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第41話 みんな違ってみんな良いんだよ

「お疲れ様です」「おー青山、お疲れー」「あ!三鈴ちゃん来た。五限まで大変だね」久しぶりに新選組同好会に顔を出すと、もう19時過ぎているのに先輩たちが勢揃いしていた。既に就活を終えて残りは卒業論文だけとなった先輩たちだが、こうして今もサークル部屋に入り浸っていることが多い。私も今年で単位が取れそうなので、このままいけば来年は先輩たちみたいに悠々自適な生活が送れるはずだ。まぁ就活と卒論というラスボスが待ち構えているけれど。「天音くん、三鈴ちゃん来たよ」来年から化粧品メーカーに就職が決まった友岡夏実先輩は、私に背を向けてイヤホンで音楽を聴いていた天音くんに声をかける。ジェスチャーに気付いた彼は首だけ動かして、私を視界に入れた。「お疲れ」「うん。天音くんも仕事お疲れ様」「三鈴ちゃんが来るまで、ここで待ってたんだよ」天音氏も立派なうちの部員だな、と豪快に笑う和田先輩は証券会社に就職するらしい。ちなみにサークル長である近藤先輩と来年結婚することが決まった。苗字に一目惚れしたことが始まりらしい。結婚式で浅葱色の羽織を着たいと言っていたが、家族に大反対されていると頭を悩ませていた。「仕事長引いて、講義が終わる数分前にしか着かなかったんだよね」「もう帰っちゃえば良かったのに。後でノートの写メ送るね」「ん。いつも助かる」まぁサークルの先輩情報は置いておいて、なんだかんだ天音くんも新選組同好会に馴染んでいた。全員アイドルやイケメンよりも歴史上の人物がタイプらしく、アイドル天音光春にそう騒ぐこともなく受け入れているのだ。天音くんも居心地が良いのか、こうしてサークル部屋で私を待っていることも少なくはない。「あっそうだ。三鈴ちゃん」思い出したように友岡先輩が私の名前を呼ぶ。「何ですか?」「この前言ってた合コン、三鈴ちゃんどうする?」「合コン?」突如出てきた合コンの話題。「ほら。もうすぐクリスマスじゃん。独り身ってやっぱり悲しいよねぇ」そう言われて「あぁ、」と思い出す。先月だっただろうか。確かに先輩とそんな類の話になった。というか先輩は毎年この時期になると決まって「独り身は悲しいよ〜寂しいよ〜」と言っているのだ。クリスマスの風物詩といっても過言ではない。しかし今年はチャンスがある、と鼻息荒くしていた先輩に何事かと問えば合コンに参加することになったらしい。それも
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第42話

大学を出て、閑散とした道を2人並んで歩く。「今日は特に寒いね」「ん」「私も帽子とか被ろうかな。暖かそう」天音くんを改めて見ると、今日はかなり完全装備である。いつもの帽子にマスク、さらには伊達メガネも。綺麗な顔がほとんど隠されている状態だった。変装、というより寧ろ不審者。理由を問うと、外の空気を吸いながら散歩したいとのこと。ひとりで行けばいいのにと思ったが、話し相手が欲しいらしい。話を聞くだけだったらお安い御用である。それから私たちは天音くんの家からそれほど遠くない大きな公園にきた。池の周りを囲むように散歩コースがあり、この時間でもランニングしている人もちらほらいる。昼間やお花見シーズンは人で溢れる人気スポットだが、肌寒い季節の夜になると少ないものだ。暫く歩いた先にあった池のほとりにある三人掛けようのベンチに座った天音くん。自然と空いていた右隣に、私もゆっくり腰を下ろした。そして始まったのはいつもの世間話。授業の話や最近の芸能人のゴシップ話。今度食べたいご飯のリクエストや今度始まるライブツアーなど他愛もない話ばかりだ。日常となったお喋りに、最初はいつものように返していた。けれど、私は気付いている。「天音くん、何かあった?」何か調子がおかしいのだ。そう感じ始めたのはvoyageが所属している事務所で行われているグループ対抗オーディションが始まってからだ。審査は事務所の上役とファン投票によって決められる。優勝したグループには次期オリンピックのテーマソングに抜擢されるのだ。主な審査ポイントは5つ。自分たちで作り上げる楽曲のクオリティ。ダンス、歌唱力、ステージ演出、ファンサ。5項目の合計点で競うらしい。グループだけでは無く個人のパフォーマンスも重要視されるらしいのだ。参加グループ数は15。そのうち先日発表された途中経過は3位らしいと貴ちゃんが連絡をくれた。その数ヶ月間規模で行われているオーディション。その手の話題が出るたびに天音くんが考え込むことはよくあった。プライドの高い彼のことだから何も私に言いはしなかったが、相当悩んでいたのだろう。 いつもの私だったら仕事の話に口出しはしない。まぁ私に助けを乞いたところで何と力になれないから、正直尋ねられても天音くんの為になるような事は言えないだろう。でも、今日。初めて仕事の話に入り込んだ。「
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第43話

曰く、千堂夏樹は歌唱力がメンバーの中でも飛び抜けて上手い。そして圧倒的存在感を醸し、リーダーの素質を十分金揃えている人物である。曰く、冬木貴臣は普段チャラけているように見えるが、コミニュケーション力が高くて人との距離を詰めるのが上手い。業界人とのパイプを作るのも得意である。曰く、秋吉瑠衣のキャラの安定感は凄い。芸能界のあざと可愛いの代表格の称号を得て、さらにダンススキルは事務所の中でもトップクラスである。「そう考えると、俺には何もないなって。何かを極めようとしても壁が高いんだよね。努力したところで叶いっこないって思うくらいに、皆は凄い」レベルが高くて気が遠くなりそう。そう吐き出すように呟かれる。劣等感を滲ませている顔だった。珍しく弱気な天音くんだった。私のような凡人には誰かが凄いんじゃなくて全員が同じように輝いているように見えるけれど、彼からみたら全然違うように見えるらしい。私は決して天音くんだけが劣っているなんて思ったことはなかった。けれど、今の天音くんにそんなことを言ったって、気休めの言葉くらいにしか思えないだろう。彼は多分、そんな辺鄙な言葉は求めていない。その次に、どんな言葉を掛けようか。少し間を置いてから私はぽつりと零すようにに口を開いた。「・・・この前ね、外でご飯食べてたらお店のお姉さんが困ってたんだ。海外のお客さんに上手く伝えられなくて、お互いに困っていたみたいで」ふと過ってきたのは数日前の出来事。同好会の先輩と飲んでいた日のことである。お酒を飲みながらおつまみが来るのを待っていた時、たまたま隣のテーブルにいたのは英語圏の観光客の人だった。「これはどんな料理だ」と英語で尋ねられているが店員さんは上手く聞き取れなくて、お客さんも言いたいことが伝わらなくて困っていたのだ。「だからね、私通訳したんだ。たまたま英語だったからね。そしたらすっごい外国の人にもお礼言われて、お姉さんにもお礼言われてデザートサービスしてくれたんだ」このまま見て見ぬ振りするのも何だか罪悪感があって、店員さんとお客さんの間に割り込んでしまった。すると外国人の人にもお店側にももの凄く何度もお礼を言われた。君のお陰で美味しいジャパニーズディナーが出来たと、握手を求められたくらいだ。今思い出してもふっと笑みが溢れてしまう。「その時にさ。あぁ今の私って存在価値がすごい
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第44話

「それに、その悩みに気づけたってことはさ。天音くんがちゃんと周りを見てる証拠じゃん」「いつものエベレスト級のプライドはどこにいったの」と、そう告げると、天音くんは自覚があったのか少し顔を歪めて黙り込んでしまった。彼がこんな感じだと私も調子が狂ってしまう。「負けん気の強さはピカイチだと思うよ」「それって褒め言葉?」「褒め言葉だよ」「それだけ貪欲になるくらいに、一番になりたいってことでしょ」その為に努力して、身も心も時間も削って、我武者羅に頑張ってきた。その過程があるからこそのプライドであって、ただ単にプライドを高く持っているだけの人とは違う。人の良さを認めることが出来る素直さも持っている人間なのだ。だからこそ自分にはないものだと劣等感を抱いてしまうのだろう。それは、ちゃんとグループの人達も分かっているはずだ。だって私よりも何倍もの長い時間を一緒に過ごしているんだから。きっとアイドルとしての天音光春の凄さを語るには私では役不足だろう。「・・・もう帰ろっか。ずっとこんな寒い中で喋ってたら風邪ひくよ」少し1人で語り過ぎてしまった。小っ恥ずかしくなってきた私はベンチから立ち上がって、帰り道へ足を伸ばす。ずっと冷え込んだ空気に晒されて、指先が痛くなるほどには身体が冷え切っていた。「もうお鍋が食べたくなる季節だね。シンプルにちゃんこ鍋が食べたいな」お出汁に薄口醤油の味付け。長ネギ沢山食べたいな。薬味は柚子胡椒がいいな。それで最後のシメは雑炊。卵を入れて、ネギを散らしたら絶対に美味しい。想像するだけでお腹が空いてきた。天音くんとお鍋するんだったら家族用の大きいお鍋を用意した方がいいかもしれない。その時、突然右手がぬくもりに包まれた。「・・・天音くん?」「お願い、今だけ」 今だけは、何も言わないで。目でそう訴えられたような気がした。するりとそのまま手を繋がれたまま、天音くん導かれるように私は前に足を進める。シンと静まり返る公園に響く2人分の足音。この無言が辛い訳ではないが、"いつも"のようにお喋りがしたかった。しかし言葉を探しては、諦めての繰り返し。どうしたらいいのだろうかと、神様に縋るように月を見上げていた。そういえば、こうやって天音くんの後ろ姿見るの久しぶりかもしれない。最初の頃は天音さんの後ろを着いていくことが多かった。でもそれは怒っている訳で
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第45話 誘拐×お茶会×脅し

私の名前は青山三鈴。22歳の現役大学生。ひょんなことから誘拐されることになりました。事の始まりは十数分前。午後の授業が休講になった上にバイトも休みだった私が、るんるん気分で家に直行しようと大学の門を通り抜けたその時だった。黒塗りのバンが歩いていた私の隣に横付けされて、あれよこれよと乗っていた彼ら(犯人ともいう)に引きずり込まれたのだ。誰がどう見ても、普通に拉致誘拐である。「お疲れ三鈴。ちょ〜っと時間貰うぜ」犯人の1人であるタカオミ・フユキ。運転席でハンドルを切りながら、現状の理解が追いついていない私を面白がっていた。ニヒルな笑みを浮かべて、その顔じゃなかったら警察に通報していたところである。「ごめんね〜三鈴ちゃん。後で美味しいスイーツ買ってくるから許して?」犯人のもう1人であるルイ・アキヨシは「ごめんね♡」と伝家の宝刀“あざと可愛い”顔で謝るが、私の腕を掴む手の力は全然可愛くない。本当は文句を言ってやりたいところだが、スイーツに免じで今は大人しくしようと思う。「どこに向かってるの?」まぁ元から抵抗する気も無いので、私は早々と身体の力を抜いて座席に身を預けた。ここで窓を開けて「助けて!」なんて騒いでみろ。彼らだけではなく国民も悲鳴をあげるだろう。「事務所」 質問に答えてくれたのは貴ちゃんだった。なぜ事務所に?そう疑問に思った私の隣で「夏樹くん?さっき捕獲したよ。あと10分くらいて着くから」と瑠衣くんが電話で話していた。なるほど、夏樹くんが主犯格だな。3人がグルだと分かったところで、自然と頭に浮かんできたのはもちろん天音くんの顔だった。さて、彼はこのことを知っているのだろうか。助手席はもちろん後部座席にも天音くんの姿はない。私が拉致されていることを彼は知っているのだろうか。そう思ったが、わざわざ「今から誘拐するけど大丈夫?」なんて了解を取る人なんていないだろう。それに私を事務所に連れて行きたいのならば、天音くんを通してからの方がスムーズだろう。以前のようにお弁当の配達だとか言って呼び出した方が自然だ。つまり、天音くんはこの現状を知らない。知らされていないのだろう。学校終わりに待ち伏せしたのも、きっと彼が別案件の仕事で一緒に居ないことを知っていたからだ。「なんだか、人質にでもされる気分です」「うーん。あながち間違いじゃないかもねぇ」「
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第46話

主犯格だろう彼は一体私に何の用があって呼び出したのだろうか。まごころ屋の配達なら喜んで承るが、どうやらそんな空気じゃないのは分かっている。「さ、冷えているうちにタルトでも食べなよ」「・・・頂きます」とりあえず言われるがままタルトに手をつける。ぴかぴかと宝石みたいに光る果物をひとくち。思わず「うわ、美味しい」と言葉が漏れてしまった。さすが有名タルト店のお菓子である。きっとこの1ピースだけでも1000円近くはするだろう。「ここのタルト美味しいよね。コーヒーもいいけど、紅茶ともよく合うんだよ」「へぇ・・・。夏樹くん、紅茶を飲んでるイメージありますもんね」「実は少し興味があってね。勉強しているんだ」英国紳士のオーラを身に纏う夏樹くんには、紅茶がよく似合うだろう。「今度時間があったらお茶会でもしようか」と告げる。それは私も含まれているのだろうか。とりあえず「いいですね」と返しておく。何の意味も含まれていない平べったい言葉だと自分でも少し引いた。「オススメの茶葉を用意しておくよ」「夏樹くんって、プレイベートでもそんなに王子様なんですか」「そう?これでも僕って割と損得で動く人間なんだよ」「王子様じゃなくて王様でしたか」「うん、そっちの方が性に合っているかもね」高級なタルトに舌鼓を打ちながら、コーヒーを飲む。夏樹くんが食べているシャインマスカットのタルトも美味しそうだが、「ひと口ちょうだい」と言えるほど仲良くない。天音くんだったら遠慮なく言っていただろう。そしてタルトがもうほとんど無くなりかけていた時、満を辞したかのような表情で夏樹くんは口を開いた。「三鈴ちゃんはさ、もう気付いているよね?」「何の話ですか」「言っていいの?わざわざ遠回しに聞いてあげたのに」「やっぱり何も言わなくていいです」 にこにこと笑みを浮かべる夏樹くん。まるですべてお見通しと言いたげな顔をしているが、実際そうなのだろう。どうごまかしてもこの場は切り抜けられない。そんな圧迫感すらも感じた。少し間を置いた後、心を落ち着かせた私は尋ねる。「私を呼び出した理由は何ですか?」「何だと思う?」質問を質問で返してくる。「まぁ・・・牽制か何かかと」「ハズレ」「じゃあ脅し?それとも交換条件ですか?」「どれもハズレ」じゃあ何ですか。全然話の全貌が見えないことに、少し苛立った私は声を荒立てる。「ちゃ
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第47話

初対面が新撰組の舞台直後だったからか、沖田総司フィルターが掛かっていたが、夏樹くんは意外と腹黒さんだったりするのかもしれない。あぁでも最近アニメやゲームで出てくる沖田総司は美少年と腹黒の二面性を持つキャラとして多く描かれている気がする。「なるほど・・・現代版沖田総司寄りってことか」「ん?なんて?」夏樹くんはそっちの沖田総司の方が近いかもしれない。うんうん、と1人納得していると「話戻してもらっていいかな」と彼は笑みを浮かべていた。「でも仮にそうなったとしても、事務所の人もvoyageの皆さんも困るでしょう」なぜ、わざわざハイリスクを背負う方に行こうとするんですか。そう言って夏樹くんを見つめる。もしもファンの人に知られたら、一気にvoyageの人気が落ちていくかもしれない。夏樹くんを含め他の2人にも迷惑をかける。寝る間も惜しむほど頑張っていた仕事も減るかもしれない。事務所の人にも迷惑がかかるに違いない。 デメリットだらけのこの提案を呑めるほど、私は心臓に毛は生えていないのだ。天音くんのことを思えばなおさらだ。積み上げてきたものが崩れてしまうのならば、私はもう彼の前から姿を消すだろう。「この前のグループ対抗のオーディションの話、知ってるよね」すると夏樹くんは突然話題をガラリと変えてくる。「オーディション?・・・まぁ、そうですね」動揺しながらも私は頷いた。例のオリンピックのテーマソング起用を賭けた事務所内のオーディションのことである。「最後は3位で終わったんだ」もちろんそれも知っていた。再会して以来頻繁に連絡を取っている貴ちゃんから「3位だった。悔しい。もっと頑張る」と結果を教えてもらっていたのだ。先に貴ちゃんから結果を聞いていたことに天音くんはぷりぷりと暫く怒っていたのも記憶に新しい。「僕たちは、ここで終わるわけにはいかないんだよ」例え有名で人気なアイドルグループになっても、現状維持のまま過ごすわけにはいかない。そして「上には上がいることを思い知る良い機会になったよ」と告げる。しかしその話と私がどうしても結び付かない。そう口に出す前に、先に夏樹くんは「そこで」と続行する。「僕は考えたんだ。ここで僕らvoyageがさらに一皮剝けるにはどうしたらいいか」「・・・」「その鍵は、光春が握っていると思うんだ」「天音くんが?ですか?」「光春は凄いポ
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第48話

「これは賭けなんだよ」「でも、それって悪い方向に転がる可能性だってあるってことですよ。芸能生命が懸かっていることくらい、素人の私にだって分かります」「それを言うならプロの僕からしたら、この賭けは良い方向に転がる自信しかないんだ」さらにトドメを刺すように「自慢になっちゃうけど、僕の選択って今まで間違ったことないから」と言われて、もう私も何も言えなくなってしまった。いや、言うのを諦めたと言う方が最適か。夏樹くんに口で勝てる気にならないし、最終的には頷く他ないのだからもう一緒である。「夏樹くんって、性格悪いんだね」「そうかな。でもちゃんと時と場所、人は選んでいるよ」普段はファンの子たちの王子様だからね。そう臭いセリフが返ってくるが、顔がイケメンなもんだから違和感を感じないものである。その後に、夏樹くんは「まぁ、正直な話、」と口を開いた。「光春が休憩に入るたび携帯を眺めながら悶々としているからね。ちょっと煩わしいなって思っていたところだったんだ」本当に、天音くんよりも底意地が悪いなこの人。その後尋問されるようにプライベートの話を引きずり出されていた時、勢いよく会議室の扉が開く。「ちょっと!何勝手に連れて来てんの!」現れたのは天音くんで、般若の如く恐ろしい顔で夏樹くんを睨む。「別に光春の許可もらう必要ないよね」それでも夏樹くんは怯まずに笑みを浮かべ続ける。確かに天音くんの許可をもらう必要なんてないよね、なんて1人心の中で頷いていると「あんたも!」と、今度はこちらへ矛先が向かって来た。「ちょろちょろついていかないの!せめて俺に一報入れるくらいしなよ!」「まぁまぁ、光春。ただ仲良くタルト食べてただけだから」「モノで連られてんじゃん、嘘でしょ・・・」「えっ違うよ。大学前で誘拐拉致され、」「タルトでも何でも俺が買うから、勝手に着いていかないで」話が全然通じない。幼児か私は。まるで親に怒られている子どもの気分である。黙って口を尖らせる私と、母親かのように怒る光春くん。私たちを見てクスクスと肩を揺らしている夏樹くん。突然カオスになったこの場。もう貴ちゃんでも瑠衣くんでも良いから誰か来てくれ。そう願っている間、全く天音くんの声が入って来ていなかった。「聞いてるの?!」と軽く頭を叩かれる。暴力反対。「まぁもう時間も遅いからね。連れて返って良いよ、光春」「言わ
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第49話 第3章 変わっていく関係性

最近、天音くんが変わった。とある日。授業が始まる前にサークル部屋で合流したら、今日は寒いからと私の分まで暖かい飲み物を買ってきてくれた。それも昨日発売したばかりのバタースコッチラテ。しかも特大サイズ。確かに先週その店のSNSを見ながら「うわ~コレ飲みたいなぁ」と呟いた記憶はあるが、まさか覚えていたとは。とある日。家に荷物が届いたかと思えば、10kgのお米だった。それも皇室に献上するほどの有名な最高級米。一人暮らしの女子に10kgの米なんて誰が送ってきたのかと確認したら、送り主は天音光春。丁度メッセージアプリが通知が鳴ったかと思ったら、『いつものお礼。だからおにぎり作って』と連絡が。最近さらには食事や日用品やら貢ぎ物をされるのも日常と化したとある日。ドライブに行きたいと観光雑誌を眺めていたら、週末家の前で車に乗って待機している天音くんがいた。あれよあれよと言う間に車に乗せられ、連れて行かれたのは海が一望できるオシャレなレストランだった。フレンチのランチはとても美味しかった。払おうと出した財布は天音くんに投げられた。道中も喉が渇いたらコレを飲んでとカフェラテを渡され、寒かったら使っていいからとブランケットも渡された。それに毎日のように電話が掛かってきては、普段どこの化粧品を使ってるやら、何が欲しい料理本はあるかやら、どこか行きたい場所はあるかやら、話す内容のそのほとんどが私を軸に回っている。「うーん、これはどうしたもんか」その様にされて悪い気はしないのだけれど、別にそんな事しなくたっていいのにとも思う。だって、こんなに貰ってしまっても、私は何も天音くんに返せないのに。でも彼はそんな私に言うのだ。「おにぎり、握ってくれたらそれでいいから」と。カーテンの隙間から差し込む光が眩しくて目が覚めた。微睡の中でうっすらと目を開けると、そこには見慣れた天井───じゃない。「えっ・・・ちょっと待って」嘘でしょ。小さく呟いた言葉は、見慣れない天井に吸い込まれていった。混乱のあまり一瞬目が回る。ここ、私の家じゃない。一気に目が覚めて、急いで上半身を起こす。ふかふかとした大きな掛け布団を捲っては安堵のため息を吐いた。「良かった、服は着ている」ちゃんと下着も昨日の服も身につけたままで、乱れた様子もない。安心してだんだんと頭が冷静になってきたところで、この部屋に
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第50話

ここ、天音くんの寝室だ。なぜ私が天音くんの寝室で寝ていたのだろう。昨日の記憶が曖昧でよく思い出せない。理解出来たのは、私は彼の家でとうとう一夜を明かした事実のみ。これはもうお手上げだとでも言うように、ぼふんと掛け布団に顔を落とす。その物音で私が起きたことに気付いたのか、がちゃりとリビングに続く扉が開いた。「起きた?」「・・・おはようございます」「おはよう。気分はどう?」現れたのは家主である天音くん。私の体調を気遣う言葉を掛けた彼は、ベッドサイドまで歩いて来る。朝イチからイケメンを見るとなんだか落ち着かないな。そう思いながら目を逸らした私は恐る恐る尋ねる。「その、なぜ私は天音くん家で寝ているのでしょうか」「覚えてないの?」「・・・ハイ」そう正直に答えると、彼は呆れたようにため息を吐く。「昨日あんなことやこんなことまでしたのに?」「え?!やっぱりセーフじゃなかったの、?!」叫んだ声が思いの外大きすぎたらしい。五月蝿かったのか天音くんは両耳を塞いで「うるさい」と怒る。いや、うるさいじゃなくて。そうじゃなくて。ことの詳細を聞き出そうと身を乗り出すが、その途端に頭がふらりと揺れる。そして頭にピリッと走った痛みに、顔を歪めた。「まぁそれは冗談だけど。昨日酔い潰れてたの、本当に覚えてない?」「酔い潰れた?・・・あー・・・」言われてみれば、確かに。少しずつ昨日の記憶が鮮明に蘇ってきた。「何で私を止めてくれなかったの」「止めたから。それを振り切ってお酒離さなかったのそっちでしょ」そうだったっけなぁ。その辺りはもう曖昧である。昨日午後から天音くんと一緒に授業を受けて、その帰りにピザが食べたいと私がぼやいたことで始まったピザパーティー。丁度良いワインを貰ったと天音くんが言ったからコンビニでいくつか他のお酒とおつまみを見繕って彼のマンションに行ったのだ。乾杯して、デリバリーしたピザを堪能したところまでは覚えている。マルゲリータとクアトロはそれはもう絶品だった。ワインも美味しかった。普段あまりワインを飲まない私がそう言うくらいだから、本当に良いワインだったのだろう。「俺が水持ってきた時にはもう寝てたし、声掛けても起きないし。時間も時間だったからそのまま寝かせた」「・・・ご迷惑をおかけしました」「別に迷惑だなんて言ってないでしょ」その後チューハイをあけた後ぐ
last updateLast Updated : 2025-07-11
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