ポタ…ポタ…ポタ…髪の毛から薄赤い雫が落ちるのを、奈月は俯いたまま見ていた。髪の毛だけじゃない。その水滴は彼女の額から鼻筋、頬から顎を伝って、綺麗なサファイアブルーのドレスも汚していた。「あら、ごめんなさい?」そう言ってふふふっと笑う、かつての友の声が奈月の耳に入った時、彼女はぎゅっと拳を握りしめた。「わざとじゃないの。許してくれるわよね?」「……」この女!!わざとじゃないと言いながら、ゆっくり手にしたグラスをテーブルに戻し、次に彼女はそこにあった菓子を手掴みで奈月に差し出した。「どうぞ?美味しいわよ?」「……」この光景を見ていた周りからクスクスと嗤う声が響き、奈月の身体が怒りでぶるぶると震えだした。「なんのつもり?」歯を食いしばって今にも爆発しそうな怒りを飲み込み、奈月は濡れた髪をかき上げて顔を上げた。「私からのプレゼントを首に巻いておいて、言うセリフじゃないわよね」「!」彼女は今気がついた、とばかりに顔を赤く染め、急いでお気に入りのスカーフを乱暴に外した。手に持っていた菓子は、テーブルに投げ出された。下品ね…。奈月は常に周りの目を意識する生活を送っていたせいか、こういった振る舞いはまずしなかった。令嬢教育などしなくても、こんな振る舞いが品のないことくらいわかる。彼女は、まるで犬にエサをやるように、自分に菓子を与えようとしたのだ。手掴みで!これは、奈月のプライドにかけて許さないと決めた。「あんなに私に媚びへつらってお溢れを貰おうとしてたくせに、チャンスと見れば噛みついてくるなんて…。犬畜生にも劣るわね」「な…!」奈月にワインをかけていい気になっていた彼女は、この言葉に怒りを爆発させた。「なによ!男の為なら不倫も辞さない淫乱女が!調子に乗ってるんじゃないわよ!!」「不倫?誰が?」「あなたよ!」こんなに噂されているのに、まだ認めないつもり!?そう思って、彼女は奈月に指を突きつけた。「あなた、お姉さんの旦那に手を出したんでしょ!皆知ってるのよ!」「私が?」キョトンと首を傾げる奈月は、知らない人が見たら本当に無垢な表情をしていた。その、「何もしていません」という顔が、彼女は嫌いだった。いつも得意気で、何もかも佐倉希純のおかげのくせに、まるで自分の手柄のように振る舞っているのが気に入らなかったのだ。
Last Updated : 2025-08-27 Read more