All Chapters of 愛は天の川に降り注ぐ星のよう: Chapter 1 - Chapter 10

杏惟はスマホを開いたが、二時間ほど前に怜緒那からのSNSの更新通知があることに気づいた。少し躊躇したが、やはり開いてみた。怜緒那はSNSに一枚の写真を投稿していた。写真にはエルメスのリップが十数本写っていた。キャプションにはこう書かれていた。【好きな色を知らないからって、たくさん買ってくれたの。明るいオレンジ以外は全部大好き！ありがとう！】キャプションの後には、キスの絵文字も添えられていた。写真を見て、杏惟はただ胸が締め付けられるような痛みを感じた。かつて、彼女は冗談で柾朗にエルメスのリップを十本買ってほしいと言ったことがあったのを覚えている。その時、柾朗は言った。「杏惟はこんなに綺麗なんだから、どんな色を塗っても似合うよ。エルメスじゃなくても同じさ」まさか柾朗がこのことを覚えていたとは。ただ、リップは別の女性に贈られていた。風呂のドアが開き、杏惟は無意識にスマホの画面をロックした。柾朗は髪を拭きながら尋ねた。「何を見ているんだい？」彼女はスマホをしまい、「何でもないわ。愛人の女がクズ男が贈ったプレゼントをSNSで見せびらかしているのよ」と言った。「愛人がこんなにも堂々としているなんて、本当に厚かましいわね」柾朗は上着を手に取り、「幸い、僕はそんな人間じゃない」と言った。彼はリップを一本取り出し、杏惟の手に乗せた。声はいつものように優しかった。「何はともあれ、今日は僕が悪かった。これは君への埋め合わせだよ」「前にリップを買いたいって言ってたのを覚えてるんだ。ただ、君も知ってる通り、男の僕にはどんな色がいいかよく分からないから、店員さんが勧めてくれたのを買ったんだ」手のひらに乗ったエルメスのリップを見て、杏惟はただ胸が締められて、息苦しい感覚を覚えた。彼女はそっとリップを手に取り、開けた。明るいオレンジ色が目を刺し、酸っぱい痛みが涙を誘いそうになった。「好き？」柾朗は尋ねた。「好きじゃない」彼女の返答に柾朗は一瞬呆然とした。かつて、柾朗が何を贈っても、たとえ好きでなくても、彼の気持ちを思って「好き」と言っていたのに。それが柾朗に、何を適当に贈っても彼女は喜んで受け取ると思わせていた。「きっと、この店員さんは彼女が一番嫌いな色を選んだのね。腹がきっと黒いわ！そう思わない？」彼女は顔を上げて柾

家に帰り、杏惟はかつて柾朗と一緒に飾り付けた新居を見て、言いようのない苦い気持ちになった。家は柾朗の持ち物だったが、家具や家電の大部分は彼女が一人で手配して購入したものだった。今、彼女はここを離れることになった。これらの家具や家電を怜緒那に安く譲りたくはなかった。ウェディングドレスの店から出てきた柾朗は、すぐにウェディングドレスを持って家に帰り、杏惟を探そうと思っていた。しかし、会社から電話があり、急用で一度戻らなければならなくなった。仕事を終えた柾朗は、ウェディングドレスのお店のことがずっと気にかかっていた。悪いことをしたと自覚していたので、退社するなり慌てて家に駆けつけ、杏惟にきちんと説明しようと思った。しかし、ドアを開けて彼が見たのは、数人の見知らぬ人が家具を運び出している光景だった。そして杏惟は、冷たい目でその全てを見ていた。柾朗の心臓は突然ドキリとした。「杏惟、これは......何をしているんだい？」杏惟は落ち着いた様子で、淡々と答えた。「気に入らなくなったから、新しいものに買い替えようと思って」「気に入らない？」柾朗は呆然とし、無意識に杏惟がまだウェディングドレスの店のことで怒っているのだと思った。「杏惟、今日のことは、僕が悪かった、でも怜緒那は......」「ご両親が、私が買った家具のスタイルがあまり好きじゃないって、ずっと言ってたでしょう」杏惟は彼の話を遮り、口調は相変わらず穏やかだった。「いっそう、結婚前に全部買い替えましょう」彼女のさりげない一言は、柾朗に心の中で強い恐慌を感じさせた。彼は口を開いたが、何か言おうとしても、何を言えばいいのか分からなかった。杏惟の平静さは彼を不安にさせた。これは彼女らしくない、しかしどこがおかしいのか、彼には分からなかった。結局、彼は無力に頷くしかなかった。「分かった、新しいものにしよう、全部君の言う通りにするよ」おそらく、立て続けに起こったいくつかの出来事が、柾朗に杏惟への罪悪感を抱かせたのだろう。金曜日の夜、彼は突然、杏惟を連れて近くの海辺のイルミネーションを見に行こうと提案した。「杏惟、これは人に頼んで大変な苦労をして手に入れた招待状なんだ。来場者もそんなに多くないらしい。きっと君も気に入ると思うよ」「一人で行ってちょうだい。私は行きたくないわ」

荷物の片付けがほぼ終わった頃、杏惟は怜緒那からメッセージを受け取った。【柾朗さんは今夜が帰らないって】彼女はじっとそれを見ていたが、指を軽く滑らせて怜緒那をブロックした。それから間もなく、柾朗からメッセージが届いた。【杏惟、怜緒那が病院で点滴を受けていて、離れられないんだ。夜は帰れないから、早く休んでね、愛してるよ】彼女は突然、柾朗という人間が全く理解できなくなった。口では彼女を愛していると言いながら、体は怜緒那の傍にいる。本当に彼が何を考えているのか分からなかった。一部のものを捨てた後、杏惟は疲れ果ててベッドに倒れ込んだ。あと五日でここを離れることができる。翌日、杏惟がちょうど起きたばかりの時、柾朗からメッセージが届いているのを見た。【杏惟、うちの両親が来てる。今すぐに帰るよ】杏惟は微かに眉をひそめた。彼女は静かに柾朗の世界から去ろうと思っていたのだ。しかし、今柾朗の両親が来るというのなら、いっそのこと彼らに、この結婚はしないと伝えよう。彼女は翡翠の腕輪を手に取った。ちょうど腕輪を彼の母に返すことができる。それから間もなく、ドアベルが鳴った。彼女は柾朗の父と柾朗の母が到着したのだと思い、ドアを開けたが、そこにいたのは見慣れた、そして彼女が嫌悪する顔だった。「怜緒那？」彼女は少し驚いた。怜緒那は偽りの笑顔を浮かべ、「杏惟さん、お久しぶりですわ」と言った。怜緒那はフルーツバスケットを提げ、まるで自分の家のように勝手に中に入ってきた。「柾朗はどこ？」杏惟は冷たく尋ねた。怜緒那はテーブルにフルーツを置き、口調に得意げな様子を滲ませた。「柾朗さん、あたしに先にここに来ててって言われました。彼は両親と一緒に来ますって」フルーツを並べ終え、杏惟を見る目に挑発の色を帯びさせ、何気ないふりをして言った。「伯父様と伯母様はあたしが作った料理が大好きでしたわ。今も好みが変わらないといいですね？」目尻で、杏惟が手に持っている瑞々しい翠色の翡翠の腕輪をちらりと見た。それは五十嵐家の代々伝わる腕輪だった！柾朗と杏惟が婚約した時、柾朗が怜緒那のためにその場を離れた。嫁を宥めるために、柾朗の母は皆の前で、自ら杏惟の手にこの腕輪を嵌めて埋め合わせた。「杏惟さん、この腕輪、本当に綺麗ですわね、五十嵐伯母様がくださ

一方、柾朗は慌ただしく怜緒那の家へ駆けつけた。彼はコップ一杯の水を注ぎ、怜緒那をなだめて薬を飲ませた。怜緒那はか弱そうにベッドに横たわり、片手で額を押さえ、もう一方の手で柾朗の服の裾を掴み、弱々しく呻いた。「柾朗さん......薬、飲みたくない......」柾朗はピーナッツキャンディを一つ取り出し、包みを開けた。「いい子だ、ピーナッツキャンディを用意したから、これで薬が苦くないよ」怜緒那は口を尖らせ、甘えるように言った。「忘れたの？あたし、ピーナッツアレルギーなのよ」柾朗は一瞬呆然とした。杏惟がピーナッツキャンディが好きだったので、杏惟が薬を飲むたびに彼はピーナッツキャンディを用意していたのだ。怜緒那がピーナッツアレルギーであることを忘れてしまっていた。怜緒那はこのことで甘え、柾朗に傍にいてくれるように頼んだ。柾朗は困惑した。少し前に杏惟が言った言葉を思い出し、いつも不安を感じていた。それに彼は杏惟に帰ると約束していたのだ。怜緒那は柾朗が立ち去ろうとしているのを見て、たちまち涙を流した。「柾朗さんは怜緒那のことが嫌いになったの？それなら行ってちょうだい、あたし一人でも大丈夫だから......」そう言いながら泣き続け、危うく気を失いそうになった。か弱くて可哀想な怜緒那を見て、彼は結局折れるしかなかった。彼は杏惟に謝罪のメッセージを送り、明日の結婚式の予行演習で会おうと伝えた。彼はため息をついた。杏惟は今回本当に怒っているだろう。後で改めてきちんと説明するしかないと思った。翌日、怜緒那を一晩中看病した柾朗は、一刻も早く杏惟に会いたかった。今日は結婚式の予行演習もあるのだ。しかし、怜緒那は彼と一緒に結婚式の予行演習を見に行きたいと譲らなかった。結婚式の雰囲気を味わいたいと言い、潤んだ大きな瞳には期待が満ちていた。これでは彼も断るわけにはいかず、承諾するしかなかった。彼は杏惟に電話をかけ、事前に知らせようとしたが、全く繋がらないことに気づいた。怜緒那の家から出た時には、もうかなり遅くなっており、約束の予行演習の時間はとっくに過ぎていた。杏惟とは相変わらず連絡が取れず、LINEもブロックされていた。柾朗の心はますます不安になり、怜緒那を連れて、仕方なく結婚式の予行演習の会場へ向かうしかなかった

「そうよ、全部あんたのせいよ！あんたみたいな女は、どこにいても男を惑わす匂いを撒き散らしてるんだ！だから娘の彼氏も、その匂いに釣られて来るんだよ！」杏惟の母は容赦なく言い返した。「一人や二人じゃない、ここで芝居してるの？佐倉家はいじめやすいとでも思ってるの？」杏惟の父は電話を手に取り、冷たい声で言った。「うちの玄関を塞いで、不法侵入するつもりか？さっさと帰らないなら警察を呼ぶぞ！」怜緒那は顔色を変え、柾朗の母の腕を強く掴んだ。柾朗の母も事を大きくしたくなかった。結局、世間に知れ渡れば恥をかくことになる。柾朗の母は声を和らげた。「明日は結婚式よ。うちの親戚や友人もたくさん来てるんだから、このこと、どうにか説明しないと」長い間黙っていた柾朗の父も愛想笑いを浮かべた。「妻は気が短いんです。ご容赦ください。若い夫婦に喧嘩がないわけじゃない。子供たちはもう七年も一緒にいるんだから、どんな乗り越えられない壁があっても、話し合えば解決するでしょう」杏惟の母は冷たく鼻を鳴らした。「誰が嫁母なのよ。勝手なこと言わないで！杏惟は彼と婚姻届を出してないわ！嫁に行かなくて良かったわ、そうでなければ杏惟がどんなにいじめられてたか分からないわよ？明日の結婚式については、あなたたちで何とかしなさい」彼女は柾朗を指差して続けた。「あんたが婚約の時に見せたあの素晴らしい動きを出せばいいじゃない！」柾朗の母はまだ反論しようとしたが、傍らの柾朗の父に止められた。一方、柾朗は傍らに立ち、この全てを見ていた。頭がガンガン鳴り響き、まるで世界が崩壊したかのようだった。杏惟の母が彼を指差すのを見て、彼は泣き声で懇願した。「お母さん、僕が悪かった、本当に悪かったんです！杏惟の居場所を教えてくれませんか？」杏惟の母は冷たく鼻を鳴らした。「ここで芝居をするのはやめなさい、あんたの考えてることなんて、私たちにはお見通しよ。さっさとあんたの母さんと、あんたのその良い愛人と一緒に帰りなさい。ここで邪魔しないで！」柾朗はまだ何か言おうとしたが、杏惟の父に突き飛ばされた。「うちの杏惟はもっと良い男を出会うにふさわしい。お前にはふさわしくない！」彼は力強くドアを閉めた。その「バタン」という音は、まるで柾朗の心臓に重く打ち付けられたかのようだった。柾朗は力なく地面に座り込んだ。柾