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All Chapters of only/otherなキミとなら: Chapter 221 - Chapter 230

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第220話 罰と幸せ

 腕が伸びて来て、理玖はローラに抱き締められた。 「理玖、抱き締めさせてちょうだい。晴翔もよ、こっちに来て」  晴翔がローラに身を寄せる。 ローラが二人を抱き寄せた。 「これは罰なのね。私もグランパも、人の道に外れた行いをしたわ。だから理玖は、苦しいのね。ごめんね、ママンを許してね」「ママンのせいではないです。グランパの実験だって、あの時点では違法ではなかったんだから……」  晴翔の語尾が弱まる。 法律は問題ではない。クローンはその方法自体が人を殺して人を産む行為だ。 そう話したのを覚えているのだろう。 「日本に来たからパパンに出会えて、愛しい理玖に会えた。お陰で晴翔って可愛い息子も増えたわ。ママンは幸せよ。だけど、晴子は違ったのね。踏み外したまま、間違ってしまったのね」  ローラが理玖と晴翔を強く抱いた。 「晴子は自分の罪を正しく償わなければいけないわ。だからママンは、ずっと晴子の友達でいるわ。晴子が正しく歩めるように、もう間違わないように、友達のままでいるわ」  ローラの瞳が潤んで、理玖を見上げた。 理玖はローラの額に口付けた。 「そんなママンが、僕は大好きだよ。ママンが友達でいてくれるなら、僕は心置きなく安倍晴子の悪事を暴く。正しく罪を償ってもらう。それが僕の、レイノルド・シュピリの曾孫でWOの学者である僕の、責務だよ」  ローラが理玖の頬を撫でた。 「大きくなったのね、理玖。とても強くなったわ。きっと晴翔のお陰ね」  ローラの手が晴翔の頬を撫でた。 晴翔がくすぐったそうに照れている。 「晴翔君は
last updateLast Updated : 2025-11-08
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第221話《6/12㈭》マキビシと手裏剣

 次の日、理玖たちは午前中のうちに帰路に就いた。 「お世話になりました。また遊びに来ます」  晴翔と握手をした理一郎が、革袋をその手に乗せた。 不思議そうな顔で、晴翔が革袋を眺める。 「お土産のマキビシだ。危ない奴に追いかけられたら、撒いて逃げろ!」「マキビシ……、これが……。ありがとうございます」  晴翔が怪訝な顔で感心している。 革袋を渡している理一郎が一番危ないと思いながら、理玖は父を眺めた。 「次はゆっくり時間を取ってくるのよ、晴翔。子供の頃の理玖の写真、見せたかったわ」  腕を伸ばしたローラを晴翔が軽くハグした。 「俺も見たかったです。次、楽しみにしてます」「パパンとママンが作った特性アルバムがあるから、0歳からの理玖が見られるぞ!」「見たい……」  晴翔が本気の顔で目をキラキラさせている。 「スマホに送ってあげてもいいけど、レトロなアルバム仕立ても楽しいのよ。写真を見ながらお話しできるの、楽しみにしているわ」「ママンとパパンの話を聞きながら一緒に写真を見る方が楽しそうです」  ローラと晴翔がワクワク話している脇で、微妙な気持ちになる。 自分の幼い頃の写真で皆が盛り上がるのは、ちょっと恥ずかしい。 「理玖」  ローラが理玖に腕を伸ばした。 理玖も腕を伸ばして、母とハグした。 「昨日の話はsecretね。パパンとママンの胸にしまっておくわ。理玖は自分を大事にするのよ」 
last updateLast Updated : 2025-11-09
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第222話 恋人はスパダリ

「三年前、本屋大賞を受賞した『贖罪と懺悔』、あれを読む限り、臥龍岡先生と折笠先生は共謀してRoseHouseを壊そうとしている、とも受け取れる」  愛人の死の真相を白日ものとに晒した主人公は、殺害に関与した養護施設を告発する。 事件解決後、主人公は愛人を追って自殺する。 「だけど、臥龍岡先生は安倍晴子の命令で折笠先生を殺そうとしていますよね」「壊そうとした。だから、邪魔な異分子である折笠先生を排除させた」「あ……。時系列で言ったら、そうか。我が子に殺人をさせるなんて、全然理解できない」  晴翔が噛み締めるように零した。 「上巻である『性と快楽』の中で殺された婚約者。積木莉汐もまた、無理な実験に巻き込まれて死んだ」「五年前の実験は、主導したのが奥井部長だったって、羽生部長が見付けてくれたデータにありましたよね」  今回の理研への家宅捜索と奥井逮捕の直接の証拠となった、奥井個人の実験データの中に、五年前の実験に関する詳細な記述があった。 同じ学部で友人だった積木莉汐と鈴木類に無理な実験を敷いて、二人の人間を壊した。 結果、壊れた莉汐を臥龍岡に丸投げし、最終的に死なせてしまった。 「奥井部長が安倍晴子の愛人だったのなら、莉汐を殺す目的で行った実験とも仮定できる。多少無謀な薬剤投与も行程も、被験体を壊していい前提なら納得だ。ボロボロになった莉汐を臥龍岡先生は救えなかった。実験を奥井に指示した安倍晴子は、忠行に折笠愛を殺させたような気持になったかもね」  折笠愛と同じother女性だった積木莉汐。 二人の女性を重ねた安倍晴子が、忠行の子である叶大に莉汐を殺させる。 まるで過去の自分の犯罪を忠行になぞらせるような思いで、息子に婚約者を殺させた。 「あんまりにも、酷すぎて。一体、
last updateLast Updated : 2025-11-10
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第223話《6/13㈮》擦り合わせ

 お茶会当日である金曜日の午後。 研究室で、理玖と晴翔と國好は擦り合わせをしていた。 「奥井照正の死因は頭部挫傷と外傷による失血です。ノーブレーキで山道に突っ込み木にぶつかって車が停止。車体は前方が大きく損壊、にもかかわらずエアバックが機能した形跡はありませんでした。車体は現在調査中ですが、ブレーキに細工がされた痕跡が確認されています」  國好に渡された簡易の報告書に目を落としながら、理玖は話しを聞いた。 「明らかに他殺ですね。犯人の焦りがうかがえます」  車は理研名義の公用車だが、普段から奥井が公私ともに利用してたナンバーらしい。 「奥井が所持していたノートPCは科捜研で復元を試みています。三日程度の見込みです。もし向井先生の推測通りなら、偽装データになりますね」  國好が理玖の言葉を促すように見詰める。 理玖は報告書を眺めながら、口を開いた。 「現時点では決定的な証拠に欠けますが、状況とプロファイリングからいえば、犯人は千晴所長です。恐らく、以前から準備していた計画を前倒しした。だから中途半端に歪な結果になってしまった」「歪、ですか?」  國好の眉間に皺が寄った。 晴翔がスマホを開いて、國好に手渡した。 「専務の父から送られてきた理研の出納データです。声掛けした文科省から理研の負債内容を降ろされ、法人買収の意向を伝えたのが五月下旬。その頃から、文科省から理研へ予算の削減と内部監査の打診は入っていました。文科省経由でSky総研の買収の意志も伝えています」  文部科学省を後ろ盾にしたSky総研からは買収の圧を、文科省からは予算削減と監査を、慶愛大学からは実験の不透明さを理由に協業関係の解消を迫られていた。 三方からの突然の圧力は千晴にとり予定外であったろう。
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第224話 鮮やかな乗っ取り①

 理玖はノートPCを取り出した。 佐藤が十年前に隠したUSBを開いた。 「このUSBには、RoseHouseの躾マニュアルと創設から二十年分の実験結果、更にSpyri’s noteのデータが入っていますが、安倍家の事情については記録されていません」  A4のクリアファイルに入っていた数枚の記述。 叶大と圭が安倍忠行のクローンとして作られた実験結果であり、家族構成を示す文書だった。 「しかし、臥龍岡は晴子と忠行の実子なのですよね。見付けた資料は捏造ですか?」「ええ、恐らく」  理玖は額に指をあてて、トントン叩いた。 「かえって法に触れるような実験結果を書き記したのは、何故なんでしょう? 事実を隠すためにしてはリスキーじゃないですか?」  晴翔の言葉は最もだ。 「荒唐無稽で誰も信じないと踏んだのか。二人をクローンに仕立て上げることで、叶の事実だけでなく、圭がクローンである事実までも虚偽にしようとしたのか」  それにしてはやり方が不自然だ。 二人の出生を隠すなら、そもそもあんな文書を残すべきではない。 (躾マニュアルや実験結果は、忠行が折笠先生に託した真実。あの証拠を使って、晴子を止めてほしかった。そう、事実に紛れた嘘。事実にしたかった、嘘)  晴子を止めるために、真実にしたかった、嘘。 「晴子に、母親になってほしかった。叶を愛して欲しかった。その為に真実にしたかった。晴子を愛している忠行のクローンだと思ってほしかった」  圭と同じように叶を愛してもらうために。 事実より晴子の気持ちを満足させるための嘘だ。 onlyの忠行は、どれだけ愛してもnormalの
last updateLast Updated : 2025-11-12
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第225話 鮮やかな乗っ取り②

「僕が知りたいだけなんですよ。グランパが実験していた場所を見て、グランパと実験していた安倍晴子と話してみたい。その場所で生まれた子供たちがどんな風に生きているのか、この目で見たい。そういうのを知れたら、自分がどうするべきか自然と見えてくる気がしています」  自分で見て感じなければ、わからないことも多い。 「理玖さんは子供たちと同じ部屋で寝泊まりしたいそうなので、内部と外部をウチのSPと警察で警備したいんですけど、協力体制ってとってもらえますか。父さんには理研サイドに手を回してもらってますんで」  晴翔が諦めたように息を吐いた。 國好が驚いたように目を見開いた。 「まさか、だから所長代理にSky総研の空咲晴之介専務が入ったんですか? 文科省からの突然の辞令が朝一で届きました」  その話は理玖も聞いていない。 國好と同じように驚いた。 「あ、もう決まったんですか。早いですね。昨日の昼くらいにメッセ入れたのに。推薦してもらえると思うから大丈夫だよ、とは言ってましたけど」「え? なんで晴翔君のお父さんが? というか、千晴所長はもう失脚したの?」  何の脈絡もない気がする。 理研とSky総研は協業関係だが、それ以上の関係はないはずだ。 「完全なる失脚はまだですが、時間の問題です。次の所長が決まるまで代理を立てると聞いていました。理研の科長が繰り上がるものだと思っていましたが。そうか。羽生科長もまだ拘留されているから、内部からの代理は文科省が避けたんですね」  安倍千晴は拘留されたまま黙秘を続けている。 奥井殺害の裏が取れれば逮捕は免れないだろう。 羽生和樹の拘留は事実上の保護だと、國好が話していた。 奥井が殺された以上、羽生もまた危険な立場だと判断したらしい。 内々の事情は
last updateLast Updated : 2025-11-12
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第226話 誘拐①

 真野に手を貸して更待を支えながら、晴翔が部屋の中に入った。 姿を見付けた國好が慌てて駆け寄った。 「更待! しっかりしろ、何があった?」  肩を揺らされて、何とか目を開いた更待が顔を上げた。 左頬が明らかに腫れている。よく見れば口から血が流れている。 服が所々、煤けて汚れていた。 「す……、みま、せ……國好さ……。守れなく、て……。かはっ」  話した拍子に咳き込んで、口元を手で押さえる。 口の中が切れているのか、抑えた手に血が滲んでいる。 「とにかく座りましょう。全身、診せて」  真野と晴翔がソファに更待を降ろす。 「ドコが一番、痛む?」「口の中、と腹……っ!」  服を捲り上げる。少し触れただけで、更待が前屈みになった。 腹に大きな青痣が出来ている。 「殴られたか、蹴られたね。口を開けて」  口腔内から鉄臭い血の匂いが漂う。 腫れている左側が切れて出血している。 「相当強く殴られたね。何があったの?」  理玖は真野に目を向けた。 真野の顔がさっきからずっと引き攣っている。 「何から話したらいいか、わかんねぇし、俺も状況が良く、わかってねぇんだけど。とりあえず、祐里が誘拐されて冴鳥先生が鈴木先輩に、興奮剤で興奮させられてフェロモンでおかしくなって。一緒に秋風先輩と、栗花落さんもいて。警備員の制服じゃなくて私服で。それで、唐木田さんに、更待さんが殴られて。そんで、
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第227話 誘拐②

 第二学生棟から第一学生棟の一階に降りる。 北側の第一研究棟に向かおうとして、祥太は足を止めた。 玄関から出ていく冴鳥を見付けた。 「冴鳥せん……」  声を掛けようとして、飲み込んだ。 隣に秋風の姿が見える。 玄関から出た二人は、南側に歩いて行った。 (あっち側にはバスケットコートと体育館しかない。冴鳥先生には関係ない場所だ。もしかして、秋風先輩に連れ出されてんのか?)  祥太の危険アンテナが警戒音を慣らす。 (どうすりゃいいんだ、どっちが優先だ?)  唐木田の現状を報せに行くべきか、冴鳥の後を尾けるべきか。 祥太はスマホを取り出した。 (とにかく空咲さんに連絡を……、え? 祐里?)  深津祐里からいつの間にかメッセが来ていた。 そうこうしているうちに、冴鳥の姿が遠くなる。 祥太はメッセを確認しながら、冴鳥の後を追った。 『今、体育倉庫の二階に閉じ込められてて動けないんだけど、自力で脱出するから来るなって拓海さんに伝えて! 何回メッセ入れても既読スルーなの。僕が拓海さんを釣る餌なんだ! 来ちゃダメって伝えて! 僕は更待さんが一緒だから大丈夫だから』  全く理解できない状況に、祥太は混乱した。 (何がどうなってんだよ。祐里も全然、大丈夫じゃねぇ! けど、とりあえずあのまま冴鳥先生を行かせんのは、ナシだ)  そう判断して、祥太は走った。 「冴鳥先生!」  大声で叫ぶ。 四限が始まっているから、体育館周辺に人はいない。 冴鳥が振り返って、あからさまに青い顔を
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第228話 誘拐③

 体育倉庫に入る。 相変わらず、誇りっぽくて土臭い。 普段は様々な道具が雑多に置かれて塞がれている階段周囲が綺麗に片付いている。 秋風が階段を上がる後ろを付いていく。 (大和に呼び出されたのも体育倉庫の二階だった。部屋が四つくらいあった気がする)  ほとんど物置状態で人気がない体育倉庫、それも使用していない二階はRISEのような集団にとって使いやすい場所だろう。  階段を昇り切り、右手の奥の扉が閉まっていた。 大きなフックのようなドアノブに南京錠が掛かっている。 秋風が南京錠の鍵を取り出した。 「この中に深津祐里と更待宵利がいる。鍵を開けるには条件がある。まずは隣の部屋に入れ」  秋風が後ろを指さした。 隣の部屋のドアが開いている。 祥太は冴鳥の前に出た。 「真野君! 急に動くのは危険だ。俺の後ろに」「俺はnormalだから、何されても何も感じねぇよ。でも冴鳥先生は違うだろ。どうにかなっても、なんもしてやれねぇから。これくらいはいいよ」「真野君……。真野君に惚れそうだ」「勘弁してよ」  抱き付く勢いの冴鳥を後ろに庇いつつ、部屋に入る。 部屋の中に、栗花落がいた。いつもの警備員姿ではない、私服だ。 「栗花落さん? なんで……」  栗花落が何か言いたそうに開いた口を、何も言わずに閉じた。 混乱する祥太以上に、隣の冴鳥が困惑した顔をしている。 「礼音はこっち側に付いた。向井先生は知ってるはずだけど、聞いてねぇの?」  秋風が、やはり淡々と話す。 何も聞い
last updateLast Updated : 2025-11-14
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第229話 誘拐④

「あれ、まだ興奮剤、打ってないの? ていうか、余計なゲストがいるようだけど」  後ろからかかった声に振り返る。 鈴木圭と唐木田が立っていた。 「何しようとしてんだよ、アンタら。今更、動き出して、なんになるんだよ」  警察が理研に家宅捜索に入ったニュースも、逮捕直前だった奥井照正が事故死したニュースも、今朝テレビで見た。祥太にはRISEが悪あがきしているようにしか見えない。 「外野には関係ない話だよ。呼んでもいないのに首を突っ込んで事情が分かりませんみたいな顔されても迷惑だなぁ。僕らも君には用がないよ」  鈴木が祥太の肩を乱暴に掴んで突き飛ばした。 「もうちょっと、効いてくるといいね」  ベッドの上で半身を倒して息を荒くする冴鳥を、鈴木が観察する。 話している間に栗花落に興奮剤を打たれてしまったらしい。 「冴鳥先生!」  駆け寄ろうとする真野の肩を唐木田が掴んだ。 力が強くて逃げることも出来ない。 「はぁ……、はぁ……、ぁっ。祐里、を返して……くれ」「返してあげますよ。用事が済めば、二人同時にね。冴鳥先生は詰めが甘い。深津の様子を確認しましたか? 貴方より先に、貴方と同じように興奮していますよ。一緒にいる警官は両性具有なんでしょ? 襲われてないといいですね」  鈴木の舌が冴鳥の頬を舐め上げる。 冴鳥の腰がブルリと震えた。 「騙したのかよ。約束も守れねぇのか。絶対、性格悪いって思ってたけど。やっぱりアンタ最低だな」  鈴木が、しきりに冴鳥に舌を這わせる。
last updateLast Updated : 2025-11-15
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