All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 501 - Chapter 510

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第501話

月子は納得して言った。「わかった」仕方ない。今の彼女は隼人の気持ちにどう向き合えばいいか、分からなかった。……今回の海外出張で、月子と彩乃は最先端のAI技術展を見学し、SYテクノロジーにエンジニアを一人引き抜くことに成功した。充実した仕事を終えた後、二人はG市へと向かった。前回、月子がG市に来たのは隼人と一緒で、色々あった。今回は何も起こらなかった。全てが順調だった。仕事が終わった後、G市の同行者から遊びに誘われ、時間もあったので、月子と彩乃は断らずに、きらびやかな娯楽施設へと向かった。そこはG市のセレブな女性たちに人気な有名店だった。この日は、有名なG市の令嬢の誕生日パーティーが開かれていたが、貸切ではなかったので、席は空いていた。月子はそこで偶然にも瞳と出会った。以前あった時亮太と一緒にいたモデルの瞳だ。月子はあの時、彼女と隼人の間に何かあったのではないかと疑ったことがあったなと、過去の記憶が蘇ってきた。今思えば、あの時、隼人が怒ったのは単なる誤解されたことからだけではなく、彼女に他の女を好きだと誤解されたくなかったからだと、月子はようやく理解した。隼人は、本当に繊細な心の持ち主だった。瞳は月子に気づくと、すぐに駆け寄ってきて明るく声をかけた。「綾辻さん、お久しぶりです!」月子と彩乃と一緒に同行していた者は、原田拓也(はらだ たくや)という、海外のIT企業の代表取締役だった。彼は瞳が亮太の関係者だと知っていた。だから、拓也は興味深そうに月子を見た。彼は彩乃とは、あるパーティーで知り合った仲だった。話が合い、仕事の話も弾んだので連絡先を交換した。この日も様々な会話を交わしたが、主に話していたのは彩乃だった。それでも、月子の専門知識はほんの短い説明だけで彼を感心させるほどであり、彼女が確実に優れた人材であると確信した。拓也は元々月子に興味を持っていたが、まさか彼女が自分では到底繋がりがない亮太と知り合いだったとは、思いもよらなかった。瞳は月子にハグをし、彼女をじっと見て言った。「わあ、元気そうですね」瞳も月子が離婚できたことを喜んであげていた。月子はあまり話さないタイプだが、決して空気が読めないわけではなく、瞳にも明るく対応した。離婚した日には、瞳からもお祝いのメッセージ
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第502話

一方で、何も知らずに月子は亮太たちと一緒に移動した。そして彼らの後ろを、一台の黒い車がこっそりと付けていた。車内には、静真がいた。影に隠れた彼の表情からは、喜怒哀楽を読み取ることができなかった。……パーティーの雰囲気で賑わう繁華街を後にし、亮太は一行を会員制のレトロで豪華なバーへと案内した。そこは完全予約制で一般客は入れないが、かしこまってドレスアップする必要はない。落ち着いた雰囲気で、騒がしくもなく居心地がよい場所なのだ。ここは亮太の行きつけだった。前回、豪華なクルーザーパーティーで、彼がどれだけ幅広い人脈を持っているかを月子は目の当たりにしていたので、今回彼が何人かの友人を呼んでも、特に驚くことはなかった。それに、亮太は事前に月子に断りを入れることなく、親友の横山瑛太(よこやま えいた)を唐突に紹介するようなことはしなかった。とりあえず皆で一緒に遊んで、会話を楽しみ、気が合えばまた個々で話せるといった、ごく自然な流れを作ってあげたのだ。こうして月子は、若きエリート、瑛太と知り合った。前回G市に来たのは、Sグループの子会社がG市証券取引所に上場した時だった。その時は金融関係者ばかりと会っていた。記憶力の良い月子は、どこかで瑛太に会ったような気がしたが、言葉を交わしたことはなかった。紹介を通して、月子は瑛太がある証券会社の最高財務責任者であることを知った。30歳にも満たない若さで、亮太ほどの華やかさはないものの、スタイルも良く、きちんとした身なりで、まさにエリートといった感じだった。会った瞬間に、成功者だと見て分かるようなタイプだった。瑛太は月子に熱心に話しかけ、月子も仕事モードに切り替えて、IT業界について語り合った。すると、二人の会話は意外に弾んだ。バーは広く、瑛太はIT業界の最新情報に興味津々だったので、さらに詳しく話をしたいと提案した。一方で、月子と彩乃のSYテクノロジーの最終目標は株式上場することで、Lugi-Xのアップグレード版を市場に投入した後が勝負なのだ。数年がかりの計画だったが、今は着実に進んでいるといったところだ。だから、金融業界の人々と事前に知り合いになっておくことは非常に重要だった。それに相手も仕事の話をするというのなら、月子にとって断る理由はなかった。すると、二人は大勢から離れ、静かな
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第503話

月子は表情を変えずに聞いていた。これには、瑛太も驚きはしなかった。もとより、彼も月子は優秀で、簡単には落とせないだろうと感じていたからだ。それでも、彼は単刀直入に自分の気持ちを伝えるタイプで、回りくどいのは好きではなかったので、はっきりと自分の気持ちを伝えたまでなのだ。それはもしかしたら、海外留学を経験し、その異文化の影響を受けたからかもしれない。なにはともあれ、これが飾りのない真の彼の姿なのだ。「こんな唐突なことを言ってすみません。でも、これが私の本心です。今日会って、こうして話してみて、ますます綾辻さんに惹かれました」それを聞いて、月子は自分でも離婚してから、なんだかモテるようになってしまったのかと思わずにはいられなかった。しかし、彼女はそれでも瑛太に申し訳なさそうに言った。「ごめんなさい、横山さん。今の私は、お気持ちに応えることができません」「分かっています。でも、私の気持ちを伝えたかったんです」瑛太は彼女を見つめた。男が女を口説きたいと思う時は、だれでも多少なりとも強引なところがあるものだ。彼も例外ではなかった。「それに、私をはっきりと断らなかったということは、私にもまだチャンスがあるってことですよね?もし私のことが嫌いじゃなければ、少しの間だけでも、私のアプローチを受け入れてほしいです」瑛太の言葉遣いは穏やかで、立ち居振る舞いも完璧な紳士だった。非の打ち所がないほどだ。しかし、彼は月子にとって初めて会ったばかりの男だった。一度会っただけで男女が急接近するようなことがあれば、それは単なる出来心、つまり衝動に突き動かされただけなのだ。月子は、そんな衝動的になることはなかった。それに、彼女は今隼人のことで既に頭が一杯だった。他の男になど構っている余裕がなかった。そう思って、月子がはっきりと断ろうとした、まさにその時だった。突然、彼女の視界が何者かによって遮られた。本当に突然の出来事で、しかも、かなりの衝撃だった。すると、月子と瑛太が同時に顔を向けると、そこには暗い表情の静真が立っていた。それには、月子の顔色はみるみるうちに変わった。月子の反応、そして静真から漂う威圧感を感じ、瑛太は、彼のほうが自分より上の立場にいることを察し、気持ちが少し沈んだ。一方で、月子は静真に、冷たく言い放った。「尾行してたの?」
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第504話

静真は月子を連れ去り、車に乗り込むと、彼は冷たく運転手に出発を命じた。そして、彼女の運転の腕前を懸念しているのか、後部座席との仕切りは上げられた。まるで、彼女が運転席へ手を出すのを防いでいるようだ。月子は狭い空間に閉じ込められ、息苦しさを感じた。それにスマホはずっと圏外のままだった。やはり、静真の仕業か……静真は彼女が逃げられないと分かると、手を離した。そして、その瞬間月子は彼に迷わず平手打ちを食らわせた。静真は月子の手首を掴もうとしたが、彼女はそれを払いのけた。そして、今度は静真の首を締め上げた。だが、彼は抵抗しなかった。それどころか、静真は冷たく笑った。「もっと強くやれよ!」月子は歯を食いしばった。静真は彼女の無駄なあがきを、相変わらず冷めた目で見つめていた。そのまるで自分が優位に立っているかのような、憎たらしい態度が月子は心底気に食わなかった。だから、彼女はさらに力を込めた。こう見えても彼女の握力は強い方だから、次第に彼の呼吸が弱まっていくのが目に見えて分かった。その一瞬、月子は本当に静真を殺してしまいたいと思った。静真は息苦しさに襲われたが、恐怖は感じなかった。むしろ、月子を見て笑っていた。かつて自分に従順だった女が、今や盾をついてきている。なんて残酷な女だ。特に、自分に対して……静真は月子の手を掴み、力を入れて引き剥がそうとした。しかし、月子はさらに力を入れてきた。そんな彼女を見つめて、静真は彼女の手首を少し強く握るだけで、彼女の腕は見る見るうちに彼の首から引き離されていった。体力差から、月子は静真にいつも敵わなかった。その度彼女は悔しい思いをするだけで、どうしようもなかった。何か、使えるものはないか。あれば、それで頭を殴ってやるのに……月子の静真への不満は、少しずつ積もっていた。彼女も本当は穏便に済ませたかった。なのに、この結婚していた3年間、愛してもくれない男が、ここにきて自分に付きまとうようになるなんて、本当に予想外だった。過去のことは水に流そうとしたのに、しかし、その過去がいつまでも付きまとってくる。気が休まらないのは、全て静真のせいだ。一方の静真は、月子の目に宿る敵意を目の当たりにしながら、冷たく言い放った。「お前が、こんなに気が強かったなんて知らなか
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第505話

G市は亮太のシマだ。すぐに自分を見つけられるだろう。静真がK市でどれだけ顔が利こうと、ここでは通用しない。自分は安全だ。大事にはならないだろう。それより一番厄介なのはここにいる静真だ。月子は思いを巡らせ、瑛太は多分大事には至らないだろうし、自分も今のところは安全だと理解したことで、少し冷静さを取り戻した。そして、冷静になった月子は改めて静真の恐ろしい独占欲に気づいた。以前、彼がおかしくなったときも、比較的穏やかだったのは、自分の気持ちが先に冷めていたことに対して不満に感じただけで、それほど自分のことが眼中になかったからだろう。なにせ、彼は復縁を迫るときでさえ、上から目線だったから。その状況が、この前入江家での出来事から一遍した。それで静真は逆上したのだろうか?月子は自分の推測が正しいと確信していた。離婚届を受け取った時、静真はまだ彼女の決意に気づいていなかった。そうでなければ、自分が妻として素直に正雄の誕生日会に来るとは思わなかったはずだ。だから、静真は自分を放っておいてた。結局彼は、自分が戻ってくると高をくくっていたのだ。それが正雄の誕生日会の日を境に、彼はようやく自分の揺るぎない態度に気づき、それからやっと静真は自分を「重視」し始めたのだ。月子は心の中で「最低な男」と呟いた。ただ、静真がどれほど気が来るほど暴れようとも、自分には入江家に打ち明けないといけない理由があった。入江家に自分の意思表示をしてこそ、静真がどんなにゴネても、彼の言い分は通らない。そうすれば、いざという時は自分にだってちゃんと言い分があるわけだから、静真も親族を完全に無視するわけにはいかないだろう。唯一のデメリットは、月子が彼に時間と労力を費やさなければいけないことだ。本当にこれ以上の無駄はないだろう。彼女の沈黙に、静真の顔色はますます険しくなった。「どうして黙っているんだ。あいつを庇ってるのか?答えろ!」「あなたと話すことはないのよ。分かった?」「いいだろう。上等だ」月子は静真を警戒しながら、車の進む方向を確認していた。しかし、土地勘がないため、どこへ向かっているのかがわからなかった。彼女はこの制御できない感覚は非常に不快だった。そして言われたがままにしたくなかった。今は前回のように、静真が復縁を望んでいると分かっていて
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第506話

それを聞いて、月子は静真の歪んだ表情を見て、本当に噛み殺してやりたいと思った。静真は相変わらず月子に気遣うことはなく、たとえよりを戻したくても彼は上から目線で、半ば強要するような態度だった。結局、静真が欲しいのは、自分の言うことを聞く月子だった。いちいち反抗するような女は必要ない。だから彼は再び彼女に要求を突きつけた。「月子、よく聞け。俺は離婚したくない。お前と一緒にいたいんだ。ずっとそばにいて、俺を愛し続けろ。分かったか?」月子は静真ほど身勝手な人間を見たことがなかった。まるで話が通じない狂人のようだ。彼女は冷たく笑って言った。「離婚したくないのは、私が苦しむのを見たいから?私が入江家の人のせいでのたうち回っている姿を見て楽しい?」「お前がちゃんと俺とやりなおしてくれるなら、優しくする。約束する」静真は言った。月子は、よくもそんなことが言えるものだと呆れた。「そんな約束、今まで一度でも守ったことあったっけ?」それを聞いて静真は怒り声を上げた。「そんなチャンスくれなかったじゃないか!」「チャンスはいくらでもあったでしょ。あの日、おじいさんの家で、あなたのお母さんが私を罵るのを止められたんじゃない?あなたの言うことなんて全く信用にならない。これ以上私に付きまとうなら、こっちだってまた入江家に乗り込んだっていいわよ。恥をかくならお互い様よ、どっちが先に怯むかとことん付き合ってやろうじゃない!」それを聞いて、静真の顔色がついに変わった。何を考えているか分からないようだが、怒りが頂点に達しているのは見て取れた。その様子に月子もドキッとした。静真のその険しい表情は、今にも誰かに襲い掛かろうとするばかりの、恐ろしさだった。月子がみせる警戒心と恐怖心を露わにした様子に、静真は少し冷静さを取り戻した。本当は、月子とよりを戻すために連れ戻しに来たのだから、こんな風に冷たくされるのは避けたかった……しかし、それは月子が戻ってきてからの話だ。もし戻ってこなければ、強引な手段を使うことも厭わないと彼は思ったのだ。そう思いながら、静真は依然として沈んだ表情で言った。「月子、やり直す機会を与えたのに、本当にがっかりだ。俺を騙し、馬鹿にするなんて、そんなことをして許されると思っているのか?」静真からの挑発と脅しを再び受け、月子は拳を握りしめた。
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第507話

それを聞いて、月子は、ただただ呆れ果てていた。そんなこと言ってまるで、自分が従順になったら、静真がクズじゃなくなるみたいな言い草だ。しかし、結局のところ、すべて静真の思い通りにならないと、彼に従い、無条件に服従しないことには彼は満足しないのだ。だから、この局面を切り抜けるには、静真に従い、彼の機嫌を取り、持ち上げ、喜ばせないことには、逃げるチャンスを見いだせないのだ。しかし、結婚生活という泥沼から抜け出し、少しずつ冷静さを取り戻した月子は、そんな風に妥協するつもりは毛頭ないのだ。もっと言えば、ずっと前から静真のために妥協を続けるのは嫌だったのだ。そして、それを考えただけでも吐き気がするほどになっていた。静真には、そんな資格はない。月子の沈黙に、静真は苛立ちを隠せない。「何か言えよ!なんで黙ってるんだ!」月子の平静な表情の下では、激しい感情が爆発寸前だった。「結婚式の日に、あなたは私に離婚協議書を突きつけた。私たちの離婚は最初から決まっていたようなもの。一刻も早く離婚したかったのは、あなたの方じゃないの?私はただ無駄な努力を諦めて、あなたの願いを叶えてあげただけなのに、なにが今更不満なの?二重人格なわけ?」静真は言った。「あれは3年前のことだ。今は気が変わったんだ。離婚したくなくなった、それじゃ、ダメなのか?」それを聞いて月子は言い返した。「もちろん、あなたの気が変わるのは仕方ないことだから。だけど、私も気が変わったの!あなたとやり直すつもりはないし、復縁もしない。どうしても誰かを支配したいなら、それを受け入れられる人間を探せばいいでしょ。私はもう、あなたのお遊びにつきあうほど暇じゃないから!」今まで、平静を装っていた月子だったが、もはや感情を抑えきれなかった。「静真、あなたは本当に最低よ。私をこんな風に追い詰めて。はっきり言わせてもらうけど、あなたのせいで、私は結婚が怖くなった。もう二度と結婚なんてしない!だからあなたともよりを戻さない。というか、あなたとの結婚生活を思い出しただけで吐き気がするくらいよ!」月子の言葉に、静真は狂おしいほどのショックを受けた。心臓が締め付けられるような痛みが、またもや全身に広がっていた。そう感じた彼は叫んだ。「そんなのただ過去に戻ればいいだけの話だろ!なんで出来ないんだ!月子、一体どうし
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第508話

一方で、月子はそう言って、復讐の快感に浸ることはなかった。ただ、当然のことだと思っただけだ。静真がよりを戻したがっている?また家政婦代わりにされるために戻れだと?自分だってバカじゃないんだから、そんなの、絶対に嫌よ。離婚しただけでは、静真は諦めないだろう。だって彼女はまだ独身だし、隼人とは結衣のために付き合ってるフリをしてるだけだから、この先公表することもないだろう。しかし、月子は静真に対して我慢の限界にきていた。静真には権力でかなわない。彼が使える人脈は彼女にはない。だから、彼に対抗できる人と組むのが一番の近道だった。それで隼人に協力を頼んだ。それは、静真と比べたら、彼女は完全に不利な立場に立っていたから、命を守れる方法は限られていたのだ。だから、彼女もせっかく見つけた命綱を、逃すわけにはいかない。もしかしたら、隼人は最初から彼女を狙っていたのかもしれない。でも、彼女からすれば、それも結果的には狙い通りなわけだ。静真をこれほどまでに苦しめる男は、他にいないのだから。隼人が静真に対して抱く嫌悪感は、彼女が関わっていなくとも、変わらないだろう。それを考えると、彼女が今、隼人とこうして付き合うようになったのも必然なことなのかもしれない。そう思うと月子は幾分か心強くなった。自分は一人じゃない、隼人がいるのだ。だから、静真が偏執的だろうと、もう関係ない。月子も我慢せずに、意地悪を言ってみたかった。それも、とことんね。長い間、月子はずっと自分を抑えてきた。でも、静真がついに彼女の中の何かを解き放ってしまった。車はきらびやかなG市の街を走り続けていた。最終目的はどこなのか、月子には分からなかった。しかし、今の彼女は何かが変わったように、静かな顔で黙っていた。きっと無事にここから離れられる。彼女はそのチャンスを待てばいいだけなのだ。一方、静真は大きなショックを受けていた。月子は彼を罵ったわけでもなかったし、入江家の屋敷で見せたような攻撃的な態度でもなかった。しかし、その言葉は今までにないほど鋭く、静真の心に深く突き刺さった。あまりにもの衝撃で、彼はとっさに反応できなかった。これは本当に、あの月子が言った言葉なのか?激しい苦痛に静真は耐えられなかった。それは、今のこの出来事だけではない。幼い頃からずっと、隼
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第509話

すべては現実なのだ。「月子!」静真の抑え込んでいた感情がその瞬間一気に溢れ出した。頭が真っ白になり、思わず手が出て月子を殴ろうとした。月子はそれを見て覚悟を決めたかのように、歯を食いしばりながら、目を閉じた。すると、激しい風が耳元を掠め、静真の拳は車の仕切りに当たり、凄まじい怒りのこもった音が車内にこだました。運転手も驚き、急ブレーキを踏むところだった。なんとか踏みとどまったものの、車は大きく揺れた。車内は、凍り付いたように静まり返った。月子の顔色は悪く、思わず涙が溢れ出てきた。震える声で、彼女は言った。「これで満足した?」静真は完全に理性を失い、頭は裏切られたという思いでいっぱいになった。どうして月子はこんなことができるんだ。どうして……静真はかつて、なぜ人が精神的崩壊寸前になるとわめき散らかすのかが、理解できなかった。みっともない姿をさらして、まるで負け犬みたいで、見ている方が恥ずかしくなるくらいだ。しかし今、彼はまさに胸の痛みをすべて吐き出したいほど叫び出したかった。苦しい。どうしてこんなことになったんだ。ああ――静真は呼吸さえ困難で、腹の底から煮え立つ思いに駆られていた。ああ――月子――やめてくれ――静真は目を真っ赤に充血させ、涙をこらえていた。彼はこの衝撃的な事実を受け止められず、言葉も出なかった。かつてあんなに愛してくれた彼女が、今、自分をわざと苦しめているのだろうか。怒った自分を、いつも優しくなだめてくれた月子は、どこに行ってしまったんだ?どうして、こんなにも冷酷になれるんだ?なぜだ――ああ――月子は自分の言うことを聞き、自分の気持ちを思いやり、いつも一緒にいてくれるべきだった。一緒にスーパーに行くのも、自分と行くべきだったんだ。なのに、よりによって、自分があんなにも嫌っている男と行くなんて……まさか、月子が彼以外の他の男を選ぶなんて?それは今まで静真が考えもしなかったことだった。まさか、自分が捨てられるなんて……「止まれ」と絞り出すような声で言ったが、その声はなんともか細かった。運転手には届いていなかったようだったので、静真は再び大声で叫んだ。「車を止めろ!」運転手は驚いたが、だけど目的地も間近になっていることを確認すると、車を止めることなく、逆に
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第510話

月子の沈黙に、静真の怒りは頂点に達した。正気を失いそうだった。もし本当に月子と隼人が……考えただけでも彼は気が狂いそうだった。自分が月子の最初の男だった。月子は自分の女だ。自分の初めても月子に捧げた。今も月子以外の女とは関係を持ったことがない。なのに月子はどうして自分を裏切ることができたんだ。静真は鬼のような形相で言った。「いいだろう。ここで話したくないなら部屋で話そうじゃないか!」もし月子と隼人が付き合うようになっているのなら、彼は月子を自分の側に縛り付けてでも、離さないつもりだ。月子の膝の怪我にも気づいていたが、今の静真にはそんなこと構っていられないほど切羽詰まっていた。むしろ、ここで月子のプライドを粉々に打ち砕き、一生自分のもとから離れられないようにしたかった。月子は自分のものだ。隼人だろうと誰だろうと、渡さない。そこは最高級ホテルだった。プレジデンシャルスイートの扉は、宮殿のような重厚な両開きの扉で、豪華な装飾が施されていた。静真が事前に予約したこのホテルは、G市で青木家の縄張りだった。青木家と木村家は長年、水面下で争いを繰り広げており、力は拮抗していた。だから、隼人や亮太がここに辿り着くのは容易ではないはずだ。静真はここまで月子を追いかけてきたんだから、隼人が自分を見張っていることも分かっていた。しかし、静真から見て、自分はそれほど不利な立場ではない。少なくとも今夜、隼人に自分の居場所を悟られることはない。そして月子は……静真は、月子とどう接すればいいのか、まだ分からなかった。しかし、月子が隼人と一緒だと言い放った以上、もう彼女をどこにも行かせられない。ましてや隼人と一緒に行かせるなんて絶対にさせない。隼人が本当に自分から月子を奪おうとするなら、自分も今後のことを考え直さなければならないと静真は思った。ここ数年、隼人とは互いに干渉せずに平和に過ごしてきた。だが、あの男は、生まれつき、自分の持ってるものを奪い自分と張り合う立場なのだ。実力については、静真は自覚していた。隼人にはSグループだけでなく、J市の鷹司家全体がバックについているから、どう考えても敵わない。しかし、隼人が月子のためにすべての力を使うとは思えない。それに、女ひとりのために争いを始めれば、鷹司家の人間も隼人を病気だと思うだろう。J市では、結衣と
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