All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 921 - Chapter 929

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第921話

そう思って、楓は、遥が本当に恐ろしいと思った。一番信頼していた親友に、ひどい裏切りをされたのだ。遥のせいで、こんな大ごとになってしまった。楓は今、遥に言い返すこともできないし、直感を裏付ける証拠もなかった。そして怒りのあまり理性を失いそうになった彼女は、これまでにないほどの憤りを感じてやまなかった。彼女は震える指で遥を指さし、ボディーガードに命令した。「彼女を捕まえて!」もうすぐ隼人が来る。そうなったら自分は終わりだ。彼が来る前に、遥に仕返しをして、この怒りを発散させなければ。どうせ敵に回してはいけない人を怒らせてしまったんだ。その敵にJ市社交界の令嬢が一人増えたところで、何も変わらない。今はただこの怒りをぶつけないと気が済まない。そうしないと、頭がおかしくなってしまう。楓と遥が突然仲間割れを始めたので、月子も天音も状況が飲み込めなかった。月子の意識はずっと天音に向いていた。楓が連れてきたボディーガードは二人で、一人が天音を押さえつけ、もう一人が遥を追いかけようとしているのだ。そして、車には運転手も一人いた。月子は今、駆け寄って天音を奪い返せないかと考えた。だが、彼女が一歩踏み出すと、天音の後ろにいるボディーガードが鬼のような形相で睨みつけ、動くなと警告してきたので、月子は仕方なく足を止めた。天音は、面白い見世物でも見るかのような態度で言った。「月子、楓はもう隼人が私の兄さんだって知ったから、きっともう手出しはできないはずよ。兄さんもこっちに向かってるんでしょ?私のことは気にしないで。大丈夫だから!」月子は、天音が顔中血だらけなのに、まだ自分を慰める元気があることに驚いた。静真と結婚した時、天音は自分を完全に見下していた。ことあるごとに突っかかってきては、自分を侮辱し、いじめていたのだ。天音の性格は確かに良くない。それは今も同じだ。ただ、月子がたまたま彼女に気に入られたから、天音の態度が変わっただけなのだろう。だけど、月子が何より驚いたのは、天音が見かけによらず我慢強いことだった。あんなに殴られたのに、少しも慌てず、痛いとも言わない。むしろ、とても落ち着いていた。拉致され、乱暴に連れて行かれても、精神的にとても安定している。入江家でただ甘えてばかりいた姿とは、まるで別人だった。でも、それも当然かもし
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第922話

そう思っていると瞬く間に、月子と遥は姿を消した。楓が月子に面と向かってケンカを売っていたのは知ってる。でも、この女の顔はまったく印象になかった……いや、違う。前に美術館の倉庫で楓にお灸を据えた時、あの女はドアの前で見張っていたんだ。遥の見た目や雰囲気には、人を警戒させるようなところがなかった。だから天音は、その時ちらっと見ただけで忘れてしまったのだ。一番強い印象といえば、数分前に楓と仲間割れしていたことぐらいだ。天音は馬鹿ではない。すぐに楓は、十中八九、遥にしてやられたのだろうと気が付いた。ふん、つまり楓はただの馬鹿ってことだ。そして遥は、あいつなんかより何枚も上手だってわけ。しかも二人は親友みたいに見えるのに、あの女は平気で楓のことをこんなふうに弄ぶなんて。初めから親友だなんて思っていないか、ただ根性が悪いかのどっちかだ。天音は、前者の方が可能性が高いと思った。だって、楓なんかと本気で友達になりたい人間なんているわけないのだから。天音は冷たい顔で楓に訊ねた。「あいつ、誰なの?」一方で楓は、車が夜の闇に消えていくのを見つめながら、あまりの馬鹿馬鹿しさに呆然としていた。遥が月子を連れて逃げた?あいつは月子のこと、よく知らないはずなのに。一体なんで連れて行くの?楓は訳が分からず、天音の声でハッと我に返った。そして目の前にもっと大きな厄介事が残っていることに気づき、その場で叫んだ。「天音、あなたも見たでしょ!私ぜんぜん関係ないのよ!全部、遥のせい!あなたを拉致しようなんて、私これっぽっちも思ってなかった!だから、隼人が来たら、私のこと悪く言わないでね!お願い!」彼女がそう言い終わると、慌ててボディーガードたちに天音を離すよう命じた。天音は体を押さえつけられることはなくなったが、手はまだ縛られたままだった。楓は以前、天音にボコボコにされた経験がある。だから、今彼女の縄を解く勇気はなかった。天音はこんなひどい目に遭うのは久しぶりだった。だから、楓を許すつもりはこれっぽちもなかった。それなのにこんな言い訳を聞かされ、彼女は鼻で笑うしかなかった。これはもはや許すとか許さないという問題ではなく、とことん懲らしめてやらないと天音の気が収まるはずがないのだ。「このクソ女、私が馬鹿だとでも思ってるの?あなたたち二
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第923話

「あなたの戯言に付き合ってる暇はないの。月子に何かあったら、あなたも遥も、ただじゃ済まさないから」また月子だ。どうしてみんな彼女の味方をするんだ。恐怖と不安で追い詰められた楓の心は、今やどす黒い憎悪で満ちていた。彼女は周囲が月子を中心に動いて、彼女の肩を持つのが、どうしても許せなかった。なんでよ。月子なんて、何様のつもりなの。たかが隼人の秘書じゃない?今は、何だかよくわからない会社を始めたらしいけど?あの女に一体どんな実力があるんだって言うのよ?楓は天音に大声で問い詰めた。「どうしてあなたはそんなに月子のことが好きなの?なんでよ!あなただけじゃない、隼人も、兄さんだって……みんな、みんなあいつの味方ばかり!」楓は本当に、心の底から憎かった。兄の賢は、隼人の親友で右腕みたいな存在なのに。実の妹の自分が隼人を好きなのに、どうして協力しないで、ただの秘書の肩を持つんだろう?もし兄が協力してくれていたら、自分はとっくに隼人と付き合えていたかもしれない。そうすれば、こんな面倒なことにはならなかったのに。敵に回しちゃいけない人を敵に回して、親友にも裏切られるはめになるなんて、楓は月子のことが、死ぬほど憎かった。だが、天音は、そんな楓にまともに目を向けようともしなかった。そもそも彼女は楓の質問に、いちいち答える義理はなかったのだから。だけど、そこまで言うなら……そう思いながら天音はしぶしぶ楓にこう言った。「教えてあげてもいいけど」楓はその答えが知りたくてたまらなかった。「教えてよ、なんでなの!」天音は口の端を上げて、彼女に笑いかけた。「だって、あなたが性悪女だからよ」そう言われて、楓は一瞬ポカンとした。そしてそれを見た天音は「あははは」と笑い出した。人をからかうのは、本当に面白い。その様子を見て、楓はまた天音にからかわれたのだと気づいた。以前、月子とは仲が悪いと嘘をついて情報を探り出し、あとから全部嘘だったとばらされた時のように。「自分でゆっくり考えてよ。答えがわからないのが一番苦しいんだから。あなたの思い通りになんてさせないよ」天音は、みるみるうちに歪んでいく楓の表情を満足げに眺めた。楓に半殺しにされたのだ。だからこそ、天音は彼女が苦しむ様を見たかった。それが天音の本性だ。元々、彼女は善良な
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第924話

だが、楓はそれ以上そのことについて話したくなかったようだ。天音はそれを見抜いた。「今はおとなしく私のご機嫌をとって。私が満足したら、兄さんに告げ口する時もいくらか手加減をしてもいいけど。そうすれば、兄さんもあなたを大目に見て、罰も少しは軽くなるかもしれないわよ」楓が最も恐れているのは隼人だった。だから、答えるしかなかった。「遥は一人っ子よ」天音は尋ねた。「ほんと?」「あなたに嘘をつく理由なんてないでしょ」天音は馬鹿にしたように言った。「確かにね。今この状況で私に嘘をつく度胸があるなら、むしろ尊敬しちゃうけどね」それを聞いて、楓の表情はますますこわばっていった。このまま黙って待っているわけにはいかないと思った彼女は、振り返ってスマホを取り出し、兄に電話して助けを求めた。電話はすぐにつながった。「お兄さん……」楓の不満そうな声は、賢の冷たい声に遮られた。「楓、あなたには本当にがっかりしたよ」楓は全身の血が凍りつくのを感じた。物心ついてから、賢のこんなにも冷たい声を聞いたのは初めてだった。まるで氷水を頭から浴びせられたような衝撃で、体の芯まで冷え切ってしまった。賢は続けて警告した。「この件で俺はあなたを助けられない。あと数分待っていろ、俺と隼人はすぐに着くから」楓は目を真っ赤にし、突然ヒステリックに叫んだ。「お兄さん!どうしてそんなひどいこと言うの?」賢は本気で怒っているのだろう。彼女の言葉には答えなかった。これまでも楓は同じように不満をぶつけてきたことはあったが、賢はその度に彼女をなだめ、言い聞かせてきたから、もう答えるのもうんざりだったのかもしれない。楓は本当に絶望した。自分がもう終わりなら、他の誰かが幸せなのも許せない。だから、こう言った。「お兄さん、月子が遥に連れていかれた」隼人は月子を心配して慌てるだろうか?いつも無表情なあの顔に、他の感情が浮かぶことはあるだろうか?楓は急にそれを期待し始めた。想像するだけで、顔が歪むほどの快感を覚えた。でも、それはとても哀れなことだった。なぜなら、たとえ隼人が変わったとしても、彼が気にかけるのは別の女なのだから。……一方で、月子は遥に車へ乗せられ、瞬く間に車は走り去った。車内にはボディーガードが二人もいる。一人で逃げ出すのはほぼ不可能だ。
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第925話

遥は少し身を乗り出し、口の端を上げて月子の目を見つめた。「どうしてそれが私にとって『おめでたい話』だということが気にならない?」月子は彼女をじっと見つめ、静かに言った。「気になるわよ」母親が亡くなってから、父親の成一は、月子と弟の洵に一度も連絡してこなかった。まるで死んだも同然だった。だから月子にとって、父親はもういないのと同じだった。なのに、突然、遥が現れた。父親に自分たちとは別の娘がいると知ってから、月子はずっと多くの疑問を抱いていた。彼女はどうしても、いくつか確かめたいことがあったのだ。そんな月子の落ち着いた様子を見て、遥はなぜか笑いたくなった。「そりゃ、私も伯母になったんだもん、おめでたいわよね」月子は黙り込んだ。「ってごめんね、子供たちにプレゼントを用意する暇もなくて」それを聞いて月子は眉をひそめた。そして彼女は遥の穏やかで優しそうな顔をじっと見つめて、ただバカバカしいと感じるだけだった。「本気で言ってるの?」「こうして話すのは初めてだし、お互いまだ知らないことばかりだけど」遥は彼女を見つめて言った。「私があなたの姉よ。だからあなたも知らないふりなんてしないでよ」遥がこうもあっさりと本題に入ったのを聞いて、月子はかえって良いと思った。遠回しな言い方は、彼女も好きじゃない。ただ、月子はいろいろな状況を想像していたが、遥がこんな態度で来るとは思ってもみなかった。一体、何がしたいの?仲良し姉妹のふりでもするつもり?これまでずっと姉として生きてきた月子にとって、遥から繰り返し「姉」だと言われるのは、どうにも慣れないことだった。それに、とても奇妙に感じた。自分に、姉が?考えただけでも不思議な気分だった。それなのに遥のほうはすんなりと受け入れているようで、そして姉という役柄をむしろ楽しんでいるかのようだった。遥の態度が読めない。しかしここまで単刀直入に来られると、月子もあれこれ探るのをやめて、まっすぐ問いかけた。「前にうちのクライアントを横取りした件、あれは楓のためだったの?それとも、私を狙ってやったこと?」「最初は楓さんのためだった。でもその過程であなたのことを知って……すごく驚いた。結果的にあなたを傷つけちゃったけど、私は別に申し訳ないなんて思ってない。むしろ、あなたがどんな反
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第926話

経緯を聞いた月子は、遥を見て言った。「その話を、私が信じると思う?」遥はひじ掛けをポンと叩いて認めた。「確かに、全部私の言い分よね。あなたが信じられないのも無理はない。でも、あなたには嘘をつきたくないの」妹が一人増えたことに対して、遥は最初、嫌で仕方なかった。不満だったし、いっそ消えてくれればいいとさえ思った。自分の持っているもの全てを、誰かに奪われたくなかったから。でも、月子のことを知っていくうちに、彼女への見方は変わっていった。月子はいつも予想を遥かに超えるドラマチックな展開を見せてくれたから。すごく個性的で、退屈をさせないところがあって、だから遥の彼女への気持ちは、次第に好奇心へと変わっていったのだ。それに、月子がたくさんの厄介ごとに巻き込まれているのを見て、遥は少し高みの見物を決め込んでいた。月子がどんな反応をするのか、見てみたかったのだ。今回、月子がJ市に来たのは、父親の成一に会うためだろう。遥は最初、それをすごく警戒していた。でも今はもう、月子を止めようとは思わないのだ。1年近く観察してきたし、これまでの月子と成一の関係も知っている。遥には分かっていた。月子は成一に対して、何の情も抱いていないことが。彼女の人生には、もはや父親という存在はもう必要ないのだ。そこで、自分の地位を脅かす存在でないと分かると、遥には月子のことが一層可愛く思えてきた。か弱いのに、全身に棘を立てて強がっているんだから。あんなに大変なことがあっても、成一に助けを求めようともしない。遥は、なんだか胸が痛むような気持ちにさえなった。こうして1年も陰で見守ってきているうちに、遥の心境はどんどん変わっていった。彼女は早く月子に会いたくて、たまらなくなったのだ。だから今日は、遥にとってまさに予想外の嬉しいサプライズだった。だって遥もまさか天音が月子に連絡するなんて、思ってもみなかったから。もし知っていたら、途中で月子を連れ去っていただろう。そうすれば、楓と天音のいざこざから完全に身を引けるわけだし、もっと簡単に楓という愚かな親友を切り捨てることもできたのに。もともと遥が楓に近づいたのは、月子の情報を探るためだった。だけどその目的をもう果たせた今、楓はもう用済みだ。あとはあっさり捨てればいいだけの話だ。だから今、遥の関心は、すべて月子た
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第927話

そもそも、自分たち二人の間に助け合うような関係性はない。それどころか、まるで遥に手玉に取られているような気分だった。彼女が口先だけでいいことを言って、仲良し姉妹ごっこを演じさせられているみたいだ。そう感じた月子は、とても不愉快だった。どうして遥がこんな性格なのか、まったく理解できなかった。少なくとも、自分が思い描いていた「良家のお嬢様」とはかけ離れているのだ。遥は、追いつめられて信じられないという顔で不機嫌になっている月子の様子を見て、少しだけ真顔になった。「一つの行動にはね、たくさんの目的があるものよ。ついでに達成できる目的だってある。それを口にすれば人に好感を持たれるなら、言わない手はないでしょ?」遥は続けた。「月子、あなたがそれでも信じないなら仕方ない。もしくは別の目的の方がもっと納得できるならそれでもいいけど。たとえば、私は楓さんがうっとうしいと思ってて、だから、彼女が厄介ごとに巻き込まれても、私は助けようとせず、むしろ貶めて目的を果たそうとしたとか、こういう理由の方が納得できそうかしら?」そう言われるとこの説明には、妙な説得力があった。そう思いながら聞いていると、話の端々から、遥がとても自分本位な人間だと月子は感じた。平気で人を騙し、自分の嘘を何とも思わない。それに加えていつでも人を陥れられるくらい、冷酷非情な一面も持っているようだ。そう思うと、これまで聞いた遥の話も、もしかしたら嘘かもしれないと思えるのだ。それに遥からわずかな説明を受けたからって、月子が彼女に親しみを覚えるはずもなかった。そうこうしているうちに、相手の性格が少しわかってきたから、月子の警戒心もわずかに和らいだ。彼女は目を細めて、隣に立つ二人のボディーガードに視線をやり、最初からずっと好奇の目で自分を見つめる遥に向き直った。「私を拉致したのも、たまたまってこと?」遥は言った。「本当は前もってあなたを連れ去ろうと思ったの、二人きりでいたかったから。でも、まさか天音さんからの連絡であなたが付いてくるなんてね」月子には理解できなかった。「どうして私と二人きりでいたかったの?」「まだわからない?あなたのことがすごく好きだからよ。あなたに興味津々で、もっと知りたいの。だから、二人きりで話したかった。当たり前のことでしょ?」月子は、真面目な会
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第928話

だけど、それを言われても遥は悪びれる様子もなく、大声で笑った。そして笑い終えると、ボディーガードに目配せをした。ボディーガードはすぐに立ち上がり、場所を空けた。月子の向かいに座っていた遥は、ボディーガードがいた席に移り、彼女の隣に並んで座った。この時、月子も、遥と同じ黒いスウェットを着ていた。姉妹が並んで座っても、雰囲気はまったく違う。目元はそれぞれの母親に似ていて、顔立ちはそれほど似ていなかった。それでも、二人の間には不思議な一体感が漂っていた。遥は突然、月子の腕を掴み、体を寄せてきた。「姉妹の絆なんてこれから育てていけばいいのよ。今まではうまくいかなかったけど、これから仲良くすればいいじゃない」月子は遥の目をじっと見つめた。目は嘘をつけないというから。その瞳の奥に、自分をからかっているような色を探した。でも、そんな様子はまったくなかった。遥がわざとらしく近づいてくるのは、本当に自分と仲良くしたいからなのかもしれない。それは月子にとって、まったくの予想外だった。でも、遥がそうしたいからといって、月子がそれに合わせる必要はないし、彼女の言うことすべてに反応を見せる必要もないのだ。「いつになったら解放してくれるの?」「まだ少ししか話してないのに、もう帰りたいの?」「あなたと話すことなんてない。成一さんに会わせて」冷たくされても、遥は月子の手を離さなかった。「あの人に何を聞きたいの?私に話してよ。もし知っていたら、全部教えてあげるから」月子は少し考えてから言った。「あなたは私より1ヶ月早く生まれてるわよね。成一さんは、結婚している時に浮気したってこと?」「私の母が彼に薬を盛って、まんまとモノにしたのよ」月子は唖然とした。遥は言った。「母がクズなのは認める。彼女が、あなたの両親の仲をめちゃくちゃにしたの。だからあなたの両親は、いつもすれ違っていたのよ」こんな話、翠からは一度も聞いたことがなかった。もし彼女がとっくに知っていたのなら、4年前のうつ病は成一のせいじゃないことになる。じゃあ、原因は何だったの?遥はとても正直で、そして全く隠そうとしなかったようだ。「でも、あなたのお母さんはずっと騙されてた。二人の仲がこじれたのは、母のせいだけじゃないの」月子が尋ねる前に、遥は洗いざらいぶちまけ
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第929話

いつか、両親にかわいがられている子を見たら、寂しくなっちゃうかもしれない。でも、月子の心の支えはもともと母親だけだったから、母親がいなくなった今、これ以上傷つくことはないのだ。ただ、父親には本当にがっかりさせられたし、無責任すぎる。娘として、どうしても割り切れない気持ちがあって、今は落ち込んでるだけ。でも、すぐに忘れられるはず。一方で、遥は月子の気持ちを察して、尋ねた。「まだ成一さんに会いに行きたい?」月子が一度も成一のことを「お父さん」と呼んだことがないから、遥もその呼び方を避けたのだった。「もういいや」月子は言った。「空港まで送ってくれる?」遥は驚いた。「もう帰るの?」「もう他に用事もないし」月子は無表情で答えた。さっきまで遥の様子を探る余裕があったのに、今はもうその気力もなく、ただじっとしていたかっただけなのだ。「ここまで来たのって、子供のためじゃないの?彼らはどこ?」遥は大体のことは知っていても、細かいことまでは調べられなかった。相手はあの鷹司家なのだから。月子は言った。「あなたには関係ないことよ」遥は姉という役割を楽しんでいるようだった。「私はあなたの子供たちの伯母になるのよ。すこし聞いたっていいでしょ?」月子は眉をひそめて彼女を見た。「あなたって本当に変な人ね」「あなたが妹でいることに慣れてないだけでしょ。私はもう姉気分を楽しんでるのに、変だなんてひどいじゃない?」そう言われて、月子は黙っていた。「私はあなたのことが好きだって言ったでしょ。だから力になってあげたいの。そんなに頑なに私を拒まないでくれる?」だけど、月子は信じられなかった。「理由もなく人が人を好きになるなんて、聞いたことがないけど」「1年もあなたのことを見守ってきたんだから」遥は言った。「急に気に掛けたわけじゃないのよ」月子は眉をひそめた。「ずっと私を監視してたってこと?」どうしてこんなにたくさんの人が自分を監視してるの?遥は聞き返した。「あなただって、人を使って私を監視してたじゃない?」月子は言った。「あの時は、あなたが私をつけてると思ったから、しばらく様子を見てただけよ」遥は笑った。「勘は当たってたわよ。K市にいた時、確かにずっとあなたを監視してた。でも、その後はやめたの。だから、その後はたまにあなたの情
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