、王子に伝えた。「あなたの探している者は、ここから遠くない谷にいる。」王子は、喜び勇んで、すぐに馬を走らせた。ロホは、それを遠くから、静かに見送った。谷にたどり着いた王子は、老人を見て、思わず絶句した。老人は、ボロボロの布を腰に巻いただけで、上半身は裸だったのだ。着せるべき肌着など、どこにもなかった。王子が、困惑と失望を滲ませながら立ち尽くしていると、老人は、穏やかに語りかけた。「王子さま。政(まつりごと)が正しければ、民は自然と笑い、その中から、真に幸福な者が育つでしょう。」「力づくでも、宝でも、幸福は買えません。」「ただ、正しく生きることだけが、民を、国を、そしてあなた自身を救うのです。」王子は、しばらく何も言えなかった。だが、やがて、深く頭を垂れた。そして、すぐに国に戻り、政を正すための改革に着手した。搾取をやめ、弱き者を守り、誠実な者を登用し、無駄な奢りを捨てた。やがて国は、少しずつ、本当の意味で豊かになっていった。ロホは、国の喧騒から離れた丘の上で、ぺガスのたてがみを撫でながら、遠くの町の変化を見守っていた。ファドが、くすぐったそうに囁く。「ロホ、なんかいいことした?」ロホは、空
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顔なき旅人、名もなき剣

私がその人に出会ったのは、街に入る二日前のことです。その晩、ロホたちは人里離れた森の中で野営していた。ぺガスは静かに草を食み、ロホは薪をくべ、ファドは――旅の途中で見つけた木苺をぱくぱくと食べていた。それが、いけなかった。夜半、ファドは苦しそうに呻き、ロホが駆け寄ったときには、すでに顔色が変わっていた。「……あたったな。」ロホが眉をひそめたそのとき。「塩水を――すぐに!」闇の中から声が響いた。現れたのは、くたびれた旅装の男――キョセイと名乗った。彼は素早く塩水を作り、ファドに吐かせ、さらに薬草を煎じておかゆを作って与えた。ファドは、やがてぐったりと眠りに落ちた。「助かったわ。礼を言う。」ロホがそう言うと、キョセイは、にこりと笑った。「困った時はお互い様さ」旅人は、ファドの頭をひと撫でし、手を振って去っていこうとした。ファドは、眠たげに手を伸ばした。「この先の街で、また会えるよね?」キョセイは、その問いに、少しだけ寂しそうに笑って首を振った。「それは、無理でしょう。」そう言い残して、夜の闇に消えた。二日後。街に入ると、空気は騒然としていた。「大変だぁ~!ご領主さまが殺されたぁ~!!」人々が走り、叫び、広場へと向かっていた。ロホとファドも、流れに乗る。そこにいたのは――兵士たちに囲まれ、必死に戦う、キョセイの姿だった。矢が飛び交い、剣が閃き、乱戦の中で、キョセイは――自らの顔を刃で削ぎ落とした。「キョセイさん……」ファドは、ただ茫然と立ち尽くしていた。その夜。宿屋の食堂で、ロホとファドは、肉と野菜のごった煮を前にして座っていた。周囲では、酒と笑いと、陰口が渦巻いている。「それにしてもご領主さまが殺されましたねぇ~」「いい気味だ。」「あいつには泣かされたからな。」「顔のない刺客に乾杯!」男たちは、楽しそうに話し、やがてロホにも話を振った。「あなたはどうです?」ロホは、静かに答えた。「私は旅人なので、この国のことは何も……」その刹那。「よし、お前たち全員、不敬罪だ!」兵士たちがなだれ込んできた。あまりに見え透いた罠。連行される人々を見て、ファドが呟いた。「あれじゃ、ペテンだよ。」ロホは、冷たい声で言った。「行こう。ここは――人が一番危険。」広場へ向かうと、そこには、顔を
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-17
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春告げの子

草原の先に、小さな村があった。石を積んだ塀に囲まれた、地図にも載らないほどの小さな集落。ロホとファド、ぺガスは、しばしの休息を求めて、その村を訪れた。村の空気は、どこか乾いていた。干ばつに見舞われたのか、作物はしおれ、人々の顔には、疲れと諦めが滲んでいた。「水も、食べ物も、ない……」村の老人は、かすれた声でそう漏らした。ロホは、何も言わずに、空を仰いだ。雲一つない、白く乾いた空。ここでロホができることは、ほとんどなかった。そのときだった。広場の隅、か細い声が聞こえた。小さな少女が、ひとりで土に穴を掘り、何かを植えていた。枯れた枝。萎びた葉。それでも、少女は、それを両手で大事そうに押さえながら、ぽつりぽつりと、誰に聞かせるでもない歌を口ずさんでいた。「もうすぐ、春が来るよ。」「きっと、雨も降るよ。」「だから、だから……ここに、花を咲かせるんだ。」ロホは、ぺガスの手綱を引き、静かに少女のそばに近づいた。ファドも、肩の上で目を丸くしていた。ロホは、しゃがみこんで、少女に尋ねた。「なぜ、花を植えるの?」少女は、少しだけ考えて、笑った。「お花が咲いたら、みんな、笑うでしょ?」「笑ったら、お水もごはんも、また来るよ。」あまりにも、無邪気で、あまりにも、まっすぐな言葉だった。それが、ロホの胸に、静かに沁みた。世界がどれだけ乾いても、心に花を咲かせようとする者が、ここにいた。ロホは、少女の手から、枯れた枝を受け取った。そして、自分の懐から、そっと、乾かない種を一粒取り出した。それは、かつて異国の地で受け取った、「生きる力」を象徴する種だった。ロホは、少女に手渡した。「これを植えなさい。」少女は、目を輝かせ、深く頷いた。数日後。小さな芽が、枯れた土から、顔を出した。ほんの小さな、だけど確かな命。村の人々は、それを見て、静かに、涙を流した。そして、小さな笑い声が、少しずつ、広がっていった。ロホは、ぺガスにまたがり、ファドを肩に乗せ、静かに村を離れた。振り返ることはしない。けれど、胸の奥には、確かに花の香りが、優しく息づいていた。「ねえロホ!」ファドが、肩の上で声をあげた。「オレたち、また春に会ったんだね!」ロホは、目を細め、空を見上げた。「そうだね。春は、すぐそこにあったんだ。」彼らはまた
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賢者の言葉

夕暮れだった。旅の途中、古びた祠の前で、ロホは一人の老賢者と出会った。雪のように白い髪。深い皺に刻まれた穏やかな微笑み。その目には、幾多の時代を越えてきた者だけが持つ、静かな光が宿っていた。ロホは、ぺガスを休ませ、ファドとともに、その老人のそばで、しばし火を囲んだ。言葉は、少なかった。けれど、心地よい沈黙が続いた後、賢者はふと、ロホに語りかけた。「ロホさん。」「助けてもらった人以上に、自分が助けた人には感謝しなさい。」ロホは、少しだけ眉を寄せた。「……助けた側が、感謝する、のですか?」賢者は、頷いた。その動きは、夕暮れの光の中で、まるで大地そのものが微笑んだかのように見えた。「人を助ける……こんな素晴らしいことができたのですから。」ロホは、しばらく、言葉を失った。彼女の中には、無数の出会いと、無数の別れがあった。救った命も、見送った命も、すべて、心に静かに積もっていた。だが。自分が「助けた」ことに、誇りを持つという発想は――どこか遠いものだった。賢者は、続けた。「助けたということは、あなたが誰かの希望になったということです。」「それは、この世界に、一輪の花を咲かせるのと同じです。」ロホは、ゆっくりと、火を見つめた。ぱちり、と、小さな薪が弾ける音。その光の中に、かつて手を伸ばした子供たちの笑顔が、命をつないだ者たちの声が、静かに浮かんだ。「……ありがとう。」ロホは、小さな声で、そう呟いた。賢者は、何も言わなかった。ただ、その光に包まれたまま、目を閉じ、静かに頷いた。夜が深まったとき、ロホは再び、旅立った。背を押してくれる言葉を、胸に抱きながら。「人を助ける。こんな素晴らしいことができたのだから――私は、感謝しながら歩こう。」銀の髪を、夜風が優しく揺らした。歩き続ける者の旅は、また、静かに続いていく。今度は、少しだけ、誇りと感謝を胸に抱きながら。
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命をいただくこと

森の中。焚火の残り香のする広場で、ロホは立ち止まった。血の匂いが、微かに漂っている。近づくと、そこには、皮を剥がれ、投げ捨てられた鹿たちの屍があった。三頭。どれも腹だけ裂かれ、肉も取らず、放置されている。そしてその傍で、数人の若い傭兵たちが笑いながら酒をあおっていた。「ったく、こんなクソ森で狩りごっこしかできねぇなんてな!」「ま、戦場までのヒマつぶしだろ!」ロホは、ただ静かに、彼らの前に歩み寄った。そして、何も言わず、足元の鹿を見下ろした。傭兵たちは、最初はロホを面白半分に眺めていた。「なんだよ、ババア。肉が欲しいのか?」その言葉に、ロホは一度も顔を上げず、ただ言った。「――おまえたちは、狩人ではない。」声は低く、抑えられていた。だが、その場の空気が、一瞬で冷えた。「命を、遊びに使うな。」一歩、踏み出す。剣にも、弓にも手は伸ばさない。だが、傭兵たちは、無意識に腰を引いた。翠の瞳が、夜の焚火よりも冷たく光っていた。「おまえたちには、もはや、剣を抜く価値もない。」静かな声だった。なのに、何よりも重たく、刺さった。傭兵たちは、バツの悪い顔をして、焚火の周りから逃げるように去っていった。ロホは、静かに屍たちに膝をつき、一頭一頭、目を閉じさせた。そして、短く、祈った。「……無駄にして、すまない。」風が吹いた。鹿たちの毛皮が、さらりと揺れた。ファドが、そっと背後に寄ってきた。「ロホ……怒ってる?」ロホは答えなかった。ただ、いつもより少し強く、ぺガスのたてがみに手を添えた。それは、声なき誓いだった。二度と、この森で、命が笑いものにされないように。ロホはまた、歩き出した。静かに。だが確かに、怒りと祈りを胸に抱きながら。その夜。焚火の灯りの向こうで、ファドは丸くなりながら、じっとロホを見上げていた。「ロホ……」「なんでさ、オレたちって、生きるために、誰かを食べなきゃいけないの?」問いは、小さな焚火の音にかき消されそうなくらい、か細かった。ロホは、薪をくべる手を止めた。しばらく、何も言わず、ただ火を見つめていた。そして、ゆっくりと口を開いた。「……生きるって、奪うことだから。」ファドは、少しだけ肩をすぼめた。ロホは続けた。「でもね。それは“悪いこと”じゃない。」「誰かが、土に還り、誰かが
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記憶の灯火と語り継がれる人

その夜、ロホたちは風のない丘の上で野営していた。火は小さく、音もなかった。ファドはすでに眠り、ぺガスも静かに草を噛んでいた。ロホは、焚火を見つめながら、ぽつりと呟いた。「……助けた人に、感謝を。」あの賢者の言葉が、胸の奥で、微かに響いていた。ロホは、目を閉じた。そして、過去の旅の中に消えていった“あの人たち”を、ひとり、またひとり、そっと思い浮かべていった。干上がった井戸の村で、希望をなくしかけていた少年とその母。彼女は、最後の水を、ロホに託そうとした。ロホは水を返し、代わりに村の古い石壁を壊して新たな泉を掘り当てた。少年が最後に言った。「“ロホ”って、光の名前みたいだね。」戦火の町で、焼け落ちた橋の手前で泣いていた片足の兵士。彼は、もう一歩が踏み出せなかった。ロホはその背に手を添え、一言だけ囁いた。「この道の先に、あなたの命がある。」彼は、翌年、戦を捨てて教師になったと、風の便りで知った。追放された王族の少女が、身を隠していた市場の片隅。ロホは、彼女の前に座り、何も聞かずに果物をひとつ差し出した。少女は震えながら、それを受け取った。「あなたにだけは、名を告げてもいい気がする。」今、彼女は“ただの市民”として、誰よりも幸せに暮らしているという。思い出は、淡くて、温かくて、それでいて、少しだけ寂しい。ロホは、そのすべての“命の重なり”を、静かに胸に受け止めていた。そして、ぽつりと呟いた。「……ありがとう。」「私の旅に、意味をくれて。」焚火の火が、ぱちりと鳴った。星は瞬き、夜の帳が、やさしく世界を包んでいた。ぺガスが、ロホの背に鼻先を寄せた。ファドが、寝言のように、ふにゃりと笑った。ロホは立ち上がり、夜空を見上げた。この旅の先に、また誰かが待っているのなら。自分の手が、その誰かを照らすことができるのなら。「……歩くわ。」「“私がここにいた”という灯を、次の誰かに繋ぐために。」そしてまた、歩き出す。静かに、けれど確かに。命の記憶を胸に抱いて。──それは、旅人の話だった。焚火を囲む若者たち。夜風が肌を撫で、星々が頭上で瞬く頃。ひとりの老女が、静かに語り出した。「その人はね……名も名乗らなかったのよ。」「でもね、あの目を、私は今でも忘れられない。」「冷たいようで、あたたかくて、遠いよ
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