そう思って、楓は、遥が本当に恐ろしいと思った。一番信頼していた親友に、ひどい裏切りをされたのだ。遥のせいで、こんな大ごとになってしまった。楓は今、遥に言い返すこともできないし、直感を裏付ける証拠もなかった。そして怒りのあまり理性を失いそうになった彼女は、これまでにないほどの憤りを感じてやまなかった。彼女は震える指で遥を指さし、ボディーガードに命令した。「彼女を捕まえて!」もうすぐ隼人が来る。そうなったら自分は終わりだ。彼が来る前に、遥に仕返しをして、この怒りを発散させなければ。どうせ敵に回してはいけない人を怒らせてしまったんだ。その敵にJ市社交界の令嬢が一人増えたところで、何も変わらない。今はただこの怒りをぶつけないと気が済まない。そうしないと、頭がおかしくなってしまう。楓と遥が突然仲間割れを始めたので、月子も天音も状況が飲み込めなかった。月子の意識はずっと天音に向いていた。楓が連れてきたボディーガードは二人で、一人が天音を押さえつけ、もう一人が遥を追いかけようとしているのだ。そして、車には運転手も一人いた。月子は今、駆け寄って天音を奪い返せないかと考えた。だが、彼女が一歩踏み出すと、天音の後ろにいるボディーガードが鬼のような形相で睨みつけ、動くなと警告してきたので、月子は仕方なく足を止めた。天音は、面白い見世物でも見るかのような態度で言った。「月子、楓はもう隼人が私の兄さんだって知ったから、きっともう手出しはできないはずよ。兄さんもこっちに向かってるんでしょ?私のことは気にしないで。大丈夫だから!」月子は、天音が顔中血だらけなのに、まだ自分を慰める元気があることに驚いた。静真と結婚した時、天音は自分を完全に見下していた。ことあるごとに突っかかってきては、自分を侮辱し、いじめていたのだ。天音の性格は確かに良くない。それは今も同じだ。ただ、月子がたまたま彼女に気に入られたから、天音の態度が変わっただけなのだろう。だけど、月子が何より驚いたのは、天音が見かけによらず我慢強いことだった。あんなに殴られたのに、少しも慌てず、痛いとも言わない。むしろ、とても落ち着いていた。拉致され、乱暴に連れて行かれても、精神的にとても安定している。入江家でただ甘えてばかりいた姿とは、まるで別人だった。でも、それも当然かもし
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