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All Chapters of only/otherなキミとなら: Chapter 141 - Chapter 150

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第140話 栗花落礼音の事情

 保健室を介して栗花落に安定剤の処方を出した。 呼吸は安定して傾眠傾向だったので、今は仮眠室で休んでもらっている。 更待と唐木田を部屋の警備に残して、理玖と晴翔は國好と共に部屋を移した。  真野と待ち合わせをした第一図書館の個室は作りもしっかりして壁も厚いので、内緒話にはぴったりの場所だ。 「栗花落は、俺がWO犯罪対策班に移動になってすぐに保護した子供です。当時は十五歳で、親からの性的虐待に気が付いた中学教師の通報がきっかけでした」  國好が俯きがちに淡々と話してくれた。 「栗花落の家から違法なonlyの興奮剤が見つかり、入手ルートがDollだとわかりました。慶愛大とは別の大学のDollで、仕切り役も折笠ではなかった。最初のDollの検挙事件でした」  十一年前の日本だと、onlyの興奮剤は治験すら始まっていない。 日本に存在してはいけない薬だ。 「栗花落がRoseHouseの出身者だと知り、聴取にも行きましたが、その時点でRoseHouseに怪しい点は見付けられなかった。里親の性的虐待が認められて、児童相談所を通して保護扱いになり、ウチで引き取りました」「國好さんの家に、ですか?」  晴翔の問いかけに、國好が小さく頷いた。 「RoseHouseは礼音を戻してくれと言ってきましたが、本人が戻りたがらず。その姿があまりに必死だったので、親父が引き取ると決めました。礼音が……、大学を卒業するまでは、ウチで面倒を見ようと」  十一年前なら、國好の父親はまだ現場に出ていたんだろう。 RoseHouse出身なら他に身寄りもないだろうから、行く場所もなかったはずだ。 「ウチで過ごしている時の礼音は、普段のように明るくてお調子者で、でもやけに気が回る子供でした。大人の顔色を
last updateLast Updated : 2025-09-06
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第141話 悪人らしく

「跡形もなく木端微塵に破壊する」  理玖の言葉に、國好と晴翔が顔を上げた。 「栗花落さんの状態はPTSD、外傷性心的トラウマ症候群です。一朝一夕で治る病気ではない。RoseHouseが存続する限り、トラウマは続く。だから、再起不能なまでに破壊しましょう。RoseHouseも、マザーと呼ばれる安倍晴子も」  國好が理玖の言葉に気後れしている。 「木端微塵に破壊って、どうするんですか?」  晴翔が恐々問う。 「晴翔君は以前に、あれだけ整った施設を壊すのは勿体ないからSky総研で引き取ると言ったよね?」「えぇ、HPに掲載されている施設としては充実しているし、あんなに完璧な設備はないです。箱を貰えるなら、営業形態を変えて引き継ぎたいと考えますよ」「それは却下だよ」  晴翔が、ぐっと言葉を飲んだ。 「栗花落さんであの状態なんだ。RoseHouseに深く犯されている臥龍岡先生や秋風君は、それ以上だろう。RoseHouse出身の総ての子供が栗花落さんと同じだと考えるべきだ」「そう、ですね……」  晴翔が視線を落として同意した。 「片鱗でも残せば恐怖は続く。子供たちのPTSDを根本から治療するには、恐怖の根源であるRoseHouseの壊滅が必須だ。自分たちを縛る鎖はないのだと、本人たちが気が付かないといけない。それでも、リハビリは必要になるけどね」  理玖は両手の人差し指を揃えて、目の前に掲げた。 「RoseHouseの破壊とマザーである安倍晴子の社会的な失墜。それがPTSDを治療する最低条件です」  國好が晴翔と同じように、煮え切らない顔をした。 「
last updateLast Updated : 2025-09-06
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第142話《6/6㈮》乙女系イケメンの趣味

 金曜の午後、理玖は改めて折笠からの手紙を読み返していた。 折笠から預かったUSBは警察が押収している。 コピーを理玖と福澤理事長、羽生部長がそれぞれに持っている。 「改めて読んでも、RoseHouseについては一言も書かれていない」  理研や奥井の名前は、はっきり書いてあるのに、RoseHouseや安倍晴子については一つも書かれていない。それが気になった。 「悪人面した悪人と、善人面した善人か」  これが唯一、安倍晴子を指している気がするが。 「どうして折笠先生は、RoseHouseについての明言を避けたんだろう」  理玖以外の人間がUSBを見付ける懸念を考慮したのかもしれないが。 だとすれば、理研や奥井の名前も伏せるはずだ。 (理研は明記して、RoseHouseは伏せなきゃならない事情ってなんだろう)  Dollへの寄付金の振込先口座はRoseHouseの名義がしっかり書かれていた。 隠す意味がない気がする。 「理研は潰したいけど、RoseHouseには潰れてほしくない。そういう心理かな」  臥龍岡を愛していた折笠なら、もしかしたらそう考えるかもしれない。 それに、理玖が一番気になったのは。 「大事な人を持っていかれないように……。晴翔君を誑かす輩がいる、のかな」  RoseHouseを完全に潰す理玖の意向に、晴翔は賛同しかねる様子ではあった。 だが、それはSky総研副社長として、あの施設の価値を考えたが故だろう。 「それも充分、誑かしと呼べなくもないか」  大企業の役職という立場で資
last updateLast Updated : 2025-09-07
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第143話 協力者の協力者

 第一学生棟総合受付の近くで、國好が立ち止まった。 時計を確認して理玖を振り返る。 「そろそろ会議が終わる時間ですが、空咲さんを待ちますか?」  理玖は首を傾げた。 「時間通りに終わるとも限らないし、研究室に唐木田さんが待機してくれていますから、晴翔君には一度、部屋に戻ってもらった方がいいと思いますが」  部屋を空にして盗聴器を仕掛けられる状況を懸念して、なるべく誰かは残るようにしている。 晴翔たちが戻ったら栗花落が残り、唐木田が冴鳥の研究室に合流する約束だ。  國好の目線が理玖の後ろに泳いだ気がした。 「では、少しだけここでお待ちください。更待、頼んだぞ」  國好が前を指さす。 「わかりました」  更待が頷いて、國好が総合受付の方に駆けていった。 入れ違いのように事務員の伊藤の姿が見えた。 理玖たちを見付けて手を振っている。 「向井先生、お久し振りです。えっと、警備員の更待さん?」  理玖への挨拶もそこそこに、伊藤が更待に声を掛けている。 「あのね、そこで國好さんに頼まれたんだけど……」  手に持った書類を見せながら、伊藤と更待が立ち話を始めた。 更待が完全に理玖に背を向ける姿勢になった。 と思った瞬間、後ろから口を塞がれて、体を引っ張られた。 後ろから抱きかかえられているから、顔もわからない。 ジタバタする暇もなく、第三会議室に押し込まれて、鍵を掛けられた。 「向井センセ、もうちょっと部屋の外に出てくんない? 付け入る隙も無いんだけど」&
last updateLast Updated : 2025-09-08
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第144話 やっときた返信

 会議室から出ると、誰もいなかった。 理玖がいなくなって探し回っているのかもしれない。 「あら? 向井先生、おかえりなさーい」  後ろから伊藤に声を掛けられた。 「急に向井先生の姿が見えなくなったから、更待さん大慌てでその辺、走り回っているみたいですよ~」  ニコニコしている伊藤はいつも通りの様子だ。 (もしかして、佐藤さんが僕に話しかけやすいように、わざと更待さんの気を引いたのかな?)  だとしたら國好もきっと、佐藤に気が付いている。 佐藤が付けてきていると気が付いて、わざと声を掛ける隙を作ったのだろう。 何も知らないのは更待だけという訳だ。 「あ! 更待さーん、向井先生、いましたよ~!」  遠くの廊下を走る更待に向かい、伊藤が声を掛けた。 更待が猛ダッシュで走ってきた。 「一体、どこに消えていたんですか、先生……」  めちゃくちゃ息が上がっている。 大変に申し訳なく思った。 「ちょっと、トイレに……。ごめん」  大変苦しいがベタな言い訳をした。 「お待たせしました。何かありましたか?」  とても良いタイミングで國好が戻ってきた。 息が上がっている更待を眺めて、國好が不思議そうに聞いている。 「向井先生がトイレに行っていただけですよぉ。ちょっと長かったけどねぇ」  伊藤がクスリと笑んだ。 本当に、何をどこまで知っているのだろうと思う。 「そうですか
last updateLast Updated : 2025-09-09
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第145話 推しカプ

「俺も行きます」「それはダメ」  会議を終えて冴鳥の研究室にやってきた晴翔に事の成り行きを説明したら、案の定な返事が返ってきた。 「今回は僕と冴鳥先生をご指名だから、二人で行ってくるよ」「二人だけなんて危険です。RISEは理玖さんが神なんですよ。どんな手を使って誘拐しようとしてくるか」  肩を掴んでガックンガックン揺らされる。眼鏡が飛びそうになる。 実際、積木大和はプロポフォールを忍ばせていたらしいから、下手をすれば命に係わる。 晴翔の心配も理解できなくはない。 「警察が警護します。お気持ちはわかりますが、今回はどうか、待機を。向井先生の研究室に待機してもらえれば、警察官を一人、配置します」  國好の意見は妥当な妥協案だ。 何も言えずに、晴翔が歯を食い縛った。 「なら僕も、空咲さんと一緒に待機させてもらえますか?」  仮眠室から深津が出てきた。 今日は男性の姿だったので、咄嗟にはわからなかった。 「僕も拓海さんが心配だから、一緒に行けなくても、近くに居たいです」  控えめに話す様子は、女装していた時とは別人のようだ。 冴鳥が深津に駆け寄った。 「起きて大丈夫か?」「もう、平気。拓海さんに触れていると、楽になる」  背の高い冴鳥に深津が抱き付く。 身長差まで理想的だなと思う。 「男の子の姿でも、やっぱり可愛いね」  理玖は、ぽそりと呟いた。 「空咲さんと一緒に居られたら、一人でいるより不安じゃないから。空咲さん、良いですか?」&
last updateLast Updated : 2025-09-10
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第146話 数が変わる階段

 理玖はそろりと晴翔の腕を掴んだ。 「それで、最初の準備なんだけどね。晴翔君、残りの七不思議について、詳しく教えてくれないかな」  さっき接触してきた佐藤がくれたヒントには七不思議が二つ、含まれていた。 (僕の疑問の答えは『図書室の増える蔵書』って言ってた。RISEの活動場所は構内、それも七不思議が関係ある。残りの七不思議は、三つ)  その中のどれかが、RISEの活動場所のヒントだ。  晴翔が理玖の手を見詰める。 微妙に震える理玖の手を握って、スマホを取り出した。 「やっぱり七不思議が気になるんですか?」「うん。明日、二人に調べてほしいのは、七不思議なんだけど……」  晴翔に問われて言葉に詰まった。 (佐藤さんは僕との接触を他の人に知られたくないんだろうから、佐藤さんに聞いたとは言えないよね。どうしようかな)  國好たち警察官の目を欺いた接触の仕方をしてきたのには、何かしら理由があるのだろう。臥龍岡にGPS管理までされている佐藤だ。バレれば立場が危うくなるのかもしれない。 「呪いの研究室に、月夜の淑女、大講堂の幽霊。既に三つの七不思議がDollやRISEに関係している。調べておいて損はないでしょう。明日は土曜日で構内に学生も少ないから、調べるには適しています」  微妙にオロオロする理玖を見兼ねたのか、國好が口を挟んでくれた。 (やっぱり國好さんは気が付いてたんだ。佐藤さんが僕との接触を伏せたいと思っているのも、気が付いてる)  事情を把握しきれていなくても、國好は佐藤を信じてくれている。 そう思えて、嬉しかった。 「國好さんの言う通りで
last updateLast Updated : 2025-09-11
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第147話 七不思議解明サークルHP

 七不思議解明サークルHPより抜粋 七不思議の概要  【慶愛大学七不思議】  ①呪いの研究室 いつの頃かは知れないが、研究室で首を吊って死んだ教授がいた。以降、誰がその部屋を使っても病気になったり怪我をしたり、挙句、死んでしまう教員も出た。 怖がって誰も使いたがらず、近寄る者もなくなり、第一研究棟一階104号室は使用されなくなった。近寄っただけで死が乗り移る、との噂もある。  ②大講堂の幽霊 第三学生棟五階の大講堂に、大きな黒い影が現れる。黒い影は講堂内を動き回り、人を見付けると飲み込んでしまうらしい。 大講堂が整備される前、この場所は資料倉庫で、愛し合った二人の男女が文通のため、手紙の隠し場所に使用していた。ある日偶然、手紙が他の学生に見つかり、揶揄われた女学生は自殺してしまう。怒り狂った男子学生は揶揄った学生を殺し、自分も命を絶った。 以来、大講堂に整備された今でも男子学生の霊が女生徒の手紙を探して彷徨っている。  ③月夜の淑女 学内一の美人と評判高い女学生がいた。妬ましく思った他の女学生が彼女に呪いをかけた。女学生は校舎の中を踊るように走り回り、狂ったように笑いながら屋上で踊り、足を滑らせて落下して死んでしまった。 第一研究棟の屋上から彼女が落下したのは、とても月が綺麗な夜だった。それ以来、学内の廊下には昼夜問わず、笑いながら走る女学生の霊が目撃される。  ④体育館の泣き声 昭和の始め頃、体育館の奥にある体育倉庫は恋人が逢瀬に使う場所だった。その場所を使っていた女学生が妊娠したが、恋人の男子生徒は父親が自分とは限らないと女生徒を突っぱねた。悲しみに暮れた女生徒は入水自殺した。 以来、体育館には赤子の泣き声が響き、泣き声の合間には女生徒の恨み声が聞こえるという。
last updateLast Updated : 2025-09-12
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第148話 七不思議の喧伝

 理玖は晴翔にしがみ付きながら、後半の文章に目を止めた。 (103号室……、夏休みの合宿……。サークル員は五名で、小林君は文学部、秋風君の友人) 「七つ目の『不思議の末路』がこういう、まるで煽るような記述だから、解明しようとする学生が多いみたいなんですよね。大半は早々に飽きるんですけど、解明サークルみたいに、腰を据えて調べる学生も出てきちゃうというか」  晴翔が小さく息を吐く。 國好が頷いて同意していた。 「確かに煽るような文言ですね。好奇心をくすぐられる学生はいそうです。サークルは実際、精力的な活動をしているようだ。活動誌を作ったりHPを作ったり、喧伝にも力を入れている」「喧伝、か……」  理玖は呟いて、思考を整理した。 「この七不思議解明サークルは、いつ頃発足したのかな。もっと言うなら、七不思議自体、いつから噂になっているんだろう」  理玖の疑問に、深津が首を捻った。 「七不思議は昔からあるみたいだし、サークルの歴史も古いって、秋風先輩は話していた気がします。活動記録は十年以上前からあるって。サークル員が足りなくて途絶えた時もあったみたいだけど」  理玖は身を乗り出した。 「途絶えたのは何時?」「よくわからないけど……。今みたいにHP作ったり活動を本にまとめたりし始めたのは小林先輩みたいで、慶大七不思議のパイオニアって呼ばれているって、秋風先輩が笑いながら話してました」  理玖は晴翔を振り返った。 「七不思議解明サークルについて、調べられる?」「勿論です。発足から途絶えた時期、今に至るまで、調べてみますね」「それに、小林聡真の第二の性も知りたいかな。いや、有体に言えば、RISEの……
last updateLast Updated : 2025-09-12
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第149話《6/7㈯》待ち合わせ

 六月七日、午前十時。 理玖は冴鳥と共に第一研究棟一階104号室の前に立っていた。 國好と唐木田は、非常口の外、目の前の倉庫の中に身を潜めている。 例の如く、理玖には盗聴器が付いているので、秋風との会話は國好たちも把握できる。  理玖は福澤理事長から預かった部屋の鍵を取り出した。 104号室の鍵は、変更前の理玖の研究室の鍵同様、ドアノブに差し込む古い仕様だ。 「どうしましたか? 向井先生」  鍵を差し込む前に動きを止めた理玖に、冴鳥が問い掛けた。 「いえ、やっぱりここは、秋風君の……、臥龍岡先生のトリックに乗った方がいいのかなと思ったので」  鍵を開けずに、理玖はドアノブを捻り、ドアを開けた。 開いてしまったドアを、冴鳥が驚いた顔で見詰める。 扉を開いた先の部屋の中には、既に秋風の姿があった。 「音也君、どうやって……」  窓際から外を眺めていた秋風が振り返った。 「お待たせしてしまったかな。退屈はしなかっただろうけど」  少し挑戦的に、理玖は初めて会う秋風に向き合った。 「待ってねぇよ、時間通りだ。俺が先に来ていることも、その理由も、気が付いてる感じだな。向井先生って、やっぱり頭良いんだ」  呆れているのか、感心しているのか。 よくわからない顔で、秋風が理玖と隣の冴鳥を眺めた。 「頭の良し悪しは別として、僕もまさか、こんなに推理力を要求される状況に自分が陥るなんて思っていなかったよ。秋風君が中で待っているだろう状況は、君が昨日、冴鳥先生に場所の指定をした時点で気が付いたよ」  秋風が面白くなさそうな顔をする。
last updateLast Updated : 2025-09-13
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