All Chapters of 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー: Chapter 61 - Chapter 70

86 Chapters

61.玲の支配と瑛斗の苦悩

「はあ?今月の営業利益、全然達成してないじゃない。何やってたの、あんたたち!」一条グループの副社長室に、玲の甲高い声が響き渡った。デスクの向こうで報告書を抱えた男性社員が怯えたように肩をすくめる。「す、すみません……予算が昨年比の二倍に上がったことと、貿易問題で輸入が遅れている関係で商品が届かなくて……売上を上げようにも納品できるものがない状態でして……」「そこをどうにかするのがあなたたちの仕事でしょ。商品がこないなら、あるものの単価引き上げるとか、完了前の案件の単価見直しとか、何としても達成させなさいよ!」玲は苛立ちを隠さず高いヒールで床を苛立たしげに鳴らした。艶やかな髪が揺れ、その美貌の裏に潜む冷酷さが顕わになる。「こちらも値上げはしたのですが、過剰な値上げは今後の取引にも影響しますし……」「甘ったれたこと言ってるんじゃないわよ、この役立たずが!」玲の罵声が再び部屋に響き渡る。男性社員は、ただ頭を下げるしかなかった。華がいなくなってからすでに2年の月日が流れていた。玲は瑛斗と結婚し一条家の人間となっていた。そして、その影響力は瑛斗の会社にまで及んでいた。玲は今や一条グループの副社長の座についていたのだ。 
last updateLast Updated : 2025-07-14
Read more

62.玲の豹変と深まる疑惑

玲は、俺の両親の前で「華が裏切り別の男の子どもを身ごもっていたこと」「本当は一条家の跡取りを望んでいなかったこと」と言いふらした。そして、「自分はそんなことは絶対にしない。瑛斗さんの幸せだけを考える」と涙ながらに語り聞かせていた。その言葉に、両親は華への不信感を決定的なものにしていったようだった。俺自身も玲の言葉を信じていたからこそ、華を深く傷つけ追い出してしまった。 しかし、華がいなくなり玲が俺の会社の副社長に就任してからすぐに行った空の左遷が未だに忘れられない。空とはビジネスパートナーでもあり親友だった。公私混同と言われれば否定は出来ないが、場をわきまえビジネスとプライベートは分けていた。そして、そんなお互いを知った仲だからこそ立場を気にせず意見を言い合えた。今の会社の成長は空の力もあってこそだった。「瑛斗、会社は利益を追求するものだから、利益確保が難しいなら社員を切り捨てましょう。」「待ってくれ。人件費は確かに割合は高いが人材があってこそだ。社員がいなくなったら売上自体があがらなくなる。それに削る部分は他にもたくさんあるはずだ。」「それなら社員はこのままにして派遣を切ればいい。中間手数料が無駄だわ。」そんなことも平然と言うようになっていた。玲の横暴な発言が繰り返されるたび、俺は次第に彼女の人間性を疑い始めた。俺の知っている玲は、さりげない気遣いの出来て相手のことを思いやる子だったはずだ。それが今では利益のためなら社員を切
last updateLast Updated : 2025-07-14
Read more

63.離れていく社員と玲の陰湿な攻撃

そしてしばらくしてから社員たちが大量離職していった。特に女性社員の離職率が高く、中には子どもが産まれ家を建てたばかりで金銭的にも働き盛りの女性や管理職になったばかりの30-40代の男性社員が会社を離れていくこともあった。次々に辞めていくのには理由があると思い社内全体を注意深く見るようにした。秘書に頼み、離職していく社員の部門や年齢・性別などを一覧でまとめてもらうと離職者にある傾向があることが分かった。それは普段の業務で副社長、つまり玲と直接かかわることのある部門の責任者や担当者が多いということだった。内部調査の結果、玲は気に入らない社員には陰湿な嫌がらせを行い些細なミスでも厳しく叱責した。玲の横暴な振る舞いに多くの社員が疲弊している状態だった。すぐに玲を呼び出して状況の確認を行った。「玲、ここ数年社内の離職率が急に上がったんだが何か君に心当たりはないか?」「さあ、数年でしょ。どんなにいい会社でも人は辞めていくわ。それぞれの事情があるし、私が関与できることではないもの。」「家庭の事情ならそうだな。しかし、俺は今、退職理由が社内の人間関係やコンプライアンスの可能性はないか?と聞いている」「何が言いたいって言うの?私は副社長よ。社員の相談窓口じゃない。」「そうか、それならもういい。ただ君は『女性が活躍する社会』とホワイトカラーのPRのために副社長にさせてくれと父に言ったはずだ。だが、最近は女性の離職率が多くてね。個人的な事情は介入できないが、それでは父との約束を果たせないどころか逆の結果になっていることが気になっただけだ」「……ッ!分かったわ。注意してみてみる」そう言うと、玲は明らかに不機嫌そうにカツカツとヒールの音を立てて乱暴に扉をしめて出ていってしまった。
last updateLast Updated : 2025-07-15
Read more

65.玲の過去ー妬みと劣等感の根源ー

一条グループの副社長室で、私は冷たいデスクに手を置き、ふと幼い頃の記憶をたどった。華の姿がいつも私の視界の先にあった。生まれたときから姉の影に隠れて生きてきた。周りの大人たちは常に私を一段下に見ているようだった。「玲様は旦那様と奥様の実子でも、華様がいるから、華様が先よね」「華様の産みの母が今もご健在なら、この結婚はなかったことでしょうし……」そんな言葉が幼い私の耳にも届いた。「神宮寺家の次女」「後妻の子ども」。そう呼ばれるたびに心に冷たい棘が刺さるようだった。父と母の実子なのに私はいつも二番手。一番最初に来るのは、私より数年先に生まれてきた姉の華だった。もし華の性格が悪ければ、どれほど楽だっただろう。私が彼女を嫌う明確な理由があれば、この感情をどこかにぶつけることができた。しかし、華は私に対していつも優しく接していた。その優しさが、私から憎む場所や人物を奪い、私を苦しめた。「玲ちゃん、私の持っている色の方が好きなの?じゃあ、私のと交換しようか」「玲ちゃんが食べたいなら私のあげるよ」華は、自分のものを私に与えることに何の躊躇もなかった。周りの大人た
last updateLast Updated : 2025-07-16
Read more

66.華の初恋、玲の想い

高校に入学してしばらく経った頃、姉は学校が終わるとお菓子作りのために厨房に顔を出すようになった。最初は友人に配るためかと思ったが、その頻度は異常に多かった。そして、ある日、姉が海外サッカーの記事を熱心に探しているのを見かけ、私はすべてを察した。お菓子は、誰か好きな異性へのプレゼントだったのだ。今まで姉は望むものをすべて手に入れてきた。生まれながらにして、何一つ不自由なく周囲からチヤホヤされ、何でも思い通りになる人生を送ってきた姉。その姉が、今、何かを強く望んでいる。(姉の願いを私の手で奪ってやりたい。思い通りにならない悲しみや苦しさを味わってほしい。)そんな強い衝動に駆られた。ある日の放課後、私は姉の後をつけた。お菓子を持った姉は、周囲を気にしながらある教室へと入っていった。そして、教室の隅にあるロッカーにプレゼントを入れるとまた周りを気にして慌ただしく去っていった。(……今時ロッカーにプレゼントなんて何、古くさいことしているんだか。こんなまわりくどいことしていないで、直接渡せばいいのに)そう思いながら、私はロッカーの場所と相手の名前を覚えた。「一条 瑛斗」
last updateLast Updated : 2025-07-16
Read more

67.玲と瑛斗 学生時代の秘密

神宮寺家と一条家は、高校入学後に互いの存在を知り、パーティーなどで親交を深めていたため瑛斗とは顔見知りだった。学園の王子様の瑛斗と顔見知りなら、なおさら隠れてプレゼントなんかしなくても直接渡せばいい。その方がアピールできるのに、と私は疑問で仕方がなかった。姉の監視を続けているうちに、私はあるパターンに気づいた。毎週木曜日だけ、瑛斗は放課後にもう一度教室に戻ってくる。翌週の木曜日、華がロッカーにプレゼントを入れて去ってから、私は瑛斗が教室に戻ってくるのを待ち伏せした。ドアを開けて入ってきた瑛斗が、ロッカーの前で立ち止まる。「誰だ?そこは俺のロッカーだけど」声をかけられ、私はわざと恥ずかしがるような表情でゆっくりと振り向いた。手には、先程姉が作ったクッキーをロッカーから取り出しギュッと握りしめていた。今、ロッカーに入れようとしていたところを見つかった、という状況を装ったのだ。「……玲?」瑛斗は、驚いたように目を見開いた。「……いつもロッカーにプレゼントいれてくれていたのって、玲だったんだな。ありがとう」瑛斗は優しい笑顔で言った。ロッカーに入れていたプレゼントを瑛斗が毎週受け取っていたことを確信した。「プレゼント、嬉し
last updateLast Updated : 2025-07-17
Read more

68.玲、帰国の真相

姉の初恋で私が手に入れた瑛斗は、確かに顔は良かったかもしれない。しかし、私にはただの世間知らずで気楽なお坊ちゃまにしか見えなかった。もちろん世間から見れば、私も令嬢として優雅な暮らしをしているように見えているだろう。だが、姉と私の間には見えない境界線が引かれているような気がしていた。私はもっと野望と欲望の塊のような向上心を持った男性が好きだった。それでも、私が瑛斗と付き合うことを姉に報告した時、驚きと悲しそうな顔を見たら優越感でいっぱいになった。姉が望んでいた未来を自分が手に入れたことが嬉しくて仕方がなかった。しかし、付き合い始めてすぐに瑛斗という男に興味を持てず退屈になった。彼は平凡で私を満たすような刺激がなかった。どうせ高校を卒業したら瑛斗と姉は離れ離れになる。姉は、高校時代に親同士が親交を深め、いくらでも瑛斗に想いを伝えるチャンスがあったのになぜかそれをしなかった。そんな姉が、離れ離れになってから瑛斗を追いかけるようなことはしないだろう。姉が瑛斗を追わなくなったら私も瑛斗と一緒にいても意味がない。「瑛斗が大学に行ったら、今までのように逢えなくなるから」そう適当な理由をつけて私は瑛斗に別れを告げた。高校生活は、姉の初恋を奪うという目的のためだけに費やされたつまらないものだった。私は、姉が
last updateLast Updated : 2025-07-17
Read more

69.副社長・玲の脅迫

この日もまた、玲の甲高い声が響き渡る副社長室で俺は静かに耐えていた。華がいなくなって2年、玲は名実ともに一条家の人間となり、そして一条グループの副社長の座に収まっていた。しかし、彼女の存在は会社に暗い影を落としていた。「あなた部長なんだからどうにかしなさいよ。高い給料もらっておいて何やっているのよ」「為替の影響で利益率が下がった?そんなのどこの会社も一緒でしょ。予算は予算なんだからそれを何とかして達成させなさいよ。」玲の言葉は常に一方的で具体性がなく、時には無茶苦茶な要望をしていた。罵倒してただ結果を求め社員を追い詰めるだけだ。かつて一条グループが誇っていた活気は失われ、社員たちの顔からは生気が消えつつあった。会社の業績は下降線を辿り、特に玲が直接関わる部門では社員の離職率が異常に高まっていた。「社員の離職が多いのは玲のせいではないのか?玲と関わりのある部門の社員の離職率だけが著しく上昇している」俺は、これ以上、社員たちの疲弊を見て見ぬふりはできず玲に問い詰めた。玲の横暴な振る舞いは、明らかに会社の信頼を損ねていた。しかし、玲は一瞬にして表情を変えた。その美貌の裏に潜む冷酷さが顕わになる。「何?私が何をしたって言うの?証拠でもあるの?それに、私にそんなこと言っていいのかしら?」玲は嘲笑うように口角を上げた。その完璧な笑顔の裏に、底知れぬ冷酷さが宿っていることに
last updateLast Updated : 2025-07-18
Read more

70.縛られる瑛斗、華への未練

自分の身と一条家の名誉、そしてこれ以上両親に迷惑をかけたくないという思いから、俺は玲に従うしかなかった。玲が作り上げた「健気な妹」という虚像は一条家の中で絶対的なものになっていた。俺は、玲の思惑通りに動かざるを得ない状況に陥っていた。まるで、金色の鎖に繋がれた鳥のように自由を奪われていた。華と過ごした日々は、現在の玲との生活とは全く異なっていた。華はいつも穏やかで、俺の心を安らかにする存在だった。彼女の隣にいると心が満たされ安心できた。玲との結婚は、一条家のため、会社のため、そして何より、玲の言葉を信じて華を疑ってしまった自分自身のために選んだ道だったはずだ。あの時、俺が華を信じず玲の言葉に流されたことが全ての間違いだった。俺の心は満たされることはなかった。むしろ、玲の支配が強まるにつれて大きな虚無感が広がるばかりだった。俺は、自分でも気づかないうちに華の存在を求めていた。華が去った日から俺の心にはぽっかりと穴が空いていた。華の温かさ、優しさ、そして何より、俺を無条件に信じてくれたあの眼差し。玲がその穴を埋めようとすればするほど、玲ではない「何か」を、あるいは「誰か」を無意識に探し求めていた。それは、玲の言葉に惑わされ、自ら手放してしまった、あの穏やかな日々、そして華の存在そのものだった。俺の心には華への拭いきれない未練と、この状況を打開したいという微かな願望が燻り続けていた。(このまま玲の言いなりになって一生を終えるのか……。)その問いが深く心を締め付けていた。このままでは一条グループも、そして俺自身も取り返しのつ
last updateLast Updated : 2025-07-18
Read more
PREV
1
...
456789
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status