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All Chapters of おにぎり恋愛日和!!: Chapter 11 - Chapter 20

98 Chapters

第11話

特別に俺が取っておいてあげてもいいけど。と、どこからか聞こえてきたが、私自身は新選組題材の舞台にテンションが最骨頂に盛り上がっていた。 これはきっと殺陣が間近で観れるチャンスである。あれやこれやが実際に見れるかもと思えば、正直天にも昇る気分だ。あ〜もう無理、沖田総司尊い。 とんでもない情報を貰ってしまったと思ったのと同時に、天音さんに恩を売っておいてよかったと過去の自分に拍手した。ちゃんと授業のノートを取った過去の自分に拍手。 「絶対にチケット戦争に勝利してみせます!」 「だから俺が特別に、」 「あっそうだ天音さん!お腹空いていませんか?」 「お腹?・・・まぁ空いていないわけじゃないけど」 そう聞いて私はふっふっふっとここぞとばかりに、鞄から特製おにぎりを取り出した。 出てきたものに天音さんは「おにぎり?」と不思議そうな目で、2つの三角を見つめる。 「天音さんいつもゾンビ見たいな顔しているので、良ければ食べて下さい!教えてくれたお礼です!」 「・・・アンタさ、よく面と向かってそういう事言えるよね。一応俺アイドルやってんだけど」 「健康にはまず栄養補給ですからね!」 本当はバイトの前に食べようと思っていたおにぎり。きっと天音さんは食堂や飲食店に行ったところで、ゆっくり食べることは出来ないだろう。どうしても視線を気にしてしまって休憩が休憩にならなはずだ。 そう思って、彼におにぎりを献上してみた。なにぶん、今の私は機嫌がとても良い。 「あっもしかして手作りのものって事務所から禁止されてたりします?」 「いや、そんなことないけど」 今日は、特製焼きおにぎりである。 水と一緒にしょうゆとだしとみりんを加えて炊き上げたもの。炊き上がった時点でおこげは出来ているが、さらに今朝フライパンに並べてごま油で焼いてきたのだ しょうゆとごま油の香ばしい香りが、冷めても香ってくる。 「別に無理しなくていいですからね。食べなくても私の胃に入るだけですので」 「いや、食べる」 天音さんはおにぎりをひとつ手に取って、食べ始めてくれた。 せっかくだったら海苔も付けていたら良かったと、私はどんどんなくなっていく焼きおにぎりを見つめる。どうやら口に合わないわけではないらしい。 その様子を眺めながら、ふと疑問
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第12話

でもなぁ、うーん。とひとりで悶々と考えている間に、天音さんは2つ目の焼きおにぎりに手を付けていた。取り敢えずアイドル様のお口に合ったようでなによりである。 「せめて3食ちゃんとしたものを食べてはどうですか?」 「ちゃんとしたものって?」 「ごはんと味噌汁とおかず2品とか・・・」 言ったそばから私の方が頭を抱える。そんなこと言ったって無理なものは無理じゃん。多忙を極める天音さんに3食を食べろと?どれほどの仕事量かは知らないが、あのゾンビの表情を見たら相当激務な筈だ。 でも、ちゃんとしたものを食べないと身体には良くないよなぁ。 そう考えていた時、とある案が私の頭に湧いてきた。 「そうだ。天音さん、お弁当をデリバリーしてみたらどうですか?」 「デリバリー?」 我ながら良いことを思いついた。 「私のバイト先、お弁当屋さんなんです」 これは見事なファインプレーだと、「ふふふ」と笑みが漏れる。 私がアルバイトをしている『まごころ屋』は、最近デリバリーを始めたのだ。 老夫婦が営むこじんまりとしたお弁当屋で、今までは配達が出来なかった。というのも、忙しい昼時にご夫婦のどちらかが抜けるわけにもいかないし、車やバイクが無くて配達の手段がなかったことも要因の1つだった。 そこで、今流行りのシステムを取り入れたのだ。 注文が入ると配達員がお弁当を受け取りに来てくれて、お客さんの元へ配達をしてくれるのだ。 人気スマホアプリに『まごころ屋』が参加したことで、注文をしてくれる客層の幅も広がって、売り上げも伸びて、店主も大いに喜んでいた。 「キャッシュレスで前もって支払えますし、置き配にしてもらったら天音さんの顔もバレずに済みます」 「・・・確かにそれは良いかもね」 「うちの日替わり弁当、栄養バランスも考えられていますし、その時食べられなくても持ち運び出来ますよ」   これならば天音さんだって家にいても出先でもうちの美味しくて栄養の整ったお弁当が食べられる。我ながらベストアイデア!!!と満足気になった私は「どうでしょう?!」と前のめりになって尋ねた。 「これで寝不足解消で大御所俳優を怒らせることもなく───、」 「なく?」 「・・・ナクナリマス。スミマセン」 勢いのまま口から出てきた週刊誌の記事。デリカシーのない女に思われる。慌てて口を噤むが、
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第13話 人使いの荒い彼とそのお仲間さん

いくつもの雑居ビルが立ち並ぶ街中。 大通りの割には通行人が少ない道で、私は不審者の如くきょろきょろと顔を右往左往させながら立ち尽くしていた。 もう一度トーク画面を開いて、地図を確認する。本屋さんを左に曲がったところまでは絶対に合っているはず。その先の右手に目的地はあるはずなのだ。全国の郵便局員さんは凄い。大尊敬。じゃなくて、目的地はどこですか。 「うーん、確かこの辺だと思うんだけどなぁ」 お弁当が冷めないうちに渡したいのだが、如何せん場所が分かりにくい。 白い建物と言われてもこの辺り全部同じような建物ばかりじゃないか。 確かに「目印になるものもないから迷わないように」と教えてくれたけど、何の解決にもなっていないことを今更気付く。 なぜ、彼は出前アプリで注文しなかったんだ。 肩を落とした私は、今頃「遅い」と悪態をついているであろう男の顔を思い浮かべる。 ───事の始まりは1時間前。まごころ屋に掛かってきた一本の電話だった。 "お電話ありがとうございます。まごころ屋です" "・・・青山?" "え"っ・・・この声はまさか、" "あー、丁度良かった。お弁当、届けてくんない?" 丁度手が空いていた私が電話に出ると、相手はまさかの天音さんだったのだ。私の声だと直ぐに分かったらしい彼は、早速お弁当の注文をしてきた。 確かにテイクアウトも出来るとは言ったが、まさか本人自ら電話を掛けてくるだなんて。出前アプリをおすすめした意味は何処へ。 "今日何時上がり?" "13時ですけど" "じゃ、携帯に地図送っておくから" 私が?天音さんの所に配達するの?と疑問符パラダイスだった私を置き去りにして、彼は「アンタのおすすめの弁当でいいから。3個ね」と、そう言い残し電話を切ってしまったのだ。 さらには場所もよく分からないし、絶対にアプリから頼んだ方が早かったに違いない。何度かメッセージアプリに連絡するも無視。いや、仕事中かもしれないからそこは理解しているけども。 「人使い荒すぎないか・・・?」 「遅い」 電話して迎えにきてもらおうかと思ったその時、斜め後ろから不穏な声が聞こえてきた。 その声にもちろん聞き覚えがある私は、ギギギとロボットのように首だけを回した。 「・・・天音さん、こんちには」 「はい、こんにちは」 にこり、と意味深な笑みを浮
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第14話

なかなか姿を見せない私を心配して迎えにきてくれたのだろうか。 そう思っていたが、たまたま天音さんが窓に顔を寄せた時に、阿呆ズラで外を歩いている私を見つけたらしい。 阿呆ズラってさすがに失礼しすぎやしないか。せっかくお弁当持ってきたのに。そう思いながらも「むむむ」と文句を飲み込む私に天音さんはさらに攻撃を仕掛けてくる。 「方向音痴なの?」 「違います」 「まぁどうでもいいけどさ」 だが、特に興味はないらしい。 まぁ深入りされたところで面白味のある話なんて出来ないけれど。それに方向音痴に関して多少自覚はあるので、その辺りは静かに黙っておく。 「多分冷えきってはいないので、早めにどうぞ」 早速、本日の日替わり弁当が3個入ったビニール袋を渡した。 今日の主菜は鶏肉の香草焼きで、副菜はきんぴらごぼうとほうれん草の胡麻和え。主食はもち麦入りの白米である。 栄養価も彩りも綺麗に取れて、素材の味を生かした味付けはシンプルだが温かさを感じる。まごころ屋でもランキング上位の人気メニューだった。 「私も味見させてもらったんです。とても美味しかったですよ」 このクオリティで580円だからかなりコスパが良い。学生やお小遣い制のサラリーマンにはもってこいだ。 彼こそお金は沢山持っているかもしれないが、安いに越したことはないだろう。それに高いからって全てが栄養価が良いものかは限らない。 「天音さん?」 しかし、なかなか天音さんはお弁当を受け取ろうとはしない。 どうしたものかと首を傾げている私に、彼は周囲に軽く目を配ってから口を開く。 「とにかく中に入って」 「は?何で?・・・でしょうか」 「今現金持ってないし、携帯も置いてきたから」 それに誰かに見られたら大変でしょ。そう言って天音さんはビルの中に入っていってしまった。もちろん私の心配じゃなくて、自分の心配だということは分かっている。 (・・・そういえば天音さん、全然変装してなかった) 以前『一般人と週刊誌にすっぱ抜かれるような真似、するワケないでしょ』と豪語していた天音さん。信憑性がなさすぎやしませんか。 *** お世辞にも綺麗とは言えない外観のビル。天音さんが建物の中に入って行ってしまったことで、再びひとりになった私は声をかけられた。 「えぇ、誰?・・・もしかして追っかけ?」 いや、あ
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第15話

よく顔が見えないけれどこの人も天音さんみたく顔が整っていた。 天音さんも例にもれなくそうだが、目の前の人からも芸能人オーラを感じる。雰囲気からイケメンっぽいのだ。なんて思っていた時、とある予想が私の頭をよぎった。 「えっ待って下さい。もしかして、あなたは───」 「お待たせ・・・って、何だ。瑠衣もいたんだ」  話しかけたその途中で、天音さんの登場。財布を片手に出てきた天音さんは、新たな登場人物に気付いて、私そっちのけでその人に声を掛けた。 「早かったね」 「うん。撮影が早く終わったから」 「昼まだ?」 「まだ食べてないけど」 「そ。じゃあ丁度良かった」 「練習前に飯にしない?」と、”ルイさん”とフランクに会話を進めていく天音さん。仲睦まじ気に話す2人の様子を見学しながら、私は心の中で叫ぶ。  いや、その前に早くお弁当を受け取ってくれないですかね。流石に手が引き千切れそうなんですが、と。  その思いが伝わったのか、助け舟を出してくれたのは”ルイさん”の方だった。 「本当にお弁当屋さんだったんだね」  悪質なファンではないことが分かったからか、先ほどよりも随分と柔らかい口調になった彼。様子からしてどうやら警戒心を解いてくれたのだろうと安堵する。 「えぇ、まぁ。ってか天音さん、早く受け取ってくれません?お弁当冷めちゃうし・・・あ、もしかしてここ電子レンジとかあります?」 「あるわけないでしょ。はい、お弁当代ね」 「じゃあ早く食べて下さいよ!急いで持ってきたんですから!」 「アホ面で迷子になってたのはアンタでしょ」  こう言えば正論で返してくる天音さん。  ぐぬぬ、と口元をキュッと閉める私。  そりゃあ迷子になって遅れたのは申し訳ないけれど、方向音痴の私に配達を強制させた天音さんの所為でもあるはず。え、責任転嫁だろうって?もちろんここはご都合主義で。そんな言葉は私の辞書にはない。  淡々とした口調で私を蔑んでいた天音さんは、お弁当代とは別に500円を持って「はいはい、これでジュースでも飲みな」と私にくれる。  思わず「やった」と声が出ると、彼は鼻を鳴らして笑う。絶対今、子どもだと馬鹿にしただろう。 「いいんですか?!はっ・・・後で倍にして返せなんて言いませんよね?」 「はぁ?言うわけないでしょ。俺のことなんだと思ってんの
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第16話

「でも珍しいね。光春くんがここまで素を出すのって」 「えっ素でこれって、天音さん性格悪・・・」 「・・・・」 「ブファッ君面白いね!光春くんにそこまで言えるなんて」  何かがツボに入ったらしく、ついにお腹を抱えて笑い始めてしまう。どうやら彼はかなりの笑い上戸らしい。  置いて行かれた私と天音さんは、目の前で笑い転げているこの人をただ眺めるしかなかった。さすがの私でも初対面の人にそこまで笑われたら、イラッとするものがこみ上げてくる。 「いやぁ、ごめんね」  そう言いながらも笑いを堪え切れていない彼は、するすると変装を解いていく。次第に露わになっていくその顔を見て、私はやっぱりと心の中で呟いた。予想していた人物と合致した。 「僕は秋吉瑠衣。よろしくね、・・・えっと」 「青山三鈴です」 「三鈴ちゃん。さっきはごめんね。タチの悪いファンの子だと思っちゃって、きつい態度取っちゃった」 「いえ、こちらこそすみません。・・・voyageの人ですよ、ね」  確認するように天音さんをちらりと見ると、彼は「ちゃんと調べたんだ」と頷いてくれる。そりゃあもちろん調べましたよ、voyageのメンバーくらい。    秋吉瑠衣くん。メンバーの中で1番身長が低くて、ベビーフェイス。愛嬌の良さと人懐っこい性格で、voyageの可愛い系ポジションを確立している人だ。 「・・・僕のこと、もしかして知らなかった?」 「最近、お名前を知ったくらいで・・・詳しくは、すみません」 「マジで?」  秋吉さんはぱっちり二重のまるい目をさらに丸くさせる。そして「一応これでも売れてるとは思ってたんだけどなぁ」と、ケラケラと人の良さそうな顔で笑ってくれた。どこぞかのプライドがエベレスト級の男とは違い、穏やかで優しい人である。 「で、2人はどういう関係なの?」 「同じ学部の人」  答えたのは天音さんだった。すると秋吉さんは「あぁ、」と声を上げる。 「大学の友達ね。それにしても、女の子の友達作ってくるなんて驚いたな」  プライベートの友達なんて1人もいないのかと思ってた。と、意外そうに告げる。確かに大学でも常に1人で、メンバー以外の友人の話を聞いたことはない。小さい頃から芸能界にいたみたいだし、昔から友だちを作るのも難しかったのかもしれない。 「まぁ煩わしくないし、ノート見
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第17話

「瑠衣、練習入る前にお弁当食べなよ」 「はーい。じゃあ有難くいただこうかな」  お腹ぺこぺこだったんだ、とお腹をさすりながら笑う。早朝からドラマの撮影があってお昼ご飯を食べ損ねてしまったらしい。「腹が減っては戦はできぬって言いますもんね」と返したら、なぜか天音さんに微妙な顔をされた。きっとワードセンスが古すぎるとか何とか思っているのだろう。そんなこと自覚済みである。 「今度僕らのライブ見においでよ。ね、光春くん」 「・・・気が向いたらチケット用意してあげる」  来てもいいのか、来てほしくないのか、どちらでも捉えられるような言葉で返した天音さんに秋吉さんは「もー!」と口を膨らませる。その辺の女の子が同じことをしたらあざとい人にしか見えないのに、どうしてそんなに純粋に可愛くなるのだろう。 「またそんな意地悪言って。じゃあ三鈴ちゃん、またね」  最後に微笑んで居なくなってしまった秋吉さん。こうも間近にイケメンに笑顔を向けられたら、いくらアイドルに興味がなかった私でもときめいてしまうものだ。  100点満点のあざと可愛さに、足元がふわふわと落ち着かないほどに浮かれてしまう。 天音さんと2人きりになった空間で、私は「なんか、」と口を開く。 「何?」 「秋山さんって、アイドルって感じですね。人気の理由が分かる気がします」  とにかくきらきらしてる、本当にきらきらしてる。芸能人オーラ、みたいなものを肌で感じてしまった。感激した私がぼけぇっと秋吉さんが入っていったドアを見つめていると、隣から不機嫌そうな声が入ってくる。 「俺はアイドルっぽくないってこと?」 「・・・・・・」  あれ、ナチュラルに地雷でも踏んでしまったかな。  天音さんも芸能人に変わりはないが、正直な話こうも暫く一緒にいると見慣れてきた感は否めない。  そもそも初対面がthe不健康人間だったから、きらきらしていたかと思い返すと分からないのだ。こんなことを言ったら失礼に聞こえるかもしれないけれど、アイドルだって普通に人間なんだと拍子抜けしたくらいである。 「・・・いやいや、決してそういうわけでは」 「へぇ」 「あっ天音さんにも良いところがあるじゃないですか」  あはは、と誤魔化すように笑ってみる。十人十色とか、みんな違ってみんな良いとか、そんな言葉もあるじゃないですか。そう
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第18話 ウェルカムto修羅場

ひと月前の私が、今の私を知ったら驚くだろう。 「おはよう」 「おはよー天音くん」 「今日のおにぎりなに?」 「今日はシンプルに梅干しおにぎりです」 大学3年生になってはや1ヶ月。驚異的なスピードで、私と天音さんは仲良くなっていることに。誰がこんな展開を予想出来ただろうか。ちなみに「まるでドラマの世界みたい!」なんて、ここから恋愛に発展する訳ではない。 私たちは男女の友情の成立を証明している。 先日お弁当をスタジオまで届けて以来、同い年だから敬語も"さん"もやめてくれない?と言われた私。それからは、天音くんと呼ばせて頂いている。 「食べる?」 「食べる」 「梅干しは疲労回復になるから身体に良いよ」 そして、このように突然おにぎりを強請ってくる時もあれば、私がバイト中だと知るとお弁当のテイクアウトをしていくことも増えた。さらに「今日は天気が良いね」「昨日何食べた?」なんて他愛も無い会話をすることだってある。 「はい、どうぞ」 「アンタは食べないの?」 「んー・・・今は甘いものが食べたい気分なんだよね」 すると天音くんは何かを思い出したようにバッグの中を弄る。 「じゃあお礼にコレあげる」 「えっ待って、高級チョコだ・・・!」 出てきたのは某有名チョコレートショップのお菓子だった。ひと粒数百円する高級チョコである。「貰っちゃっていいの?!」と尋ねると、彼はどうぞと頷いた。どうやら昨日事務所の人に貰ったっきりカバンの中に入れっぱなしだったらしい。 「天音くんは甘いもの苦手だったりする?」 「苦手じゃないけど、あまり進んでは食べないかな」 「そっか。じゃあ遠慮なく頂きます」 早速その場で箱を開けて、定番のトリュフをひと粒口に放り込む。その瞬間に広がってくる甘さに思わず目を見開いた。 「美味しい・・・!美味しいよ天音くん!」 「ん。おにぎりもごちそうさま」 まぁ話は戻るとして。とにかく私と天音くんは誰がどう見ても立派な友達になりつつあるのだ。 芸能人と一般人、というよりも友達感覚の方が近くなってきた。そう思うのは私だけでは無かったらしい。 なんと一緒に授業を受ける学生も、なんだかんだ天音くんの存在に慣れてきているのだ。講義室内に天音さんがいても騒々しくならず、なんなら「おはよう」なんて軽く声を掛けては居なくなるのだ。 「
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第19話

なぜ、誰も、ツッコまないのだ。ここにトップアイドル天音光春がいますよ。と、叫びたいところだが彼は煩わしいのは苦手だと言っていたから口を閉ざしておく。チョコレートのお礼だ。友達としての優しさも添える。 「まぁリンチに合わないだけ良しとしよう」 「さっきから独り言凄いけど」 「耳障りでしたか。すみません」 「は?そんな事言ってないでしょ」 天音さんは「俺にも分かるように話してって言ってんの」と不機嫌そうになる。 "独り言凄いけど"の言葉にそんな意味まで含まれるなんて、さすがに汲み取るのは無理だ。どこまでのレベルを求められているのだろう。私は神様か。 それに私生活と学業以外に手を抜く事を許さない天音さんだ。きっとエベレスト級のレベルを求められるに違いない。 「天音さんと一緒にいたら絶対に恨み買われたり刺されたりすると思ってたんですけど」 「そんな物騒なこと考えてたの」 「意外とそんなに怯えること無かったなって」 この学部限定のお話だけれど。 つまり、私は平和ボケしていたのだ。 ───面等向かって、罵声を浴びたのはこの日が人生初だった。 「調子に乗るのもいい加減にして!この勘違い女!」 「?・・・はぁ」 「っアンタが付き纏う所為で、天音くんも迷惑してるんだから」 事件はここ、学生食堂で起きている。 1限目を終えた私が朝ごはんがてらベーカリーで買ってきたカレーパンを食べていた時。突如現れた女は大きく音を立ててテーブルを叩いたのだ。ここにワイングラスがあったら絶対に倒れるほどの振動レベルである。 ダンッと鳴った音は食堂に響き、多くはないが十数人のギャラリーがこちらへちらちらと視線を向けてくる。 居心地の悪さを感じながらも、どうしようかとこの場の切り抜け方だけを考えていた。なるべく波風を立たせたくはないのだが、人間関係のトラブルを経験してこなかった私には難題である。 しかし彼女は無視されたと勘違いしたらしい。 「ふざけるのも大概にして!天音くんの隣を歩けるような顔でもない癖にッ」 さらに怒りのボルテージが上がって、ひたすら罵声を飛ばしてくる。 いろいろ言いたいことはあるのだが、まだ午前中でしかも昨夜ゲームのし過ぎで睡眠不足だった私はいまいち頭が働いていなかった。 「いい?!金輪際、天音くんに近付かないで。アンタみたいな人に言い
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第20話

うるさ、と思わず言いたくなったがこれ以上機嫌を損ねることはしまいと、口をつぐんだ。こんなことになるなら食堂にこなきゃ良かったと後悔。 なんだなんだと、ギャラリーの注目も痛いほど浴びてしまう。女の喧嘩ほど野次馬らの話にネタになるものはあるまい。 その渦中に自分がいると思うと、ため息もつきたくなるものだ。まだ学生が集中する昼時じゃなかっただけ幸いだけど。 「何よその顔。文句でも言いたいの?あぁ、天音くんは私のものだとか言いたいわけ?」 「いや、別に」 「あー愉快ね。勘違いも甚だしい」 どんどん話が勝手に進んでいっている。人の話を聞けやこら、なんて心の中の自分の口がどんどん悪くなっていく。 勘違いも甚だしいなんて、それはこっちのセリフだ。そもそも付き纏ってはいないし、なんなら天音くんの方から「今どこ?」って確認の連絡がくるくらいだ。私がいつどこで言い寄ったことがある。はい証拠不十分で不起訴。 それに天音くんが私と一緒にいる理由なんて、ただノートを見せて欲しいだけである。それだけの関係性。でも、そう説明したところで彼女の怒りは収まりはしないだろう。 「いい?天音くんに近付こうもんなら、こっちだって手段を選ばないから」 「あの、」 「まだ何が言いたいことがあるの?」 いや、さっきから殆ど喋っていませんが。早く言ってみなさいよ、と云わんばかりの形相で詰め寄ってくる。聞く耳を持たなかったのはどこの誰だよ。 理不尽!!!と今にも叫びたいけれど、ぐっとその気持ちを抑えた上で口を開く。 「あの、」 そして私は彼女を見据えた。 「天音さん、煩わしい人は苦手って言ってたので、もう少し喋り方とか佇まいとか静かにされた方が良いですよ」 確かに今目の前で躍起になっている女の人は綺麗な人だと思う。髪の毛も綺麗に巻かれていて、ジェルネイルをして爪も整えていて、たわわなお胸(2回目)で、黙って居たら凄く良い女である。 それに比べたら私なんて、最低限のお化粧しかしていないし、ご飯作るのに邪魔になるから爪は何もしていないし、髪の毛もセットが面倒で常にストレートだ。 女っ気もない私だけど。 でも、この人よりは天音くんに気に入られる自信はあった。 だから、これは本音にアドバイスのつもりだった。 あまり煩く喚かない方が天音くんと仲良くなれるかもよ、そのつもりで言っ
last updateLast Updated : 2025-07-09
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