All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 891 - Chapter 900

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第891話

月子はきょとんとした。ただ眠れって、本当にそれだけ?この前会った時、隼人は無理やりキスをしてきた。そして今日は、予想外のことばかり。だから月子は彼を怖れて、もっとひどいことをされるんじゃないかと考えてしまった。それなのに、隼人はただゆっくり休めとしか言わなかった。一樹に誰かにつけられていると聞いてから、それが隼人だと分かるまで、月子はずっとぐっすり眠れていなかった。さらに忍から電話があってからは、事態は想像もしない方向へ進んでいった。静真が人を遣って自分を監視していたこと。子供たちが隼人に連れ去られたこと。急いで車で駆けつけたら、彼が静真と殴り合っていたこと。そして、隼人の過去の話を聞いてしまったこと……月子は徹夜でS市からJ市へ飛んできたのに、早朝からずっと衝撃的な出来事の連続だったから、この時いくら月子がタフでも、心も体もへとへとで、もう限界だった。隼人にそう言われると、急にどっと疲れが押し寄せてきた。一樹は隼人に追い返されてしまった。車でここに入ってくるとき、警備がかなり厳しいことは分かっている。今の心と体の状態では、子供たちを連れて逃げるなんてできっこない。それよりは、まず体力を回復させて、それから方法を考えた方がいい。たとえば、隼人を怒らせないように、うまく話し合うとか。そうすれば、何か道が開けるかもしれない。とにかく、隼人が本当に自分と子供たちをここに閉じ込めておくなんて、月子は信じたくなかった。そう思って、月子はもう無駄な抵抗はやめて、彼の手を払いのけると、目を閉じて眠る準備に入った。しかし、目を閉じていても、隼人の視線がずっと自分に注がれているのが分かると彼女はとてもリラックスなんてできなかった。そもそも、見つめられて寝ること自体がプレッシャーに感じるし、相手が今縺れ合っている元カレならなおさらだ。月子は仕方なく目を開けた。すると、隼人の手が宙でぴたりと止まっているのに気づいた。自分に見つかったから、慌てて止めたんだろう。月子はビクッと震え、布団にくるまったまま後ずさりして彼を睨みつけた。「何するつもり?」隼人はとても気まずそうに手を引っ込めて、「お休み」と言った。月子は言った。「あなたが出ていかないと、眠れないでしょ」今日の出来事で、月子は隼人という人間が分からなくなっていた。
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第892話

次の瞬間、シャーという音が聞こえた。きっと隼人が何かを操作したんだろう。カーテンが自動で閉まって、部屋はすぐに真っ暗になった。何も見えない。月子がうっすらと目を開けたけど、そこはただの闇だった。でも、隼人はベッドのそばにいる。その気配が、なんだか前よりもっと危なく感じられた。ただ、この暗さは眠るのにはちょうどよかった。月子はもう深く考えるのをやめた。とにかく、今は眠ろう。たぶん、5分くらい経っただろうか。月子は、隼人はもうどこかへ行ったんだと思っていた。でも、突然、彼のとても小さな声が聞こえてきた。「眠ったか?」月子は寝たふりをしようとしたが、体がどうしても正直に反応してしまうのだった。しかし、それでも彼女は布団を引き寄せて、もっときつく体に巻きつけると、何も言わずに、眠っているふりを続けた。片や隼人は暗闇に目が慣れていた。部屋は真っ暗だったけど、物の輪郭くらいは見えた。月子は目を閉じていて、眠っているように見えるが、たぶんまだ起きているんだろう。ただ、彼女が今、静かになったので多分もうここから出ていこうとはしていないだろう。邪魔者の一樹もいないし、もう誰も二人の邪魔をするものはいないのだから、静まり返ったこの場で口にしやすい言葉もあるのだ。そう思って、隼人はゆっくりとまぶたを閉じて、ようやく口を開いた。「お前が眠るのを、邪魔したくはなかったんだ。月子。お前が、俺と一緒に子供のことで悩めないって思った理由が、後になってやっと分かったんだ。俺は気持ちを伝えるのが下手で、お前に安心感とか愛情を十分に感じさせてやれなかったんだな。もし時間を巻き戻せるなら、お前に別れを告げられたあの時に戻れるなら、俺は一度はうなずいたかもしれない。でも、お前が俺を必要とした時は、必ずそばにいられるように、隣に引っ越してでも、お前のそばを離れはしなかっただろう。そして、一緒に乗り越えられるということを、言葉だけじゃなくて、行動で示していたと思う。そうすれば、お前も『この人とならどんな問題も乗り越えられる』って、心から信じてくれたかもしれない。すまなかった。お前のことをちゃんと見てやれなくて。いい彼氏じゃなかった。安心させてやることもできなかった。お前が怖くなってしまった時、俺は引き止めもしないで、ただ去ってしまった……月子、俺が悪か
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第893話

それを聞いて、涙が目尻からこぼれ落ちるのを感じながら、月子はもう何も言えず、ただ目を閉じることしかできなかった。自分は、どうやら強く出られるより優しくされる方が弱いみたいだ。だから、隼人の今のこの優しさは、たとえ偽りだとしても、簡単に心を奪われてしまうようだ。しかも、こんなに素直な言葉が、親しい仲でも気持ちを素直に表現するのが苦手で、怒ってもはっきり言わない隼人の口から出たのだ。これは、とてもすごいことなのだ。そう思っていると、慣れ親しんだ匂いが近づいてきて、おでこにキスが落とされた。月子の体は一瞬こわばったが、彼が離れた時、何かしっとりしたものが顔に落ちてきたような気がした。隼人が泣いたの?まさか?彼の声は、いつも通りだった。「じゃあ、ゆっくり休んで」隼人の声に変わった様子はなく、部屋は真っ暗で、見たくても見えない状態の中、彼の声だけが続けて聞こえてきた。「俺は隣にいるから。目が覚めたら、会いに来るよ」そして、その言葉とともに、隼人は立ち上がって部屋を出て行った。ちょっと説明しただけで、すぐに許してもらえるなんてことはない。しかも許すというのは第一歩でしかなくて、そこからまた信頼関係を築き直さないといけないのだ。今は、隼人が月子に試される時だ。お互いの信頼を再び築き、月子が彼を信じ、頼れるようになるためには時間が必要だった。隼人は静真のように、せっかちで焦ったりはしない。彼はいつも忍耐強く辛抱深いのだ。それに、隼人にとって月子の世話をすること自体が楽しみなのだ。それに加えて今の彼は、ついに月子の体を気遣うだけでなく、彼女の心まで大切にいたわれるようになった。それは月子のぬくもりを貪欲に求める段階から、彼女を守る段階へと変わったということだ。そういった意味で言うと、別れが、隼人を本当に成長させたのだろう。……月子は疲れきっていた。しばらく涙を流した後、ぐったりと眠ってしまった。体力を消耗しすぎていたせいか、一度眠ると夜の8時まで目が覚めず、起きた時にはもう空は真っ暗だった。続いて、彼女は空腹感と、下腹部の鈍い痛み、ぼんやりした頭、そして体の気だるさがを感じるようになった。ほとんど、全身が気持ち悪い。布団をめくりあげて起き上がると、下腹部の痛みが強くなった。もしかして、生理が来るのかも?
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第894話

多分低血糖にもなっているだろう。じゃないと、こんなに目が回るはずない。すごく辛い。一気に体がガタガタになったみたいだ。元カレの前でこんなことになるなんて、月子はなんて無様だろうと思った。でも、床にはカーペットが敷いてあるから、倒れてもそんなに痛くないはず。そうなったら、自分で起き上がればいい。そう思いながら、床に倒れそうになった瞬間、誰かの腕が彼女をさっと抱きとめたのを感じた。すると、月子の体からは、すっかり力が抜けているようだった。そう感じた隼人は眉間にしわを寄せ、再び彼女の額に触れた。「ありがとう」月子は言った。「熱はないと思うけど、ちょっと風邪気味で……離して。自分でバスルームに行けるから」隼人はこんなに弱った月子を一度も見たことがなかったから、胸が締め付けられる思いで、彼の顔色も浮かなかった。「自分が今、どれだけひどい状態か分かってるのか?バスルームで倒れられたら困るだろ。俺が抱いて連れてってやるよ」月子は彼を見つめて、「それは、ちょっと……」と言った。「お前の体が一番大事だ」隼人は有無を言わせぬ低い声で言った。月子は頭を振ってみたけど、余計に目が回るだけだった。低血糖のときは頭を振らないほうがいい。手のひらも痺れてきて、確かに一人でバスルームに行くのは無理そうだった。「ちょっと低血糖みたい」立っているのもやっとなのに、話し方はどこか冷静だ。昔の月子なら、こんな風に強がったりせず、俺に甘えてきたはずなのに、と隼人は思った。別れてから、月子は全部一人で抱え込んでいる。彼女の心は、昔よりずっと硬く、冷たくなってしまった。月子がそうであればあるほど、隼人の胸は痛み、苦しくなり、後悔が募った。くそっ、どうしてあの時、彼女の言葉を鵜呑みにして別れてしまったんだ?自分はなんて意気地なしだったんだ。そう思うと、隼人は苦しくて息が詰まりそうになった。それでも彼は冷静に月子をバスルームへ運び、便座に座らせると、そばにある小さな手すりをしっかり掴むように言った。「すこし待ってろ」隼人の声は低く、有無を言わさないような強引で冷たい口調で言った。病人にそんな態度とる?とか思いつつも月子はその気迫に負けてこくりと頷くことしかできなかった。そして、隼人が部屋を出て行ったかと思うと、2分も経たないうちにすぐ戻って
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第895話

隼人は、どこからかもう一つ取り出すと、また月子の口に押し込んだ。それから、彼女を抱き上げてソファまで運んだ。ちょうどそこへ使用人がワゴンを押して入ってきた。ワゴンには栄養満点の料理が、綺麗な陶器の器に入って並ばれていた。使用人が料理をテーブルに運ぶと、静かに部屋を出ていった。隼人はおかずと取り分けながら、「飴は食べ終わったか?」と月子に尋ねた。月子は数回噛んで、さっと飲み込むと「食べ終わった」と答えた。「口を開けろ」そう言われて月子は隼人を見たが、これ以上あがいてももう無駄だろうと思った。なにしろ、服まで着替えさせてもらったのだから。月子が口を開けると、隼人は今度根気よく彼女にご飯を食べさせてあげた。そして、腹七分になった頃、月子はもう食べたくなくなったようだ。そして、食事がひと段落落ち着くと、月子はようやく寝室の外で医師がずっと待機していることに気が付いた。その医師は、彼女が食べ終わるのを見計らってから入って来ようとしているのだ。それから彼女の体調についていくつか質問したあと医師は薬を処方してくれた。食後30分で飲むようにとのことだった。ほどなく30分が経つと、隼人がその薬を月子に飲ませた。「この薬は飲むと眠くなる。少し休んだら、顔を洗って。そのあとはベッドでちゃんと横になるんだ、いいね?」隼人は、月子の病気が治ったら、人間ドックを受けさせようと考えていた。月子は言った。「子供たちの様子を見てから、顔を洗うわ」「だめだ」「どうして?」「風邪をうつしたいのか?」月子はそのことをすっかり忘れていた。「分かった」それから、隼人は彼女のそばに付き添い、離れようとはしなかった。「あなたは、食事はもう済ませたの?」月子は彼をちらりと見た。「俺のことはいい」隼人の声は冷たく、表情もこわばっていた。その見るからに機嫌が悪そうな感情は顔にありありと出ているのだった。ただでさえ彼は人を寄せ付けないほどの冷たい雰囲気を纏っているのに、そんな顔をされたら、さっきの医師が緊張して固まってしまうのも無理はないだろう。また何で怒っているんだろう。別に怒らせるようなことは何もしていないはずなのに。ずっと大人しくしていたじゃない。最近の隼人はどうしてこんなに気まぐれなんだろう。本当に扱いづらい。彼のその言葉を聞いて
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第896話

いつ寝ちゃったんだろう?ソファーでそのまま寝落ちしちゃったみたい。じゃあ、隼人がベッドまで運んでくれて、そのままずっと付き添ってくれてたってこと?この男って、本当に抜け目がないんだから……でも、さっきは隼人に色々助けてもらった。今ここで彼を追い出すのは、さすがに薄情すぎるよね。月子はそう思い、彼を起こさないようにした。でも、こんな風に誰かと密着するのは本当に久しぶりで、なんだぎこちなく感じつつも懐かしい感覚が蘇ってきて、少し前に隼人と付き合っていた頃に戻ったように感じてしまったのだ。さらに思わず……無意識に手を伸ばして、隼人の体に触れたくなってしまいそうだった。月子は、その染み付いた習慣を必死に抑え込んだ。そしてたった4ヶ月くらいしか経ってないのに、色々なことがありすぎて、もうずっと昔のことのように感じてしまうのだった。月子はもう一度寝ようとした。でも、隼人はただ抱きしめているだけというわけではなかった。彼は彼女をまるで抱き枕のようにして、体をぎゅっと掴んで離さなかった。風邪が治りきっていないせいもあって、午後に目が覚めた時ほどではないけど、それでも彼女には抵抗する気力はなかった。自分が痩せたからかな。前は隼人がこんなに大きいとは思わなかったけど、今の体格差がありすぎるのだ。お腹に回された彼の腕は長くて力強くて、本当に自分の足よりも太いんじゃないかってくらい。この人、なんでこんなにがっしりしてるの?その体だけで、すごい圧迫感があった。こんな風に抱きしめられ続けたら窒息してしまうんじゃないかとさえ思えた。そこで月子は、隼人を軽く押してみた。すると、彼はすぐに目を覚ました。隼人が目を開けるのを見て、月子は思わず視線をそらした。「苦しい」月子の声には力が入らない。だから彼にこんなに強く抱きしめられても、動かずにじっとしていられたんだろう。月子の声を聞いて、隼人はすぐに腕の力を緩めた。そして体を起こすと、部屋の隅の明かりを頼りに彼女の顔色を伺いながら、まるで医師のように、「少しは良くなったか?」と尋ねた。その声は優しかったけど、どこか張り詰めたような響きがあった。月子は、彼がまだ不機嫌なのが分かった。だって隼人の全身からどんよりとした威圧感を感じたからだ。やっぱり慣れない。昔
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第897話

月子は今、少し様子の違う隼人にどう接していいのか、本当に分からなくなっていた。あまりに親密すぎると、月子は付き合っていた頃のように、無意識に彼に甘えてしまうかもしれない。それは今の状況では、ふさわしくないだろう。でも、かといって冷たく突き放すのも違う。もしそうなら、病気の月子のことは全部使用人に任せて、隼人は距離を置くはずだ。なのに、彼はこんなに優しく看病してくれている。だから、完全に他人の素振りをするわけにもいかなかった。かといって、この状況に恋人同士のようになんでも素直に話し合えるわけでもない。なにやら近くも遠い関係のように感じ、うまく距離感がつかめないでいる。二人の間には、透明な壁が一枚あるようだった。だから、どうにもぎこちなくなってしまう。でも月子はこの違いが嫌いではなかった。以前はほとんど彼女から隼人に「今、何してるの?」と尋ねてばかりで、だんだん疲れてしまっていたから。今の月子は話す気力もなかった。病気で弱っている時は、いつもみたいに明るく振舞うことなんてできないのだから。月子にだって落ち込む時だってあるし、今はなおさらそんな時だった。だから、月子は自分の体の調子に正直に従うことにした。力が出ないなら出ないまま、黙っていたいなら黙っていようと。自分が気まずくなければ、それでいい。それに、あのいつもクールですましている隼人がどんな反応をするのか、見てみたい気もした。予想外のことにも、長く待つ必要はなかった。1、2秒も経たないうちに、隼人が口を開いた。「俺のことが心配か?」月子は顔色ひとつ変えず、薄暗い明かりの下で彼の目を見て言った。「普通の友達としての心配よ……静真に深く刺された後、私を抱いて階段を上がったりしたでしょ?傷口、本当に開いたりしてないの?」隼人は、月子の優しさに心が温かくなった。時々、彼は不思議に思う。月子はこんなにいい子なのに。彼女を尊重して、普通に接するだけで、ちゃんと応えてくれる。それなのに、静真は月子をどんどん追い詰めて遠ざけた。普通は、そこまでできないはずだ。隼人は彼女の頬に触れたかった。抱きしめて話したかった。でも、今はまだそんなことができないので、必死にこらえた。「友達としてか、それでも心配してくれるのは嬉しいよ」月子は、はっとした。隼人は続けた。「
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第898話

「彼の容態が知りたいの」月子からすれば、二人の関係がどれだけこじれていようと、命のやり取りまでする必要はないと思っていた。それに病気や怪我は一大事だ。もし彩乃が入院でもしたら、自分はどこにいようと駆けつけて、そばにいるだろう。それはもう、彼女の習慣であり本能のようなものだった。「急所は外した。血管も傷つけていないはずだ。でも、俺の傷よりは重いだろうけど……もう岩崎さんに連絡した。静真は大丈夫だそうだ」隼人は不機嫌そうだ。また嫉妬しているのだろう。別れてから気づいたけど、彼ってすごくヤキモチ妬きだったんだ。今日、静真のそばにいた和装の男性が、きっと正人だったのだろう。月子は一度も会ったことがなかった。「銃の扱いがそんなに上手かったの?」隼人は彼女の言葉に隠された感情を察して答えた。「心配させて、すまなかった」月子もそれなり世渡りをしてきたから、大物にも会う機会はあった。でも、初めて銃を見たのはG市でのことだ。あそこは法律が違うからまだ納得できたけど、まさか隼人も持っているなんて。しかも手慣れた様子だから、きっと専門的に訓練を受けたからだろう。こんな危険なこと、めったに経験しない。だから、とても衝撃的だった。本当に、住む世界が違う人みたい。月子は少し間を置いて、彼の謝罪には触れなかった。元カレと接するには、なるべく当たり障りなくするのが一番だ。「もう、午後の時よりずっと良くなったから。ここにいてもらわなくても大丈夫。いろいろと、ありがとう」月子のよそよそしい言葉を聞いて、隼人はまた彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。再会した時から、月子への渇望はずっと彼の胸の中に渦巻いていた。すぐにでも昔の関係に戻りたい。でも、月子の心の壁がなくなるまでは、怖がらせたり嫌がらせたりするようなことはしないように気を付けながらも、彼女に近づくチャンスは決して逃さないようにしないと。隼人は、月子への強い想いを、はっきりと示す必要があった。4か月も姿を消して彼女を不安にさせ、信頼を失わせてしまったからだ。まずは月子に安心感を与えなければならない。そうやって、ゆっくりと彼女の不信感を取り除き、改めて信頼を築いていく必要があった。だから、完全に月子の言う通りにするわけにはいかなくても、彼女の気持ちは尊重しなければならない。隼人はその絶妙
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第899話

月子は、二人の間の距離を確かめた。「月子、俺は今、人としてかなり危うい状態にある。危険な男だ。でも、お前にもしないと誓えるよ。それに、俺がもし本気で何かするつもりなら、チャンスはいくらでもあったはずだろ」とそんな風に真剣に語る隼人の目は、暗く沈んでいて、かえって危険な色を増していた。そう感じた月子の体は一瞬こわばったが、隼人は何かをする様子はなく、ただ彼女から1メートルほど離れた場所に仰向けで横になっているだけで、両手も大人しく組んでいて、なんともお行儀のよい寝姿だった。「お休み、月子。まだ夜中の1時だ。風邪のときは寝るのが一番の薬なんだよ。お前はもともと体力がないんだから、睡眠は特に大事だ」隼人は首を傾けて彼女を見た。それを聞いて月子はまんまとはめられたように感じた。だって彼はもう横になってしまったし、今さら追い出すこともできないだろうから。そう思って、彼女も隼人との間にはっきりと距離を取りながら大人しく横になった。そして寒気を感じた月子は布団にくるまった。でも、さっき彼に抱きしめられた時の温かさとは比べ物にならない。体力がひどく落ち込んでいる上に風邪まで引いて、免疫力が下がっているせいか、思うように体調は回復していかなかった。しばらく眠っていたが、月子は寒さで震えだした。そこで彼女はさらにきつく布団を体に巻きつけようとして、夢うつつの中、隼人の布団まで奪おうとしていた。なにせ、彼女にはそれすら構っていられないほど寒くてたまらなかったからだ。月子は自分をミノムシのように布団で包み、再び眠りについた。まもなく、誰かがその温かい布団を引っ張っているのを感じた。「引っ張らないで」彼女はギュッと目を閉じたまま、寝ぼけ声でつぶやいた。でも、布団はやっぱり剥がされてしまった。月子は腹を立て、目を閉じたまま不機嫌になった。しかし、次の瞬間、彼女は誰かの腕の中に引き寄せられていた。押してみたけど、びくともしない。でも、心地よい温もりに包み込まれると、彼女はその腕から離れがたくなった。押しのけるどころか、自らその胸元にすり寄ってしまい、手も自分から相手の腰に回していた。まるで昔に戻ったみたいに、無意識に手が服の裾から滑り込み、あちこちを探るように撫でた。すぐに、触れている筋肉がこわばるのを感じた。月子は夢を見て
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第900話

そう言う隼人は、まるで腕利きの看護師のように、月子のスケジュールをきっちり管理していた。ベッドのそばに立つ彼の姿は威圧感があり、言うことを聞かなければ機嫌を損ねてしまい、黙っていても怒っているのがわかるから、従うしかなかった。だが、月子は内心驚いた。あれ、もう引き下がったのか?そう思いつつも月子は言われた通りにベッドから降りた。すると次の瞬間、隼人に抱えられ、ひょいと持ち上げられた。月子は、彼のシャープな顎のラインを見つめた。くそっ、また機嫌を損ねてしまったのか。あの優しかった隼人はどこへ行ったの?今は何かというとすぐ怒るじゃない。昨日は彼が怒っていた理由は分からなかったが、今日の機嫌が悪い理由は簡単だ。ふんっ。こっちだって、キスしたくないんだから、しょうがないでしょ?バスルームに近づくと、隼人は彼女を床に下ろした。すると、月子は不機嫌そうに言った。「鷹司社長、もしご機嫌斜めなら、私を帰してくれればいいでしょ。そうすれば、私がここであなたを怒らせることもないじゃない。私も子供と家に帰って、最近起きたことを整理できるし、気分が落ち着いたら、また話し合えるはずよ。あなたの機嫌を損ね続けるようなことはしないからさ」もともと逆らえない相手だ。ましてや今は彼のテリトリーにいるのだから、自分はなんて無力なんだろう。隼人は冷たく、有無を言わせぬ口調で言った。「駄目だ」「……なんなの、あなた。私のことが気に入らないのに、帰してくれないなんて。ほら、私、あなたにたくさん迷惑をかけてるじゃない。なんだか申し訳ないじゃない」「俺はお前に困らされるのが好きなんだ。もし申し訳ないと思うなら、埋め合わせの方法を考えればいい」月子は思わず眉を吊り上げた。J市社交界の誰をも寄せ付けないクールな御曹司が、どうしてこんなに厚かましくなれるのだろう?子供を盗まれ、監視までされていたのに、彼は謝罪の一言もない。月子は呆れて鼻で笑った。「あなたって……」隼人は月子の後ろに立つと、ぴったりと背中を合わせ、両腕を彼女の腰に回した。そして肩に顔をうずめて言った。「キスが駄目なら、抱きしめるのはいいだろ?」すると、月子は首筋から全身にかけて鳥肌が立った。なんでこんなやっかいな大物に懐かれてしまったんだろう。そして彼女が洗面を終えてから、
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