尚には、思い出す度に死にたくなる記憶がある。いや、記憶があるというようなそんな曖昧なものじゃない。実際に目で見て、体験したのだ。気がつくと、自分がまだ小説家の如月尚として確立していない頃にいた。訳が解らず、自分の頭がどうかしてしまったのかと思った。未来視???そんなはずはない。あの絶望が!あの憎しみが!幻なんかなはずがない!ドンッ!!尚はギリギリと歯軋りして、パソコンの乗ったデスクに両拳を叩きつけた。その拍子に、傍にあったアイスティーの入ったグラスが倒れ、パソコンを水浸しにした。「!」見るも無残な状況だったが、それで尚もハッと気持ちを取り戻し、次に慌ててパソコンやその他の物の水分を拭き取った。まぁ、だが…結果的にパソコンは壊れ、中にあるはずの書きかけの原稿のデータもとんでしまった。彼女は落ち込んだが、ある事に気付いて途端にその瞳を輝かし、早速新しいパソコンを買いに出かけた。彼女は思った。そうよ。これから先で人気の出たものを書けばいいんじゃない!人のものを盗る訳じゃなし、早く書いたっていいじゃない!彼女は笑った。もちろん一字一句覚えてる訳じゃない。でも、何度も読み返しながら書いたのだ。また同じものが書ける!そう気がつくと興奮して、尚はアハハと笑った。何がなんだか分からないけど、つまり、私は生き直してるのよね!?この頃なら、美月だってまだ生きてる!まだチャンスはある!!彼女は美月の葬儀で泣き崩れる希純を見ていた。その隣には、当然のようにあの女が寄り添っていた。クソ野郎が!!尚は、爪が掌に食い込んで血が滲むほど、拳を握り締めた。涙に濡れる男を激しく睨みつけて、一瞬たりとも目を離さなかった。殺してやる…。自然とそう思っていた。義妹に手を出しながら妻も手放さないなんて、どんだけ畜生なのよ!尚の殺意を含んだ眼差しに、希純の近くに控えていた男が視線を向けてきた。「…?」そしてその眉が顰められるのに、彼女は冷たく微笑み、そのまま焼香もせずくるりと背を向け、葬儀場を後にした。復讐が済んだら会いに行くわ。尚は心の中で美月に言った。それまで待ってて、美月!彼女の顔には、強い決意を秘めた笑みが浮かんでいた。一方。「なんだ…?」あの憎しみに満ちた目は、希純に向いていた。中津は不安を覚えて希純を見たが、彼は自分で立って
Last Updated : 2025-07-20 Read more