(父の代わりに神宮寺家の専属医として仕え、どれほどの歳月が流れただろうかーー)幼い頃に父を亡くした私は、父の背中を追い医師になることを決意した。もっとも、先祖代々医者の家系だったので、それ以外の選択肢はなかった。しかし、父のことを心から尊敬していた私は、一般的な内科医の道だけでなく繊細な命と向き合う産婦人科医としての道も選んだ。父が亡くなったあの時、神宮寺家との間に生じた言葉にはできないわだかまりは、私の心に深く刻まれていた。神宮寺家に仕えたばかりの頃、華はまだ高校生だった。目を見張るような美少女だったが、家柄や年頃なのか、男性への免疫が低いようだった。訪問時に私が笑顔で挨拶をすると、華は顔を赤らめ視線を逸らし恥ずかしそうに言葉を返してくる。しかし、何度か訪問して会話を交わすようになるといつからか華は手作りのお菓子をプレゼントしてくれるようになった。「三上先生、もしよかったら少しですが……。」そう言ってラッピングが施された可愛らしいカップケーキをもらった。最初はたまたまかと思ったが、頻繁に受け取るようになり、もしかしたら、という微かな期待が胸に芽生え始めた。(もしかしたら、私に恋心を抱いているのではないか。)
Last Updated : 2025-07-24 Read more