All Chapters of 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー: Chapter 291 - Chapter 300

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292.父の誘い

華side「花村に聞いたよ。週末、お墓参りに行くそうだな。私も一緒に行っていいか?」花村と話をした二日後、仕事から帰ってきた父が私にそう話しかけてきた。父と花村の密やかな会話を聞かなければ何の疑いもせずに喜んでいただろうが、今はあの言葉が胸の中でひっかかっており、父が一緒に行くのは、私が母の死について何かを知ろうとしないか監視するためではないかという疑念が、頭によぎる。「ええ、もちろん。私も何年も行っていないので場所が曖昧でして、お父様が一緒に来てくれるのは嬉しいです」疑念を隠し明るく答えると、父も頬を緩めて笑みを見せた。「良かった。それなら子どもたちと出掛けるのも初めてだし、そのあとにみんなで食事でもどうだ?」「ありがとうございます。子どもたちも喜ぶと思います」「店は……何がいいんだろう。子どもたちが行きたい店でいいから、食べたいものを聞いておいてもらえるか?」父が、慶や蒼のことを考えてくれているのが嬉しかった。神宮寺家に来てから、空白の七年間を埋めていくかのように、父は慶と蒼に積極的に話しかけてくれている。そんな父に慶と蒼も心を開き、今では膝にすり寄って甘えるようになっていた。
last updateLast Updated : 2025-11-11
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293.母の記録

華side―――――週末の日曜日花村の運転する車で、母が眠る神宮寺家の墓地へと向かった。道中、父は慶と蒼にせがまれてしりとりをやっており、車内は終始賑やかだった。父の優しい笑顔を見ると、私が抱く疑念は的外れなのではないかと思えてくる。霊園の入口にある花屋で色鮮やかな花束を二つ購入し、静寂な敷地に入る。神宮寺家の墓は、広大で格式高い墓所の中にあった。中央に建つ巨大な墓石とその隣に設けられた墓誌。慶と蒼は初めてみる墓石に目を丸くしながら黙っていたが、父や私の真似をして恐る恐る手を合わせている。(お母さま、ずっと顔を出せずに申し訳ございません。私も出産をし、二人の子どもの母親になりました。お母さまに私も会ってみたかった、そして、お母さまに子どもたちと会わせたかったと思う時もあります。お母さまは何を思っていましたか、あの日、どんなことを思っていましたか―――)心の中で母へ語り掛けていると、花村が水桶と柄杓を持って近づいてきた。「お嬢様、水を持ってきました」「花村、ありがとう」私は、墓石にある花筒の水を綺麗なものに差し替えてから、先程購入した花を挿して、墓石と墓誌に丁寧に水をかけていった。墓誌にさしかかったところで母の名前が掘られている部分で目が留まった。
last updateLast Updated : 2025-11-12
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295.北條湊

華side「華さん、最近元気がないようですが、どうかしました?」教室が終わり、誰もいなくなった部屋で片づけをしているときの事だった。北條先生の優しい声での問いかけに、私の手がピタリと止まってしまった。父と花村の秘密、玲の裏切り、そして母の死の真相——すべてが重くのしかかって、時々上の空になっていた。「え、そんなことは……。ごめんなさい。集中しますね」「いえ、華さんのことを責めているわけではないんです。誰にだって気持ちが揺らいだり陰る時はあります。だから、もし困っているなら僕に出来ることがないかなと思って」出逢った時から感じていたが、北條先生は陽だまりのような存在だった。穏やかでおおらかな性格と私の気持ちの変化にいち早く気づく繊細さを持っていて、私を明るく照らしてくれる。「ありがとうございます。お気遣いいただき感謝しています」「今日、時間はまだ大丈夫ですか?頂き物のお菓子があるのですが、一人では食べきれなくて。良かったら片づけが終わった後に一緒にどうですか?」「ありがとうございます。お言葉に甘えて頂きます」「良かった。それでは、片付けを早く終わらせてしまいましょう」
last updateLast Updated : 2025-11-13
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296.陽だまり

華side先生自身の繊細な家族関係を示唆すると同時に、まるで私の複雑な家庭環境を見抜いているかのように聞こえた。先生の穏やかな視線に射抜かれ、神宮寺家の抱える玲と櫻子の秘密、そして父と花村の謎を抱えていることが、先生に透けて見えているような錯覚に陥った。「……あまり話をしないのに、私に教えてくださったのですか?」北條先生は私をチラリと見た後に笑みを浮かべて、目の前にあるコーヒーを一口飲んだ。「ええ。僕は茶道の集まりだけでなく、企業のイベントや講演会の依頼もあり様々な業界の方と会います。その時に、華さんが他の方から僕の噂を聞くのは嫌だったので。隠し事はしたくないなと思いまして」その言葉が、私の心に深く強く響いている。「お心遣いありがとうございます。先生のお気持ち、嬉しいです」(隠しごとはしたくない、か。神宮寺家は隠し事ばかりで、何が本当か分からないわ。父や花村は母の事件を隠し、玲と櫻子は血縁を隠し……真実や各々の意図や気持ちが全く見えてこない)北條先生は、コーヒーカップを静かに置き、改めて私に向き直った。「出来れば、華さんには講師としてだけでなく、今後イベントの方にも出席して、僕のサポートをして頂けたら嬉しいと思っ
last updateLast Updated : 2025-11-13
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298.容疑者

瑛斗side「よし、この内容なら会長も承諾してくれるだろう。ありがとう。助かったよ」先日の会長からの指摘事項を伝え、決算の再報告資料について空と彼の部下である経営管理部三人と打ち合わせをしていた。会社の業績を引っ張り、将来性のない部門の切り離しや撤退は、健全化に必要なことだが一時的な痛みを伴う。そこで特別損失がなかった場合の指標を出し、経営自体は順調に推移していることが分かる内容を一枚追加することにした。これで、赤字に対する会長や株主の懸念は少しは和らぐはずだ。「相原専務、少し話があるんだがこのあと大丈夫か?」「はい、大丈夫です」部下たちに目配せして先に自席に戻るように指示をすると、部下たちはテーブルの上の資料を片付けて部屋を出ていき、部屋には俺と空だけが残された。「玲の部門からきた松本と成田だが、様子はどうだ?二人はどんな人物なんだ」俺は、玲の不正会計の内部協力者として最も可能性が高いと見ている二人について空に尋ねると、空は慎重に口を開いた。「今のところ、よくやってくれているよ。二人とも知識があるから即戦力になり助かっている。四十代前半で年は近いけれど対照的な性格だね」空は
last updateLast Updated : 2025-11-14
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300.縁談

瑛斗side日後、空の部下たちが作成してくれた資料を持って再び会長の元へ説明を行った。特別損失がなかった場合の指標を加えたことで、会長は一通りの説明を聞くと納得してすぐに承諾をしてくれた。(とりあえず前期の問題は片付いた。今後は、実績作りと社内環境の改善だ……)俺が胸を撫で下ろしたのも束の間で、会長は資料から目を外して眼鏡を指で掛けなおすと、ジロリと俺の方を見てきた。その目つきに嫌な圧力を感じた。「話は変わるが、最近、芦屋グループの会長や娘と会ったか?」「芦屋って外食産業を手掛けるあの芦屋グループですか?そこでしたら、三か月前に焼肉の新事業展開を祝うレセプションパーティーに参加して、会長と娘の彩菜さんと会いました。実際の店舗で経営者目線の感想を聞きたいとのことで、芦屋の取引先が五十社ほど来ていましたね」「そうか。きっとそのときの事を言っているんだろうな。先週、ゴルフで芦屋の会長と一緒になってお礼を言われたんだ。お前の意見がとても参考になったと喜んでいたよ」「そうですか。大手グループの会長にお褒めの言葉をもらえるなんて光栄です」「ああ、それでだ。会長も娘さんもお前のことが気に入って、一度食事をしたいとのことだ。出来れば将来的に家族ぐるみの付き合いになることを希望するとまで言われたよ」
last updateLast Updated : 2025-11-15
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