All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 491 - Chapter 500

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第491話

とにかく、洵は今二人が付き合っていることを確信していた。ただ、それを知らされていないことに腹が立ったから、月子本人に認めさせたかっただけだ。結局、これも洵自身のわがままに過ぎないのだ。「クソ!」二人が付き合っている事実改めて確信した洵は思わず声を荒げた。「鷹司の行動力、なんて素早いんだ!」今度は月子が驚いて聞き返した。「行動力って、どういうこと?」洵は月子を見ながら、歯を食いしばった。「やっぱり鷹司はお前に何も言ってなかったんだな!だから言ったんだ、あの男は腹黒いやつだって!」「彼があなたに何か言ったの?」月子は洵の反応を不思議がった。「もう隠さないよ。鷹司と初めて会った時、あいつは俺にお前と結婚したいって言ってきたんだ!1ヶ月くらい前のことだ。自信満々に言ってきて、自分がお前に一番ふさわしい男だってさも当然のように言ってきたんだ。俺の承認を得たいとか何とか言って、最初から下心丸出しだ!姉さん、鷹司はずっとお前のこと狙ってたんだぞ。じゃないかったら、なんで俺に投資なんかするんだよ。本当に俺のゲームが気に入ったからか?まあ、確かに俺のゲームは最高だけどさ、でも、なんで60億円も投資してくれるんだ?それは、俺に気に入られようとしてるからに決まってるだろ!しかも、最初に陽介に話を持って行ったのも、俺が断るのを恐れたからなんだ。あいつの魂胆は見え見えだ!」洵は隼人の行動を思い返し、推測した。「あいつがお前の家の隣に引っ越してきたのだって、怪しいもんだ。いつでも気軽にご飯を食べに来れるように、お前と接触する機会を作るためだろ?そんなの絶対、お前を落とすためにわざと仕組んだに違いないさ!お前もお前だ、たった1ヶ月で、そんないとも簡単に落とされるなんて!それに、付き合ってるなら、なんで俺に言わなかったんだよ!まさか、あいつと付き合うことが恥ずかしくて、言えなかったのか?俺を警戒しているのかよ!」隼人の目に、隠しきれない好意があることに気づいてから、月子は彼が本当に演技にのめり込んでいるのか、それとも友情以上の感情を持っているのか考え始めていた。しかし、隼人は冷淡な男で、恋愛経験もなかったため、月子は自分の考えすぎではないかと不安に思っていた。だが、昨夜、彼がこっそりと自分の顔を撫で、額に優しくキスをしたこと、そして自分が寝たふり
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第492話

洵は一気に流れ込んできた情報の多さに頭が真っ白になった。月子と隼人が付き合っていることは予想していた。でも、まさか隼人が静真の実の兄だなんて……実の兄だって。洵はあまりの衝撃に、どんな顔をして月子を見たらいいのか分からなかった。一体、どうしてこんなドラマみたいな展開になるんだ?静真と別れたと思ったら、今度はその兄と付き合うなんて、月子はどういうつもりなんだ?月子は洵が落ち着くのを待った。隼人との約束は2年間。まだ始まったばかりで、1年以上も残っている。今、洵に本当のことを言ったら、きっと隼人のことを受け入れられずに大騒ぎするだろう。そうすれば、せっかくの協力関係も壊れてしまう。洵に真実を話したところで面倒を起こすだけで、何も良いことはない。だから、今起きていること以外はもう少し様子を見てから話そうと月子は思った。とはいえ、そこまで考えると、月子の頭の中も混乱してきた。一体いつから隼人が自分に好意を抱いていたのか、全く分からなかったのだ。この1、2ヶ月は、離婚のことばかり考えていて、頭の中は静真のことでいっぱいだった。静真から解放された後、ようやく自分の仕事や将来のことを考え始められるようになって、新しい人たちと出会い、新しい友達もできた。隼人との関係も、最初は上司と秘書というだけだった。ただ、最近になって様子がおかしいと感じるようになった。でも、それまでは、隼人が自分のことを好きだなんて、全く思ってもみなかった。だが、今になって考えてみればもし自分が離婚した直後、隼人が洵に気持ちを打ち明けていたとしたら、そもそも恋人同士のふりをするていう提案も隼人の策略だったんじゃないか、何か裏があるんじゃないかと月子は疑わざるを得なかった。しかし、月子は頭の回転が速かった。そもそもこの協力関係を始めたのも静真が暴走して自分を拉致したことがきっかけで、自分は彼とよりを戻したくないし、だけど権力でも静真に対抗できないから、同じように権力を持つ隼人と手を組んだのだ。結局それが一番手っ取り早い解決策だったから。もちろん、月子は一人で戦うこともできた。でも、そうすれば、ろくでもない人間と関わるために、膨大な時間と労力を費やすことになる。彼女の時間と人生は貴重だ。近道があるのに、わざわざ遠回りをするのは愚かだ。もちろん、隼人は彼女に
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第493話

洵の言葉に、月子の思考は中断された。洵はさっきよりも興奮した様子で言った。「お前ら付き合うなんて、絶対に許さないから!」月子は自然に尋ねた。「どうして?」「どうしてって、そんなの決まってるだろ!鷹司は静真の実の兄だぞ。お前はせっかく離婚したんだから、あいつらとは縁を切るべきなのに、よりによって次の相手が静真の兄だなんて……一度痛い目に遭ったのに、まだ懲りてないのか?本当にバカじゃないのか!」「言ったでしょ。二人は全く別人格だし、鷹司社長は鷹司家の人間で、入江家とは関係ないから」「確かに、異母兄弟とはいえ、違いはある、だけど血の繋がりはあることに変わりはない!静真みたいな性格の奴に、ろくなもんがいるはずないだろ。天音を見れば分かる。それに鷹司は静真よりもっと怖い。陰険だし、最初から下心があって近づいてきたからな。それでもあいつが本当にお前に惚れてるとでも思うのか?何か裏があるんじゃないのか?」ますます興奮していく洵を見て、月子は一度話を止めた。「ちょっと待って。彼らの話はさておき、あなたの話をしよう。鷹司社長に敵意むき出しだけど、もしかして彼が問題なんじゃなくて、私が誰かと付き合うこと自体が気に食わないんじゃないの?つまり、私がまた傷つくのが怖いんでしょ?」月子の穏やかな口調に、洵は少し冷静さを取り戻したものの、表情は依然として険しかった。「当たり前だろ!静真と結婚した結果が、俺の心配が杞憂じゃなかったってことを証明してる!お前は恋に落ちると周りが見えなくなる。今は落ち着いてるみたいだけど、また同じことを繰り返したらどうするんだ?そうなったら傷つくのはお前だから!」月子はさらに尋ねた。「じゃあ、どんな人と付き合うべき?」「言ったところで聞くのかよ!今だって、あの腹黒い男と付き合ってるじゃないか!」洵は怒り狂って、声を荒げた。「お前はいつだって俺の言うことなんか聞いてくれないんだから!」「ええ、確かに聞いてないわね」月子は相変わらず冷静だった。「お前……」それを聞いて洵は言葉に詰まった。「じゃあ、教えてよ。あなたから見て、私はどんな男と付き合うべきなの?」洵はいつの間にか月子のペースに乗せられてしまい、彼女を睨みつけた。「強いて言うなら、阿部さんみたいなイケメン俳優の方がまだマシだ」月子は意外そうな顔をした。「なん
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第494話

洵は恋愛について全くいいところを見いだせないでいた。彼は恋愛に全く興味がないのだ。女なんかよりゲームのほうがよっぽど面白いし、邪魔されたくないから、誰かと付き合うなんて考えられないのだ。しかし、月子はなぜか恋愛体質で、何度も男に騙されてきた。しかも、いつも同じようなタイプにだ。洵は悟った。姉は静真や隼人みたいなタイプが好きなんだ。だからどれだけのイケメンが近づいて来ようと、彼女は全く興味が湧かないのだ。洵は苛立ちを抑えきれず、コーヒーを一気に飲み干した。そして、さらに月子を睨みつけた。あたかも、月子と隼人を別れさせないと気が済まないようだった。月子もコーヒーを一口飲むと、ぴんと張った背筋を緩め、ソファにゆったりと身を沈めた。「付き合ったばかりなんだから別れるわけないでしょ、」月子は隼人との今後の付き合い方をどうすればいいのか、まだ決めていなかったので、とりあえず洵にはそう答えるしかなかった。案の定、洵は納得しなかった。「どうしても、付き合わなきゃいけないんだよ?」洵がなぜ怒っているのか分かったので、月子は彼の気持ちを落ち着かせようと言った。「そもそも私たちが付き合うかどうかの問題じゃないでしょ。たとえ今私が鷹司社長と別れたとしても、また別の男と付き合うかもしれないじゃない?あなたはその度、こんな風に反対をするの?結局結局、根本的な問題を解決しないといけないじゃない」そして月子は洵を見ながら続けた。「あなたの心配はもうわかったから、これから誰と付き合おうと、絶対に自分が損するようなことはしない。もう夢中になって、理性を失うような恋はしないって約束する」月子は、はっきりと、力強い声で言った。目は真剣そのもので、少しも揺るがなかった。洵は、厳格ながらも愛情深い母親を思い出した。月子の言葉には、なぜか人を信じさせる力があった。そして、彼女の明確な返答によって、洵の心の中に渦巻いていた苛立ちはかなり収まった。彼女は洵の気持ちを真剣に受け止め、感情的になっている彼に影響されることなく、怒ることもなく、辛抱強く話を聞き、自分の考えを伝えてくれたのだ。最初から最後まで彼の気持ちを無視することは一切なかった。洵には、月子の言葉が、適当に言っているのではなく、本気の約束だということが分かった。つまり、これ以上反対するのではなく、彼
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第495話

洵は言った。「まず、うちと鷹司家とでは財力が違う。それに、お前が鷹司の秘書をしていた時、彼に媚びへつらっていただけじゃないか!」洵は頑固な性格だから、たとえ相手が理恵であっても、気に入らなければ、無視するくらいだから、誰かに媚びへつらうのが一番許せなかったんだ。実の姉が、血の繋がりのない男に媚びへつらい、へりくだっているなんて……そう思うだけで、彼は居ても立っても居られなくなってしまうのだ。洵は歯を食いしばって言った。「なんでだよ!お前は誰にも媚びる必要なんてないのに、なんで鷹司にへこへこするんだよ?彼だって、ただの男だ!男なんて腐るほどいるし、どいつもこいつも、ろくなもんじゃない!お前はもっと自由に、自分らしく生きれるはずなんだ。むしろ他人に敬ってもらうべき存在なのだ!だから、俺はお前が損をすると思うんだ。財力も違うし、二人の関係も対等じゃない。対等ならまだしも、そうじゃないだろ!もしお前が鷹司に食ってかかれるくらいの実力があるなら、俺もこんなに心配しないんだけど」月子は落ち着いて説明した。「もし彼が家柄のことで私を見下したら、たとえどんなに優秀でも、どんなに魅力的でも、一緒にならない。人を尊重できない人間とは、付き合えないわ。それに、私は鷹司社長に媚びているわけじゃない。確かに当時は彼の秘書だった。上司と部下では立場が違うのは事実。だけど、それは媚びへつらいではなく、彼への敬意だった。彼のご機嫌取りをしていたわけじゃない。だから、それは仕方ないことだと思う。もちろん、退職するまでは立場が違っていたのは認める。私は彼より下の立場だった。でも、今はもう退職を予定しているし、恋人関係を抜きにしても、友達としてどちらかへりくだっていたら関係は長続きしない。だから、私は友達として対等な関係で彼と付き合っていくし、もう一方的に媚びて、盲目に尽くすつもりはない。それは、人生経験の差があるからかもしれないけど、洵、私が何歳か年上だからもあって、私が思う良好な関係っていうのは、どちらかが強いとか弱いとかじゃなくて、お互いを尊重し、相手の気持ちを考えることだと思う。だから、あなたの心配しているように、私が彼より強い立場じゃないからといって損をするっていうのは違うと思う。もしかしたら、あなたはまだ恋愛を単純に考えすぎているんじゃない?だから
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第496話

月子は、自分と隼人は既に付き合っているという前提で、話を進めていた。だけど、今の自分と隼人の関係に、妙に当てはまる気がした。隼人が自分に好意を抱いている。これはまさに、自分の考えと一致する人間に出会えたということじゃないか?ただ、月子が考えるべき問題は、その好意を受け入れるかどうか、それだけなのだ。今回は月子も本音をぶつけた。洵も色々と話してくれた。もちろん、洵が心を開いてくれたのは、月子が色々な質問をしてうまく導いたからこそ。でなければ彼のあの捻くれた性格じゃ、自分からは何も話さないだろう。一通り説明を終えた月子は、立ち上がり、洵の前に歩み寄った。姉の言葉に、洵は呆然としていた。自分の考えの浅はかさに気づき、月子の話から、これまでの人生で経験したことのない貴重な学びを得たのだった。ふと、陽介に対して、少し冷たく当たりすぎていたんじゃないかと思い始めた……彼はよく陽介の気持ちを無視して、自分のやりたいように行動していたから。それに、この3年間、月子とは連絡も取っていなかった。彼女が離婚してから、少しずつ関係は修復されてきたとはいえ、ここまで深く話し合ったことはなかった。今、月子の本心を聞いて、洵は彼女のことをより深く理解した。例えば、月子は自分が思っていた以上に強い人間で、彼女の考え方も理解できた。誤解も解けて、さらに心が近づいた気がした。洵は唇を固く結んだ。こんな風に分かり合えたのは、月子が辛抱強く、怒らずに、自分のひどい態度に付き合ってくれたおかげだ……くそっ。自分はなんてバカなんだ。何もかも、うまくやれてない。月子が洵の前に来て、優しい目で彼を見た。すると洵は途端にまた心を見透かされて、何か言われるんじゃないかと思った。本当はこんな感傷的なのは苦手だけど、だけど月子言うなら、洵も聞いてあげたい気持ちになった……だが、次の瞬間、月子は彼の頭を思い切り叩いた。さらに殴られると思った洵は、慌てて飛び上がり、「何するんだよ!」と叫んだ。「恋愛経験ゼロのあなたに、私の恋愛についてとやかく言われたくないんだけど。よくそんな偉そうなことが言えるわね」月子は少し意地悪くからかいながら言った。「心配してくれるのは嬉しいけど、心配しすぎるのは私を見下しているのと同じよ。私がダメな人間で、簡単に騙されるとでも思
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第497話

そう言われると月子も後ろめたそうだった。「分かった。あなたに黙っていたことは謝るよ。今後何か大きな決断をする時は、真っ先にあなたに知らせる。心配かけないようにする」洵は月子の言葉を聞いて嬉しかった。胸のモヤモヤも少し晴れた。すくなくとも今機嫌が直ったようだった。洵は軽く微笑んだ。彼が笑っていないときは、少し大人びてクールに見えるが、笑うとどこかまだ少年っぽい清々しさがあって、なかなか可愛らしいのだ。「もう離してくれない?」洵は手を離さなかった。少し得意げな表情で、真面目な口調で言った。「お前ほど経験豊富じゃないけど、俺はこんなに背が高いんだ」そして、身長を比べてみせた。「ほら、お前より頭一つ分も背が高いだろ?力だって十分強い。だから、本気で喧嘩したらお前は俺に勝てない。そうだろ?俺だってお前より優れたところがあるってことくらい認めてくれよ、じゃないと俺はなんの取柄もないみたいで惨めじゃないか」洵はそう言いながら月子に目線を向けた。「姉さん、この3年間、俺は世の中に不満ばかり言って、意地になって間違った道に進んで、お前のことなんて気にも留めなかった……でも、俺は今回のことで学んだんだ。もう二度とあんな風にはならない。俺はただお前を守りたいんだ。頭では適わなくても、体でお前を守ることができる。お前が傷つかないように、幸せで楽しい人生を送れるように必ず守るから。だから、お前には好きなように、やりたいことをやってほしい。どんな時だって俺はお前の味方だから」洵が話し終わらないうちに、月子の目から涙が溢れ出した。洵を見て、月子は言った。「あなたらしくないじゃない。すごく大人になったのね」「感情が高ぶったのかもな」洵は少し照れくさそうだった。しかし、その言葉は彼の本心でもあった。「この世で俺が本当に大切に思っているのは、お前だけだ。お前は俺にとって一番大切な人だ」彼はさらに闘志を固めるように続けた。「お前のことは、しっかり見守るから」月子は泣きながら、弟の胸に飛び込んだ。大人になってからは、洵が月子とこんな風に触れ合うことは少なかった。洵は月子の肩をポンポンと叩き、ぶっきらぼうに言った。「泣くとは思わなかった」月子自身も、自分が泣くとは思っていなかった。「ま、こんな感傷的になるのもこれきりだから。本当はそういうの苦手なん
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第498話

隼人は洵に尋ねたが、月子は既に洵のことなんて頭になかった。ただ隼人のその低くて素敵な声だけが耳に入ってきて、月子は思わず黙り込んでしまった。隼人は自分に気がある。その言葉が頭の中をぐるぐる回り、なぜだが胸が悶えるように感じた。月子は無意識にスマホを握りしめた。持前の美的センスが優れていた彼女は昔から、自分の容姿には自信があった。これまで異性からの人気もそれなりに高かったが、多趣味な彼女は心を揺さぶられるような相手に出会えず、恋愛にも興味がなかったから、言い寄ってくる男たちをすべて、やんわりと断っていた。それでも諦めない男には、もっとはっきりと拒絶の意思を示してきたものだ。静真に海から助けられ、目覚めた時に彼を見た瞬間、月子は初めてときめきという感情を知った。あの時の衝撃は強烈だった。しかし、その後の3年間の結婚生活で、再びあんなに激しい胸の高鳴りを感じることはなかった。ただ静真へのときめきも、その余韻が冷めていくと、やがて何も感じなくなってしまった。これが静真に対する彼女の気持ちの変化だった。ときめきを失った月子の心は穏やかだった。入江家の人々と対峙した時でさえ、大きな動揺はなかった。しかし、昨日の夜はわざと寝たふりをした。実際、疲れていたのも事実だ。目を閉じて眠ろうとしていたが、まだ完全に眠りについていないうちに、隼人の熱い手のひらが彼女の顔に触れた。そして、彼にベッドにまで運ばれ、額にキスをされた。それを今思い出しても、胸のドキメキが止まらないのだ。その突然のキスに、抑えきれない胸の高鳴りを無視することはできなかった。だから彼女も昨夜はなかなか寝付けなかった。幸い、翌朝には落ち着きを取り戻していた。ただ、隼人が話す時、その唇を見ていると、また額が熱くなるのを感じた。自分でもどうにもコントロールできないほどだった。それでも月子は何も言わなかった。しかし、それを洵に見られてしまった。興奮した洵は、隼人がずっと前から彼女に好意を抱いていたという大きな秘密を打ち明けた。他のことならともかく、この件に関しては洵が嘘をついているとは思えない。隼人がずっと前から自分に気があるなんて、昨日のキスの時と同じくらい、全く予期していなかった。不意打ちを食らったような衝撃だった。隼人の気持ちを知
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第499話

月子は話題を変えようと、パソコンに表示されたスケジュールに目をやった。そこには彩乃と海外の技術会議に出席し、その後G市で業界の重鎮と会う内容が書かれていた。それから、間もなく撮影が始まる要の激励に訪れ、さらに、Sグループに立ち寄り、元同僚たちに別れを告げて正式に退社するとスケジュールはびっしりだった。そこで、月子は言った。「ここ数日は出張に行く予定なので、もう家には戻りません。お母さんはもう帰られましたし、鷹司社長、私のところに泊ってても構いませんし、自分の家に戻っててもいいですよ」それを聞いて、隼人はようやく口を開いた。「ああ」電話を切ると、月子はホッと息をついた。どこから来るのか分からないプレッシャーを感じていた月子は自分が何か言って、隼人を傷つけてしまわないかと、ずっと不安だった。なにせ、今の自分には、彼の気持ちに応えることなんてできないんだから。ただ唯一の救いは、隼人はまだ自分が彼の気持ちに気が付いていることを知らないでいることだ。月子は、この先、隼人とどう接すればいいのか、まだ分からなかった。自分のことを好きな男と恋人同士のふりを続けるのは、至難の業だし、その距離感もどう保てばいいのか、今はまだ、どうすればいいのか分からなかった。だから、数日間、一人で頭を冷やす必要があった。だから、仕事があって逆によかった。電話を切り、月子はまだ外していなかった結衣からもらったブレスレットをバッグにしまった。そしてふと、ある考えが浮かんだ。もし本当に隼人と付き合うことになったら、このブレスレットは本当に自分のものになるのだから、返す必要もなくなるわけだ……そう思うと月子は少し動きを止めた。ただ彼女も別に、そんなに欲深いわけじゃないのですぐに思いとどまった。……隼人が電話を切ると、賢がオフェスに入ってきた。隼人は相変わらず落ち着いた風格で、社長席に座り、仕事に取り組む姿は、彼をさらに威圧的に感じさせるのだ。親友の賢でさえも、少し気を遣わざるを得なかった。「静真が、あなたと月子さんのことを調べている。あなたたちの関係をハッキリさせようとしているようだ」賢は不思議そうに尋ねた。「なぜ、今になって調べ始めたんだ?」以前は尾行させていただけだったのに、今回は静真は本気を出しているようだ。隼人がずっと静真
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第500話

賢は呆気に取られた。静真を警戒する理由はいくらでもあったが、月子まで監視させているとは?隼人と月子が恋人の振りをしていると知っただけでも相当驚いたのに、まさか月子まで警戒するなんて。しかし、賢はそれ以上詮索せず、言われた通りに動いた。そうでなければ、隼人は月子の件を彼に任せないだろう。修也の頭では、隼人の考えなど理解できるはずもない。だから、今回の件を彼に関わることはなかった。もちろん、賢は驚きの後、すぐにこの事実を受け入れた。隼人が月子に対して示す特別な配慮は、抑えようとしても抑えきれない無意識の行動のように見えたからだ。最初からそう感じていた。もしかしたら、隼人はもっと前から月子に気があるのではないか、と彼は思った。静真に先を越されてしまったのは残念だった。今度は隼人が奪い返す番だ。静真に勝ち目はない。……一方で月子は彩乃と空港で合流したけど、特にこれまでの出来事を何も話さなかった。長時間のフライトを終え、飛行機を降り、ホテルにチェックインした。そして、月子はそこでようやく彩乃に打ち明けた。「鷹司社長は、私に気があるみたい」この件は彩乃に相談する必要があった。自分の気持ちを落ち着かせるためでもあった。「ええっ、まさか!本人に言われたの?」彩乃はすぐにこの話に飛びつき、ひっきりなしにメッセージが届くスマホを置いて、月子をじっと見つめた。目は好奇心でキラキラと輝いている。月子は鋭い視線で彩乃を見た。「知ってたの?」彩乃は正直に答えた。「静真にハメられた夜、私の家で夜食を食べたでしょ?あの時、鷹司社長が私に『どんな男が月子に相応しいと思う?』って聞いてきたの。彼はそれ以外何も言わなかったけど、だけど私はあれでピンときたの」月子は驚愕した。なるほど、隼人は洵だけでなく、彩乃にも接触していたのか。なんて腹黒い男なんだ。自分の大切な人たちを一人ずつ攻略し、しかもそれを自分の目の前でやってのけるつもりなのだ。隼人は自分には何も言わず、慎重に接しているのに、周りの人には積極的に働きかけている。目的がはっきりしていて、本当に強引な男だ。「どうして私に教えてくれなかったの?」月子は彩乃を見た。彩乃は、月子が殺気帯びた目つきの振りをしているのを殺気を無視して、ニヤニヤと笑った。「別に教える必要
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