空side「なるほど。お互いの業務内容を知らないということは、何か問題があった時に処理できる人がいなくなって業務に支障が出ることも考えられるけれど、それについて問題になったりしなかったかな?」「いえ。副社長からは『各々の担当に集中するように』とだけ言われていましたし、急ぎでやるような内容はなかったので問題はありませんでした。」松本は、自分が関わっていない領域を明確に線引きすることで、自己保身を図ろうとしているように見えた。しかし、その冷静な言葉の裏には、過去の不正に対する深い認識が透けて見えた気がした。「成田くんは特殊処理を任されることもあったと言っていたんだけれど、松本くんもそのような指示はあったかな?」成田から引き出した「特殊処理」という言葉を松本にぶつけてみると、松本はかけていた眼鏡を上にあげ直した。口元に少し力が入り、不満そうにも見えた。「特殊処理、ですか?成田さんがどんなことを指しているか分かりませんが、私のところには特に。あと、前の部門の質問が多いですが何か問題でもあったのですか?」松本の声は低いままだが、警戒心が明確に滲み出ている。「いや、まだ異動してきたばかりだから他の部門の様子も知りたいと思って聞いただけで、深い意味はないよ。君たちの専門性が高いから、前の部署の業務の流れにも関心があるんだ。松本くんから何か聞きたいことはるかな?」
最終更新日 : 2025-11-26 続きを読む