「一度催眠を受けてしまったら……この二年間の記憶は、跡形もなく消えてしまう。あなたが私の世界にいた痕跡も、すべてきれいに消える。もう二度と会えないかもしれないし、数年後にまた出会うかもしれない。お前のことを思い出すかもしれないし、思い出さないかもしれない。でも、もし思い出したとしても——あの映画みたいにはなれるかな。星、人の心ってのは、試練に一番弱いものだよ。だから俺は、今だけを見る。先のことは考えない」そう、仁志が星に向ける深い愛情は、ふたりが共に命を懸けた経験の上に成り立っていた。あの記憶に支えられてこそ、あの感情はあった。記憶がなくなれば、仁志が再び彼女を好きになったとしても、以前ほど激しく燃えることはないだろう。仁志の感情は、実は全部目に見えるものだった。最初の距離、やがて生まれた好意、そして共に生死をくぐり抜けて深まった絆。彼はもともと、理由もなく誰かを骨の髄まで愛したり、この人でなければと執着したりするタイプではなかった。あの記憶と経験がなければ、仁志は自分の言葉通り、いつでも手放せる。未練ひとつ残さずに。そのとき、夜空に突然、花火の轟音が響き渡った。鮮やかな光が空に咲き乱れ、暗闇を一瞬で染め上げる。花火ショーが始まった。星は空を見上げ、胸の奥にじわりと正体不明の感情が広がるのを感じた。もう何も言わなかった。仁志も口を開かなかった。ふたりは東屋の中で静かに並んで、花火を眺めていた。現代の技術の進歩のおかげで、花火の演出も随分と多彩になっていた。ドローンが作り出す光の木、流れるような図案や文字——その美しさは、思わず息を呑むほどだった。星はもともと、このショーに大した期待を持っていなかった。明日香を待つついでに暇を潰す程度のものだと思っていたのに。まさか、こんなにもロマンチックで幻想的なものだとは。気づけば彼女の意識は完全に舞台へと引き込まれ、雑念は消えていた。全ての演目が終わった頃には、一時間半が経っていた。人混みが徐々に散っていく中、星はようやく明日香がずっと戻ってきていないことに気づいた。「明日香から、ずっと連絡ないの?」仁志はちらりと携帯を確認して、「ない。もう遅いから、旦那と子供が心配だと思って、直接帰ったんじゃないかな」と答えた。——おそらく、自分が現れたのが明らかな邪魔だと気づいたの
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