雨は止む気配を見せなかった。 愛犬うなぎを連れて公園のベンチでうずくまっていた私に、梅本先生は何も言わず、ただ傘を差し掛けてくれた。 それだけでもありがたいのに「もし家に帰れねぇってんなら、とりあえず俺ん家《ち》来いよ」とか。 お顔だけ見たらすっごく怖そうなのに、なんて優しい人なんだろう。 呆然自失の私の手を引いて立ち上がらせると、梅本先生はそっと背中を抱くようにしてリードしてくれる。 私はうつろな意識をなんとか鼓舞するように、うなぎのリードを強く握りしめてそんな彼のなすがまま、ふらりふらりと歩き始めた。 雨粒が眼鏡にびっしりと貼りついて、視界がにじんでまともに前が見えない。鼻眼鏡になりかけたフレームを押し上げるたび、現実に引き戻されるようで苦しかった。 それだけでもしんどいのに、びしょ濡れの服が肌にまとわりついてきて動きづらい。濡れた衣服は、容赦なく私の体温を奪っていく。まるで、さっきまでいた自宅の玄関先の冷たさを思い出させられるみたいで、私はもう二度とあの家の扉を叩くことはできないんだと胸の奥で呆然と考えていた。 私がいなくなっても、きっと孝夫さんは困らない。 そんな風に思った。 *** 梅本先生が住んでおられるアパートは、公園から徒歩五分程度の距離にあった。 方向こそ違えど、案外私が住んでいたマンションとも近くて、なんだか不思議な気持ちがしてしまう。 梅本先生のアパート一階に入っているコンビニは、私も何度か利用したことがある店舗だった。 こんなに近くに住んでいたのに、公園でしか顔を合わせなかったなんて……。妙な巡り合わせだなと思ってしまう。 「このままうちに来たら色々困りそうだな」 ふと何かに気付いたようにポツリとつぶやいた梅本先生が、だけど私のすぐそばでキョトンとこちらを見上げているうなぎに視線をやって「あー、けどなぁ」と吐息を落とした。 彼はひとりであれこれと想いを巡らせて、なんだか自分で結論を出してしまったみたい。 「一旦、上、上がろうか」 言うなり、店舗横に伸びる階段へと足を向けた。 「しんどいトコ、ごめん。うちのアパート、三階建てなんでエレベーターがねぇんだ。歩けそう?」 畳んだ傘からポタポタト雫を滴らせながら、気遣うように私をじっと見下ろして問い掛けてくる梅本先生に
Dernière mise à jour : 2025-08-21 Read More