洵は、気が狂いそうだった。月子は、隼人を外のテラスに連れて行った。テラスにもソファがあり、今日は日差しが暖かく、そよ風が吹いていた。テラスの先には最上階ならではのプールがあった。プールは使われておらず、水が入っているかどうかも分からなかったが、周囲には美しい緑が生い茂り、ソファに座っているとまるで森の中にいるようだった。都会の喧騒を忘れられる、静かな空間だった。二人は広いソファに座って話をしていた。テラスで話せば、中の洵には聞こえない。「洵は納得しないだろう」と隼人が切り出した。「納得しなくても、納得させるしかありません」月子は、先ほど天音を脅すために隼人の名前を出せたのは、二人の協力関係があったからこそだった。そうでなければ、あんな風に気軽に利用できなかっただろう。そういう協力関係だからこそ、颯太の件でも、何の迷いもなく隼人に助けを求められたのだから。月子の断固とした態度に、隼人は驚いた。もっと洵の考えを気にすると思っていたのだ。「もうすぐおじいさんの誕生日で、あなたの母が来ます。一緒に住んでいないと、すぐにバレてしまいますよ」月子は言った。「もちろん、普段は隣同士でいればいいけど、あなたの母が来るときだけ、私の家に泊まっていなければなりません。それに、私の部屋にはあなたの私物が置いてある必要があります。今みたいに、恋人同士の生活感が全くないのはどう考えてもおかしいでしょう」隼人は、月子の真意を疑っていた。しかし、月子は真剣そのもので、少しも動揺していなかった。隼人は「……ああ」とだけ答えた。隼人がそれ以上何も言わないので、月子は洵のせいで機嫌を損ねているのかと思い、自ら提案した。「鷹司社長、あなたは恋愛経験がないから分からないでしょうけど、私は経験があります。洵が帰ったら、一緒に準備を始めましょう」隼人は何も言わずにいた。一週間前には抱き合ったり、手をつないだりもしたのに。月子は、まるで何もなかったかのように振る舞っていた。隼人は、自分が考えすぎなのではないか、と疑い始めた。隼人はK市の美しいスカイラインを見上げながら、それとなく探りを入れた。「洵はあんなに俺を警戒している。お前も、彼の影響を受けて俺に気を許していないんじゃないか?独身の男女が一緒に住むのは、何かと不便だろう」月
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