「え?!ちょっと、まっ、」 彼女は私がドリンクサーバーで注いできた水のコップを持ち上げて───それを私にぶちまけようと腕を高く上げた。 やばい、水ぶっかけられる。私を含め食堂内にいた誰もが息を呑んだその瞬間。 「何してんの」 背後から、聞き慣れた声がした。 「・・・あれ、天音くんだ。珍しいね、食堂に来るなんて」 後ろを向くと、顔を険しくした天音くんが立っていた。 思わぬ人物の登場に女は今度は顔を青褪めさせて、口を震わせる。まさかこの場に本人が来るなんて思いもしなかったのだろう。私も思わなかった。 驚いて目を丸くしていた私を、頭から足先まで視線を走らせた天音くんは少し怒りを孕んだような表情でため息をつく。 「アンタが連絡返さないからでしょ」 「まぁ、随分よろしくやってたみたいだけど」と天音くんの冷ややかな視線は、例の女を刺していた。 「連絡?あ、ごめん。気付かなかった・・・けどさ、」 確かに携帯を確認すると「今どこ?もう食堂から移動した?」とメッセージが来ていた。返信がなかったから、わざわざここまで探しに来てくれたらしい。 あは、と乾いた笑みを浮かべたまま私は天音くんに告げる。 「ヒーローは遅れてやってくるって言うけどさ、せめて・・・水ぶっかけられる前に来て欲しかったなぁ」 「・・・それは、ごめん」 そう、私は水を被らないわけではなかった。 天音くんが会話に入ってきた時には既にぶっかけられていたのだ。 まぁもともとカップの半分くらいしか水は入っていなかったから、被ったとはいっても髪が濡れたくらいで洋服はそんなに目立ってはいないのは幸いだ。グレーの服を着てこなくて良かった。まぁ濡れないに越したことはないけれど。 「あーあ、でも次の授業までに乾くかなぁ」 「乾く乾かないじゃなくてさ、普通もっと怒るでしょ」 きっと天音さんは水を掛けられても文句のひとつも言わない私が気に入らないんだと思うが、「俺が原因でもあるけどさぁ」と口元を歪めている。 彼は水を掛けてきた彼女だけではなく、私に対しても怒っていた。 「天音くんは何も悪いことしていないんだから、気にしなくて良いよ」 「・・・・」 「ほら、次の講義室行かなきゃ」 じゃなきゃ先生も人も沢山野次馬がもっと増えちゃうよ。と、私は黙ったままの天音さんを横目に、所々濡れてしまったテ
Last Updated : 2025-07-09 Read more