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第31話 第2章 本物の王子様に出会った日

「えっえっ本当に?!いいの?!」「俺に感謝しなよ。リピートアフターミー、ありがとう大好き光春くん、はい」「ありがとう!大好き!光春くん!」「ヴッ」「えっ何?!心臓発作?!」なんて茶番が数分前。何かとんでもないことを口走ったような気がするような気がしないような。しかしそんなこと考えている暇はない。彼が心臓を抑えて何かに悶えている様子だが、そんなこと気にしている暇はない。とにかく、私はそれどころではないのだ。「言ったでしょ。用意してあげてもいいけどって」「あ、天音くんと・・・友達になって良かった」「青山にとって俺の利用価値ってそれだけなの」滅相もございません、天音光春は世界で1番の良い男です。もう足を向けて寝ません!と誓うと「そこまでしなくていいから」と、さすがの彼も若干引いた様子でこちらを見ていた。 それはそうと今大事なのは自身のプライドよりも、深々と腰を折った私の頭上にぴらっと掲げられた一枚の紙切れである。その価値がどれほどのものか、数週間前に思い知ったところだった。『舞台 新選組~誠が導く我らの道~』天音くんの手にあるそれは、間違い無く私が抽選で外れた舞台のチケットだった。まさにゴクリと喉から手が出るほどの代物である。だって誰のファンクラブにも入っていない私は一般先行で応募するしかなくて、第3希望の日時まで1週間も吟味したのに、結果は呆気なく落選。海も渡る気満々だったのに、神様は私に恵んでくれなかった。キャスト先行がどれほど有利なものか思い知らされたばかりだったのだ。チケットをご用意できませんでした、と連絡が来た時はその悔しさから珍しくジャンクフードを爆食いした。その後の胃もたれも免れなかった。その後数日肌が荒れて、それを見かねた天音くんが高級化粧水をプレゼントしてくれたのが懐かしい。さらにあの天音くんから「ちゃんとしたモノ食べなよ」と言われた始末だ。少し前までTHE不健康生活の猛者だった癖に、と言い返したら喧嘩になった。もちろん言い負かされて終わったけれど。「本当に良いの?後で高額請求したりしない?」「人の善意を何だと思ってるの」「いやぁ、だってコレ、転売サイトで高額取引されているんだよ?」どうにかして手に入れたくて、チケットの流通サイトを覗くとその金額に驚いた。下手したら桁が1つ多いのもあって、泣く泣く諦めたのだ。そんなチケットが
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第32話

一緒に過ごすことが多くなってきて、ふとメディアにvoyageが出ているとついチェックするようになったのだ。今ではメンバーの名前と顔どころか、シングル曲くらいまでは網羅出来ているはず。きっとライブに行ったらそれなりに楽しめると思う。珍しくミーハーな心に火がついているところである。「最初は俺の名前もそんなに知らなかったくせに」「えへへ、それほどでも。情報収拾頑張ったので」  照れるように頭を搔く私は「褒めてないから」と叩かれた。さっきからなぜ暴力を加えられるのか解せない。どこか不服そうな表情をしていた天音さんは「まぁいいや」とため息をつく。「じゃあ当日、関係者入り口に集合ね」「え、何で?」「何でって・・・」 ────俺も行くからでしょ。そう言って舞台のチケットを2枚見せた。幕間を含めると約3時間。大学の授業では長く感じる時間も、なぜ舞台となると一瞬に思えるのだろうか。会場が暗転した瞬間から気持ちが高ぶったままで、気付いたら3度目のカーテンコールだった。「凄かった!凄かった、天音くん!ねえ!」「はいはい、凄かったね」「格好良かった・・・っはぁ~~~幸せ!」「ちょっ煩い。目立つでしょ?!」「舞台 新選組~誠が導く我らの道~」は、ひと言でまとめると凄かった。生で見る舞台なんて初めてで、とにかく感動した。興奮した。期待値を超えるものをいざ前にしてみると語彙力が低下する。今初めて語彙力が低下する気持ちを味わった。これが語彙力低下というものか。「あぁ、なんて言うんだろう。もっと良い表現があるはずなのに言葉が出てこない」「もう十分伝わったからいいよ」「やっぱりさ、あの最期のシーンは涙無しじゃ見れないよね」 ありきたりな言葉しか出てこないが、とにかく凄かった。池田屋シーンの殺陣は凄かったし、お揃いの浅葱色の羽織を着て新選組が勢揃いした時は鳥肌が立ったし、別れの場面は泣いたし、喜怒哀楽が騒がしかった。隣で一緒に観劇していた天音くんから時々「落ち着け」と云わんばかりの目を向けられていたが、この状況で落ち着ける天音くんがおかしいと思う。「やっぱり本物だった・・・!ちゃんと武士だった・・・!」「はいはい。そうですね」「っあ、適当に返したなこのイケメン野郎」「・・・突然口悪くなりすぎじゃない?情緒不安定なの?」すると少し前を歩いていた天音くんは立ち止まって振り返る
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第33話

「あの沖田総司に会えるんだよ」「さっきまでの熱はどこにいったの」「夏樹も一般人だからって嫌悪するような奴じゃないよ」「早くしないと店の予約時間に間に合わないんだけど」と、最後のひとつは私たちの個人的理由だけど、間髪入れずに天音くんは告げる。「夏樹に会いたくないの?さっきまであんなに騒がしかったのに」「あ、」「あ?」「・・・会いたいです」そこまで言われたら、会いたくなるに決まっている。ここは天音くんのお友達特典ってことにしていいだろうか。いいよね、今朝だって握ってきたてんむすあげたし。この前だって「現場直行だからお昼食べる時間がない」と言っていたから自分のお弁当ごとあげたし。うんうん、と自分に言い聞かせている私に呆れたのか彼は何も言わずに歩き出してしまった。「あ、」「今度は何?」「会うんだったら・・・もっとオシャレしてきたら良かった」初めての舞台観劇に、服装のTPOが分からなくて適当にワンピース着てきた。けれど普段着用のラフなものじゃなくて、もっと余所行きのちゃんとしたものを着てきたら良かったと後悔する。「いいよ別に、わざわざオシャレしようと思わなくても」「むしろ今日の為に一張羅でも買ったら良かったかな」「今の格好で十分良いと思うけど。それに夏樹のために可愛くなってもしょうがないでしょ」天音くんがそう言うなら良いけれど。しかし、それでも肩を落として俯いた私は「でもなぁ」と零す。「推しには可愛く思われたいじゃん!」「じゃあ!俺と会うときに!可愛い格好してきたら良いでしょ?!」なぜか逆ギレされた。うーん、解せない。「・・・顔が良い」もちろん天音くんだってそこら辺の人に比べたら、というか千堂夏樹さんに引けを取らないくらいに顔が良い。端正で綺麗な顔立ちで、100人中100人が口を揃えて彼のことをイケメンだと言うだろう。一緒にいる時間が長い分、多少の慣れはありつつも、何度見たってイケメンだと思うくらいには格好良い。でも、不思議だ。「ねぇちょっと、何で隠れてるの」「いやぁ、ちょっと、アイドルのオーラって凄いなって」「俺もそのアイドルって知ってる?」何でだろう。同じイケメンでも、同じアイドルでも、千堂夏樹さんの顔を見るとさすがの私も反射的に照れてしまった。「まさか光春が女の子連れてくるなんて思わなかったよ」そう言って笑みを浮かべているのはvoy
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第34話

「君が例の"おにぎりの子"だね」「お、おにぎり・・・ですか」ちらりと天音くんの方に目配せすると、どこか諦めたような表情でどこか遠くを見ている。きっと彼のメッセージアプリの私の名前が「おにぎり」なのを知っているのだろう。「瑠衣からも話を聞いていたんだ。光春に噛み付けるような面白い子がいるんだって」そう言われて思い出すのは、練習スタジオに「まごころ屋」デリバリーをした日のこと。噛み付いた覚えないんだけどなぁ、と瑠衣くんを思い浮かべる。微妙な顔を浮かべた私にクスクスと朗らかな顔で千堂さんは笑った。「僕は千堂夏樹、いつも光春が世話になってるね」「あっ青山三鈴です」手を差し伸べられて、手汗を掻いていないか考える余裕も無く握り返した。待って待って、私は今沖田総司と握手をしている。どっどっどっと心臓が暴れ回って落ち着きがない。「舞台、凄く良かったです!殺陣とか凄くて、本当に目の前に沖田総司が居るのかと思いました!いや、もう、迫力があって、何というか・・・ファンです!!」「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいな。頑張って稽古した甲斐があったよ」「格好良かったです。千堂さん、凄いです」ありきたりな拙い感想にも千堂さんは優しく対応してくれる。それに加えてサインまでもらってしまった。しかも「青山三鈴さんへ」と名前入りだ。一生家宝にします!と頭を下げる。これが神対応というものだろうか。アイドルって凄い・・・と感銘を受けていると「もう十分でしょ」と突然首根っこを掴まれる。勢いで後ろにる般若の一歩手前の天音くんの胸元に後頭部がぶつかった。「うぐぇ・・・首が締まる」「顔緩みすぎ」「光春、あまり彼女に意地悪はしないようにね」助け舟を出してくれる千堂さんに「もっと言ってやってください」と言いたいところだが、これ以上刺激すると天音くんの機嫌を損ねそうだったからやめた。千堂さんは「あぁ、そういえば」と口を開いた。「そういえば貴臣とは会えた?」「貴臣も来てるの?」「さっきまで楽屋にいたんだけど、ちょうど行き違いだったかな」2人の言う“貴臣”とはきっと、4人目のメンバーである冬木貴臣さんのことだろう。彼もまた今日のソワレを観て千堂さんの元へ来ていたらしいが、いつの間にか消えてしまったらしい。多分藤堂平助役をしていた事務所の後輩に会いに行ったんだろうと、千堂さんは言っていた。「
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第35話

今から連絡して呼び戻してみる?と面白可笑しく笑う彼に、天音くんは「いい」と拒否した。その反応がまた千堂さんにとっては面白かったようで肩を揺らして笑い始めた。そしてポツンと置いていかれた私に「今度はライブも見に来てね」と告げる。「いっ行きます!絶対に!」「三鈴ちゃん」「?・・・はい」「これからも、光春のことよろしくね」結構性格捻くれているし、口も態度も悪い時もあるけど、いい奴だから。そう言って眉を下げる千堂さんに私は「そんなこと、もちろん知ってますよ」と目線を合わせた。「でも人一倍努力家で人思いなところも知っていますから」そう告げると、千堂さんは少し驚いたように目を丸くする。天音くんは常に最高なパフォーマンスが出来るように努力しているし、ファンの期待に応えたい一心で頑張っている。その合間に大学で勉強しているなんて、本当に尊敬するし凄いと思う。「努力は裏切らないって言葉、本当にあるんだなって思いました」 常日頃にそんな場面を見ていたら、性格が捻くれていようが少し口や態度が悪かろうが天音光春という人間を嫌いになれないだろう。「あっでも、」「うん」「もう少し頭を叩く時は力を弱めるように、千堂さんから言ってくれません?」そうお願いすると千堂さんはぶふぁっと吹き出すように笑った。激しいリアクションを前に、天音くんは「ちょっと」と口を開く。「結構優しくしてるつもりなんだけど」「えっあれで?!嘘でしょ・・・天音くん、今後女の子の扱いには気をつけた方が良いよ」親切心で言ったつもりなのに、さらに彼は逆上したかのように声を上げる。「はぁ?!何であんたにそんなこと言われなきゃいけないわけ」「・・・なるほど。天音くんは私を女子枠だと思っていないわけか。ふむふむ」「っ〜〜だから!さぁ!ちょっと、夏樹もなんとか言ってよ」言い合う私と天音くんが千堂さんに目を向けると、彼は「あはっははは・・・ふふっ・・・ふはっ」と床で笑い転げていた。芸人ばりのそのリアクションに驚いて「千堂さん・・・?」と声を掛けてみるが、耳に届いていないようで笑いっぱなしだ。「・・・夏樹、笑い上戸なんだよね」結局千堂さんは私たちが楽屋を後にするまでずっと一人で笑い続けていた。最後に「僕のことは夏樹でいいよ」と下の名前で呼ぶようにと告げて、連絡先まで交換することになった。あとで改めて舞台の感想を
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第36話 幼馴染との再会

今週2度目のまごころ屋デリバリー。私は両手に計5個のお弁当が入った袋を持って、芸能事務所前で立ち往生していた。遡ること1時間前。私のバイトが終わる頃を見計らって「本日のお弁当5個、よろしく」と電話してきた。もちろん相手は天音くんである。よくウチのお店を利用してくれる天音くんは既に立派な常連さんだ。ちなみに最近は私がバイト上がりにお弁当を2個買って、天音くん家にまで配達して、そのまま彼の家で一緒に夜ご飯を食べる。このルーティンを週に2回のペースでしていた。バランスの取れたお弁当に天音くんの健康も保たれるし、私もなんだかんだひとりで食べるよりも誰かと一緒に食べる方が美味しく感じるし箸が進む。もちろんお弁当代は天音くん持ちだ。 だから今日もそろそろ注文の電話が来るだろう。そう思っていたが、今日の配達先はvoyageの所属する芸能事務所だった。どうにか到着したことを天音くんに連絡したいけれど、生憎私の両手はお弁当で塞がっている。どうしようかなぁ、と街なかに聳え立つビルを下から眺めていると救世主が現れた。「あ!三鈴ちゃんだ!」「瑠衣くん!良いところに・・・!」私の前に現れたのは瑠衣くんだった。知っている人に出会えて安堵した私は「助かった」と息を吐く。彼は私の手に下がっている袋を見てクスクスと笑った。「また光春くん頼んだんだ。もしかして僕たちの分もあるのかな」お腹空いていたから嬉しい。と瑠衣くんはお弁当が3つ入った方の袋を持ってくれた。軽くなった右手がぷるぷる震え出す。明日筋肉痛になりそうだなと苦笑する私に、瑠衣くんは事務所の中に入るように促した。「この前はありがとう。光春くんのお見舞いに行ってくれて」「ううん。私も心配だったから大丈夫だよ」「あはっやっぱり三鈴ちゃんに頼んで正解だった」お粥作ったくらいで何もしていないけれどね。そう告げると「そんなことないよ」とフォローを入れてくれた瑠衣くんはエレベーターに乗り込んだ。私も続いて乗り込むと、彼は5階のボタンを押す。メンバー全員来ているのかと尋ねると、今から全員で新曲のフリ入れをするのだそう。相変わらず忙しそうなだぁ、と他人事に思っている間にもエレベーターは上昇していく。「忙しいのは良いことだけど、瑠衣くんも身体には気をつけてね」「ありがとう。光春くんもね、あれから結構気をつけているみたい」思わず
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第37話

言われてみたら最近確かに天音くんの顔色が良くなっているような気がする。それに顔つきもどこか凛々しくなっているような気がするし、肌艶もさらに良くなっているような気がする。週に半分以上一緒にいるからか、全然気付きもしなかった。「それにね、最近光春くんなんだかとても楽しそうなんだ」「三鈴ちゃんのお陰だね」と瑠衣くんが言ったその瞬間、目の前のエレベーターが開いた。彼の後を追うように降りて、そのまま直進する。「いやいや、私なんにもしてないよ」「もー謙遜しちゃって。自己評価低すぎ・・・あ、」突き当たりを右に曲がったその先に、よく知る人物が自動販売機でペットボトルのお茶を買っている姿があった。「光春くん発見!」瑠衣くんの声に気づいた天音くんは、落ちてきたお茶を拾い上げながらこちらへ振り向く。すると、私もいるとは思わなかったのだろう。彼は驚いたように少し目を見開かせた。「随分仲良しだね」「まぁね。羨ましい?」瑠衣くんの言葉に「別に」とだけ告げて、ペットボトルの蓋を開ける。「夏樹くんと貴臣くんは?」「まだ。夏樹は撮影が押してるって。貴臣はもう来るんじゃない?」夏樹さんについているマネージャーさんもまだ時間はかかりそうらしい。だったら先にお弁当を食べてしまおうかと、天音くんは私が持っている袋を受け取ってくれた。「今日は何弁当?」「今日の日替わりは生姜焼きだよ。まごころ屋1番人気のメニューなんだ」主菜は生姜焼き。副菜はベーコンとほうれん草のソテーと筑前煮。主食はシンプルに白米。そしてインスタントのお味噌汁。これは誰か飲むかなと思って私が勝手に入れておいたものだ。瑠衣くんはお弁当を覗き込むながら、「僕、生姜焼き好き」と声を上げる。「本当?良かった。濃いめに味付けているから冷めても、」美味しいからね。そう告げようとしたその時、背後から名前を呼ばれた。「・・・三鈴?」振り返ると、そこには体格の大きい男性が立っていた。赤みがかった茶髪にシルバーのピアス。如何にもチャラそうなこの男はなぜか私の名前を知っていて、こちらの顔を凝視している。「は?」そう声をあげたのは私ではなく天音くんの方で、訳がわからないと言いたげな顔で瞬きを繰り返す。すると彼を押しのけるようにして至近距離まで顔を近づけてきた男は「俺、分かる?!」と興奮気味に問いかけてくるが、そりゃあ分から
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第38話

「そう!貴ちゃん!覚えてる?!」「えっ懐かしい!泣き虫貴ちゃんだ!」「正解!」と親指を立てて笑う貴ちゃん。やっぱり当たっていた。彼は保育園の時に1番仲が良かったお友達だった。あの頃は“泣き虫貴ちゃん”と呼ばれるくらいには、そりゃあ泣き虫だった。ちょっと転んだくらいで泣いたり、ちょっと喧嘩すると真っ先に泣いたり。いつも私の後ろをついてくるような、可愛くて臆病な子だったはずだ。「久しぶりだなぁ〜!何年ぶり?!」「え?まって、貴ちゃん、アイドルなの?!でも、名前違う」「親が離婚したから、引っ越した時に苗字変わったんだよ」「今は冬木貴臣」と名を告げる彼は、随分身も心も大きくなってしまったらしい。姿形は全然違うけれど、何となく保育園時代の面影が残っているような気がする。今までテレビや雑誌でも何回も見ているのに、それが貴ちゃんだなんて分からなかった。「え〜!凄い久々だ。よく私のこと分かったね」「だって全然変わんねぇもん。で、三鈴は何でここに?」「お弁当の配達。ほら、あれ」私の指差す方に、貴ちゃんは目線を向ける。すると彼は「まごころ屋?!」ぎょっとした顔で、こちらの顔を覗き込んできた。「お前もしかして!おにぎりの子なの?!!!!」そう言って私の肩を両手で掴んでは、ぐわんぐわんと大きく揺らす。「えぇ、貴ちゃんもそれ知ってるの」「まじ?!ってことは光春のアレ?いや、まじか〜〜〜!世間って狭いよなぁ」うんうん、と1人納得している貴ちゃん。いやいや、確かに世間は広いようで狭いかもしれないけれど1人で自己完結するのはやめてほしい。 しかも光春のアレって、つまり私は彼の下僕とか使いっ走りとかそんなあだ名が付いているのだろうか。それを訪ねようと口を開きかけたところで、瑠衣くんが「あのー、状況説明してもらっても?」と割り入ってきた。「幼馴染み?みたいなもんかな」「っていっても小学校入る時に引っ越したきりだったけどね」貴ちゃんと後に続いて私も口添えする。幼馴染みとは言っても実際は保育園時代だけだが、1番仲が良かった友達は思い返しても泣き虫貴ちゃんだったと思う。「大きくなったなぁ〜!」そう言って容赦無く私の頭をわしゃわしゃと撫で繰り回してくるが、大きくなったのは彼の方である。声も低くなって背丈も大きくなって、ちゃんと男の子から男の人になっている。あの頃とは立場
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第39話

ケラケラ笑っていると、貴ちゃんもつられて一緒に笑う。当時の私、男前すぎた。記憶の奥底では「ただいま、奥さん」って貴ちゃんに言っていたような気がする。良く言えば可愛い思い出だけど、悪く言えばただの黒歴史である。思い出し笑いの末、目に涙を浮かべながら貴ちゃんは「せっかくだから連絡先交換しよう」と、某メッセージアプリのアカウントを教えあった。新たに加わった『冬木貴臣』の名前を眺めながら「えへへ」と笑う。「後でお母さんに自慢しよう」「俺さ、三鈴ママのアップルパイ好きだったんだよね」「あー懐かしいね。アップルパイ、前は良く作ってたかも」私ももう何年も食べてないよ。と言うと彼は不思議そうに首を横に傾ける。「あれ、今は一緒に住んでないの?」「海外にいるよ。ニューヨークで和食屋さんしてるの」その言葉に彼は納得したかのように「そっか、三鈴パパって料理人だったな」と頷いた。「祖父の店を継いだの。ちょうど私の高校進学と時期が重なって家族総出で渡米したんだ」実は私の料理好きはこの両親から受け継いでいるのだ。青山家の先祖が始めた『日本料理 青山』は父で三代目。独自のルートで魚介類や野菜も仕入れていることで、現地では結構有名な日本料理屋である。父は海外に渡るまでは東京のホテルで総料理長をしていて、その時に出会ったパティシエの母と結婚して私が生まれたのだ。日本にいる頃から母はよく息抜きに洋菓子を作っていた。ケーキやマカロン、もちろんアップルパイも。「貴ちゃんと一緒に食べなさい」とよく私の持たせてくれたのを思い出す。「へぇ~!じゃあ今一人暮らしなんだ」「うん。大学進学と同時に日本にひとりで戻ってきたの」「そっか。いつか三鈴パパの店行きてぇな」「お母さんもお父さんも、貴ちゃんのことお気に入りだったから嬉しいと思う」その時はアップルパイも焼くように伝えとくね、と彼に告げる。きっと「息子みたい」と貴ちゃんを我が子のように可愛がっていた母なら、頼めばいつでも作ってくれるだろう。「三鈴も、今度俺らのライブ見に来いよ」「もちろん。何が何でも行くよ」* * *「うっわ、やっぱ寒いねぇ」感動の再会を果たした後、ちゃんとお代を天音くんから回収した私は事務所の外まで出てきた。突然肌を刺すような冷たい風に思わず身体が震える。「寒い〜寒い〜」と繰り返す私に下まで見送りに来てくれた天音くん
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第40話

そう言って彼はカーディガンを半ば力づくで投げつけてきた。頑固と言うか親切というか、何だこの状況は。なぜこんなに喧嘩腰なんだ。羽織るまで帰さないといわんばかりの圧に、私は受け取ったカーディガンに袖を通すことにした。「天音くんって華奢な方だと思ってたけど、やっぱり大きいよね」淡色ブルーのカーディガン。モヘアみたいなふわふわな触り心地で、生地感もしっかりある。けれどやっぱり際立つ私と天音くんの体格差。羽織ってみたら結構ぶかぶかだった。指先まで隠れる袖の長さである。「ありがとう。じゃあ、ありがたく使わせてもらうね」でも着たら着たで温かくて、また今すぐに脱げと言われたら寒すぎで帰したくない。ぬくぬくと暖を取っていると、ふわりと鼻を擽ぐる良い匂いがした。「これ香水かな? すっごい天音くんの匂いがする」どこかで嗅ぎ覚えのある匂いかと思ったら、いつも天音くんから香るものだった。「あー、確か去年voyageコラボで作った香水」「男物の香水って使うことないから、なんかドキドキしちゃうよね」普段あまり香水を使わない私。家にあるのは頂き物のフローラル系や甘めの香りのものばかりなのだ。男物の香水って思うだけで新鮮な気分である。「良い匂いだよね、これ」でもこの香水は女の私でもとても好きな匂いだった。スンスンと香りを探すように鼻を揺らしていると、目の前で思い切りため息をつく天音くんがいた。「俺は青山の軽率な発言と行動にドキドキするんだけど」「えぇ、どこが軽率なの」「全部」もうやめろと云わんばかりの顔。確かに側からみたら人の服を嗅ぎまくる変態にした見えないけれど、一応私は褒めているつもりなのだ。天音くんは喜ぶべきである。 だから私は自信を持って、告げた。「自覚はないので、それは天音さんの勘違いでしょうね」「・・・とにかく、寄り道せずに帰りなよ」「扱いが子ども」「こんな大きい子どもを持った記憶はないけどね」「あはは、模範解答」そろそろ本当に帰ろうと忘れ物がないかチェックする。ついでに財布の中身も。カーディガン洗って返すのに、少しお高めな洗剤と柔軟剤を買ってかろう。これで縮んで「弁償しろ」と言われたら元も子もないけれど。確認を終えた私は、かばんを肩に掛け直す。「そうだ。明日大学来る?」「時間通りに終われば午後から行けそう」「分かった。いつものところに席とっとくね」
last updateLast Updated : 2025-07-11
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