離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー のすべてのチャプター: チャプター 321 - チャプター 330

348 チャプター

321.松本②

空side「なるほど。お互いの業務内容を知らないということは、何か問題があった時に処理できる人がいなくなって業務に支障が出ることも考えられるけれど、それについて問題になったりしなかったかな?」「いえ。副社長からは『各々の担当に集中するように』とだけ言われていましたし、急ぎでやるような内容はなかったので問題はありませんでした。」松本は、自分が関わっていない領域を明確に線引きすることで、自己保身を図ろうとしているように見えた。しかし、その冷静な言葉の裏には、過去の不正に対する深い認識が透けて見えた気がした。「成田くんは特殊処理を任されることもあったと言っていたんだけれど、松本くんもそのような指示はあったかな?」成田から引き出した「特殊処理」という言葉を松本にぶつけてみると、松本はかけていた眼鏡を上にあげ直した。口元に少し力が入り、不満そうにも見えた。「特殊処理、ですか?成田さんがどんなことを指しているか分かりませんが、私のところには特に。あと、前の部門の質問が多いですが何か問題でもあったのですか?」松本の声は低いままだが、警戒心が明確に滲み出ている。「いや、まだ異動してきたばかりだから他の部門の様子も知りたいと思って聞いただけで、深い意味はないよ。君たちの専門性が高いから、前の部署の業務の流れにも関心があるんだ。松本くんから何か聞きたいことはるかな?」
last update最終更新日 : 2025-11-26
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322.空振り

空side「やっぱり怪しいものは残っていないか……」セキュリティ部門に依頼メールを送った翌日、データを貰った。業務の合間に三日間かけて二人の業務PCのデータを確認したが、予想通り、不正の痕跡につながる内容は残っていなかった。それどころか、個別フォルダには前任から受け取ったと思われる引継書のみでデータ自体がほとんどない。(普段から使用していなかったのか?それとも玲さんがいなくなって、意図的に証拠を消した?両方の可能性があるな)一度クラウド上から完全に消したフォルダの復元は不可能だそうで、過去のフォルダから不正の証拠を暴く方法は空振りに終わった。「対照的な性格の二人か……。どちらも知識は申し分ないから自分の判断で業務を進められたはずだ。二人の話だと長谷川さんは指示のみだったらしいから、実行や計画はどちらかの可能性が高いな」椅子の背もたれにめいいっぱいもたれ掛かりながら、今までのことを思い返していた。(不思議なのは、なんで玲さんの指示に従ったり、助言をしたかということなんだよな。普段からの様子を見れば、とても尊敬や信頼できる人物には見えないし、彼女の横暴さも分かるはずだ。知識や会計能力がなくて、専門的な話になると急に口を閉じる傾向もあったから、無茶苦茶なことを言われても正論を言えば黙ることも彼らなら分かりそうなのに……)
last update最終更新日 : 2025-11-27
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323.騎士

空side「瑛斗は、玲さんは神宮寺家と血縁関係がないと言っていたな。櫻子さんと誰かとの間に出来た子供で、それを隠すために櫻子さんも逃亡したと思われている。仮に、一連の騒動の主と玲さんが濃い関係にあって、彼女を守るために優秀な人材を送っていたとしたら?彼らは玲さんの指示で不正を行ったのではなく、もっと上の指示で『不正を働く玲さんを守るための騎士』として送り込まれた?……でも、その『もっと上』とは、一体誰なんだ?」玲を取り巻く人物たちの謎に対する新たな仮説に、胸騒ぎがするのを感じていた。玲に従っていた人物と考えるより、玲はお飾りの代表で内容を考えるのは別の人間と考える方が筋が通っている。(長谷川も在籍中は、不審な点を一切出さなかったし、簡単に本性を出さないかもな。それに玲さんの指示ではなく、彼らは別の人間の指示で動いていたことになると、今現在も一条グループの情報を知られていることになる。長期戦は避けて、早くあぶりださないと大変なことになるぞ)成田や松本が「騎士」として送り込まれていたなら、彼らは今も敵の駒として機能している可能性がある。そして、彼らが守ろうとしていた玲は、その『もっと上』の人物の単なる道具に過ぎない。「瑛斗は今、芦屋家や華さんのことで新たな問題が出来て困っているもんな。向こうがじっくりと情報収集をする作戦なら、こちらも策がないとね。このままでは、グループの計画や重要情報が全て筒抜けになる」周囲に誰もいないことを確認してから、デスクの引き出しからあるものを取り出して、覗き込み防止のフィルターを貼り、PCに取
last update最終更新日 : 2025-11-27
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324.真珠との再会

華side「華さん、この前会った京都のメーカーの真珠さんが来週の水曜日に東京に来るそうなんだけど、その日の予定は空いていますか?良かったら、ランチでもどうでしょうか?」「はい、大丈夫です―――――ぜひ、ご一緒させてください」北條先生の誘いに喜んで答えると、先生もにこやかに微笑み返した。「良かった、真珠さんにも伝えておきますね。きっと喜ぶと思います。華さんのことを『とても品のある素敵な方』だと褒めていましたよ」「ありがとうございます。真珠さんも可愛らしい方でしたね。知らない土地に一人で営業に来るなんて心細いと思うのに、とても堂々としていて芯の強さを感じて素敵です。上手くいくといいですね」「そうですね。でも芯の強さなら華さんだってあるじゃないですか。お子さんを育てながら、こうして新しい道も歩んでいる華さんは素敵だと思いますよ。教室でも、華さんのファンが多いですし、独立しても十分やっていけると思います。まあ、僕としてはこのままずっとここにいてくれるとありがたいのですが」「……ありがとうございます」北條先生は、褒めることも、時折甘い言葉を言うのにも慣れていて心が掻き乱される。真っ直ぐだが強く冷たい言葉も多い瑛斗と、豹変する前は常に献身的な言葉をかけ続けた三上。どちらとも違う、穏やかで誠実な優しさがあった。
last update最終更新日 : 2025-11-28
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325.真珠との再会②

華side「北條先生、華さん、お久しぶりです。今日はありがとうございます」北條先生と私の姿を見つけると、真珠さんはにっこりと笑って小走りでこちらに近付いてきた。前回会った時は着物姿だった真珠だが、この日は企業への商談のためパンツスーツ姿で、北條先生も、普段の着物姿とは違い、細身のパンツにVネックとジャケット姿で雰囲気ががらりと変わっていて、その姿は茶道家というより若手経営者のようだった。北條先生が連れて行ってくれたのは、地下に続く階段とレンガ造りでレトロな雰囲気の洋食店だった。店に入り日替わり定食を頼んでから、真珠さんは、出された水を一口飲むと、緊張の糸が切れたように息を大きく吐いた。「ふー今日は初めてのところばかりなので、すごく緊張しましたが、お二人会ったら癒されました」「新規営業だと先方の人柄も分からないので緊張しますよね、お疲れ様です」「ええ、でも北條先生のご紹介だったので話の進みも早くてとてもありがたかったです。先生のおかげです」「そういえば、北條先生って茶道界だけでなく、経済界や行政など色んな方とお知り合いですよね。どうやったらそんなに広い人脈を築けるのですか?」私の疑問に、真珠さんは北條先生を見てキョトンとした顔をしている。的外れなことを聞いてしまったのかと思い焦っていると、北條先生は困ったような笑顔でこちらを見返した。「実は、私は住井財閥の家系でして。今でも住井の役員をやっているので、経済界や行政には多少顔が効くんですよ。真珠さんとも、元々は経営者同士の交流会で知り合ったんです」「え?住井ってあの住井財閥ですか?財界のパーティーでも、挨拶する方が多いので不思議に思っていたのですが納得です。でもそれなら最初から話してくださればよかったのに」「華さんには、純粋に茶道家としての僕を見て欲しかったんです。家柄や肩書きではなく、一人の人間として。でも華さんは大切なパートナーですから、何でも話さないとですね」「パートナー?もしかして先生と華さんって……」その言葉に真珠さんは、興奮気味に先生と私を交互に見返している。「ちょっと、先生!?」「秘密ですよ。縁談の話が厄介で、パーティーの時は、華さんにパートナーになってもらっているんです。」口元に人差し指を添えてにっこりと微笑むと、真珠さんも理解したように笑っていた。しかしその横で、私は先
last update最終更新日 : 2025-11-28
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327.動揺と嫉妬心

華side「瑛斗ったらどうしたんだろう?誕生日、平日だから来るのは大変だから、ゆっくり会える週末の方がいいと思ったんだけど……ケーキも久しぶりに作ろうと考えていたんだけどな」子どもたちの誕生日は、前々から一日お休みをもらっていて、子どもたちが学校に行っている間に飾りつけとスポンジを焼いて帰ってきたら驚かそうと思っていたのだが、予定が変わってしまいそうだ。それでも、瑛斗が誕生日を覚えてくれていて、子どもたちのために何かしようとしてくれていることが嬉しくて、電話を切ってから自然と頬が緩んでしまった。「瑛斗も父親として向き合おうとしてくれているのね……」瑛斗と子どもたちが楽しそうに遊んでいる姿は、傍から見たら親子そのものでほっこりとした気分にさせる。「子どもたちも父親がいた方が嬉しいのかな。喜ぶのかな……」つい心の声が口に出たが、それと同時に頭をよぎったのは、この前のパーティーで瑛斗の隣で微笑む芦屋彩菜の姿だった。彼女は瑛斗のことを『瑛斗さん』と下の名前で呼んでいた。あの時の親密な距離感が今も鮮明に焼き付いている。北條先生経由で、瑛斗のところに彩菜さんと縁談の話があることは既に聞いている。(縁談があって、あんな公の場で下の名前で呼び合うって、話がまとまるってことかしら?縁談が成立した
last update最終更新日 : 2025-11-29
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328.誕生日前日の贈り物

華side「それでは、先生、明日はお休みで次は金曜日に伺いますね」「ありがとう。よろしくお願いします。あ、華さん、ちょっと待っていて」子どもたちの誕生日前日、帰る前に北條先生に声を掛けると、先生は呼び止めて奥の部屋へと入っていき。すぐに大きな籐の籠を持って戻ってきた。「これ、気持ちばかりですがお子さんたちに渡してください。お誕生日おめでとうございます」持ち手のある大きな籐の籠に入ったお菓子の詰め合わせには、透明のフィルムが被せられ、大きなリボンで綺麗にラッピングされている。中には、子どもたちが喜びそうなカラフルで上質な焼き菓子がぎっしり詰まっていた。「わぁ、可愛い。ありがとうございます。子どもたち、きっと喜びます!」「いえ、何がいいか分からなくてお菓子にしましたが、アレルギーは大丈夫ですか?あと、こっちは華さんの分。一人の時や息抜きしたい時にでもどうぞ」「え、私の分まで?お心遣いありがとうございます」私用には、重厚感のある黒い箱に入った帝王ホテルのチョコレートのテリーヌをくれた。その洗練されたセレクトが、いかにも湊さんらしい。「敢えて子どもたちが食べれないように洋酒入りにしま
last update最終更新日 : 2025-11-30
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