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All Chapters of only/otherなキミとなら: Chapter 161 - Chapter 170

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第160話 積木大和の事情②

「確認だが、向井先生を襲った時に持っていたプロポフォール、あれは君の父親の病院のモノか?」  國好の質問に、積木が首を横に振った。 「俺が持ってたプロポフォールも白石が持ってた興奮剤も、臥龍岡先生が準備してくれたものだけど。ウチの病院経由だとは聞きました。形だけ持っていればいい、使わなくていいからと言われました」  大講堂で理玖を襲った積木に興奮剤について聞いた時、「父親が総合病院の院長だから融通か利く」と話していた。 國好が理玖に視線を送った。 「なるほど、積木君の父親がRISE、臥龍岡先生側ってことかな。お父さんからRISEの話とか、されてない?」  積木が難しい顔をして動きを止めた。 「話はされてないけど……。莉汐姉さんの関係で、ウチは病院名義で毎年、RoseHouseに寄付金を納付してます」  あぁ、と納得の心持になった。 國好も同じなのか、残念な顔をしている。 「これは、困ったね。積木君の実家は完全にRoseHouse側か」  理玖の呟きに積木の顔が引き攣った。 (大講堂で積木君が僕を襲ったのは五月十二日だ。折笠先生はまだ元気だったしDollも活動していた。折笠先生でも薬は準備できたはずだけど)  折笠ルートを使わなかったということは、折笠は知らない、ということだ。 (つまり、臥龍岡先生の独断の行動。僕と晴翔君を襲ったのはRoseHouseの判断。折笠先生を殺せという指示と同じってことだ)  RoseHouseが直に臥龍岡に降ろした作戦なのだろう。 (積木君の話から考えれば、次にRoseHouseが狙うのは奥井部長だ。総てを奥井部長
last updateLast Updated : 2025-09-22
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第161話 許してあげない

 深津が控えめに手を上げた。 「僕がrulerとして覚醒した。っていうのじゃ、ダメですか。本当の情報じゃなくても、いいですよね」  深津の発言に冴鳥が蒼褪めた。 「それはダメだ。祐里が自分を危険に晒すことになる」「そうだけど、でも。僕は祥太や空咲さんみたいに、大和に優しくなれないから」  深津が、ぐっと唇を噛んだ。 「大和がなんで僕らをかくれんぼサークルに誘って、どんな目的で動いていたのか、よくわかった。事情には同情するし、気持ちもわかるよ。お陰で僕は拓海さんに出会えたけど、それはただの結果だよ。何より凌は本当に無関係だったのに一番の被害者だ。大和がしたことは、臥龍岡先生たちと変わらない」  積木が蒼白な顔で俯いた。 「今更、危険だと思ったから自分だけ安全な場所に逃げてくるなんて、狡いよ。関わったなら最後まで貫いて。その代わり、僕が巻き込まれてあげる。大和に酷いこと言った分だけ、僕を使わせてあげるから、僕らに利用されてよ」  握り締めた深津の拳が震えている。 懸命に自己主張したのだと伝わってくる。 (女装しなくても、主張できるようになったんだ。冴鳥先生効果かな)  それが深津の成長のように、理玖には映った。 「深津君がrulerとして覚醒した、という情報をRISEに流せば、狙われるのは深津君だけじゃなくspouseの冴鳥先生もだ。僕らと同じで来週の茶会に誘われる羽目になるけど、わかって言ってる?」  理玖は秋風から渡された招待状を、ひらりと振って見せた。 深津が冴鳥をじっと見詰める。 冴鳥が無言で深津と視線を絡ませた。 「祐里がそういうつもりなら、俺も覚悟を決め
last updateLast Updated : 2025-09-23
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第162話《6/8㈰》スキンシップが過ぎる

 解散してから理玖は、晴翔と國好たちと共に本型の小物入れに向き合っていた。 積木が持ってきてくれた鍵を差し込むと、案の定、簡単に開いた。 小物入れの蓋を開ける。 「鍵が、三つ……? それに、メモ?」  困惑した表情で晴翔が中を覗き込んだ。 中にはアンティークな装飾の大きめの鍵が一つ、アパートや部屋の仕様の鍵が一つ、南京錠などに使用されそうな小さな鍵が一つ。 二つ折りにされた紙切れが一枚、入っていた。  理玖は紙切れを手に取った。 「どこかの住所のようですね。埼玉県新座市なら、遠くはないか」  理玖の手元を覗き込んだ國好が思い付いた顔をした。 「満流の探偵事務所の住所です。だとしたら、三つの鍵のうち、一つは多分、事務所の鍵です。見覚えがあります」  理玖は三つの鍵とメモを眺めた。 (十年前の真実。佐藤さんがここまで厳重に保管している証拠。間違いなくキーになる何か……)  更にその佐藤自身を臥龍岡は、GPSまで使って厳重に管理している。スマホなどの通信機器まで管理して他者との接触を制限する徹底振りだ。 理玖は午前中の臥龍岡とのやり取りを思い浮かべた。 (マザーである安倍晴子が、子供たちにトラウマを植え付けてまで隠したいRoseHouseの秘密。臥龍岡先生がマザーのdollなら、同じように隠匿するだろう。だとしたら、佐藤さんは十年前、RoseHouseの秘密に巻き込まれた可能性があるな……)  キーとなる何かが、理玖の脳裏にちらりと透けて見え始めた。 「國好さん、栗花落さん。明日、僕に付き合ってもらえま
last updateLast Updated : 2025-09-24
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第163話 追跡の可能性

 車に乗り込んだ理玖と晴翔を栗花落がちらりと覗いた。 「向井先生、今日は眼鏡じゃないんすね」  指摘されて、恥ずかしい気持ちで理玖は顔を隠した。 「昨日の夜、眼鏡のフレームが、壊れちゃって。好きじゃないけど仕方なくコンタクトにしました」  眼鏡をしたままウッカリ晴翔とエッチし始めたら折れました、とは言えない。 晴翔にしがみ付いたり顔を押し付けたりしていたら、いつの間にかフレームが折れて外れていた。 「時々にはコンタクトも使うので、在庫があるにはあるんですが。眼鏡も幾つか持っているんですが、古い眼鏡じゃ度数が弱くて見えないから仕方なくコンタクトに」  昨日の夜のことを思い出したら恥ずかしくなって、どうでもいいことまで話してしまった。 「ふぅん、災難でしたね。けど、良いんじゃないっすか。素顔の方が可愛いから」  恥ずかしさが最高潮になって顔が熱い。 そんな理玖の顔を引き寄せて、晴翔が前屈みに理玖を隠した。 「御二人は今日、私服ですか? 覆面のため?」  晴翔の問いかけに、國好がバックミラー越しに後ろをチラ見した。 「いえ、俺たちは今日、休暇扱いです。あくまで向井先生と空咲さんと個人的に出掛けているだけです」  理玖と晴翔は揃って首を傾げた。 「警察官の格好で物々しく出掛ける訳にも行かないし、今日はただの失せ物探しっすから。あ、でも、何かあれば警護も仕事もその時点からスタートできるんで、心配ないっすよ」  それはつまり、國好が何かあったと判断した瞬間からなのだろう。 業務上の就業時間対策なのか、警察の決まり事なのか。 どちらに
last updateLast Updated : 2025-09-25
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第164話 秘密のヒント①

 埼玉県新座市の郊外に、佐藤満流の探偵事務所があった。 一階にコンビニが入っている古いビルの二階が事務所だ。  外階段を昇り、中途半端に開いた事務所の扉を見付けた瞬間、自分の推理が早速、破綻したと理玖は悟った。 「向井先生と空咲さんは階段の下でお待ちください。俺と栗花落で中の様子を確認します」  言われた通り、理玖と晴翔は階段下で國好たちの合図を待った。 「臥龍岡先生たちが先回りしたんでしょうか? それともRoseHouseの刺客がいるとか?」  晴翔が慌てた顔をしている。 刺客という表現が、中々に物語風だし物騒だなと思う。 「扉が開いていただけだから、何とも言えないけどね。仮に先回りしたんだとしたら、潜んでいる恐れはあるかもね。鍵は僕らが持っていて、開かないだろうから」  斜め掛けしたバックの中を覗く。 小物入れを振ると、カラカラと音がする。  顔を上げたら、晴翔がニコニコと理玖を見下ろしていた。 よくわからなくて首を傾げる。 「今日の理玖さんは、普段見ない格好で可愛い」  今日の理玖は完全に私服だ。 普段、大学に通う時はスーツだから、見慣れない格好かもしれない。 タートルネックのノースリーブにオーバーサイズのカーディガン、タイトめのパンツとスニーカー姿で眼鏡もしていないから、知り合いとすれ違っても気付かれないかもしれない。  改めて、晴翔を眺める。 ジーンズにカジュアルジャケットだから、普段と雰囲気が違う。 (何となくスパダリ感が増して見える。いつもより格好良い)  最近は晴翔の私服姿にも見慣れてきたが、仕事中
last updateLast Updated : 2025-09-26
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第165話 秘密のヒント②

 理玖は小物入れの中にある、一番小さな鍵を取り出した。 途中まで差し込めたが、奥まで入らないし鍵が回らない。 「ナンバーロックと同調式か。なるほど、ピッキングでは開かないわけだ」  理玖は後ろの國好を振り返った。 「一応確認ですが、このロックを開ける数字、思いつきますか?」  南京錠のナンバーロックは四桁の数字を合わせる仕組みだ。 國好が悩んだ顔をしている。 「満流が使いそうな数字で、俺が思い付くものをセットするとは思えないですね。金庫の存在すら、俺は聞いていないですから」「ですよね。だとすると、僕にだけ伝わる数字か」  理玖は本型の小物入れを眺めた。 外国の古いハードカバーの本を模って造られた小物入れには、発行年月日が書かれている。 「1601.0202……。試してみましょうか」  両方試してみたが、鍵は差し込めない。違ったらしい。 「僕にしかわからない数字、あと一つしかないな」  理玖は0419に数字を合わせた。 パチン、と金属がハマった音がして、鍵が奥まで差し込めた。 回すと、南京錠の掛け金が簡単に外れた。 「折笠先生といい、佐藤さんといい、僕との思い出を大事にし過ぎだ……」  大変複雑な心境で、理玖は呟いた。 「きっと、戒めのつもりもあったと思います。この数字をセットした時点で、向井先生に南京錠を開けさせる意図があったとは、流石に思えませんから」  國好は『0419』の数字の意味に気が付いたらしい。 十四年前の四月十九日は、佐藤が理玖をレイプした事件があった日だ。
last updateLast Updated : 2025-09-26
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第166話 見えない女子

 地図と二枚の木札、指輪型の鍵を回収して、理玖たちは佐藤満流の事務所を出た。 國好が溜まった郵便物を纏めてデスクに置いてあげていた。 丁寧だし几帳面だなと思う。 小物入れの中に入っていた佐藤の事務所の鍵を使って、しっかり施錠する。 「事務所に不法侵入した犯人は、何故ドアを開けっぱなしで逃げたんでしょう? 誰かに見つかって慌てたんでしょうか?」  國好が首を傾げている。 「ああ、それなら……」  理玖は鍵を開けて、戸を浅めに閉めた。 しばらく見ていると、ドアが外側に向かって薄く開いた。 「こんな感じです」  理玖の説明に、國好が難しい顔をしている。 「最初から説明すると、犯人はピッキングで部屋に侵入し、目的のモノを探し回った。それらしい金庫を見付けたけど開けられず、断念。誰かに見つかったのか何かに慌てたのか、どちらにせよ不測の事態が起きて、鍵を閉めずに帰った」  理玖は扉を動かした。 動かす度に錆び付いた音が小さく響く。 「このビルは古くて建付けも悪い。しっかり奥まで押し付けないと鍵も回らない。締めたことを確認せずにドアの重さだけで締めたのだとしたら、締まり切らずに自然と開いてしまう」  理玖はドアを押し込んで、鍵を掛けた。 「だから中途半端な状態に……。あの程度の開き方なら、外から見ても気にならない。二階には満流の事務所しかないから人も来ない。だから放置されていた」  郵便配達員やチラシ配りの人間は来ていただろうが気が付かなかったか、気が付いても誰も大家に連絡まではしなかったんだろう。 國好が納得した顔で頷いていた。
last updateLast Updated : 2025-09-27
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第167話 空き巣犯の正体

 車の中でおにぎりサンドを食べながら、理玖たちは慶愛大学に向かった。 福澤理事長にメールするとすぐに返信が来た。 理玖たちが大学に戻るまでに、業平事務長が準備してくれるらしい。 「やっぱ向井先生のおにぎり、美味いっすねぇ。この肉なんすか?」  問われて、理玖は栗花落の手元を覗き込んだ。 「それ、ランチョンミートです。スパムって知ってます? 軽く醤油と胡椒で味付けしているけど、塩気が強いからそのままでもいけます。マヨネーズで炒めても美味しいですよ」「聞いたことあるっす。食べるのは初めてっすねぇ。うま」  栗花落がおにぎりサンドをハムハムしながら、ちらりと理玖を窺った。 「眼鏡してない向井先生、ちょっと照れるっすね。私服だから余計に女の子みたいで」「栗花落さんには言われたくないです。僕より栗花落さんの方が可愛いと思う」  照れ気味に抗議する。 身長は理玖より高いが、栗花落だって細身で女の子のような顔立ちをしている。女装したら絶対に栗花落の方が可愛い。  前屈みに覗き込んでいた理玖の体を抱えて、晴翔が引いた。 「さっきもコンビニで知らない女子に女の子と間違われたでしょ。いい加減、自分が可愛いって自覚してください」  そう言われてしまうと、何も言い返せない。 何となく視線を國好に泳がせた。 理玖の視線に気が付いた國好が、困った顔でおにぎりサンドを食んだ。 「向井先生は普段から仕草が、何というか、小動物系なので、そんな風に見えるのかもしれません」  國好が困った顔で大変苦しいフォローをした。 フォローなのかもよくわからないが、申し訳なかったなと思った。 
last updateLast Updated : 2025-09-28
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第168話 裏バイトの実態

(理研の外部組織であるWO生体研究所が窓口になって募集を掛ける治験ないし実験協力。薔薇の園を調べたかった佐藤さんが参加した、実験)  理玖の予測通りなら、RoseHouseは独自にWOの遺伝子を掛け合わせ、体外受精でWOを産み、孤児として育てている。 更にはクローンを産んでいる可能性もある。 (まるで物語や小説の中の話だ。だけど、人間のクローンは作れる。理論上ではなく、現実的に作り出せてしまう)  であれば裏バイトの真の目的は、WOの体細胞や生殖細胞の採取だ。 (佐藤さんはotherで男性。完全に種を提供する側だ。細胞や精子を採取するのに一年も必要か?)  only男性、only女性、other女性なら、自身が妊娠する体になれる。 細胞や卵子の採取以外にも、子宮を使える。 SMホルモンを誘発して妊娠可能な身体に仕上げて、体外受精した受精卵を着床させれば、子供を産ませられる。 自然な性交から妊娠させて自然分娩に持っていければ、尚良いだろう。 それなら一年という年月も頷けるが。 (otherの男性に、時間をかけて行う実験があるとするなら……)  気が付いた可能性に、理玖自身が息を飲んだ。 (薔薇の園で人工的に生まれた子供たちに、spouseを作らせるため。施設内のonlyを妊娠させるため。だとしたら、otherで男性の佐藤さんが一年という長期間拘束されたのも頷ける)  体外受精ならまだしも、クローンという違法行為はリスクが高い。 自然受精して出産させた方がよっぽど安全だし健全だ。  理玖の脳裏に積木が話したRISEの理念が浮かんだ。 『onlyの出産をサポートする、spouseを増やす。W
last updateLast Updated : 2025-09-29
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第169話 覚悟を決める①

「三十年前、か……」  理玖は呟いて、晴翔の手を握った。 「……理玖さん?」  自分でも、手が震えているのがわかる。 吐き気がするような想像をした後だからではある。 けれど、それだけではない。 怖いのは、もっと独りよがりな自分の事情だ。 「臥龍岡叶大は、今年で三十一歳でしたね。WO少子化対策部が発足したのは約三十年前。ほぼ同時期にRose Houseが創設され、安倍晴子は所長に収まった」  声まで震える。 自分の怯える心にまで、嫌気がさす。 「國好さん、安倍晴子の素性を調べてください。どんな理由を付けてもいい……、どんな手段を使ってもいいから、情報が欲しい」  國好と栗花落が後ろの理玖を振り返った。 現時点で罪状も明確な嫌疑もない安倍晴子の素性を調べるのは、警察には不可能だ。 それでも、調べてもらうしかない。 「全部じゃなくていいんだ。三十年前……、四十年前になるのか。1980年から1996年までの間に、どこで何をしていたのか。もっと言うなら、ドイツにあったWO研究施設『シュピリ研究室』に関与していたのかを、調べてほしいんです」  理玖の手を握る晴翔の手がビクンと跳ねた。 「シュピリって……、理玖さんのお爺さんですか?」  理玖は俯いたまま口を開いた。 「曾祖父、レイノルド・シュピリはその当時、ドイツを拠点にWO実験をしていた。主にonlyの妊娠難に関する研究、そこから端を発したWO人口増加研究は……」
last updateLast Updated : 2025-09-30
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