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第51話

ソファ座ってて。と言われた通りに、3人掛けの革張りのソファに腰をかけた。サイドに毛布が無造作に掛かっていて、もしかしなくても天音くんはココで昨日は寝たのだろうと察する。来客なのに大きいベッドを取ってしまって申し訳なかったな。そうぼーっと思いながら沈むソファに身を沈めていると、目の前のローテーブルにことりとマグカップが置かれる。「はい。熱いから気をつけて」「ありがとう天音くん」お礼を告げてマグカップを手に取る。モノクロの部屋に浮いている薄いピンク色のこのマグカップは少し前に天音くんが私専用にと買ってきたものだ。聞けば2個セット割引になったらしく、自分の水色のマグカップと一緒に買ったらしい。水色なんて彼にしたら珍しいチョイスだと思ったが、今思えば天音くんのイメージカラーは青である。手帳だったりキーケースだったり、確かにちょこちょこ青色の小物を持っていたことを思い出す。「今日が土曜日で良かった・・・。天音くん、今日仕事は?」「午後から撮影。それだけだから今日はゆっくりするつもり」来週からまた忙しくなるから。そう言いながら私と一人分の距離を開けて隣に座った。そうだそうだ、たまには休め。休める時には休んだ方がいい。なんて思いながらゆったりとコーヒーを飲んでいるが、朝一から家に入り浸っている私はかなり迷惑に違いない。「ごめんね。私が朝から入り浸っちゃって」「迷惑だったら昨日タクシーに押し込んででも帰したよ」「今度から外に放り投げてもらっていいから」「は?できるわけないでしょ。もっと自分を大事にしたら」私は苦笑する。もっと自分を大事にしたらって、出会った頃に私が天音くんに思っていたことである。まさかここにきてブーメランを食らうとは。そう思うとなんだか面白くなってきて、肩を揺らすほどに笑ってしまう。「何で笑ってるの」「んーん。何でもない。ちょっと思い出し笑いしただけ」そして私はその場から立ち上がった。突然動いた私に天音くんは驚いた様にこちらを見る。「お腹空かない?朝ごはん作るよ」せっかくのゆっくりできるお休みの日。そんな日こそ美味しい朝ごはんを天音くんには食べて欲しい。そこまで彼の為に動く理由は、もうお節介だけの理由じゃないことは薄々感じ始めていた。───以前よりも充実した冷蔵庫の中。時間がある時には自炊にもチャレンジしているみたいで、卵とベーコンは
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第52話

「何作るの?」「何が食べたい?」「おにぎり」「了解。あとはお味噌汁と・・・軽いおかず作っちゃうね」相変わらずおにぎりが好きだなぁと思いながら、メニューを決めていく。「何か手伝う?」「ううん。ゆっくりしてて良いよ」そう言うと天音くんは何か言いた気な顔をしながら、ソファに戻っていった。別に邪魔だとかそんなつもりはないけれど、この朝食は一晩中ベッドを占領してしまった私の懺悔なのだ。それに午後から仕事なんだから、今だけはゆっくりして欲しい。兎にも角にも、今は朝ご飯の準備。まずは大事なおにぎり。レトルトのパックご飯もあるけれど、せっかくならば炊きたてのご飯が食べたい。私が天音くんの家に出入りする様になってから、精白米も常備である。多めに2合分を量って軽く洗米する。そして炊飯器、ではなくお鍋に入れて計量した水も入れる。蓋をして強火にかけてあとは沸騰するまで待つ。その間に味噌汁とおかずの準備。出汁をとる時間はない為、顆粒だしを加えて具材を放り込む。本当は豆腐や油揚げを入れたかったけれど、今回は乾燥わかめだけで十分だろう。ご飯を炊いているお鍋が沸騰し出した為、弱火に変える。ここから10分。「炊飯器使ってないの?」暇なのか再び姿を見せた天音くんは不思議そうにお鍋を見つめる。「たまには良いかなって」「ご飯って、炊飯器使わなくても炊けるんだ」「私的にはお鍋で炊いた方がつやつやだしふっくらしてるし好きかな」「ふーん。その卵は何に使うの?」「だし巻き卵にしようかなって」おかずは卵を使ってだし巻き卵を作ることにした。豪華に3個分の溶き卵に出汁と塩と砂糖を加えて味をつける。調理器具だけは揃っている為、卵焼き器を取り出して油を引いた。綺麗に巻くのは最後だけで良いから、途中までは形を整える程度に寄せていく。「卵焼きって難しいよね」「練習したら誰だって上手にできるよ」弱火にして10分経ったご飯のお鍋。最後に10秒間だけ強火にして余分な水分を飛ばす。そして蓋の下に布巾を敷いて10分ほど蒸らせば完成だ。「貴臣でも?」そう言われて一瞬言葉が出なかった。天音くんの情報によると貴ちゃんはお米を洗剤で洗おうとするくらいに、料理スキルが壊滅的らしい。そして過去に2回ほど料理が爆発して火災報知器が鳴ったとか鳴らなかったとか。「・・・うん、大丈夫だよ。・・・きっと」まぁ料理は練
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第53話

「もうすぐ出来上がるよ」「ん。箸とお茶の準備しとく」「ありがとう」大方出来たところで、最後はおにぎりの仕上げ。炊きたての美味しいご飯だから、今回はシンプルに梅干しおにぎりの予定である。手を水につけて、軽く塩を取る。ご飯は熱いけれどもうこれは経験だ。もう気合いである。梅干しを包み込んで、三角形に成形。以前も梅干しおにぎりを渡したことはあるけれど、今日はもう一段階レベルアップだ。手巻き寿司用の大きい海苔を軽く火に炙る。これはIHじゃ出来ない。色が変わり、良い匂いが充満する。温かいおにぎりを包むとすぐにしなしなになってしまうから、食べる直前に巻いてもらおう。ここからはラストスパート。だし巻き卵を切ってお皿に並べる。ここに大根おろしを添えたらもっと美味しいだろう。ほうれん草の胡麻和えは小鉢に盛り付けて終わり。おにぎりは天音くん用に2個、私用に1個作って、残ったご飯は冷凍しておく。そして忘れてはいけないお味噌汁。お味噌を入れるのは火から下ろしてから。そうすることで味噌の風味が飛ばなくて美味しく出来る。お椀に注いでダイニングデーブルまで運んだ。これにて青山三鈴特製の朝食が完成である。「それじゃあ、いただきます」「いただきます」「足りなかったら遠慮なく言ってね」早速実食タイム・・・と、いきたいところだけど、天音くんの反応が気になってまだ箸を取らずに緑茶を飲む。うん、美味しい。絶対にお高い茶葉だろう。色も味もすごく澄んでいる。天音くんはまず味噌汁をひと口。ごくりと喉が上下する様子を見つめながら、再びお茶を啜った。すると見られていることに気付いたのか、彼は「何?」と箸を止める。「・・・美味しいかなって」あぁ、そういうこと。そんな顔をした天音くんは迷うことなく、次のように言葉を並べた。「毎日飲みたいくらいには美味いよ」ほら、またそういうこと言う。「・・・最近の天音くん、びっくりするくらいに良い人だよね」そして天音くんの表情はやけに年相応に見えることがある。普通の大学生のように、喜怒哀楽をちゃんと見せるようになった。「そう?」今も楽しそうに頬を緩めて笑っている。その顔を見ると何だか絆されているような気分になる。何も言えなくなるんだよなぁとこのもどかしさをいつも歯を食いしばっているのだ。
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第54話

「ちゃんとそう見えているんだったら良いけど」「役作りの一貫だったりするの?」「恋愛映画のオファー来てるんでしょ?」と尋ねると、何で知ってるのと云わんばかりに口をひん曲げた。もちろん貴ちゃん情報である。そう伝えると「アイツ・・・」とブツブツ文句を言っていた。後で言おうと思ったのに、と呟く彼は私が貴ちゃんから先に情報を得ていたことが気に食わないらしい。「どう思う?」「何が?」「映画。恋愛ものとかしたことないから、正直迷ってるんだよね」何を迷う必要があるのだろうか。私はすぐに「良いと思うよ」と返す。こんなにはっきりと言われるとは思わなかったのだろうか、天音くんは「そっか」と動揺を見せる。「だってもっと沢山の人に天音くんが見て貰えるってことでしょ」「そもそも演技経験少ないし、批判も沢山くるかも」「本物のファンだったら思わないよ」そう背中を押す行動に、夏樹くんの顔が頭にチラつくけれど新しく経験を積むチャンスがあるのならば何だって体当たりした方が良い。「アンタも?」「うん。夏樹くんだって言ってたよ。天音くんにはまだまだ潜在的な才能があるって」「・・・・」「あーごめんごめん。夏樹くんの名前はカットで」貴ちゃんといい、夏樹くんといい、あまり他の男性の名前を出すとすぐに無言になる。「まぁ・・・前向きに考えてみるよ」「うん。私も公開初日に観に行くからね」きっと天音くんだって最初からオファーを受けるつもりだったはずだ。彼の言う前向きはほぼ確定なのは知っている。「ごちそうさまでした」「お粗末様でした」それから天音くんは朝ごはんを綺麗に平らげてくれた。お鍋で炊いたご飯のおにぎりにも感動してくれていたし、おかずも「美味しい」「美味しい」と言いながらも食べてくらた。これはもう私冥理に尽きる。最後にお茶を飲みながら、天音くんは「さっきの話だけど」と口を開いた。「別に役作りでも何でもないから」「そうなの?ん〜・・・じゃあキャラ変とか?」「それも違うから」そう言われて首を捻る。他の答えが出てこない私の正面で、天音くんは食器を重ねて席を立った。そして私を見下ろして、口角を上げる。「点数稼ぎだから」「え?」「だって、今のままじゃまだ良い返事もらえなさそうだしね」「・・・え、」慌てて声を上げる私を置いて、天音くんは「ごちそうさま」とキッチンに消えてしまった。「・・・これ
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第55話 聖なる夜、君に贈る歌

Christmas Live 〜 happiness to you 〜本日は12月25日。天音くんと出会って半年と少し。私は初めてvoyageのライブ会場へ足を運んでいた。こう改めて思うと、やはり彼らの人気は凄いのだと実感する。さっきも会場の周りはvoyageのファンで混雑しており、激しい人波に流されて入り口とは別の方向に向かっていた。幸い"関係者"入口から入るようにと連絡を受けていた私は、どうにかスタッフに名前を告げて無事に入ることが出来たのだ。この前天音くんに「来週のクリスマスライブ、来るでしょ?」と当たり前かのように言われたが、チケット戦争に敗れていた私。なかなかファンクラブに入ったばかりの新参者には難しいらしい。チケットが無いことを伝えると、なぜか天音くんは「関係者席に通すようにもう手配してるけど」と首を傾げていた。関係者席に私のような一般人はちょっと無理があるのでは無いかと返したら、「だって関係者でしょ」と言われて何も言えなくなってしまった。まぁでも来て見たら、関係者席で良かったと思う。客席にいる女の子たちはみんな気合が入っていることが遠目でも分かるくらいにばっちり身だしなみを整えてきているし、なによりファンによる団結力が凄い。騒いで喜ぶよりも噛み締めるタイプの私は、きっと彼女たちと同じ温度では入れないだろう。比較的静かな関係者席は、如何にも"業界人"みたいな人が多い。黙っておけば静かに溶け込めているような気がした。開演17時00分。次第に暗転する会場。きらきらと4色のサイリウムだけが、この空間を照らす光となる。ゆらりゆらりと揺れる光が広がって、私の心臓も同じように揺れているかのようにドキドキした。初めて味わうこの空気感が、まだ見たことのない世界へ連れて行ってくれる。まさに私の人生が、色鮮やかになった瞬間だった。「ChristmasLive!聖なる夜に僕たちvoyageが皆さまに送捧げる時間、一緒に楽しんで行こうね」リーダー、夏樹くんの登場を皮切りに全員がステージ上に現れた。同時に響き渡る悲鳴に近いファンの歓声。どっと湧き上がった会場。こんな一瞬で一体感が生まれるなんて、ライブって凄い。今までライブDVDは見てきたけど、生の現場は凄い。臨場感にどきどきとしていると、始まった最初の曲。「Raise The Flag」直訳
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第56話

「貴ちゃん凄い・・・バク転ってやつかな」貴ちゃんのアクロバットは流石だ。重力に逆らうように軽々しくバク転をする姿はそれはもう格好良かった。それに身体も大きいから動きも大きく見えて、テレビで見るよりも迫力がある。あの泣き虫貴ちゃんにこんな身体能力があったとは驚きである。「瑠衣くん」瑠衣くんのダンスを食い入るように見る。この軽い身のこなし。体幹がとてもいいのだろう。激しいダンスの中でも全くブレがないというか、安定しているというか。あんなに可愛い顔をしているのに、あんな格好良いロックナンバーを余裕な顔で踊っているなんて。ギャップの塊の鬼だ。そして。2番のサビが終わり、Cメロ。少し落とした照明の中、ひとりスポットライトを浴びたのは天音くん。「・・・かっこいい」初めて生で見るアイドル天音光春の姿に、思わずそう呟いていた。最初の一曲で、ぐわっと心を奪われたかのような衝撃が身体中を巡る。基本MCは夏樹くんを中心に貴ちゃんと2人で回している。2人のテンポの良い掛け合いに、ファンの人も楽しそうに笑っていた。たまに瑠衣くんが天音くんを揶揄って、天音くんが少し怒る。いつもの下りなんだろうなぁと思うと同時に、仕事中とプライベートも同じ距離感であまり変わらないと感じる。いつもの彼らだ。それからはもう圧巻のステージだった。この前のドラマ主題歌だった曲や、アルバムに収録されているソロ曲。どんどん進んでいくライブ中・・・もうはっきり言ってしまおう。ずっと天音くんを目で追っていた。次の曲に行く流れての途中に、夏樹くんが「そういえば、」とMCを続ける。「今から歌うのは、実は新曲なんだ」その声に会場全体の熱気が上がる。来月1月20日にCDがリリースされるらしいその曲を、ここで初披露するらしい。1月20日といえば私の誕生日だなぁ、なんてぼんやり思っていた私を「実は」とまた夏樹くんの声で引き戻される。「光春が作詞を担当したんだよ」その瞬間、どっと客席が騒々しくなる。瑠衣くんも「珍しいでしょ?初挑戦だもんね、光春くん?」と回すと、彼は「自信作過ぎて震えた」と告げる。それに対して「確かにめっちゃ良い曲!」と乗っかった貴ちゃんが笑う。すごいなぁ、ちゃんと新しいことにチャレンジしているんだ。と、この前の会話を思い出す。映画のオファーを受けるか悩んでいた時に「挑戦は無駄にな
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第57話

間違いなく、その瞳は私を捕らえていた。だってほら、今も。遠くにいる君の瞳の中に私が映っているような気がするのだ。一本の線で繋がったかのように合わさる視線に、私はゴクリと唾を飲み込む。「それでは聞いて下さい。voyageの新曲───親愛なる君へ」どくりと、強く心臓が波打った。どきりなんて可愛いものじゃない。息が詰まるほどの衝撃が身体全体を走って、全ての思考が停止する。冬なのに身体が真夏かのように熱くなって、反射的に落ち着かせようと身体が無意識に大きく息を吸って吐き出す。「あー・・・本当に、もう、」天音くんのソロから始まる新曲。ひとつひとつの歌詞が、言葉が、鼓膜を通って私の心に落ちてくる。私たちが出会った春からの日々をなぞらえた、言ってしまえばラブレターに近いものだった。様々な情景が頭を過っていく。こんな感覚初めてだ。泣きたいわけじゃないのに、涙が勝手に浮かんでくる。言葉で表すのはとても難しいけれど、でも全然嫌じゃない。むしろ───「こんなのずるいなぁ、」天音光春という人間をひとりの男として認識した次の瞬間には、全て身も心も持っていかれていたのだ。目の前にいるのはアイドルの天音光春なのに、今私の目の前にいるのはいつも隣にいた天音くんだった。実を言うと、それからのことはよく頭に入ってこなかった。曲もMCも何もかも。考えることは天音くんのことばかりで、他のことが入り込む余地すらないほどに、いっぱいいっぱいになっていた。 気付いた時にはアンコールも終わり、退場が始まっていた。とにかく場に合わせるように一緒に会場を出ると、物販の列やファンクラブ入会の列が出来ていて、避けるようにして入り口付近で一度立ち止まる。とにかく気持ちを落ち着かせたい、その一心で鞄の中からペットボトルのお茶を取り出そうと手を忍ばせる。するとタイミングよく携帯の画面が発光した。「新着メッセージ一件」と。「もう会場出た?」それが天音くんからのメッセージだというだけで、どきどきする。気づかないふりをしようかと思ったけれど、時間を開けるのもなんだかワザとらしく思われそうで冷静に「入り口の所にいるよ」と返す。するとすぐに既読がついて、「楽屋においで」と連絡がくる。「いや、楽屋って言われてもどうしたら、」そんな私の気持ちが届いたかのように「近くのスタッフ捕まえて話通して
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第58話

「お、おつかれ、さまです」暫くして通されたのはvoyageの楽屋。スタッフの人に促されるようにして入ると、丁度全員が揃って談笑していた。こう眺めているとやっぱり彼らはアイドルで、一般人の私とは別世界で生きているのだと実感する。あれだけ圧倒されてしまったら、近づくのも少し躊躇うくらいだ。すると私に気付いた貴ちゃんが「三鈴じゃん!」と手招きをしてくれる。そのにっかりとした明るい笑顔に、あぁいつもの貴ちゃんだと安心した。少し心が軽くなって、緊張感が解けていく。「え、三鈴ちゃん来てたの?全然気付かなかった」「いたよ、関係者席の前方にね」「えっ夏樹くん知ってたの?!」どうやら天音くんは私が来ていることを言っていなかったらしい。夏樹くんだけは客席に私がいることを序盤で気付いたらしいのだ。「もー言ってくれたらファンサしたのにぃ」瑠衣くんは口を尖らせながら指でハートを作る。確かにファンの人で「指ハートして♡」のうちわを持っていた人がちらほらいた気がする。「で、どうだった?俺らのライブ!」「うん。すっごい凄かった!格好良かった!」一夜限りのChristmasLive。国民的クリスマスソングをカバーして歌っていたり、雪が本当に降っているかのような演出があったり、通常のライブツアーとはひと味違うライブになった。「感動しすぎちゃって実はちょっと泣いちゃったんだよね」歌やダンスはもちろんだけど、voyageのメンバー全員がファンの人たちを楽しませよう喜ばせようとするその思いが伝わってくるライブだった。いろんな思いが交差しすぎてライブ序盤で涙が出てきたのは自分でもびっくりである。まぁ途中から放心状態だったから正直記憶があやふやだけど。「みんな歌もダンスすごいし、トークも上手だし、やっぱ生で見るライブは全然違うね…!!凄く楽しかった」「そう言ってもらえて嬉しいよ」来年もライブツアーするから、見に来てね。と夏樹くんは笑顔を浮かべる。それはもう絶対に見に行きたい。今度はちゃんとペンライトもうちわもマフラータオルも買って、ファンとして会いに行きたい。「うん!絶対行く!今度は差し入れ持ってくるよ」「じゃあお弁当でも持ってきてもらおうかな」夏樹くんは「配達してくれるんだよね?」と笑う。もちろん配達ということならライブの時じゃなくてもいつでも持っていけると、私は彼に告げた。
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第59話

「じゃあまた年明けに───」「ちょっと待って」すると天音くんは自分の荷物が置いてあるスペースまで動き、鞄の中をガサガサと物色し始めた。何だろうと待っていると、彼はとあるモノを持って私の元まで歩いてくる。目に入ってきたそれを見て、思わず私は目を見開いた。「・・・これ、」「今日クリスマスでしょ」手渡されたのは細長い箱だった。ブランドを見ると、確かこの前同じ講義室にいた女子学生が「バイト代貯めて買っちゃった!」と騒いでいたそのお店と一緒のもの。まさか、とは思いながらもそのリボンに手を掛ける。「開けてもいい?」「ん」青の箱に掛かっていた白いリボンをするすると解いていく。まだライブの高揚感が抜けていないのか、それとも天音くんの前で緊張しているのかその手は少し震えていた。紐解いてぱかりとその蓋をあける。その中に鎮座していたソレに、私は目を開いた。「───わ、とっても綺麗」中に入っていたのはシルバーネックレスだった。そして、これはもしかしてダイヤモンドだろうか。少し青みがかった綺麗な石が付いている。シンプルなデザインだが、モノの良さは素人の目からでもよく分かる。動かすとキラキラと光るそれを、見つめていた私に「ネックレスだったらバイト中とか料理する時にわざわざはずさなくていいでしょ」と告げる。「でも、いいの?わたし、何も準備できてないよ」「別にいいよ。見返り求めてあげたわけじゃないし」「えぇ・・・でも、」これ、高かったでしょ。なんて早々お金の話をするのもあれである。まさか、クリスマスプレゼントを用意していただなんて思いもしなかった。お返しをしたいけれど、何をプレゼントしたらいいかパッと頭には浮かんでこなかった。うーん、と頭を捻っていた私を見て彼はくすりと笑った。「じゃあ保留にしててよ」「保留?」どうせ私だけが貰って申し訳ないとか何とか思ってるんでしょ。と考えていることをお見通しだった天音くんは「保留」にしてと提案を持ちかける。「何か欲しいものがあったら言うから。それでいい?」「っ・・・うん!大丈夫!」 どうせなら天音くんがちゃんと欲しいものをプレゼントしてあげたい。まぁ私の場合バイト代と要相談だけれど。かといって安いものをあげる訳には行かないから、アルバイトのシフトをもう少し増やしてもらおうかなと考える。「それで、どうだった?」彼はペットボト
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第60話 光に照らされる君の横顔は世界一綺麗で

クリスマスライブから6日。あの日以来、天音くんとは会っていない。と、言うのも私もアルバイトに勤しみ、天音くんも年末は複数の歌番組出演で忙しかったからである。それに直接顔を合わせていないだけで、定期的にメッセージアプリに連絡は来ているのだ。今日の20時から歌番組の生放送あるから見て。とか、差し入れでもらった高級あんぱん。とか、個人トークは彼のSNS化している。voyageの公式サイトで同じように呟いたら、ファンの子ももっと喜ぶのにな。そう思いながらも口には出さず、私もちまちまと返事を返していた。まぁとにかく、特にここ数日は連絡がマメなのだ。「ふふ、」それが何だか可愛く思えて、メッセージが来るたびに頰が緩んでしまうがいる。猫が懐いてくれた気分である。猫みたい、だなんてそんなこと本人には言えないけれど。 過去のやり取りをスクロールして見返していると、丁度「今何してるの?」と天音くんからメッセージが届いた。「えっと・・・家でごろごろしてるよ、っと」そう、私はひとりでごろごろしている。ちなみに今日は12月31日の大晦日。両親はニューヨークにいる為、今年の年越しはひとりなのだ。別に寂しくはないけれど、ひとりだからかもうすぐ今年が終わってしまう実感が全くない。未だ、あのクリスマスライブの余韻に浸っていた。するとぽこんとトーク画面に現れたスタンプ。くまさんが「羨ましい」としょんぼりしている。そう言いながらも仕事が「嫌だ」と言わないのは、天音くんらしい。そんな彼は今日の22時から事務所をあげてのカウントダウンライブがある。それも、テレビで生放送をするのだ。連絡が返ってくるということは、おそらく今は休憩中なのだろう。「今日、家でカウントダウンライブ見るね」と送ると、それはすぐに既読がついて「頑張る」と返信が来た。そして続くようにもう1つのメッセージが届く。「一緒に初日の出見に行こう」* * *年明けとはあっという間なものである。生放送ライブを見ていたら、いつの間にか年が明ける1分前になっていて、心の準備ができる前に画面の向こうで「ハッピーニューイヤー!」とアイドルたちが叫んでいた。今は除夜の鐘をBGMにしながら、約束の時間の午前5時45分を待っている。カウントダウンライブが終わって直ぐに「寝ないでよ」と連絡が来ていたけど、こんな日は逆に目が冴
last updateLast Updated : 2025-07-11
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