All Chapters of 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー: Chapter 451 - Chapter 460

515 Chapters

451.動物園

華side不審な手紙を受け取ってから、もう四か月以上が経過しようとしている。あの日以来、新しい手紙が届くことはなく、彩菜さんが「写真は捏造されたものである」と記者会見を行ってからは、週刊誌の続報もメディアによる報道もぴたりと止まった。今はまるで最初から何事もなかったかのような平穏が包んでいる。けれど、私たちの日常は元に戻ったわけでも解決したわけでもなかった。犯人は依然として捕まっておらず、その正体も目的も闇に包まれたままだ。私は今も、茶道教室へ通うために、花村をはじめとする警備の者に厳重に付き添われ、周囲を警戒しながら車に乗り込む生活を続けていた。かつては休日になれば、子どもたちと三人で公園へ行ったり、デパートへ買い物に出かけたりしていたが、今はどこへ行くにも必ず神宮寺家の誰かが同行しなければ外出を許可されない。私を守ろうとする優しさは痛いほど感じているが、自由に出掛けることも出来ない生活に息苦しさが溜まっていくのを感じていた。―――玄関から子どもたちの「ただいま」という声が聞こえたかと思うと、絵を描くことが何よりも大好きな碧が、すぐにランドセルを開けて一枚のチラシを私に渡してきた。「ねえ、ママ? 今日ね、学校で動物園のチラシが配られたの。ライオンの赤ちゃんが生まれて今だけ見られるんだって。次のお休みの日に行きたいよ! お友達は、みんなで絵を描いてコンテストに応募するんだって。だから私もお写真いっぱい撮って、かっこいいライオンの絵を書きたいの!お願い、動物園連れて行って!」
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452.動物園②

華side翌日、茶道教室のレッスンが終わり、お片付けをしながら生徒さんたちが談笑していると、昨日碧が話していた動物園の話題がふいに上がった。「そういえば、この前、お付き合いのある方から動物園の招待チケットを数枚いただいたのだけれど、どなたか行かれる方はいらっしゃらないかしら? せっかくいただいたけれど、うちはもう子供も大きくなってしまって。有効期限もまだ二か月あるから、どなたか使ってくださる方がいたら嬉しいのだけれど……」「動物園……」私が思わず小さく呟いた声を、生徒であるご婦人は聞き逃さなかった。ぱあっと表情を明るくして弾んだ声で私に話しかけてくる。「あら! 華先生、ご興味がおありですか? 先生が行ってくださるのなら、私としてもチケットが無駄にならずに済みますので、次回のレッスンの時にでも持ってまいりますわ」「ありがとうございます。でも、まだ本当に行けるか分からないので……せっかくいただいておきながら、結局行けずじまいになってしまったら申し訳なくて」「いいんですよ、そんなに気になさらないで。私も主人もあちこち声を掛けたのだけど、最近は皆さんお忙しいのか、なかなか『行く』とおっしゃる方がいなくて困っていたんです。もし、他の方とご都合がつかないのでしたら、北條先生と一緒に……なんて言ったら、押しつけがましいかしら? でも、少しでも興味がおありな
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453.迷子

華side「ママ、朝だよ!起きてー!早く起きないと遅刻しちゃうよ!」土曜日の朝、アラームが鳴る時間よりも先に、子どもたちの元気な声が寝室に響き渡った。いつもの起床時間よりも一時間も早く起きた子どもたちは、興奮気味に私の布団を剥ぎ取り、代わる代わる肩を叩き起こす。枕元の時計に目をやると、まだ朝の五時になったばかりだ。「……おはよう。慶、碧。まだいつもより早い時間よ。今日はお休みなんだから、もう少しゆっくりでも大丈夫なのに」眠い目をこすりながら体を起こすと、パジャマ姿の二人は既にリュックサックを背負わんばかりの勢いで部屋を飛び回っている。子どもたちがこれほどまでに私を急かすのは、今日が待ちに待った動物園へ行く日だからだ。結局、私は北條先生の厚意に甘えることに決めた。父には北條先生が同行するという条件で、ようやく許可を取り付けたのだ。子どもたちにも、瑛斗はお仕事で行けないけれど、かわりに以前美味しいお菓子をくれた北條先生が誘ってくれたことを話すと、二人は顔を見合わせて「行きたい!」と即答した。「慶、碧。北條先生に会ったら、ちゃんと自分からご挨拶をするのよ。それから、お菓子のお礼ももう一度言うこと。いいわね?」「分かってるよ。お礼言って、ライオンの赤ちゃんの話もするんだ!」自信満々に答える子どもたちと一緒にリビングで先生の到着を待っていると
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454.誘拐?

華side「慶? 慶、どこなの! 慶!」周りを見渡しながら混みを縫って走る。けれど、どこを見ても慶の小さな背中は見当たらない。頭の中には、一人で心細くなって泣きじゃくる慶の姿、そして、誰かに無理やり連れ去られる何より恐ろしい慶の残像が浮かんでは消えた。(慶に、もしものことがあったら……私が、私が無理矢理お出かけすることを決めたから……)慶は近くにいる。どこかで動物を見ることに夢中になって、はぐれてしまっただけ。そう自分に言い聞かせるが、「誘拐」という悍ましい言葉が私の脳裏にべったりと張り付いて離れない。恐怖で足がすくみそうになるのを必死に堪え、震える膝に力を込めて、私は園内の展示コーナーを端から端まで駆けずり回った。「ママー、慶くん、いないね。どこに行ったんだろう。迷子になっちゃったのかな」一緒に走る碧も、小さな顔を不安げに歪ませて必死に周囲を探してくれている。慶のキッズスマホに何度も電話を掛けた。けれど、虚しく響くコール音ばかりが続き、一向に繋がらない。そして五度目の試みで、ついに繋がったと思った瞬間、「電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため……」という無機質なアナウンスに切り替わってしまった。(電源が切られた? もしかして、誰かが着信に気づいて意図的に切ったの&
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456.対向車線

瑛斗side三村の退任が決まり、すべてが終わるはずだった役員会議は、三村が経営権の乗っ取りを宣言するという予想だにしない展開に発展し、激しい火花を散らして幕を閉じた。 その不敵な笑みが脳裏に焼き付いて離れない。その週の土曜日、本来は休日だが、俺は焦燥感に突き動かされるように一人で会社へと車を走らせていた。(このまま三村のペースに飲み込まれてたまるか。奴の背後にある資金源、株の出所、すべてを洗い出す必要がある……)信号が赤に変わり、ブレーキを緩やかに踏み込む。目の前の横断歩道を一組の親子連れが歩き始めた。手を引かれた子どもはまだ小さくて、二歳か三歳くらいだろうか。横断歩道の三分の一ほどまで歩いたところで、急に足が止まった。疲れたのか、その子は母親に向かって両手を広げ、愛らしく抱っこをせがんでいる。母親は信号が点滅し始めないか不安そうに周囲を見渡し、困った顔をしながらも子どもをひょいと抱きかかえた。そして、停車している俺に向かって「すみません」と言うかのように小さく頭を下げ、小走りで渡り切っていく。俺も自然と口角が上がり、穏やかな気持ちでその親子の後ろ姿を見守っていた。(子どもが小さいと大変だよな……。慶と碧にも、あんな時期があったんだよな。あの頃、華は一人で二人の面倒を見ていたのか。子どもが一人なら抱っこできるが、二人同時にせがまれたら、どうしていたんだろう……)
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457.手土産

華side火曜日、茶道教室の引き戸を開けると準備を整えていた北條先生とちょうど鉢合わせした。「先生、おはようございます。先日はお騒がせしてしまって……本当にありがとうございました」「いいんですよ。私の方こそとても楽しかったです」先生はいつものように穏やかに微笑んでいる。土曜日、慶が迷子になるというハプニングはあったものの、先生の冷静な対応のおかげで最後は笑顔で一日を終えることができたのだ。あのパニックの中、先生が隣にいてくれなかったら、私はきっと楽しい思い出として消化することなどできなかっただろう。「二人とも本当に楽しかったみたいで、家についたらすぐに寝てしまいました。よほど遊び尽くしたんでしょうね」思い出し笑いをする私に、先生も「それは良かった」と目を細める。「そうだ、華さん。今日のレッスンの後、少しお時間はありますか? 真珠さんが顔を出す予定なんです。もしよければ、一緒にお話ししませんか?」「真珠さんが……。はい、ぜひ。楽しみにしています」お稽古が終わり、他の生徒さんを見送って片付けを手伝っていると玄関から弾むような明るい声が響いた。 現れた真珠さんは、紺色のスーツに黒のローヒールというビジネススタイルで、手にはずっしりと重そうな大きな紙袋が握られている。「華さん! 会えてよかった。今日、どうしてもお渡ししたいものがあったんです」真珠さんは紙袋をガサゴソと探り、中から可愛らしいパンダのイラストが描かれた華やかな小箱を取り出した。「これ、うちの新商品なんです! 今度、芦屋のチェーン店で期間限定の抹茶フェアをやることになって、うちの茶葉を使ったコラボ商品が採用されたんです。これはそのレジ横で販売するお土産用のお菓子。発売前に、ぜひ華さんたちに食べてほしくて」「すごい、おめでとうございます! 真珠さんの頑張りが実を結んだんですね」「ありがとうございます! それと、こっちは大人用。関西限定で出している『抹茶のテリーヌ』です。かなり濃厚でほろ苦いのですが、よかったら召し上がってください」真珠さんの屈託のない笑顔に甘えて、ありがたく頂戴することにした。 彼女が靴を脱ぐために手に持っていた紙袋を靴箱の脇に静かに置いた。中には他にもいくつかのお菓子が詰まっており、その一つに手書きの付箋が貼られていた。『一条 相原様』(……相原さん? 空くんの
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458.手土産②

瑛斗side「今進めている新規事業のスケジュールなんだけれど、現場サイドで少しばかり調整に手間取っていて、資材の調達が遅延しそうなんだ。内容自体は大きなトラブルにはならないと思うけれど、全体として一か月くらい後ろにずれこむかもしれない……って、瑛斗、ちゃんと聞いてる?」空の冷静な指摘に、俺はハッとして小さく肩を揺らした。 「あ、ああ……悪い。聞いてたよ。現場で問題が起きてスケジュールが一か月ほど遅れるんだろ?」「そうだよ。聞いていたならいいけれど……」話の内容は断片的に脳の端っこを掠めていたが、正直なところ、集中力は皆無に等しかった。俺の頭の中は、あの土曜日の朝に見た北條湊と華の姿で埋め尽くされていたのだ。(くそ、仕事に集中しなきゃいけないって分かってるのに……。なんで二人が飲み物をストローで回し飲みしていた光景が出てくるんだよ)空の少しばかり呆れた、射抜くような視線が俺に向けられている。俺は逃げるように手元の決裁書類を顔の高さまで持ち上げ、空との間に物理的に薄い薄い紙一枚の壁を作った。そんな時。空のスーツのポケットからスマホのバイブレーション音が響いた。 ぼんやりしている俺を見て、空は一旦話を止め、スマホを取り出した。
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459.本性

空side当日、突然のアポイント。 ビジネスの話で渡したいものがあるなら事前に予定を聞くだろう。ましてや彼女の拠点は京都。わざわざ遠方から足を運ぶというのに、こちらの予定が埋まっていれば空振りに終わる。あまりにも無鉄砲で非効率な行動だ。(長谷部さんの渡したいものって、一体なんだろう……)長谷部真珠。取引先の創立パーティーで出会った彼女の第一印象は、失礼ながら「どこにでもいる、一生懸命な若手営業員」だった。 小柄で、小さな手に、可憐な小さな口。指先は白く繊細で、どこか幼さを残しながらも濡れたような黒目がちの大きな瞳は小動物のような愛くるしさを放っている。容姿で言えば、「美人」の部類に入るだろう。きっと、その外見に惹かれる男性も多いはずだ。しかし、僕は外見だけで人を判断したりはしない。 見た目の美しさが、そのまま心や人間性としての美しさとなるとは限らない。それどころか、美貌という武装を整え、その内側で冷酷な計算を巡らせ、人を破滅へと追いやる醜悪な精神を隠し持つ者もいる。そう、かつて神宮寺家の令嬢として持て囃され、一条の副社長の座を簒奪し、己の欲望のためにすべてを食い散らかした神宮寺玲がその典型だった。(玲さんが、神宮寺会長と血縁関係がなく実際は全くの無関係の人間だったとは。母親の櫻子さんが、別の男性との間に作った子を会長の子だと偽り、神宮寺の家系図に潜り込ませた……。玲さんは、自分の「本当の
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460.新しい扉

華side動物園の一件以来、子どもたちは家の中でも北條先生の名前を口にすることが驚くほど増えていった。 小学生になった慶と蒼は、親しみがありつつもどこか敬意を払い、周囲の大人を「さん」をつけて呼ぶことが定着している。その小さな、けれど確実な成長の証が、親として何とも微笑ましかった。(湊「さん」、か……。瑛斗のことは、まるで年の離れた友達かのように呼び捨てで甘えていたけれど。先生に対しては、心を開いて懐きながらも、どこか言葉遣いや態度に気をつけている節があるのよね)北條先生も、あの日を折に、子どもたちのことを気にかけてくれるようになった。子ども向けのイベントがあれば教えてくれたり、お菓子があれば「慶くんと蒼ちゃんに」と、わざわざ小分けにして持たせてくれたりする。 そうした細やかな心遣いが積み重なり、先生と子どもたちの距離は、自然に、そして急速に縮まっていった。「ねえママ、今日も湊さんのところに行ってきたの? ママ、湊さんと一緒にお仕事してるの?」家に帰ると、学校の宿題を終えた慶が尋ねてきた。「ええ、そうよ。先生の茶道教室のお手伝いをしているの。ママも先生の隣で、生徒さんたちに教えたりしているのよ」「ママも先生なんだ。かっこいいね! それ、僕たちにもできる?」「いいな、私もやりたい! 」
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