私に気付いた彼は、頬を緩ませて手を振ってきた。返すように私も手を振る。「天音くん!明けましておめでとう」「うん、明けましておめでとう。今年もよろしく」「よろしく!あとね、さっきのライブも」凄く良かった、そう続けようとしたけれど止まった。天音くんの手がこちらへ伸びてきて、驚いた私は口を閉ざすしかなかったのだ。すると彼は私の頭をひと撫ですると、ふっと柔らかな笑みを漏らす。「感想聞きたいのは山々だけど、寒いでしょ。続きは車の中でね」そう言って、天音くんは私から離れて車の助手席のドアを開けてくれた。(な、なんか・・・今日の天音くん)初っ端から態度が甘すぎやしないだろうか。触れられたのは頭なのに、顔中が熱くなってきた。何だか彼の手のひらの上で転がされている気分である。「年が明けた感覚あんまりないや」「まぁね。やっと仕事がひと段落ついたって思うくらい」「天音くん忙しかったもんね。お疲れ様」「ん。青山も」車に乗った私たちは、天音くんが以前行ったことがあるという初日の出が見られる高台まで移動していた。寒かったら使って、と半分投げつけられるようにして受け取ったブランケットを膝にひいて買ってきてくれたホットカフェラテを手に持つ。本当、至れり尽くせりである。「明日は仕事休み?」「明日と明後日は休み。3日が仕事始めかな」「そっか。私は3日まではバイト休みなんだ。三が日はゆっくりしたいからお店開けないんだって」だから暫くはゆっくりできるよ。そうひと息つくと、「暇ならvoyageのライブDVDでも見たら」と隣の彼は告げる。確かにクリスマスライブ前に「勉強して」と過去のライブDVD全部の新品をプレゼントしてくれた。実はまだ封も開けていないんです、なんて口が裂けても言えない。「うん、そうしようかな。次のライブも行きたいし」「次はもっと良い席用意してあげる。この前、少し遠かったでしょ」「ううん。次はちゃんと自分の力でチケット取りたいな」そう言った私に「自分で言うのも何だけど、チケットの倍率やばいからね」と、この前のクリスマスライブの当選倍率を教えてくれた。その驚愕的な数字に、1人で複数名義を持つファンの子の気持ちがやっと理解できた。「今度は4人分のうちわも持っていく」「うちわで顔隠れて見つけられなくなるからやめて」 「えぇ、逆に目立たないかな」「それに両手が塞がってペン
Last Updated : 2025-07-11 Read more