彼はスーツケースから鎮痛剤を取り出し、南の部屋へ向かった。ドアはすぐに開いた。南だと思ったが、顔を出したのは彼女のアシスタントだった。「山本副社長」部屋に入ると、南が無表情で鎮痛剤を飲んでいるところが見えた。どうやらアシスタントが既に薬を用意していたらしい。南は賢に気づくと、淡々と言った。「すぐ治まるから」賢は手に持っていた薬をぎゅっと握りしめ、ズボンのポケットにしまった。南のそばには、彼女の面倒を見られる人間が足りている。しかし、特別な事情があるときだけ、彼女は賢を頼ってくる。そのことを賢はよくわかっていた。だからこそ、彼女の役に立てる瞬間を、彼は何よりも大切に思っていた。本当なら今日こそ、彼女の役に立てたはずだった。だが、楓の一件で手間を食らってしまった。結局、その鎮痛剤の瓶は渡せずじまいだった。賢の気分は沈んでいった。南を案じ、世話をしたい。けれど、その機会もなければ、そうする立場もない。今の彼には、帰る気などさらさら起きなかった。彼は眉をひそめた。「その症状、もう随分長いんだろう。病院で診てもらったほうがいい」薬を届ければすぐ帰るつもりだったアシスタントも、副社長が来たことで、そっとその場を離れた。南はまだ辛そうだった。力なくソファに身を預け、首を傾げたまま、それでも手にしたスマホで仕事の内容を確認している。暇になると不安になる彩乃とは違い、南は違っていた。彼女にとって生活とは仕事であり、仕事とは生活そのものだ。純粋に仕事を楽しんでいるのであって、何かの感情から逃れるために無理やり自分を忙しくさせているわけではない。彼女が仕事に打ち込むことは、すなわち彼女の人生を生きることそのものだ。鉄のような女だ。 南は、自らの命を削ってでも人生の深みを求める、そういう人間なのだ。だが当の南は気にも留めていない。「ただの生理不調で、よくあることよ。大袈裟に騒がないで」賢は眉をひそめた。自分の言葉に重みなど一つもないことは、彼自身が一番よく知っていた。彼は自分用に水をコップに注ぐと、ソファの端に腰を下ろし、押し黙った。南は彼を気に留めることなく、自分の仕事に没頭している。同じ空間にいながら互いに各々のことをする。それこそが、二人の息が合っている証だ。二十四時間、相手
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