久我佳典(くが よしのり)を想い続けて十年、ようやく彼の恋人になることができた。彼の両親にも紹介され、結婚の日取りも決まって、もうすぐ彼の妻になれるはずだった。これで本当に幸せな永遠を手に入れられると思っていた。でも、神崎心遥(かんざき みはる)が再び現れたと知った時、その幻想は儚く散ってしまった。最初から分かっていたのだ。彼は私を愛していないということを。----------新聞社、編集長室。「結婚を控えているのに?本当に南国に一年間援助に行く気なの?」編集長が驚いたような顔で私を見つめる。その熱い視線から逃れるように目を逸らし、無理やり唇の端を上げて苦笑いを浮かべる。そしてこくりと頷いた。「茂野心晴(しげの こはる)さん、引き受けてくれて本当に助かるわ。最近、誰も行きたがらなくて困っていたの」編集長が私の肩を軽く叩き、約束するように言った。「一年後に戻ってきたら、必ず昇進と昇給を約束するから」彼女の声は弾んでいて、肩の荷が下りたような安堵感が滲んでいる。それとは対照的に、私の声は沈んで平坦で、いつもの情熱など微塵も感じられない。会社を出てわずか数歩歩いただけで、あの何もない部屋に戻ってきてしまった。二人で暮らしている新居なのに、結婚を控えた部屋らしい華やかさなど欠片もない。ソファに身を丸めて、私は時計をじっと見つめていた。この時間なら、佳典はもう帰宅しているはずなのに。いつもなら必ず電話をかけて、何時に帰るか聞いて、夕食の準備をするのに。でも今日は、もう三回も電話をかけてしまった。仕方なくLINEを開き、メッセージを打つ。文字を入力しては消し、消してはまた入力して。私の気持ちが重荷に感じられないか心配で。なんといっても自由奔放な佳典は、束縛されることを何より嫌うから。過去のやり取りを遡ってみると、最後の会話は三日も前。それ以降は私の一人芝居ばかり。ため息をついて、結局「いつ帰る?」と送信した。メッセージを送った途端、玄関のドアが開く音が聞こえた。帰宅した佳典は、ソファにいる私にまったく気づかない様子だった。どこか落ち込んだような足取りで部屋の奥へ向かっていく。もう十時を回っていて、電気も点けていなかったから、気づかなくて当然かもしれない。そ
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