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206 チャプター

第170話 覚悟を決める②

「もっと、言葉を選んでください。流石に今のは許容できません。いくら理玖さんが正しくても……。栗花落さんの気持ちは、理玖さんにだってわかるでしょう!」  晴翔が理玖の肩を掴んだ。 その手を、國好が掴んで止めた。 「向井先生の言う通りです。今の話を聞いたら、これ以上、礼音を関わらせるわけにはいかない……」  栗花落が國好を強く掴んだ。 自分から顔を押し付けて、長く息を吐く。 「……俺が、辛そうにしてると、決意が、鈍りますか?」  栗花落が國好に顔を押しつけたまま、くぐもった声を出した。 「そんなんで、向井先生は、叶《かなえ》さんを糾弾、出来るんすか?」「礼音……?」  國好が怪訝な顔で腕の中の栗花落を覗いた。 「叶さんは……、臥龍岡叶大は、俺なんかより、ずっと、可哀想で……、同情を誘う演技も、上手い……っすよ」  栗花落が國好から顔を離した。 涙でぐちゃぐちゃの顔を理玖に向ける。 「RoseHouseの子供らにとって、叶さんと、圭、は……、特別っす。俺みたいに、関わりが、はっ……、ほとんど、なくても……。向こうが、覚えて……ひっ、なくても……はっ」「もういい! 止めろ、礼音!」  抱き締めようとする國好を、栗花落がやんわり押し返した。 「降りませんよ、俺は、絶対に。俺だって、戦い、なんだ。いつまでもRoseHouseに縛られて、生きるのは、嫌だ……はっ、はっ」「栗花落さん……」  晴翔が何も言えなくなっている。 「特別なのは、どうして?」  いつも通り
last update最終更新日 : 2025-09-30
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第171話 小喧嘩

 改めて近くのコンビニに車を止めて、栗花落が顔を洗いに行った。 涙と涎でぐちゃぐちゃの顔を隠すように、國好が付いていった。 呼吸が落ち着いてすぐだが、足取りも問題なさそうだ。 理玖は内心、胸を撫で下ろした。  車の中に残った理玖と晴翔は無言だった。  晴翔がずっと難しい顔で押し黙っている。 何となく気まずい。 (嫌われちゃったかな。優しいやり方ではなかったから)  理玖の魂胆は凡そ、栗花落に指摘された通りだったが。 晴翔にはきっと、身勝手な発言に聴こえたことだろう。 (大御爺様の実験が不当に利用されているかもしれないなんて、シュピリの血縁としても学者としても許せない。それだけは絶対に譲れないけど)  我ながら余裕がなかったとは思う。 (だけどこの先はきっと、余裕のない僕が続くから。そんな僕を見て晴翔君が離れていくなら、仕方がない)  窓の外を眺めていた理玖は、そっと目を瞑った。 「……理玖さん」  晴翔が小さな声で理玖を呼んだ。 理玖は、そっと晴翔を振り返った。 「理玖さんは、栗花落さんに今回の事件から外れてほしいと思いますか?」  俯いて一点を見詰める晴翔を眺める。 理玖としては解決した話に思うが、晴翔はそうではないんだろう。 「外れてもらった方がいいと思った。過換気症候群で死ぬことはないけど、苦しいのは変わりない。栗花落さんがRose Houseの話をするたび、症状を呈するなら、関わらないのが彼のためだ。いつでも國好さんが側に居るわけじゃないし、その度に話が滞るのは非効率だ」 
last update最終更新日 : 2025-10-01
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第172話 福澤栄一私邸 道満館①

 大学に到着すると、迎賓館の前で業平が待っていた。 「遅くなってすみません」  小走りに駆け寄った理玖たちを流し見て、業平が扉に手を掛けた。 「いいえ、問題ありませんよ。お待ちする間に鍵を開けて、窓を開けて換気程度はできましたから」  結構な時間、待たせたのだと思った。 大変申し訳ない。 業平が理玖たちを中へと促した。 迎賓館の戸口の脇に看板がかかっている。 『福澤栄一私邸 道満館 明治創建 県重要文化財指定』  やはり古い建物なのだなと改めて思う。 外側から見ると、一般的な大きさの二階建てだ。 明治時代に、この家を建てたと考えれば大きいのだろう。 しかし、外壁や雨樋、屋根に洋風の装飾が取り入れられた凝った造りだ。  和風の家に異人館の装飾を施したような和洋折衷の印象だ。特に屋根のデザインには異人館のような高さのあるデザインが取り入れられている。 「玄関が広いですね」  中に入り、周囲を眺めて晴翔が感心した。 入口からすぐに絨毯が敷かれた床に日本家屋風な段差の玄関はない。 靴で歩ける仕様の屋内は、入ってすぐ目の前に広い階段が伸びている。 階段の両脇にそれぞれ洋風な扉と、窓に沿った廊下が見える。 奥に部屋が数部屋あるのだろう。 「あの広い階段が、七不思議の一つ『数が変わる階段』ですね」  理玖は少し離れた場所から階段を眺めた。 下から数えると七不思議の通り十七段ある。 「そうなりますね。一般の見学客は有料ですが、学生は許可さえとれば無料で見学が可能なので、七不思議を調べたい好奇心旺盛な若者が時々には見学に来ます」
last update最終更新日 : 2025-10-02
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第173話 福澤栄一私邸 道満館②

「この部屋、何か変だね」  扉を開いて入った瞬間から、違和感しかなかった。 「そうですね。何かが、変ですね」  似たような違和感を晴翔ももったらしい。  階段を上がってすぐの扉は真ん中にあった。 しかし、部屋の右側の壁がやけに近い。テラスがある左側と比べても不均一だ。 「二階のこの部屋は栄一の自室だったようです。商談などの来賓は主に一階の奥の部屋で行っていたそうです」  部屋の中を確認して回る理玖に業平が説明してくれた。 扉の割にこじんまりした部屋の中には、小さなテーブルと二人掛けのアンティークなソファ、チェストと和風な箪笥が一つずつと置時計がある。 部屋の大きさと比較すると振り子の置時計がやけに大きく、存在感がある。 「一階の奥には、台所やトイレ、風呂などの水回りもありますか?」「勿論ございます。二階より部屋数も充実しております。客間を含めて四部屋あったと思います」  業平の説明を聞きながら、理玖は部屋の壁に沿って歩いた。 壁にかかった水彩画と油絵を見詰める。 「二階は、他に部屋がありますか?」「いいえ、二階はこの一間です」  理玖は家の間取りを頭の中に思い描いた。 業平の説明からすると、一階に比べて二階の部屋数があまりに少なすぎる。 日本家屋風の造りだから、一階より二階が面積として狭いのは当然だが、それを差し引いても狭い。 (外から見た感じは、もっと広そうに見えた。それに、この家は正面から奥に向かって長い構造だ。奥行きが足りない)  入り口から向かって右側の壁と正面の壁を叩いて歩く。 右側の壁の端から指を滑らせていく。
last update最終更新日 : 2025-10-02
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第174話 隠し部屋の倉庫

 業平が改めて懐中電灯を持ってきてくれた。 暗い階段は灯がないので、足元がおぼつかない。 先頭を國好が、その後ろを業平が歩き、晴翔に理玖、最後に栗花落が降りる。 幅が狭いので、一人で降りるのが精々だ。 階段の傾斜が急で一段が狭いので、歩きづらい。途中、壁があって階段が直角に左に折れている。 「隠し部屋に関して、福澤理事長は前回の修繕の立会いで室内を確認されています。所蔵品も見ていますが、じっくりと触れたことはないそうです」  業平が階段を降りながら教えてくれた。 福澤里恵奈にとっては御先祖様が残した遺産だ。管理しているのは当然だ。 「修繕に関わった者なら触れているだろうとのお話でしたが」  階段の下に着いて、業平がひときわ明るい蛍光灯型のLEDライトを付けてくれた。 持ち歩き用だから大きくはないが充分に明るい。 「この中に、例の鍵を使うヒントがあるのですね」  國好の声が、いつもより興奮して聴こえる。 理玖は部屋の中を見回した。 ざっと見積もって二間程度の倉庫のようだ。天井が低いから圧迫感がある。背が高い晴翔や國好は少し屈まないと頭が届いてしまう。 その奥にこじんまりと纏めて、家具のような物が置かれていた。  古そうな調度品から家具、奥の棚には文献のようなものもある。 布を被せておいてあるのは、絵画だろうか。 「ここにあるモンだけで、すげぇ値段が付きそうっすね」  歴史が古そうなものばかりだ。 理玖も同じように思う。 懐中電灯で一つ一つを確認していく。 それらしいものは見付からない。  調度品に気を取られていたら、壁に肩がぶつかった。
last update最終更新日 : 2025-10-03
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第175話 最後の鍵

 理玖は襖の取っ手に手を掛けた。 大仰に思いっきり開く。 室内は、かなり明るい。 両側の壁の足元に小窓がある。見上げると高い天井に大きな窓があった。 天上は倉庫より、かなり高い。二階までの吹き抜けになっているようだ。 「二階の部屋より広いですね。完全にプライベート空間て感じだ」  晴翔が零す気持ちもわかる。  置かれている二人掛けのソファもテーブルも使いこまれた感がある。 部屋の隅に置かれた机にはガラスペンが置かれている。 当時、使っていたものをそのまま保管しているのだろうか。 本棚が一つと、小さな戸棚が一つ。 部屋に備え付けになっているクローゼットのような扉がある。 反対側の奥には簡易なベットと小さなサイドテーブルがある。 福澤栄一が秘密の空間として個人使用していた空間なんだろう。 「しかし、この中に向井先生が持っている鍵が合いそうな場所はなさそうですが」  一見して普通の部屋だ。 國好の意見も頷ける。 「これだけ凝った場所に重厚に隠しているんだから、一筋縄ではいかないですよね」  晴翔が真剣な顔で周囲を見回す。  理玖は小物入れの中を改めて確認した。 残っているのは大きめのアンティークなウォードキーと指輪型の金属の鍵だ。 「恐らくこの大きなカギで開けられる場所に、秘密が隠されている。そこに辿り着くまでに幾つか難題がありそうですね」  理玖は大きめのアンティークな鍵を手に取った。 晴翔が首を傾げた。 「どうして、その鍵が最後って、わかるんですか?」「最初から小物入れに入っていたから。佐藤さ
last update最終更新日 : 2025-10-03
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第176話 十年前の日記

 鎮座する箪笥の引き出しは全部で五段ある。 一番上に抽斗は三つ。 二段目の、向かって右側に扉が一つ、左に二段の抽斗がある。 下の二段は横に長い抽斗がそれぞれ一つずつだ。  理玖はまず、じっくりと箪笥の外見を眺めた。 次に、ハマっていた板を同じ場所に宛がった。 「柱が隠していた部分は真ん中。引っ掛かって開かない場所が怪しいと思ったけど……」「ほとんど開かないっすね。一番上の両脇の抽斗が、かろうじて開くだけっすね」  栗花落の仰る通りすぎて、理玖は柱を置いた。 「全部開けて試すしかないね」  諦めた溜息を吐いて、理玖はまず、一番上の真ん中の抽斗に手を掛けた。 「ネットで調べてみようと思ったけど、ここってまさかの圏外なんですか?」  晴翔が業平に向かって驚いた顔をしている。 「何故か、迎賓館周辺だけはどの通信会社も回線が繋がりません。大学敷地内、他は全部圏内なんですけどね。これが一番の七不思議でしょうね」  七不思議、という単語に、理玖の肩がビクリと震えた。 「業平さん、今はダメです。理玖さんの思考がオバケに持っていかれちゃうとマズいんで」  晴翔がこっそりと業平を注意している。 「そうでしたね。向井先生の意外な弱点です」  業平が箪笥を眺めて指さした。 「二段目の右側の扉の中、桐の抽斗が二段になっていませんか?」  指摘されて、栗花落が二段目の扉を開けた。 業平の言葉通り、二段になっていた。&n
last update最終更新日 : 2025-10-04
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第177話 クローンの始まり

「書類とUSBか……」  呟いた理玖の隣で、晴翔が手を伸ばした。 「折笠先生から預かった書類がきっと一番重要ですよね。だとしたら、一番難しい場所に隠しますよね」  晴翔が一番上の真ん中の抽斗を外す。次で、右側の抽斗を引き出した。 奥にスライド式の引き戸が見える。 「引き戸を、ちょっとだけ開いて……」  右の抽斗だけ戻して開け閉めを何度か繰り返す。 真ん中の抽斗を外した奥に、小箱の一部が見えた。 晴翔が抽斗を押し込む空気圧で、小箱がにょきにょきと姿を現した。 「え! 晴翔君、凄い! 何か出て来たよ!」  理玖は栗花落と抽斗の奥を見詰めた。 「でもまだこれじゃ、取れないんです」  左側の抽斗を引き抜いて、晴翔が仕切りに手を掛けた。 仕切りを取り外す。奥に隠されていた小箱が取り出せた。 「うわぁ! 空咲さん、すげぇっす!」「これは、知ってないと絶対開けられない!」  理玖と栗花落に褒められて、晴翔が嬉しそうに照れた。 「子供の頃の遊びが、こんなところで役に立つとは思いませんでした」  仙台箪笥で遊べるというのも、やっぱり御曹司だなと思う。 「業平さんが教えてくれたお陰です」「見ているうちに思い出したでしょうけどね。早い段階で気が付いて良かったですね、坊ちゃん」「坊ちゃんは、やめてください……」  照れながら微妙な顔をしている晴翔とは裏腹に、業平は満足そうだ
last update最終更新日 : 2025-10-05
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第178話 地獄の躾

「栗花落さん、RoseHouseの子供たちは皆が、叶大と圭がクローンである事実や、自分たちの出自を承知していますか?」  理玖の質問に栗花落が首を振った。 呼吸を整えて、ゆっくり口を開く。戸惑い唇から、小さな声が零れた。 「俺が……、知ったのは、偶然。書類上は、全員が孤児で、本人も、そう思ってる。音也も、俺と同じ、っす。音也が庇ってくれた、から、RoseHouseは、俺が知っているって、知らな……ひくっ」  栗花落が自分から國好の胸に顔を押し付けた。 息を止めて、促拍な呼吸を整える。 「でも、特別。叶さんと圭は、人として、お手本。優秀な、masterpeaceって、マザーがっ、皆にはな……、はっ……、ぁ……マザー、ぁ……、ぁ、ぁ、ぁ」  國好の服にしがみ付く栗花落の手が震えている。 体が大袈裟なくらいに震え出した。 「ごめん、なさい……、ごめんなさい、マザー、ごめんなさい……。もうしません、命令に逆らったり、しません。RoseHouseは絶対、マザーの言葉は、絶対。RoseHouseに育ててもらった俺たちは、命を懸けて、RoseHouseを守る。RoseHouseは故郷だから、死ぬまでRoseHouseとマザーを愛してる。ちゃんと、覚えます、裏切らない、裏切らないから……」  浅い呼吸を繰り返しながら、栗花落が口の中で呟いた。 震える手が國好の服を握り締めた。 「礼音、礼音! 俺を見ろ、礼音!」  國好が叫んで、栗花落の顔を上向けた。 目の焦点が合っていない。怯え
last update最終更新日 : 2025-10-06
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第179話 脳の引き出しの使い方

「USBですよね。在りそうな場所は……」  晴翔が箪笥の下から二番目の長い抽斗を一つ、抜き出した。 奥の方に手を突っ込む。 「あった」  晴翔が手を入れた先を理玖は覗き込んだ。 下側の板に穴が開いて蓋のようになっている。その蓋を晴翔が外して、中に手を入れた。 「何もなさそうですね。ここじゃないのか」「まだ仕掛けがあるの?」  既に三つも凝った仕掛けがあるのに、まだあるのだろうか。 「思いつくのは、あと一個ですね」  晴翔が上から三段目、左側の抽斗に手を掛ける。 カツカツと、突っかかる音がして開かない。 「うん、これっぽい」  すぐ隣の扉を開き、中の抽斗を取り出す。 さっき二段底になっていた引き出しだ。 抽斗を取り出した左側にくぼみがあった。 「このくぼみに埋まっている突起をスライドさせます」  突起を右側にスライドしてから、晴翔がさっき開かなかった三段目の抽斗を引く。 「動いた!」「隠れた場所にロックがあるんです。鍵みたいな感じです」  抽斗を開けると中には小箱が入っていた。 「また、からくりだね。寄木細工の秘密箱だ」「如何にもUSBみたいな小物が入っていそうですね」  長方形の秘密箱は15×10程度の、両手で持ってちょうどいいくらいのサイズ感だ。 「これ開けるのも得意なので、俺が開けますよ」 
last update最終更新日 : 2025-10-07
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