一樹の心の奥底には、陰湿で利己的な考えが渦巻いていた。もし自分が月子を手に入れられないのなら、隼人にも静真にも渡したくない。静真は長居することなく、オフィスを出て行った。一樹はその後を追いかけながら尋ねた。「どこへ行くんだ?」「オークションだ」「どんなオークションなんだ?」「美術品だよ」一樹自身は、教養をひけらかすような趣味に興味があったが、静真がいつからこんな趣味を持つようになったのか、不思議だった。……オークション会場の特別個室。賢はソファに座り、向かいの寡黙な男を見て不思議に思った。「なんで急にこんなところに来たんだ?」隼人はスマホをいじりながら、冷淡な表情で黙り込んでいて、話す気はなさそうだった。賢は隼人に会った瞬間、彼の様子がおかしいことに気づいていた。隼人が月子に気があることは知っていた。隼人は月子だけでなく、彼女の弟にも優しくしていた。隼人はスキャンダルもなく真面目で、人の面倒見もいい。少し冷たいところもあるが、それは軽薄ではないということだ。本気になれば、とことん真剣になるタイプだ。それに、隼人にとって月子は特別な存在だった。もし彼が月子に告白すれば、成功する確率はかなり高いだろう。この沈んだ様子から見て、どうやら振られたらしい。賢は月子を心から尊敬していた。彼女は本当に変わっている。出会ったばかりの頃から、物怖じせずに堂々としていた。賢は妹の楓を思い出した。楓は隼人と付き合いたくて仕方ないだろう。しかし、隼人は楓のことなど見向きもしない。運命とは不思議なもので、誰にも予測できない。賢は忍ほど騒がしくはない。隼人が話したくないなら、彼も黙っていた。それは一緒にいても気詰まりを感じない、心地よい空気だった。隼人は、月子とのラインのトーク画面をどれくらい見ていただろうか。背景には、一緒に買い物に行った時に撮った月子の写真が設定されていた。写真を撮った時、マスクを外すのを忘れていた。次は、ちゃんと顔を出した写真を撮ろうと思っていた。しかし、今はそんなことを考えている余裕はなかった。隼人が家を出てから二、三日経つのに、月子からは一度も連絡が来なかった。一緒に暮らして、恋人同士のふりもしている。もう親密な関係だと言えるだろう。だけど、何も変わっていないようにも感じていた
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