怜央は星に言った。「明日香にはもう逆転の目はない」志村家の正妻として、明日香が逆転する望みは薄い。だが、子供がいる以上、まったくないとも言い切れなかった。しかし、知佳が志村家の子供でないと鑑定されれば、さらに明日香が裏切っていたとなれば――離婚は避けられない。しかも、再婚の可能性はほぼ皆無だ。今回のスキャンダルは、前回よりも遥かに深刻だった。星は忙しく行き交う人々を眺めながら、ふと疑問が浮かんだ。「怜央、もしあなただったら、明日香を許す?」普通の人間の感覚からすれば、悠白は明日香に対して十分すぎるほど良くしていた。かつての怜央の献身にさえ匹敵するほどに。ただ、悠白はどちらかといえば温厚で穏やか。明日香に与えていたのは、常識的な愛情だった。加えて明日香は彼の妻であるため、支援も自然と手厚くなっていた。怜央は答えた。「お前なら許す。彼女なら許さない」星は眉をひそめた。なぜまた自分の話になるのか。星は自分の話は飛ばして尋ねた。「当時、一番明日香を好きだった頃でも?」怜央は一切迷わなかった。「許さない。彼女が俺に返してくれたものでは、これほどの過ちを許す理由にはならない」そこで、怜央の深い眼差しが星に注がれた。「お前なら――かつてお前を傷つけた罪悪感と、お前への感情がある。だから許す」星は黙った。こうして何年も経ち、怜央は一見まともな人間のように見えるが、やはりどこかまともではないのだろう。不意に、怜央の視線が背後の暗がりへと向けられた。光の届かない影の中に、いつからか、すらりとした人影が静かに佇んでいた。怜央の声が低く響く。「溝口さん、人の会話を盗み聞きするのは、紳士のすることではないな」聞き慣れた男の声が返ってきた。山間の清流のように、透き通って心地よい。「さっきからここでゲームをしていたんだ。お二人が通りかかった時に話に夢中で、ここに人がいることに気づかなかっただけだよ」星は怜央から、仁志も展示会に来ていると聞いていたが、会場で姿を見かけることはなかった。とっくに帰ったものだと思っていた。まさか、ここにいたとは。仁志が明暗の境目から歩み出てきた。端正な顔に、どこか読み取れない微笑を浮かべている。「司馬さんも、かつて明日香のことを好きだったんだね」怜央
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