All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 481 - Chapter 490

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第481話

金塊の山が築かれていた。それだけでは終わらず、裕子はまた別の箱を開けた。やはり、中には金塊がぎっしり詰まっていた。結衣は言った。「これは全部、あなたにあげるものよ。驚かせようと思って並べてみたの。後でまとめて、隼人に持たせてあげるね」月子は言葉に詰まった。晶は、自分に対して一度たりとも良い顔をしたことがなかった。結衣の立場は晶と全く同じはずなのに、自分への態度はまるで正反対だった。月子は、なかなか状況を把握できなかった。「鷹司さん、この前はもうお祝いをいただいておりますので、もうこれ以上は恐れ多いので」「それとこれは別よ。今日、あなたは私の家を訪ねてきてくれたのよ。お土産を用意しないなんて、そんなことできないでしょ?」お小遣いをあげるだけなら、結衣は得意中の得意。若い女の子が何を好むか、頭を悩ませる必要もない。それに、自分が月子を大切にすることで、隼人も母親としての自分の気遣いを高く評価してくれるんじゃない?月子は助けを求めるように隼人を見た。隼人は二人の間に割って入り、結衣を押しのけた。結衣は黙り込んだ。まあいいや。これくらい大目に見てあげよう。息子が珍しく自分に頼み事をしてきたんだもの、どうしても彼の願いを叶えてあげたかったのよ。結衣は傍らにあった箱を取り出した。「さあ、これはあなたも買ったの、ブレスレットよ、開けてみて」すると月子の目の前に、ほぼ透明で柔らかな光を放つ高級そうなブレスレットが現れた。宝石について少しは知っていた彼女は、肉眼で見て取れるその際立つ質感が最高級の中でもまさに最高峰のものだとすぐにわかった。「金塊はもあるんだから、宝石もないとね」結衣は有無を言わさずに月子の手首を取り、ブレスレットをはめてあげるとそれを、うっとりと眺めていた。「まるで透き通るような白い肌に宝石がよく映えてるね。本当に綺麗よ。今回は時間がなくて用意できなかったけれど、今度他の種類の宝石もプレゼントするから。もっと綺麗でもっと輝きが気高いものがいいわね」月子は、結衣が本当に素敵な人だと感じた。結衣はため息をついた。「もっと時間があれば、マンションと車も買ってあげたのに。隼人と付き合ってるんだから、あなたに苦労はさせられないよね」月子は何も言えなかった。この前会った時は、かなりクールな雰囲気だっ
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第482話

月子は頷いた。「私たちこそお伺いに上がらせていただくべきでした」結衣は、月子のクールな雰囲気をとても気に入っていた。彼女は普段から隼人のことは気に入らないように見えるが、だが、息子は確かにハンサムで、若い女性にモテるのも当然だと思っているのだ。月子は隼人と接するとき、気取らない態度で自然体だった。隼人のことをそこまで好きではないかもしれないが、それは彼女の性格であり、少しのことでは動じないからだろう。「私の話は興味ないんでしょ?隼人のことの方が聞きたいんじゃないの?」結衣は二人の様子を見て、からかった。月子は、結衣が自分たちを本当の恋人同士だと思っているからこそ、こんな質問をしてくるのだと分かっていた。演技はさておき、月子は既に自分の過去の一部を隼人に知られていたので、彼のことも少しは知っておきたいと思った。「是非、お聞かせください」月子は隼人の方をちらっと見てから、結衣の方を向いた。「彼は、普段は何も話してくれないんです」「何も話してくれないって、どういうこと?」結衣は隼人を睨みつけた。隼人は言った。「あなたのイメージダウンになるからな」「私は特にイメージなんて気にしたことがないけど」隼人は答えた。「過去を語れば、あなたが親として失敗してるのがバレるだろ」結衣は絶句した。結衣は言った。「私も初めての子育てで、どう接していいのか分からなかった。結果として、あなたを傷つけてしまった。今、それを償おうとしているけど、許してもらえなくても仕方ないと思っている。それでも、私がやるべきだと思うことは、やるつもりだから」隼人は黙っていた。相変わらずぎこちないながらも、隼人は結衣のわずかな変化を感じ取っていた。そうでなければ、結衣とは絶縁状態のままだっただろう。月子は二人を見て尋ねた。「何かあったんですか?」結衣はため息をついた。「小さい頃、家の使用人にいじめられても、彼は頑固で私に言わず、私も忙しくて構ってやれなかった。使用人から言いつけられて、私は事情も聞かずに彼を叱ってしまったの。それで、彼の心を深く傷つけてしまった」月子は言葉が出なかった。「その後、彼が口をきいてくれなくなったので、部屋に閉じ込めてしまったの。そして、閉じ込めたことを忘れてしまって……危うく餓死させるところだった」月子は驚いた
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第483話

結衣は隼人に協力するために演技をしていた。しかし、月子の言葉に一瞬たじろいだ。彼女の言葉は真実と虚偽が入り混じっていたが、月子は真剣に受け止めていた。結衣は少し申し訳ない気持ちになったが、そんなことでいつまでも悩んでいるような性格ではない。目的が達成できればそれでいいのだ。そしてすぐに気持ちを切り替え、月子を見て微笑んだ。「よかった。今夜はゆっくり休んでいって。必要なものは全部用意しておくから」月子は微笑んで「ありがとうございます」と答えた。結衣は心から好意を示し、「そんな気にしないで。もう鷹司さんじゃなくてお母さんって呼んで」と言った。「はい、お母さん」そう言うと、結衣は月子に必要な着替えなどを用意し始めた。ただ使用人に指示を出していただけだが、細やかな気配りが感じられた。するとリビングには月子と隼人の二人だけが残った。月子は思わず隼人を何度も見てしまった。隼人は「俺のこと、じろじろ見てどうしたんだ?」と尋ねた。「お母さんがあなたのことをハンサムって褒めてたから、もっと見ておかないとでしょう」月子は隼人を上から下まで眺めながら、「鷹司社長、少し緊張しすぎじゃないですか?私は今、あなたの恋人ですよ」と言った。隼人は一瞬固まり、月子を見る目線が深くなった。「ああ、恋人だ」月子は立ち上がって数歩歩き、部屋のインテリアを見て回った。来る途中は疲れていたが、今は不思議と疲れを感じなくなっていた。この家の雰囲気が彼女をリラックスさせているのだろう。すぐに休めそうで、車で帰る煩わしさも感じなくなった。月子と隼人のために、洗面用具などがすぐに用意された。結衣は二人に部屋でくつろぐように言った。しかし、ここでちょっとしたハプニングが起きた。裕子が突然結衣に近づき、「山本さんがお見えです。清水さんの生徒の作品を買ってきたから、あなたにプレゼントしたいそうです」と言った。「会うのはやめとくよ。絵だけ受け取って、帰らせて」と結衣は指示した。結衣は楓が隼人に気があることを知っていた。そもそも、少し子供っぽい楓が好きではないし、今は月子がここにいる。当然、月子の方が大切だ。結衣は月子に気まずい思いをさせたくないのだ。裕子は指示通りに楓を帰らせた。別荘の門の外。「山本さん、鷹司会長は今お取込み中ですので」裕子は理由
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第484話

まさに百戦錬磨を経験してきたからこそ、結衣は月子の過去を気にしてはいるものの、とても寛容でいられるのだ。それは自分に自信がある人間にしかできないことだ。しかし、月子は結衣の冷淡な一面も見ていた。二度会っただけで、結衣からたくさんのお金をもらった。月子は、この行為が愛情表現の一つであることを否定しなかったし、お金で愛情を示すことにも抵抗はなかった。だが、金持ちにとって、お金を渡すのは一番簡単なことだ。つまり、手間を省くという意味でもある。その真意を一番よく理解しているのは、きっと隼人だろう。子供が傷ついた時、親がすぐに慰めや支えを与えず、お金で済ませようとするのは、無責任と言えるだろう……月子には、彼女を深く愛する母親がいた。だからこそ、年上の人からの親切には敏感で、何が本当にいいのかを見抜くことができた。隼人に返すことが決まっている贈り物をもらったくらいで、結衣の甘い言葉に騙されるほど、彼女は単純ではなかった。しかし、本当の気持ちを隼人にぶつけたら、彼の過去の傷に触れてしまうことになる。そして、それは結衣にも失礼にあたる。月子は言った。「鷹司社長、考えすぎですよ。お母さんが私に優しくしてくれるのは、私があなたの彼女だからです。あなたへの好意があってのことですよ。さっき、お母さんが楓さんにどんな態度だったか、見ていましたよね?」隼人はきょとんとした顔になった。月子は続けた。「それとも、彼女がしてくれたことで、私が簡単に仄めかされるとでも思ってるんですか?」隼人は確かにそう考えていた。結衣は月子のことを本当は気に入っていないのに、表面上は優しくしている。それは本心ではないから、いずれ本性が出た時に月子が傷つく。だから忠告したかったのだ。隼人が否定しないのを見て、月子は笑って言った。「人の振り見て我が振り直せ、ですね。鷹司社長、あなたが私に言った忠告は、もしかしたら、ご自身に向けて言ったのかもしれませんよ。彼女はあなたの実の母親ですから、優しくされるとつい甘えたくなってしまいます。でも、過去に辛い経験をして、失望したことがあるんでしょう。その気持ちが忘れられなくて、私が同じ思いをするのを恐れているんですね」月子は彼を慰めた。「彼女はあなたの母親だけど、私の母親ではありません。彼女に感情的な期待はしていませんか
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第485話

隼人はその言葉を聞いて、自分の推測が正しかったと確信した。月子は気を逸らさせようとして、自分をからかっているだけだ。普段こんなこと言うタイプじゃない。彼女のこういう何気ない行動が、いつも自分をドキドキさせるのだ。隼人は冷静を装っていたが、視線は彼女に釘付けだった。そして軽く笑って言った。「いい人がそんなことをするわけないだろ?」月子は眉を上げて尋ねた。「それって、いい人止まりってことですか?」隼人は頷いた。「その言葉、気に入った」月子はからかうように言った。「鷹司社長、あなたもイメージを気にするんですね。私はもう全然気にしなくなりましたけど」隼人は自虐気味に言った。「一緒に住んでるんだから、嫌われたくないからね」月子は彼を褒めるように言った。「あなたはどこを取っても嫌な感じがしません。静真とは違いますので」隼人は優しく微笑んで言った。「ああ、追い出されないように頑張るよ」今度こそ月子は本当に笑った。それも、抑えきれないほどに。気を抜いていたところに笑いがこみ上げてきて、入江家で消耗した気力まで戻ってきた気がした。彼女は隼人を軽く押して言った。「もう、早くお風呂に入ったらどうですか。終わったら私も入りますから。それから、寝ましょう」月子はあくびまでしてみせた。隼人は断る理由もなく、パジャマを持ってバスルームへ向かった。シャワーの音で、外の音が聞こえなくなる。より正確に言えば、彼女の物音が聞こえない。余計なことを考えずに済む。念のため、彼は冷水でシャワーを浴びた。月子はソファに沈み込み、適当に名作映画を流し始めた。そして、ドアが開く音が聞こえた。振り返ると、髪を濡らした隼人が黒いバスローブを羽織って出てきた。大人の男の体は大きくたくましく、安心感を与えてくれる。しかし同時に、無視できない威圧感と攻撃性も漂わせていた。月子は改めて、今夜はこの男と同じ部屋で過ごさなければならないことを思い出した。「また髪、乾かしてないのですか?」月子はソファから立ち上がり、まだ水が滴る彼の髪を見つめた。その水滴がすらっとした首筋を伝い、バスローブの襟に吸い込まれていく姿がなぜか、ドキドキさせるのだ。隼人は彼女を見つめて言った。「待たせたくないから」月子は微笑んで言った。「分かりました。じゃあ、お風呂
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第486話

月子はすぐに手を引っ込めた。「髪が乾いています。結構長い時間、私バスルームにいたみたいですね」隼人はじっと彼女を見ていた。「……もう少し映画を見てから寝ましょう」月子は彼から1メートルほど離れたソファに座った。リビングの照明は柔らかく、眠気を誘うのにちょうどいい。寝ることは、今晩に限って妙にセンシティブな話題だ。月子と隼人はただ恋人の振りをしているだけなのだ。恋愛感情がないのだから、同じ部屋で一夜を過ごすことは、最初から分かっていたはずのこと。普通に話し合えばいいだけだ。しかし、どうしても口に出せない、妙な空気が漂っていた。どちらから切り出しても、悶悶とするような、不思議な雰囲気なのだ。月子は、この居心地の悪さをじっくり味わってから、ようやく気が付いた。これは、もしかして気まずい雰囲気……っていうやつ?月子は黙り込んだ。気まずい?どうして気まずいんだろう。月子は、本当はもっと気軽に振る舞えるはずなのに、今はそれができない。喉が締め付けられるようで、自分からは言い出せない。恥ずかしい……そう、きっと恥ずかしいんだ。恥ずかしいからこそ、これは気まずい雰囲気なんだ、と確信した。気まずい雰囲気は、普段の冷静さを失わせる。今となっては、隼人の髪に触れたことを後悔していた。あのふわふわした感触を確かめてみたかったばかりに……しかし、このままではいけない。隼人は言った。「俺はソファで寝る」月子は尋ねた。「もう眠いですか?」二人は同時に口を開き、そして同時に黙り込んだ。恐ろしいほどの静寂が訪れた。誰も言葉を発しない。ああ、もう。どうにかなりそう。月子は穴があったら入りたい気分だった。この気まずさは、隼人の自分への過剰なまでの心配りから来ているのだと、月子は分かっていた。しかし、自分の考えが正しいのか、それとも単なる思い込みで勘違いしているだけなのか、確信が持てないでいた。長年、独身を通してきた隼人が、そう簡単に人を好きになるだろうか?月子は、普段は何も知らないふりをすることにしたが、でも、こういう状況になると、どうしても動揺してしまう。自分の心をコントロールすることなんて、誰にできるだろう?本当に、どうにもならない雰囲気だ。月子は、もう何も話したくなかった。ただ、すべてを
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第487話

隼人は月子の目をじっと見つめた。探るように投げかけた言葉は、彼女の沈黙によって跳ね返された。数秒待った後、再び一歩引いて、安全圏から念を押すように言った。「ただの友達としてだ」月子は即答した。「今のところは、あなたはまだ彼女の代わりにはなれません」隼人は残念そうな顔をしたが、同時に、負けん気の強さも覗かせた。「なら、頑張ってみるよ」月子は笑みを浮かべ、片眉を上げた。隼人はスマホを手に取り、「俺は少し仕事がある。疲れたらベッドで休んでくれ」と言った。月子は頷いた。そして、胸を撫で下ろした。ここは結衣の家だ。隼人が出て行けば、きっと詮索されるだろう。だから、彼は部屋に残ることにした。寝室にも小さなソファがあったので、彼はリビングを通り抜けて寝室へ向かった。まるで別の空間のように、お互いの姿は見えない。簡単な会話で曖昧な雰囲気は消え、それぞれが元の位置に戻ったようだ。そう思いながら月子はすぐに目を閉じた。しばらくして、隼人が出てきた。月子はソファに横たわり、全く無防備なのを目にした。これって彼を心から信頼しているってことなのだろうか。隼人は月子の前に立ち、ゆっくりとしゃがみこんだ。しばらく見つめた後、手のひらを彼女の顔に添え、頬にかかる髪をそっと払った。月子のまつ毛が震えたが、隼人は気づかずに、彼女を抱き上げた。月子は小柄な方ではないが、隼人の腕の中では小さく見え、抱えている重さも軽く感じた。布団の端をめくり、そっと月子をベッドに寝かせた。その間、彼女は目を覚ますことはなかった。男女が二人きりと、軽く欲情に火が付くものなのだ。隼人は、その炎が全身を包み込み、激しく燃え上がっているのを感じながら、全身の筋肉を強張らせていた。月子の呼吸はますます規則正しくなり、長いまつ毛が影を落としていた。彼はもはや抑えきれなくなり、彼女の額に優しく、そして秘めるようにキスをした。そして、彼女を見つめながら、欲望に満ちた瞳は諦めきれない思いへと変わった。彼はこれで終わりにしたくなかった。もっと彼女に触れたかった。しかし、最後は無理やりその衝動を抑え込み、リビングへと戻っていった。部屋の明かりが全て消えると、月子は目を開けた。暗闇の中、何もかもがぼやけていた。月子は長い間目を開けたまま、それからようやく
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第488話

月子は頷いた。「ええ、慣れ親しんでいるこそ安心できるのです」彼女はあくびをしながら言った。「もう少し待っててください。すぐに用意しますので」「ああ」隼人は頷き、彼女が洗面所へ向かうのを見送った。実際のところ彼は昨夜、ほとんど眠れなかったのだ。一方で月子は服を選んでいた。結衣が用意してくれた服は、どの年齢層でも着こなせるクラシックなデザインのものだった。月子はその中から白いスーツを選び、洗面後にバスルームで着替えた。もちろん、きれいな下着に着替えることも忘れなかった。昨夜着たものを捨てるのは気が引けたので、月子はさっと手洗いして、バスルームに干しておいた。隼人はほとんどここに泊まることはないので、使用人が見つけた時に捨てても片付けてもらってもどちらでも構わなかったが、使用済みの汚れた下着を使用人に見られないようにさえしておけばいいのだ。結衣は化粧品も用意してくれていたが、月子はスキンケアだけ済ませ、メイクはしなかった。白い服のおかげで、血色の良い肌がより一層際立っていた。よく眠れたおかげで、顔色もとても良かった。月子は身支度を終え、リビングへと向かった。隼人はソファに座って彼女を待っていた。月子が来るのを確認すると、彼は立ち上がった。月子が洗面所で身支度をしている間に、隼人は裕子に朝食の準備を頼んでおいた。下に下りればちょうど食べれるところなのだ。「行こうか」月子はよく眠れたおかげか、とても機嫌が良かった。「ええ」と頷いた。……結衣は三人で朝食をとる約束だったので、既にダイニングで待っていた。二人が降りてくるのを見て、二人が甘い夜を過ごしたことは分かっていたが、若い女性を目の前にしてからかうのは控えた。彼女は普段通りの表情で明るく声をかけた。「さあ、一緒に朝食にしよう」テーブルには、7、8人分はあろうかという量の朝食が並んでいた。月子は結衣との距離感に慣れてきていた。目上の人への敬意を払いながらも、必要以上に萎縮することはなかった。結衣は心の中で、この女は肝が据わっていると思った。少しも恥ずかしがる様子もなく、隼人をすっかり虜にしている。隼人は昨夜の月子の言葉から、自分と結衣の関係について考えさせられた。母親として、自分に大きな傷を負わせたことは、すべて覚えている。しかし、結衣が少しでも歩み寄って
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第489話

洵が隼人と最後に会ったのは、月子の家だった。隼人が月子の家で食事をご馳走になっていたのを覚えている。だが、その時は二人に特別な関係はなかったはずだ。しかし、今は分からなくなっていた。洵はすぐさま車を降り、険しい顔で月子に近寄り、彼女の腕を掴んだ。その時、月子の左手の薬指に指輪があることに気づいた。そして、案の定、隼人の手にも同じ指輪がはめられていた。洵の頭の中は真っ白になった。また月子に裏切られたという思いがこみ上げてきた。もはや怒りをぶつける気力もなく、ただ月子を睨みつけて言った。「あいつと一緒に行くか、俺と来るか、どっちか選べ!」彼の目線は鋭く、激しい殺気を帯びていた。隼人は洵の方を見ると、洵に怒鳴り返された。「あなたは黙って!」隼人は絶句した。若者は怒りはこんなにも激しいのかと彼は改めて感心した。「俺は姉さんと話してるんだ。あなたが口出すな!」洵はもう隼人の地位も、彼が誰かも関係なかった。洵にとって彼は、姉に近づく下心のある男でしかなかった。一時的な遊びなのか、それとも飽きたら捨てるつもりなのか。男なんてそんなものだ。洵にはよく分かっていた。洵は、月子が何も教えてくれず、まるで鳴のように自分を警戒していることに、さらに腹を立てていた。「姉さん、決めろ!」洵は月子を睨みつけた。まるで隼人を選んだら、また絶交して何年も連絡を取らないと言わんばかりだった。月子は取り乱す洵を見て、彼の苦悩を無視できなかった。彼女は洵の気持ちをとても大切にしていた。だから、まずは彼を落ち着かせなければ、と思った。そして、迷わず言った。「分かった。一緒に行く。ちゃんと説明するから」その答えを聞いて、洵の険しい表情はやっと少し和らいだが、それでもまだ怒りは収まっていなかった。すべての原因は隼人にある。洵は隼人を睨みつけ、まるで自分の縄張りを守るかのように警戒した。「いい気になるなよ!」隼人は疑問に思った。月子は、隼人が頭に血が上った若者相手に本気で怒ったりはしないと分かっていた。彼女は洵を車の方へ押しやりながら、隼人に言った。「じゃ、先に行きますね」「ああ」隼人は洵に怒鳴られたが、気にしていなかった。相変わらずそれを包容しようとした態度だった。それをみて月子はその包容力に感心しながらももし隼人が洵と同じように感情的になった
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第490話

洵にバレるのは、家に遊びに来た時だろうと思っていたのに、まさか結衣の家の前で会うなんて。しかも、さっき洵が言ったこと、家の前で起きたんだから結衣も聞いていたに違いない。だから、ここで洵に弁解するわけにもいかない。とにかくその場を離れよう。あとで結衣が何か勘ぐるかどうかは、隼人に任せればいいのだ。ただ、今のところ、結衣は何も気づいていないようだ。月子はこんなにうまくいくとは思ってもみなかった。結衣の鋭い目をごまかせるなんて。同棲しているという事実は、確かに説得力がある。ただ、結衣と面と向かうのもある種の試練でその結果が良好だったから、月子もこのまま恋人の振りを続けられたのだ。それに、結衣がいる時だけ隼人と恋人同士のフリをすればいい。結衣がいなくなったら、普通のルームメイトに戻ればいいだけの話なのだ。だから、月子は洵にはどう説明しようかずっと考えていた。彩乃には話しても、洵には内緒にしておこうと決めたんだ。しかし月子も洵がここまで隼人を嫌っているとは思わなかった。そんな彼にもし恋人の振りをしているなんて教えたら、今すぐにでも家に乗り込まれて隼人の荷物を全部外に放り出しそうだ。そう考えると、洵をひっぱたきたくなるくらい腹が立つけど、なぜそんなに不安がっているのかも気がかりなのだ。……千里エンターテインメント。月子は洵を連れて社長室へ向かった。通りすがりに、明日香が「綾辻社長」と声をかけた後、洵に気づいた。契約する予定のタレントかしら、と思った。確かにスター性のある顔立ちだし、ただ、顔色が悪くて近寄りがたい雰囲気だった。そう考えていると月子は彼女にコーヒーを淹れてきてくれるように頼んだ。そして、月子は洵を連れて社長室に入った。鞄を机の上に置くと、月子は応接用のソファに座った。一方で洵は何も言われなくても、自然と彼女の向かいに座った。洵はずっと我慢していたようで、月子を睨みつけながら言った。「さあ、話してみろよ!」「コーヒーが来るのを待ってから」「お前は……」「いいから。とりあえず、会社を見て回ってきたら?」と月子は言った。こんなことがなければ、洵の性格からして、新しい会社に来たからには隅々まで見て回っただろう。だけど、今の彼はとてもそんな気分になれなかった。それを見て、月子はまずこう言って慰
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