「先生!」美月は真田怜士の邸に週3回、月・水・金で准のレッスンに通う事になった。当初、彼女がホテル暮らしだと知って住み込みでも良いと言ってくれたが、さすがに既婚者である身でそれは駄目だと断った。准は駄々を捏ねたが、離婚の際に疑わしい状況にいるのは良くない、と聖人おじさんや尚さんにも言われ、意味は分からなくとも〝良くない〟という事は分かったので、渋々頷いた。「じゃあ、先生。ご飯は一緒に食べてね?」「……」可愛らしい顔でお願いされて、できることなら叶えてあげたいが、食事までここで済ませると帰りが遅くなってしまうので困った。正直言うとそのまま帰りたい。美月はどうしようかと悩んでいた。「先生…だめですか?」准はほぼ涙目である。チラリと怜士の方を見ると、彼も苦笑していた。「う〜ん…じゃあ、週に一日だけね?それならいいわ」「えぇ〜」准は不満そうだったが、やがて仕方なさそうに頷き、美月に笑顔を向けた。「わかった!じゃあとりあえず、今は週1回ね!」「とりあえず?」首を傾げると、「ふふっ、なんでもなーい」と誤魔化された。そしてー着いて早々のティータイムを終えて、美月は怜士と准に連れられ、ピアノが置いてある部屋に向かった。准の部屋か、別にピアノを弾く為の部屋のようなものがあるのかと思っていたら、意外にも広々としたリビングに設置されていた。大きな窓からは燦々とした日差しが入り、それを柔らかく遮るレースのカーテンと、音響の為か、あまり家具などいろいろと置かれていない部屋が、妙に希純が自分の為に造った部屋と似ていて、美月は少しだけ居心地が悪かった。「どうかされましたか?」ほんの僅かに顔を顰めたのを気づかれたのか、怜士が尋ねた。「いえ…ここはリビングですか?」美月が尋ねると、彼は目を細めて頷いた。「ええ。亡くなった妻がピアノを弾いていまして、一人で弾くのがつまらないからと、ここに設置させたんです。私と、まだ小さかったこの子は、いつもここで彼女のピアノを聴いていました」そう言って懐かしそうに微笑う怜士に美月も微笑み、だが、困ったように言った。「ここでレッスンして、お邪魔になりませんか?」なんといっても、ここはリビングなのだ。人が安らぐ為にある部屋で、ただのピアノ講師である自分がそれを邪魔してもいいのだろうか…。いくら息子を教えている
Last Updated : 2025-07-16 Read more