All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 361 - Chapter 370

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第361話

そう思いながら、天音は数歩前に出た。桜は彼女を引き止めた。「何よ」天音は言った。「やめておいた方がいいよ。この前、郊外でもこてんぱにやられちゃったじゃない」桜は言った。本当は、月子と天音の仲が悪く、向かい合えば月子を不機嫌にさせるだけだということは分かっていたからだ。この前のことを持ち出され、天音の顔色はさらに悪くなった。彼女は元々気が短く、負けず嫌いだったため、桜の言葉はかえって彼女の怒りに火をつけた。「あの時は、彼女のことをよく知らなかったから、悔しい思いをしたのよ!もう一度チャンスがあれば、あんなふうにやられっぱなしにはならないから!」そして、鼻で笑って言った。「あなたもそんなんで怯むなよ!」今までだってこんな悔しい思いはしたことないんだから、結局最後には相手が謝罪することになるんだし。この前、ファッションウィークでショーを見に行った時、つけ上がってきたアイドルだって、結局は、彼女に謝罪したじゃないか。天音をこれほどまでに悔しがらせたのは、月子が初めてだった。「彼女の隣に男がいるのが見えないの?」天音は、月子が兄と離婚したことは知っていたけど、それでも、月子が他の男と一緒にいるのを見ると、なぜか、気に食わなかった。それは実に奇妙な気分だ。実際、天音はずっと、月子は兄にふさわしくないと思っていた。離婚したんだから、兄にとっていいことだと思っていたはずだ。なのに、離婚したばかりで、月子はもう他の男と親しくしているのを見ると、あんまりにも展開が早すぎたせいか、天音は受け入れられず、なぜか嫌な気分だった。理不尽なのは分かっている。だけど、天音はどうしても納得がいかなかった。だから、彼女ははっきりさせたいと、どうしても様子を見ておかないと気が済まなかった。そうしないと、気掛かりで、多分一晩中眠れなくなるだろう。ついでに、兄から頼まれたことも済ませておきたかったし。桜は、天音がいつも気まぐれで、これ以上説得しても無駄だと悟った。……月子はずっと月に一度、やすらぎの郷を訪れるようにしてきた。前回はまだ離婚届を受け取っておらず、気持ちの整理がついていなかった。しかし、今は手続きも済み、吹っ切れたので、心境も違っていた。やっぱり、時間さえあれば、どんなに辛いことも乗り越えられるのだ。洵も一緒なので、
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第362話

月子は特に驚かなかった。祖母は以前も彼女のことを間違えていたからだ。「いつK市に戻ってきたの?」祖母は世間話を始めた。「戻ってきたのなら、もう出て行っちゃだめよ。あんな遠いところに嫁に行って、何かあったら、私も何もしてあげられないじゃないの」そう言うと、祖母は言葉を止めた。彼女はいつもこうだ。少し話すと忘れてしまい、また思い出しては編み物を続ける。しかし、月子と洵の顔色は冴えなかった。かつて、両親は仕事の都合でJ市へ引っ越した。月子と洵はK市に残った……そして、事件は起きた。祖母はそう言ったきり、後のことには触れず、孫たちの異様な雰囲気にも気づかずにいた。祖母の言葉に影響され、月子も洵も口を閉ざしたままだった。月子は時々洵に苛立つこともあったが、弟がいて良かったと思うこともあった。多くのことを、洵だけが共感してくれたからだ。祖母の言葉は、ほんのちょっとした出来事だった。その後、月子は祖母の傍らに座り、編み物をする彼女を見守っていた。洵はスマホで仕事関係の連絡をしていた。静かなひと時に、洵も騒ぎ立てることはしなかった。それはほのぼのとした、悪くない時間だった。祖母は一つのことを長く続けることができない。しばらくすると、急に編み物が嫌になり、腹を立ててコップの水を月子の手にこぼし、トイレに行きたいと言い出した。月子はヘルパーを呼んだ。洵は月子の汚れた手を見て、自分がここで祖母を見ておくから、外の洗面所で洗うように言った。月子は洗面所に行き、蛇口をひねると、手を洗った。ちょうどその時、天音が現れた。「月子!」その声を聞いて、月子は眉をひそめた。振り返ると、天音が相変わらず高慢な態度で、そこにいた。桜も彼女の後ろに付いていた。月子は桜を一瞥すると、桜はバツが悪そうに目をそらした。月子は視線を戻し、無表情に天音を見た。彼女は口をつぐんだまま、何も言わなかった。天音は何か言おうとしたが、兄から離婚のことは外に出さないように言われていたのを思い出し、桜に外に出るように言った。桜が出て行った後、天音は言った。「あなたと兄が離婚したことを聞いたよ」「それで?」月子は冷淡に聞き返し、彼女を気にも留めなかった。天音は歯を食いしばった。以前は、月子は彼女に会うと、いつも周
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第363話

「フン、とぼけてんじゃないわよ!兄より優秀な男の人なんて、この世に存在しないんだから!」静真の条件は確かに群を抜いているが、彼より優れた人がいないわけでもない。月子は虚勢を張っているだけだ。天音は彼女とこれ以上言い争うのも面倒になり、単刀直入に尋ねた。「さっき一緒にいた男の人って誰なの?」月子は言葉に詰まった。「あんなに兄にベッタリだったのに、あっさり離婚するなんて。正直に言いなさい!急いで兄と離婚したのは、他に男の人がいたからでしょ!」月子は絶句した。「離婚してそんなに経ってないのに、もう他の男と一緒にいるなんて!恥ずかしくないの!」月子は、天音が急に怒り出した理由をやっと理解した。だけど、あんまりにもくだらなくて呆れかえっていた。「天音、そんなデマを流して、あなたは静真に恥をかかせたいの?それなら、彼もさぞかし有難いと思うだろうね」彼女はさらに問い返した。「今すぐ静真に告げ口したら?私、もっとたくさんの男の人と会っているんだけど」月子の表情は真剣そのものだった。天音は、月子にからかわれていることが分かり、酷く不愉快な気分になった。以前は、ちょっと何か言うだけで、月子を傷つけることができたのに。今は何を言っても、月子はまるで動じない。本当に腹立たしい。月子は手も洗ったし、これ以上天音を相手にするつもりはないから、そのまま出て行った。天音は言った。「まだ話し終わってないんだけど……」月子はそんなくだらないこと最後まで聞くわけないだろ?と思った。出て行くと、ちょうど暗い顔をした洵に鉢合わせた。「どうして出て来たんだ?」「おばさんが来たから、もう居たくなかった」洵は月子に尋ねた。「一緒に帰るのか?」二人が話していると、天音は慌てて追いかけてきて、ふと疑っていた男の人を見て、彼女は立ち止まった。洵も、月子の後ろからついてくる天音に気づいた。洵は以前は月子のことなど気にしたこともなく、天音のことも知らなかった。彼はただ、無意識に月子を嘲笑った。「なんだ友達か?結構友達多いんだな」洵は、月子がこんなにも友達がいたことに少し驚いていた。天音は洵を睨みつけた。「あなたは誰?」その高飛車な口調に、洵はイラっとした。「あなたには関係ないだろ」月子に冷たい態度を取られたばかりの天音は
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第364話

洵の毒舌は月子でさえ時々我慢できないんだから、短気の天音はならなおさら耐えられなかった。普段彼女の周りにいる人たちは皆、お世辞ばかりしか言わないのだ。それもあって、突然突っかかれた天音はカチンときた。そして低い声で威嚇するように言った。「私に何かしたら、警察に突き出すわよ」洵は冷たく笑った。「ご自由に」天音は拳を握りしめた。洵の無関心な態度に、さらに怒りがこみ上げてきた。そして、月子の腕を掴み、怒鳴り散らした。「兄と結婚してこんなに経つのに、一度もあなたの家族に会ったことがないと思ってたら、人前に出せるような人たちじゃなかったんだね!恥を晒すのが怖いんでしょ!」天音は軽蔑するように言った。「月子、あなたは離婚していて、おまけに厄介者の弟まで抱えてる分際なんだから、これから兄より優秀な男性どころか、普通の男だって見向きもしないわよ!」入江家の人間と初めて顔を合わせた洵は、険しい表情で月子に尋ねた。「お前はこんな目に遭ってたのか?よく三年も耐えられたな!」「彼女が馬鹿だからだよ!兄はあんなに優秀なのよ。入江家に嫁いだからには私たちに尽くすのが当たり前でしょ!」天音は、いつも人の気持ちを考えずに暴言を吐くから、その言葉は本当に聞くに堪えないのだ。洵は女を殴ったりしない。ただ、口は悪いだけだ。しかし、この時ばかりは、天音を思いっきり懲らしめてやりたいと思った。天音は罵り終えても、洵が手を出さないのを見て、さらに得意になった。「へっ、口だけかよ。本当に殴るかと思ったのに!」彼女は挑発するように言った。「さあ、どうぞ!思いっきりビンタして!その代わり、私だってボディーガードにあなたをボコボコにさせられるんだから!やれるもんならやってみなさいよ!」桜は、天音の外での態度はいつものことなので、驚きもしなかった。彼女のボディーガードは特殊部隊出身で、訓練を受けていないととても歯が立たないのだ。だから、いつも彼女のボディーガードとその際立つ家柄に圧力を感じて、逆らおうとする人はほとんどいないのだ。洵は目を細め、冷ややかな視線で天音を見て、そして鼻で笑った。「そんなにすごいのか?」「当たり前じゃない」天音は、相変わらず強気な態度だった。「痛いのは平気なのか?俺のビンタに耐えられるのか?」洵は、威圧感のある視線で天音を見据え、
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第365話

洵に軽蔑されたことは、月子に平手打ちを食らわされたよりも屈辱的なことだった。月子だけでも憎たらしいのに、もっと腹が立つ洵までいるなんて。天音は我慢できずに、月子に大声で叫んだ。「あなたって本当にムカつく!もう!大嫌いよ!」「これ以上騒ぐなら、お兄さんに電話するわよ」月子は平然と言った。「もう一人のお兄さんにっね」天音は目を大きく見開いた。「そんなこと……あなたにできるわけないでしょ」月子は、天音の目の前で隼人に電話をかけ始めた。天音は慌ててスマホを奪おうとした。「だめ!月子!電話しちゃだめ!」月子は手を振ってスマホを隠しながら、真剣な表情になった。「じゃあ、なんで急に喧嘩を売りに来たの?」天音は、月子がスマホを握っている手を睨みつけながら、息を深く吸い込んだ。「あなたが男を連れまわしてるからよ」「私が男を何人連れまわそうと、あなたに関係ある?」月子は冷たく笑った。「静真と私は離婚したのよ、知ってるでしょ?」天音は反省するどころか、こう言った。「気に入らないのよ!文句ある?はっきりさせに来ただけじゃない?」月子は呆れ、冷淡な表情になった。「あなたが常識知らずで、まともに話せない人間だってことは分かってる。だけど、次にまた喧嘩を売りに来たら、容赦しないわよ。鷹司社長のところに連れて行くから」「常識知らずなのは今に始まったことじゃないし、それが何か?あなたにだって原因があるでしょ。自分のことを棚に上げて、人のことをとやかく言うのはやめて。それに、隼人を持ち出してくるなんて、卑怯者!文句あるなら、直接かかってきなさいよ!」月子は、天音がまるで子供のように思えた。「この前にボコボコにされたこと、忘れたの?弟は女に手をあげないけど、私は容赦なくやるわよ」「私の警備員が……」「言ったでしょ、鷹司社長のところに連れて行くって。もし彼に知られてもいいなら、ボディーガードを使ったらいいよ」月子は、最も穏やかな口調で、天音にとって最も脅威となる言葉を口にした。天音は隼人のことを考えると恐怖で顔が青ざめた。一体なぜ、月子と会うたびに、いつも自分が負けてしまうのか分からなかった。しかし、天音はすぐに理由を理解した。それは弱点があるからだ。以前、月子の弱点は兄だったが、今はもうそうじゃないから、形勢が逆転したんだ。月子
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第366話

興奮した天音は思わずスマホを奪おうとした。月子は尋ねた。「写真だけじゃ信憑性が薄いなら、動画はどう。信じる気になった?」「……信じる!信じる!」現に、サンの正体を知る者は誰もいないのだから。天音は憧れのサンのプライベートな一面を知りたくて仕方がなかった。何を着て、何を食べているのか、全部知って、同じものを買いたいと思っていた。「もうこれ以上、私にちょっかい出さないでくれる?」天音は自分の誕生日パーティーにサンを招待できたら、友達がどれだけ驚くかを想像して、このチャンスを逃したくなかった。「もうしない!約束する!」月子は月子、洵は洵だ。月子には手を出さないからといって、洵にちょっかいを出さないとは限らない。天音は、こんなに図々しく自分に挑んでくる人は久しぶりだったので、洵をこてんぱんにして、思い知らしめたかった。自分を怒らせるとどうなるかを知らしめるんだ。洵を自分の前にひざまずかせて、「女王様」と呼ばせてやるんだから。そう思っていると、突然「天音」と、霞の声が横から聞こえてきた。そして、霞は月子をちらっと見てから、何気なく視線を外し、天音のそばまで来て、彼女を自分の方に引き寄せた。「何を約束してるのの?彼女にいじめられたの?」天音はまだ状況を把握できていなかった。霞は彼女の頭を撫でた。「あなたがこんなに大きくなるまで、いじめられたのを見たことがないわね。静真に言って、きっと何とかしてもうらおう」それはまるで本当の姉のように、天音を心配していた様子だった。天音は心の中で、「そんなこと、分かってるわよ」と思った。でも、誕生日パーティーを盛大にやるために、月子にお願いしないといけないのだ。もちろん、天音は霞のことが大好きだった。少なくとも今のところは、月子より霞の方がずっと好きだった。彼女は霞の腕に抱きつきながら、「いじめられてないさ!」と言い、そして尋ねた。「どうしてここにいるの?」「理恵おばさんと一緒に来たの」天音は知らない人の名前を聞いても、特に興味を示さなかった。「ちょっと用事があるから、もう行くわね」これ以上ここにいても退屈だし、洵にどうやって仕返しをするか、考えないといけないのだ。そう言って、天音は桜の手を引いて出て行った。桜は月子に挨拶をしようと思ったが、天音があまりにも歩
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第367話

最初は月子も悔しかったけど、もう吹っ切れた。これ以上、このことで自分を煮詰まるのはやめようと思った。祖母は、自分と理恵との繋がり。夏目家の人間とは一切関係ない。霞が現れたことで、月子は理恵との大切な繋がりが侵害されたように感じた。「二度と夏目家の人間を連れて来ないで」月子は再び念を押した。理恵は尋ねた。「どうしてなの?霞のことで焼きもちでも焼いているのか?静真のときだって、こんな風に……」月子は急に声を落とし、「これは、静真とは全く関係ない!」と言った。理恵は黙り込んだ。「約束してくれないなら、おばあさんを別の場所に移す」月子が本気だと悟った理恵は、「ふざけないで。彼女のことは、あなたが決めることじゃない!」と声を荒げた。「それならおじさんを呼び戻す!」理恵は頭に血が上った。「私が一体何をしたっていうのよ!」月子は言った。「これは二宮家だけの問題よ!あなたが夏目家で、霞だろうと鳴だろうと、どれだけ良くしていようと、私は干渉しないし、関与しない。でも、あなたの母は私の祖母なのよ。これは夏目家とは関係ないことだから」月子が何を気にしているのか、すぐに理解した理恵は、同時に月子から微かな独占欲を感じ、一瞬戸惑った。「月子、もしかして私のことが……」月子は理恵の言葉を遮り、「いいや、もう思ってない」と言った。何度も失望させられたから、もう期待していない。「この件は約束して。そうでなければおじさんを呼び戻すわよ」理恵は怒りで震えた。そして、仕方なく頷いた。月子は言った。「もう一回言うわね、約束を守らなかったら、おじさんを呼び戻すから!」理恵は不機嫌そうに、「約束したんだから、嘘をつくわけないでしょ!」と言った。「そうしてくれると助かる」ここまで言っても、月子は歩み寄ろうとしない。理恵は本当に腹が立った。「あなたと洵は、あなたたちのお母さんと同じね。一度決めたら、頑なに曲げようとしないんだから、そのうち痛い目を見るに決まってる……」「どんな目に遭おうと、私が自分で決めたこと。心配しないで」理恵は絶句した。彼女は額を手で押さえた。本当に腹立たしい。月子は今、洵と同じ気持ちだった。理恵とこれ以上一緒にいたくない。そう言うと、すぐにその場を立ち去ろうとした。ドアを開けると、そこに霞がい
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第368話

霞はしばらくの間、茫然としていたが、月子が何を言ったのかようやく理解した。そして、信じられないといった表情で、彼女を見ながら笑った。こんな厚かましい人間は見たことがなかった。霞は少し考えてから、こう言った。「本当にそれでいいの?この先、洵に頼って生きていくつもり?今回の会社の危機だって、鷹司さんが助けてくれただけでしょ。この先も、ずっとうまくいくとは思えないわね。それに、洵は、あまり頼りになるようには見えないが……」「実際、私の弟は、あなたの弟よりずっと頼りになるけどね」霞は、弟である鳴の愚かさを思い出し、冷たく言った。「月子、私はあなたのことを思って言っているのよ。せっかくの忠告も聞けないなんて、本当に見栄っ張りね。もう静真と別れてるんだから、苦労するに決まってる……」月子は答えた。「あなたが私を助けるのは、本当に親切心から?それとも、私の失敗を見たいから?自分の心の中がどうなのか、よく分かっているんじゃないの?気持ち悪いから、もっともらしいことを言うのはやめて」鳴が洵の会社を買収しようとした動機と同じように、口では助けるふりをして、実際は彼女を踏みつけにしようとしているだけなのだ。図星を指された霞だったが、少しも慌てる様子はなかった。むしろ、月子を笑い者のように見ていた。月子は続けた。「もうあなたとは話すことはないわ。だけど、静真と三年間結婚生活を送ったことで、一つだけ確かなことが分かった。静真は私にとってプラスになる存在じゃなかった。離婚して、ようやく私の人生の開けたのよ」そして皮肉っぽく言った。「あなたたちの将来がうまくいくことを祈っているわね」そう言うと、月子は踵を返し、歩き去った。静真に対して、彼女は既に何の感情も抱いていなかった。静真は、彼女にとっては既に過去の人だった。振り返るのも嫌な存在だった。霞は、月子が去っていく後ろ姿を見送っていた。自分よりも少し背の高い月子は、背筋をピンと伸ばしていた。その姿は、「孤高」という言葉がぴったりだった。月子は、離婚したばかりの女とは思えないほどしっかりとしていた。やつれた様子もなく、むしろ怒りを含んだ表情は、彼女を近寄りがたい雰囲気にしていた。しかし、霞は、そんな月子の態度に呆れ、思わず笑ってしまいそうになった。月子の学歴では、自分のアシスタ
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第369話

もううまく処理できたんだから、それでいい。洵はさっきタクシーでここに来たんだ。今、月子の車の中で、運転席に座っていた。月子は車の正面を回り込んで助手席に乗り込み、振り返ると、彼の様子がどこかおかしいかった。「どうしたの?」洵は性格も雰囲気もクールで、束縛されるのが嫌いなタイプだ。大抵の場合、自分のペースで自由に振る舞っていて、近寄りがたいオーラを放っている。こういうタイプは、あまり人を寄せ付けないのだ。しかし今、洵は明らかに何かを気にしている様子で、珍しく素直に見えた。「話したくないなら、そんな顔をするなよ。心配になるじゃない」「心配?」洵はムッとした顔で彼女を見た。「お前はとっくに俺のことなんて弟だと思ってないだろ?もう隠す気もないんだな」「私が妹が欲しかったって、どうして分かるのよ?」「月子、お前……」「ちゃんと話して。でないと、車から降りてもらうわよ」月子は洵への対処法を心得ていた。彼の言うことを、全うに相手にしてはだめだ。とにかく、彼のペースに乗せられてはいけない。洵は月子に反抗するように言った。「降りるつもりなら、運転席に座ってないだろ?今からお前の家に行くから、斎藤さんに夕食の準備をさせておけよ」洵は元々、月子の家に行くつもりはなかった。しかし、天音が言った言葉が心に引っかかっていた。天音の、人を人とも思わないような傲慢で横柄な態度は、月子が入江家でどんなひどい目に遭っていたかを物語っていた。しかし以前は、洵が一方的に月子と関わりたくなかったため、月子を気にかけることもなく、何も知らなかったのだ。もしもっと早く知っていたら、洵は必ず月子を入江家から連れ出していた。月子が何と言おうと、家に閉じ込めてても、入江家には行かせなかっただろう。洵は今、後悔し、罪悪感に苛まれていた。自分がもっと早く大人になっていればよかった。もう少し気遣あげれば、月子はあんなに苦労しなかっただろう。少なくとも、3年間も無駄にすることはなかった。それに、月子は離婚したばかりなのに、自分は尻拭いをさせている。ああ、天音が言ったことは正しい。結局、自分ってただの厄介者だな。洵は考えれば考えるほど辛くなり、胸を矢で射抜かれたように痛めた。本当に大切な人のことを思うと、傷つけられたくな
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第370話

洵は元々、隼人と気が合わなかった。おまけに姉の家に突然男が現れたことで、まるで自分の縄張りを侵略された気分だった。洵は苛立ちを抑えきれず、まくし立てた。「家のパスワード教えただろ!月子、よくも彼にあんな大事なことを教えたな!いつでもこの家に出入りできるってことか?どういうつもりだ?軽々しく他人に家のパスワードを渡すなんて!」月子はそこで試すまでもない、と思った。洵は到底受け入れられない。仮に嘘の恋愛だと言っても、納得できるはずがない。「斎藤さんに頼んで開けてもらったの。今日は一緒にご飯食べるのよ」キッチンでは椿が忙しそうに立ち働いていて、挨拶に来る暇もなかった。しかし、それを聞いても洵は顔をしかめていた。「ダメだ、彼を帰らせろ!顔も見たくない!」こちらの騒ぎを聞きつけた隼人は、席を立って近づいてきた。洵は黙り込み、隼人を睨みつけた。そして、隼人が近くに来ると、我慢できずに言った。「あなたは金持ちだろ?家政婦くらい雇えるじゃない?週末に俺の家に上がり込んで、図々しいにも程がある!」洵は「俺の家」という言葉に特に力を込めた。隼人とはっきりと一線を引くためだ。隼人は口を開く間もなく酷い言葉を浴びせられたが、洵と同じ土俵に立つ気はなかった。ましてや、彼は将来の義理の弟なのだから。「月子から、あなたが来るって聞いたんでね。ついでに会社の近況を聞こうと思って。俺への業務報告ってところかな」隼人は大株主だ。会社の状況を尋ねる権利はある。洵は即座に月子の方を向いて問い詰めた。「車の中で、彼と連絡取ってたのか?」裏切り者。洵はついさっきまで、離婚したばかりの姉はきっと、強い意志を持って独身主義を貫くと思っていたのだ。しかし、今は分からなくなっていた。むしろ状況は悪化している。姉は隼人に特別な好意を持っているように見える。もし隼人が行き過ぎた要求をしたら、月子はそれに従ってしまうのではないか?月子は絶句した。隼人は月子の代わりに答えた。「いや、俺の方から彼女に仕事のことで連絡して、ついでにあなたが来ることを聞いたんだ」そう言うと、隼人は月子の方を一瞥した。月子はすぐに隼人の言いたいことが分かった。まさに、阿吽の呼吸だ。「ええ、ついでにね」洵はどうも腑に落ちなかった。だが否定をする、証拠もないから、警戒し
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