リビングに戻ると、両親の健一郎と直子がソファに座り、真面目な顔をしていた。部屋には重苦しい空気が漂っていた。テーブルには茶器が並んでいて、お湯がすでに沸いていたが、誰もお茶を淹れようとしなかった。玲奈が帰ってきたのを見て、健一郎は少し背筋を伸ばし、口を開いた。「玲奈、父さんと一緒にお茶を飲まないか?お前が淹れてくれるお茶、久しぶりだから」智也と結婚する前、健一郎は玲奈が淹れてくれたお茶がお気に入りだった。いつもお茶を飲みながら、商売の話を聞かせたものだ。今それを思い返してみて、胸がチクチクと痛んだ。新垣家は何もしてくれないのに、彼女はへりくだってあいつらに媚びを売っていた。逆に、両親がここまで育てたのに、彼女はまるで他人に尻尾を振る犬のようだったのだ。ばかばかしい。玲奈は「ええ」と応え、テーブルの前に座り、慣れた手つきでお茶を淹れ始めた。健一郎と直子は静かに彼女を見守っていて、何も言わなかった。玲奈はもちろん両親の何か言いたげな様子に気付いていたが、何を言いたいのか全く見当がつかなかった。彼女は無理やりに尋ねず、じっと待っていた。お茶を淹れると、彼女は健一郎に一杯差し出した。「お父さん、どうぞ」直子はお茶を飲んだら眠れなくなるため、飲まないことにしていた。玲奈が結婚する前、春日部家はとても温かい家庭だった。兄は口は悪いが、実は心が優しい人だった。いつも自分の妹はちゃんと彼女を大切にしてくれる男に嫁ぐべきだと言っていた。しかし、現実は残酷で、彼女は全く愛してくれない智也という男に嫁いでしまった。綾乃が秋良と結婚し、春日部家に来てからは、玲奈はもう一人の自分を愛してくれる家族を得た。義姉の綾乃は、実の妹のように彼女を可愛がってくれた。直子が夜、お茶を飲まない理由は、自分にも関係があると玲奈は分かっているのだ。彼女は誰の反対も気にせず、新垣家に嫁いでから、直子は毎晩のように泣いていて、安眠できる日がなかったのだ。健一郎は湯飲みを受け取ったが、飲まずに玲奈を見つめ、やっと口を開いた。「玲奈、離婚は構わないが、ただ子供はお前が命がけで産んだんだ。親権は何としても取り戻すべきなんじゃないか。もうお母さんと話したが、愛莉をうちに連れて帰れば、俺たちが育ててあげるよ。自分の子を、どうして新垣家に渡すんだ
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