All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 471 - Chapter 480

「離婚は二人のことですよ。私は離婚したその日に、親戚や友人に報告しました。入江家には静真から連絡してもらうつもりでしたけど、彼はずっと黙っていました。それどころか、離婚してからこの一ヶ月、ずっと私にしつこくつきまとってきていたんです。後から誤解されるのは嫌ですから、今日、皆の前ではっきりさせておきます。私と静真はもう何の関係もありません。復縁するつもりもないし、もう彼とよりを戻すこともありません。この三年間、私は静真と夫婦として過ごしてきました。それは私が選んだ道で、そこで経験したことは全て受け入れています。だから、過去のことについてはもう何も言うつもりはありません。だけど、今はもう静真とは関わりたくないんです。これからはそれぞれの道を進めばいいだけです！」今になって静真の青ざめた冷たい顔を見ても月子は何も感じることはなくなった。かつての愛情は、彼が何度も彼女から背を向ける度に、消え失せてしまっていたのだ。今、彼女が望むのは、ただ前へ進むことだけだった。「静真、本当は穏便に済ませられたはずなのに、あなたがそれを拒否して、私の意思を無視してつきまとい続けてきた。だから今日、私は皆に真実を伝えることにしたの。あなたにもまだプライドが残っているなら、自分の行動をわきまえて。なぜなら、私たちがもう離婚したという事実は変わらないから」彼女は言った。「今日はおじいさんもここにいるんだし、静真、約束して！」皆が真実を知れば、静真もしつこくつきまとうにしても、世間体を気にせざるを得なくなるだろう。もし離婚したことを誰にも知らせずにいたら、彼があんな風に頭を下げて見せたところで、結局見ているのは彼女だけなのだから、静真は面目を失うこともなかったのだ。月子の言葉を聞いて、静真は全身が硬直した。月子が離婚届を見せた後、彼は何も反応を示さなかった。まるでこの世で最も憎むべきものを見るかのように、離婚届を見つめていた。頭の中では、「離婚したという事実は変わらないから」という言葉がこだましていた。これが、月子がこんな夜遅くにここに来た本当の理由だった。彼女は復縁など考えてもいなかったのだ。正雄の誕生日で親戚一同が集まっているこの場で、自分の目の前で、皆に離婚を宣言した。その言葉の端々から、自分とはもう関わりたくないという強い意志が感じられた。

月子は正雄が彼女を守ろうとしてくれていることを知っていた。そして、彼は約束を守る人だということも分かっていた。しかし、正雄も高齢だ。この先何かあった時に、いつも頼ってばかりではいけないと思った。幸い、今日ですべてが終わった。この状況はまさに、月子にとって願ってもない結果なのだ。彼女は頷き、ぶっきらぼうに言った。「分かりました」それを聞いて静真の顔からは血の気が引いていた。しかし、祖父が前に立ちはだかり、親族一同が見守る中、彼は軽はずみな行動に出られなかった。彼はただ月子の心を取り戻したかったが、何もできないので、胸が張り裂けそうになった。正雄は優しく月子の頭を撫で、そして振り返り、天音に厳しい視線を向けた。「お前はここに残って、2週間謹慎だ」天音にとって、これ以上ない恐怖がやってきた。彼女は半日も友達と遊べないと生きていけない性格なのに、2週間の謹慎なんて、刑務所と変わらないじゃないか。彼女は必死に言い訳をした。「それ以上つべこべ言うなら、一ヶ月だ」天音はそれを聞いて途端に何も言えなくなった。ただの謹慎とはいえ、天音にとっては重い罰だった。正雄は晶と達也に視線を移し、ため息をついた。そして、冷ややかな口調で言った。「月子は過去のことは全て水に流すと言った。彼女がもう何も言わないと決めたのだ。二人とも、良い親、良い大人とはどうあるべきか、よく反省するように」達也は慌てて晶の手を引き、二人で「はい」と答えた。最後に、正雄は静真を見た。彼は静真が幼い頃から、頑固で、時に偏執的な性格であることに気づいていた。今更介入するのは遅かったが、成長した彼は家の中で最も優秀な子供になったので、正雄は安心していた。まさか、陰で月子にあんなに冷たく当たっていたとは、思いもよらなかった。そして、若い二人の感情のもつれに、老いぼれの自分が口出しできることなど、限られていると分かっていた。「この平手打ちは、お前への戒めだ。離婚した今、月子は前に進もうとしている。お前も過去に捕らわれずに、それぞれの道を歩むんだ。二度と月子に付きまとうな。分かったか？」静真が何も言わないので、正雄はさらに厳しい口調で言った。「相手を尊重することさえできないのなら、お前に入江グループの社長を務める資格があるかどうか、考え直さなければならないぞ！」そ

静真は月子が背を向けて出ていくのを見送っていた。頭の中が真っ白になり、月子の姿が見えなくなった途端、とてつもない喪失感に襲われ、胸が苦しくなり、まるで、かけがえのない何かを失ってしまったかのように。それは胸が張り裂けそうな感覚で、苦しかった。月子はなんて冷酷なんだ。彼は今すぐにでも、月子を引き戻したかった。しかし、静真は立ち尽くしたまま、追いかけることはできなかった。そこに隼人の姿が目に入り、我に返った静真は、激しい怒りに包まれた。自分と月子が離婚したからって、なんだ？隼人、取って代わろうなんてそんなこと絶対にさせないから。それに、離婚は月子の一存で決まることじゃない。そんなこと絶対に許さないから。家の外で車のエンジン音が響き、月子と隼人は既に車に乗って出て行った。天音は静真を見て尋ねた。「お兄さん、追いかけるの……」しかし、その言葉が言い終わらないうちに、静真は急に飛び出していった。あまりの速さに、誰も止めることができなかった。「お兄さん！どこに行くの！」天音は慌てて追いかけた。静真は既に車に乗り込み、月子を必ず追いかけるという強い意志が見て取れた。天音は車の前に立ちはだかり、「お兄さん、行かないで！」と叫んだ。静真は「邪魔するな！」と怒鳴った。天音は呆然とした。兄にこんなに怒鳴られたのは初めてだった。静真はエンジン音を轟かせ、天音のことなど気にせず車を走らせた。天音は恐怖を感じ、慌てて身をかわした。兄が月子を追い掛けていくのを見送るしかなかった彼女は、怒りで震えていた。今は隼人が一緒だし、月子いうことがキツイし、兄一人で行ったら、きっと太刀打ちできないだろう。今夜はもう十分恥ずかしい思いをしたのに、さらに追いかけて行って、また恥をかくつもりなの？待って、おかしい。どうして、兄は月子を追い掛けるの？離婚できて良かったんじゃないの？暗い山道を眺めながら、天音はある可能性に思い至り、愕然とした。そう思うと、もうすぐ強いられる謹慎生活のことなど、もはや頭になかった。まさか、兄は月子が好きなの？離婚したくないとか？……隼人は今夜、どうしても酒を飲まなければならなかったので、運転は月子がしていた。隼人がシートベルトを締めると、月子はエンジンをかけた。二人とも口を開こう

隼人は、心配で顔がこわばり、視線も一瞬止まった。指輪をはめてあげた後、彼は再び座席によりかかり、目を閉じた。隼人は、月子に自分の気持ちを見透かされたくなかった。実はさっき入江家で、彼はもう我慢できずに何かしたかったのだ。しかし、それでは月子を怖がらせてしまうだろう。今日、結衣が彼に聞いた、もし前から知っていたなら、どうしてもっと早く月子を奪わなかったのかと......今なら、彼ははっきりとした答えを出せる。もし3年前、彼が月子が静真と一緒にいたら苦しむと分かっていたなら、たとえその時に自分が月子を好きかどうか確信が持てなくても、彼女の意思に反してでも、迷わず彼女を連れ去っただろう。隼人は、こんな卑劣な考えを月子には知られたくなかった。今のように、月子の過去の苦しみを知った後、彼は彼女にもっと近づきたくてたまらなかった。家に帰っても、別々の部屋に戻って、まるで他人同士のように過ごしたくなかったのだ。彼は欲張りだった。だから結衣に頼んで、二人きりになれるように協力をしてもらった。そして彼は月子に寄り添いたい、彼女に拒む隙を与えさせないようにしたいのだ。月子が自分のことを好きになるまでは、こうして卑怯な真似をするしかない。月子には、後から知っても、策略を責めないでもらいたいと願うばかりだった。……静真が月子の車を追いかけたのは、本能的な行動だった。とにかく彼女を取り戻したかった。しかしすぐに月子は彼に気づき、スピードを上げて逃げようとした。静真は、月子が高速道路で急に方向を変えたのを見て、驚きと怒りで震えた。自分から逃げるために、命を捨てる気か？静真は、息も詰まるほどで、手足が冷たくなった。もし月子が目の前で死んだら、どうすればいいか分からなかった。恐怖に駆られて彼はスピードを落とし、同じ方向へハンドルを切った。月子が無事なのを確認すると、さらにアクセルを踏み込み、次のカーブを曲がった。そんな恐怖と驚きで、静真は胸が張り裂けそうだった。しかし、月子の運転技術は、想像以上にうまかった。そして、追いつけないことを悟り、彼はブレーキを踏み、路肩に車を停めた。静真の顔は暗闇に包まれ、窓の外を見ながら、深い憂鬱と諦めきれない思いに沈んでいた。月子、離婚はお前が決めることじゃな

霞自身も危うくそう思うところだった。だって、静真が自分によくしてくれるし、彼の傍には他に女性の姿もなかったからだ。しかし、自分が留学したいと言った時、彼からは引き止められることはなかった。その時、霞は今まですべては自分の思い過ごしだと気づいた。自分が特別なのは、静真にとって、他の女性友達がいなかったからだ。彼は女性に興味がなく、友達を作るのも面倒だったから、女として彼らの輪の中に入れた自分だけが特別扱いされていたのだ。そして、霞が留学すると、静真は電撃結婚をした……霞は、静真の友達になるために、長い時間をかけて努力してきた。それなのに、棚ぼたで全てを手に入れた月子に全てを奪われ、自分の努力は全て無駄になったなんて、悔しくて居た堪れなかった。それでも、霞は諦めなかった。自分が特別な存在であることを証明するため、そして自分の立場を確立するために、自分の専門分野でさらに努力を重ね、サンに習ってカーレースも始めた。彼女は、周りの人から羨望の眼差しを向けられるのが好きだった。しかし、どんな脚光も、静真から向けられる目線には敵わなかった。霞は、自分が彼のことを好きかどうか分からなかった。しかし、最初からずっと、静真が自分の欲望の対象であることは自覚していた。彼についていけば、欲しいものは全て簡単に手に入る。何が何でも、静真を諦めるつもりはなかった。ついに、今その時が来たのだ。霞は頷いた。「好き」それを聞いて静真は唇を歪めた。それは笑っているようで、そうでもないようにも見えた。「俺は、素直な女が好きだ。俺の言うことを聞けるか？」霞は、彼が何をしようとしているのか分からなかったが、「はい」と答えた。静真は言った。「霞、お前が素直で、ずっと俺のことを好きでいてくれるなら、俺もお前によくしてやるから」霞は、彼に捨てられたティッシュペーパーをチラッと見て、大胆になることを決意した。そして急に立ち上がり、静真の前に歩み寄り、彼の膝の上に座った。「どうして止めたの？」静真は、月子のことを考えていた。月子のことを考えると、何もかもやる気が失せてしまう。それに、自分が一体何をしているのかも分からなかった。気分が悪く、何かを発散したかったが、霞と関係を持つ気は全くなれず、心の中を深い闇に覆われているようだった。静真は霞の腰を押