Semua Bab これ以上は私でも我慢できません!: Bab 11 - Bab 20

100 Bab

第11話

夜11時、美由紀は最後のお客を見送ってから、ソファに座り込んだ。彼女は携帯を取り出してSNSを開き、ちょうど玲奈が家族写真を投稿しているのに気付いた。春日部家は非常に仲睦まじい様子で、それを見た美由紀は不快感を覚えた。今日は新垣実の誕生日だったのに、嫁である玲奈は家に帰って来なかったばかりか、帰って来ないことについて先に一言も伝えてはいなかったのだ。例年であれば、連続二日間、玲奈は家で誕生日のお祝い用の料理を作っていたというのに、今年、彼女は実家の春日部家に帰ってしまった。それで美由紀の心には不満が込み上げてきた。彼女は怒り心頭に発し、イライラした様子で二階にあがっていった。そしてドアをノックすることもなく、そのまま智也の書斎へと入っていった。携帯を智也の手元にぽいっと置き、美由紀は地団太を踏んで言った。「見てごらんなさい、一体どういうことかしらね」智也は手元の携帯をちらりと見て、訳が分からないという様子で眉をひそめた。「なにか問題でも?」美由紀は両手をデスクの上にバンッと置き、目線を下にし智也を睨みつけた。「今日はあなたのお父様の誕生日じゃないの。彼女はおめでとうの一言すらなく、何も言わずに実家に帰ったのよ。結婚してから、あの子の衣食住は全部我が新垣家の財源から来ているのよ?私やお父さんを敬わず、自分の実家に帰ってそっちのために働くなんて非常識でしょう。あの子、頭がおかしくなっちゃったんじゃないの?」智也は美由紀が生活上のことでぶつくさと言うのが好きではなかった。彼は携帯をデスクの上に置き彼女のほうへ押し戻して、冷たく淡々とした口調で言った。「母さんだってしょっちゅう実家に帰ってるんじゃないのか?」智也の中で、玲奈が実家に帰るのは別に悪いことではなかったのだ。美由紀は智也のその言葉を聞いてさらに腹を立てた。「私と同じじゃないでしょ?あなたと玲奈が結婚する時、春日部家は一人として挨拶に来なかった。それに明らかに玲奈とは縁を切った態度だったでしょ?きっと我が新垣家がますます発展していっているものだから、それを見てあなたに媚びを売る計画なのよ。だから、娘の玲奈を家に帰らせたんだわ」智也は眉間にしわを寄せ、まくし立ててくる美由紀を無視することに決めた。「あの春日部家は絶対にあなたに何か要求してくるわよ。言っておく
Baca selengkapnya

第12話

食事会に来たのは多くなく、だいたい7、8人だった。みんな学校関係者だ。ある生徒が怪我をしたので、玲奈は少し遅れて最後に食事会へやって来た。店員が個室を開けた時、その中にいた人はみんな玲奈のほうへ向いた。玲奈が一人一人その場の人を見ていった時、智也と勝がいるのに気付いた。阿部はこれが寄付募金の食事会であるとは彼女に伝えていなかったし、彼女からも特に詳しいことは尋ねずに、食事会に来ることにしたのだった。それに智也が普段行くのは5つ星レストランばかりだったし、ホテルも高級なところにしか泊まらなかったから、そんな彼がこんな田舎で食事をするとは思ってもいなかったのだ。智也も玲奈のほうを見て、少し意外に思っていた。しかし、少し考え、この食事会で彼に会うために、彼女も彼と同じように寄付でもしたのだろうと思っていた。阿部は玲奈が入り口に立って動かないのを見て、すぐに立ち上がり彼女を迎えた。「春日部先生、さあ、早くこちらにお座りください」先生?智也はその呼び名を聞いて、さらに不思議に思った。だが、玲奈が個室に入ってきた時、彼は無意識に立ち上がったままの勝のほうを向いて言った。「座れ、なにぼけっと突っ立っているんだ?」勝は驚いた。「え?」そしてこの時、玲奈はその席をサッと見渡して、智也から一番離れた席に腰をかけた。智也はそれをちらりと見て、眉をひそめた。勝はこの状況を見て、智也の言いたいことをようやく理解した。彼は玲奈が来た時に智也の横に座るかと思っていたのだが、彼女が智也から一番遠いところの席を選んでしまったのだ。勝もそんな玲奈の行動に驚いていた。彼は智也の元で何年も働いている。玲奈が智也のことを狂ったように愛していることを知っていて、そんな彼女がどうして彼に近づける機会を無下にするのか理解できなかった。これは……これは一体どういうわけなのだ?勝はどうしても理解できなかった。智也は彼がまだ突っ立っているのを見て、顔を上げて彼を一瞥した。勝はようやく座った。阿部は全員揃ったのを確認し、グラスを持ち上げてみんなで智也に乾杯し、智也は数口だけお酒を口にした。この場は智也が主役なので、玲奈は大人しく黙々と食事をした。乾杯の時に一緒にお酒を飲み、ほかの人たちが違いに乾杯し合っている時、彼女は下を向い
Baca selengkapnya

第13話

智也が帰るので、校長は立ち上がって見送った。玲奈は動かず、ただ黙々と箸を動かしていた。食事会が終わると、それぞれ帰路に着いた。玲奈と一颯の二人は学校のほうへ戻るので、二人一緒に帰った。田舎の空気は澄んでいて、夜空の月と星の光が瞬き、地上にゆらゆらと二人の影を作りだした。ちょうど10月でキンモクセイが咲き、そこらじゅう芳しい香りがしていた。玲奈はあまりたくさんしゃべらないので、帰り道はとても静かだった。暫く歩き続け、一颯のほうがその静けさに耐えられなくなり、話題を振ろうと彼女に尋ねた。「春日部さんはどこの大学だったんですか?」「久我山医科大学です」「私のある仲のいい友人も久我山医大出身ですよ」「偶然ですね」「校長から聞いたんですが、春日部さんは明日市内に戻られるとか?」「そうです、田舎での活動の期間は過ぎましたからね」「じゃあ、今後また春日部さんを食事にでも誘ってもいいですか?」玲奈は少し驚き、ちょっと考えてから答えた。「河野さんが市内に来られたら、私がご馳走しますよ」一颯は頭の後ろを掻いて、何とも人に好かれるような素朴な笑いを見せた。「男が女性と食事するのに、女性のほうに奢らせるわけにはいかないでしょ?」そしていつの間にか、学校の校門に着いた。そしてこの時道端には、校長の阿部と智也が陰になっているところに立っていた。彼らはちょうど、玲奈と一颯がやって来る方向を向いていた。阿部は二人が一緒に戻ってきたのを見て、思わず二人を褒めるような言葉を投げかけた。「新垣さんご覧ください。春日部先生と河野先生はとてもお似合いだと思いませんか?」智也はそちらのほうを向いたが、淡々とした表情で彼には何も返事をしなかった。智也の中で、玲奈はずっと分をわきまえている人間とは言えなかった。彼がはっきりと拒否していたというのに、それでも彼女はずっとしつこく彼に帰って来ないのかと尋ねていたのだ。だから、彼は彼女からかかってくる電話に出るのが嫌いだった。愛莉が誕生してからは、玲奈はいつもぼさぼさ頭に、乳臭い匂いがし、疲れているからか不健康そうな顔色をしていて、全く同年代の女性が見せる美しさはなくなった。そしてここ数年、彼はずっと彼女には触れてこなかった。彼女に近づきたくないとは言え、それでも自分の妻
Baca selengkapnya

第14話

翌日、玲奈がこの田舎に来てちょうど2か月目だった。つまり彼女が久我山に戻る時でもある。校長の阿部は、彼女に感謝を示すため学校をあげて送迎会を開いた。玲奈は自分が去ることに寂しさを感じていたが、これも人生、その一つ一つのシーンにおいて、やるべきことがある。彼女は車を運転して久我山に戻った後、白鷺邸へ戻り、自分にとって大切なものをまとめて春日部家に送った。白鷺邸には2年あまり住んでいた。だから、結構な荷物があったのだが、大切なものだけまとめて、それ以外は持って行かなかった。彼女が新垣家を離れても、帰る場所があって本当によかった。そしてまたその翌日、彼女は朝早くに病院に到着した。その日手術を行う担当医師が、彼女に第一助手を頼んできたのだ。手術室で、術前に手をしっかり洗い準備をしていると、玲奈は後ろから誰かの驚く声を聞いた。「玲奈?」玲奈は手術着を着用し、マスクと帽子を被っていて、両目だけが見えていた。彼女は後ろを振り向いて傍にいる男性を見ると、少し驚いてやっとその相手のことを思い出した。「東先輩?」東昂輝(あずま こうき)も目元だけ見せて、笑って言った。「うん、そうだよ」玲奈はとても驚いた。「先輩もこの病院で仕事をしているのですか?」昂輝はそれに答えた。「ちょっと助っ人にね。昼時間ある?一緒に食事でもどうかな?」玲奈は断ることはなく「ええ、ぜひ」と返事をした。昂輝は彼女に笑いかけた。「手術が終わったら待ってるよ」昼12時、玲奈はあるレストランを選んだ。確か昂輝はイタリアンが好きだったから、彼女はその店を選んだ。料理が運ばれてきて、彼女は昂輝にサラダを取り分けながら言った。「先輩、本当にお久しぶりですね」昂輝はそれを受け取ってお礼を言った。「そうだね。最近どうしてた?」玲奈は自分の生活についてあまり多くのことは語らず、ただ大雑把に「まあまあです」と返事した。昂輝は玲奈の薬指にある指輪の痕に気付き、一瞬動きを止めて尋ねた。「結婚してるのか?」玲奈は否定はせずに「ええ、可愛い娘がいるんです」と言った。昂輝は微笑んだ。「おめでとう。だけど、どうして俺たちを結婚式に呼んでくれなかったの?」玲奈は視線を落としそれに答えた。「結婚式は挙げていないから、みんなを呼ぶこともなかったんです」昂輝は
Baca selengkapnya

第15話

愛莉は腹の内で父親と共闘して母親を孤立させてやるなどという腹黒い考えを持っているくせに、沙羅には可愛らしい笑顔を見せていた。「ララちゃん、私大丈夫、ただあなたのピアノを聞きたいなって」沙羅はそれを聞いて穏やかに微笑んだ。「今夜、ちょうど私のコンサートがあるのよ。友達に連絡してあなたとパパの分、チケットを二枚とってあげようか?」愛莉はそれを聞いて手をパチパチと叩いて大喜びしていた。「うんうん、ララちゃん、ホント最高」そう言いながら、彼女は沙羅の首にぎゅっと抱きつき、すりすりと頬ずりをしていた。この時、智也は少しぼうっとしていた。彼は玲奈のさっきの反応が意外だったのだ。それに娘にあんなに冷たい態度を取ったことにもっと驚いていた。彼の中で、玲奈は娘にべったりで、トイレに行くのですら、娘から離れようとしなかったくらいだというのに。昔一度、智也が愛莉を連れて実家におじいさんに会いに帰った時、玲奈が帰って来て愛莉の姿が見あたらないと、大慌てで実家まで探しに来たのだ。そしてその時唐揚げを頬張っていた娘を抱きしめて、ぽろぽろと大粒の涙を流していた。当時、智也はそれを見て玲奈は過保護すぎると思った。しかし、それが今はどうだ?玲奈は愛莉に一瞥もせず、一言、二言もしゃべらなかった。以前の彼女であれば、こんな時、娘を抱きしめて絶対に離そうとしないはずだ。「智也?」沙羅が姿勢を正して智也のほうへ目をやると、彼がぼけっとしているので、声をかけた。すると、智也はハッと我に返り、淡々とした表情で言った。「行こう、席につこう」料理を注文し終えると、智也は顔を上げて向かい側に座っている愛莉のほうへ目を向けた。彼女は沙羅と頭を寄せあって、携帯で何かを見ているようだ。愛莉はまだ字を読めないが、沙羅と一緒にチケットを取るということ自体を楽しんでいたのだ。しかもララちゃんからとっても良い香りがするし、指もスッと細長くてとても綺麗だ。沙羅は携帯画面をタップして、少し仕方ないなという表情をして愛莉に言った。「愛莉ちゃん、第一列目の席はもうないみたい。二列目しかチケットが取れないわ」愛莉はそれを聞いて、少しがっくりしたようだった。「え?」智也は沙羅が今コンサートのチケットを予約していることを知らなかったが、自分なら欲しい席が取れるという自信
Baca selengkapnya

第16話

昂輝は玲奈の前に来て、微笑みながら提案した。「今夜、一緒にコンサートに行かないか」玲奈は離婚を考えているが、今はまだ既婚者だから、反射的に断ろうとしたが、昂輝は先に口を開いて口実を作った。「ちょうど気分転換したいと思っててさ。付き合ってくれる?」それを聞いた玲奈は少し考え、ただコンサートに一緒に行くだけだし、それに、二人は元々親しい友人同士だったから、問題ないと思った。すると、玲奈は頷いた。「分かりました、行きましょう」昂輝は微笑みを浮かべ、優しく言った。「じゃあ、今夜迎えに行くよ」玲奈も頷いた。「ええ、じゃあ、私は先に仕事に戻りますね」昂輝は木漏れ日の下で彼女の後姿を見送り、暫く彼女が消えた方向をぼんやりと見つめていた。ふっと、彼は笑みを浮かべた。まるで失ったものを取り戻したかのように、その瞳には生き生きとした喜びが溢れてきた。携帯を取りだし、友人の一颯が送ってきたメッセージを見て、その笑みがさらに深まった。「この子どうだ?この子にアピールするつもりなんだけど」このメッセージの後ろに写真が添付されていた。その写真は玲奈が久我山に戻る前に、記念という口実を作って、一颯が彼女と一緒に撮った写真だった。「離婚して娘さんがいるらしいけど、全然平気さ。何の苦労もなく父親になるのは逆にお得じゃん?我が子のように可愛がってあげられる自信があるぞ」昂輝はその写真を見て、一瞬固まりすぐ質問を返した。「離婚?」「ああ、本人がそう言ってたんだから間違いないだろう?」いろいろな感情が込み上げ、昂輝は手を震わせ、涙も出そうだった。暫く返事が来ないものだから、一颯は待ちきれずテレビ電話をかけてきた。「俺は本気だぞ。この子どう思う?結構俺気に入ったんだけど」珍しく昂輝は彼に穏やかな表情を見せながら、わざと真剣な面持ちで言った。「一颯、その子は君に釣り合わないよ」そう言われて、一颯が理由を執拗に聞いてきたが、最初、昂輝は言うつもりがなかった。しかし結局、ついに本音を漏らした。「一颯、この子が前に話した俺の後輩なんだ」一颯はそれを聞くと、それ以上詮索はせず、ただ「じゃ、成功を祈るよ」と一言だけ述べた。……その夜、玲奈が仕事を終えた時、昂輝はすでに病院の入り口で待っていたのだ。二人は一緒に夕食を取り、その後散歩し
Baca selengkapnya

第17話

智也は愛莉を席から落ちないように彼女を抱き上げた。同時に、愛莉が指し示す方向へ視線を向けた。暗い照明の中でも、一目で玲奈と昼間に会った昂輝がそこにいるのが分かった。彼らが座っているVIPシートは、普段、彼が愛莉と沙羅の演奏会に来る時いつも座る席だった。つまり、この東昂輝があの席を買った人物だということか。その時、絶えない拍手と喝采の中で、昂輝は玲奈の方に身を乗り出し、こっそりと何か言ったようだ。すると、玲奈の口元には微かな笑みが浮かんだ。距離がそれほど遠くなかったので、智也はすべてをはっきりと見ることができた。玲奈は智也の前では、こんな笑顔を見せることがほとんどなかった。笑ってもいつも媚びを売るような表情ばかりだった。玲奈がこんな風に誰かに笑う姿を見るのは初めてだった。彼は漠然と、玲奈が昂輝との関係が先輩後輩のような単純なものではないと感じたが、あまり深く考えなかった。視線を戻し、智也は小さな頭をあげて答えを待つ娘を見下ろし、微笑んで淡々と言った。「確かにママだ」愛莉は父親から確信を得ると焦るように言った。「でも、ママはパパのお嫁さんじゃないの?何で他の男とあんなに近くいるの?あの距離、もうすぐキスしそうなくらい近いよ」智也は黙り込み、また玲奈たちの方向をちらりと見た。彼女は昂輝ととても仲がよさそうに楽しく話し込んでいた。娘の質問にどうやって答えるべきか分からず、愛莉の前髪を軽く撫でながら言った。「演奏に集中して、沙羅はあと一曲で演奏が終わるぞ」不満そうな愛莉だが、父の言葉には従うしかなかった。「分かったわ」一方、嵐のような拍手に包まれた時、VIPシートに座っている昂輝は隣の玲奈の様子が気になり尋ねた。「どうした?具合でも悪い?」玲奈は無理やりに笑顔を見せて、首を振った。「何でもないですよ」昂輝は心配そうに彼女の手を取り、脈を測ったが、彼女の鼓動は安定していた。ただ、その表情は明らかに心が晴れていない様子だった。玲奈は昂輝に気を遣わせまいと、小さい声で言った。「本当に何もないんですよ。気にしないでください」しかし、昂輝は言ってくれなければずっとこのまま待つよと言っているかのようにじっと彼女を見つめていた。仕方なく、玲奈は本当のことを話した。「この『時雨(しぐれ)』っていう奏者が深津さ
Baca selengkapnya

第18話

しかし、彼女はそれ以上説明せず、ただ微笑んで昂輝に感謝を述べた。「褒めてくれてありがとうございます。でも、自分がどのくらいの者か、ちゃんと分かっています」昂輝は呆気に取られ、玲奈が本当に大きく変わったことに気付いた。かつて明るくて太陽のようだった女の子の目に、劣等感がはっきりと見て取れる。しかし、彼女は成績がよくて、優秀だった。大学院への推薦も受けて、多疾患研究センターの一員に加わる機会もあった。しかし、彼女は結婚を選んでしまった。昂輝は再びステージ上を見やった。沙羅は確かに輝いて眩しく見える。純白のドレスに包まれたしなやかな姿は、観客の注目の的となっていた。しかし、昂輝は暫く黙ってから、玲奈を向いて真剣に言った。「スポットライトが消えたら、みんなは同じ、ただの人間なんだよ」玲奈はその言葉に何も答えず、ただ淡々と微笑んだ。今思えば、彼女が後悔していないわけではないのだ。もしそのまま医学に専念していれば、今頃はそれなりの成果を出していたかもしれない。ただ……すべてはもうやり直せないのだ。演奏会が終わり、沙羅は観客に向かって深くお辞儀をした。嵐のような拍手がホールに響き渡った。玲奈さえも、思わず拍手をしてあげた。彼女を恨んでいないわけではないが、ただ、最大な過ちを犯してしまったのは智也ではないか。それに、彼女はもう諦めることにしたのだから。このままいくのが、一番最善の流れなのだ。沙羅はお辞儀をしてから、自然に視線をVIPシートの方へ向けると、いつも智也と愛莉が座っている席に、今日は玲奈と昂輝がいた。一瞬驚いたが、すぐに智也と愛莉の席を見つけ、微笑みを見せ、バックステージで待つよう二人に目で伝えた。観客がほぼ退場した頃、玲奈と昂輝は立ち上がり、帰ろうとした。すると、愛莉がステージへ駆け上がっていた。「ララちゃん」まだまだ幼い子供の顔は憧れと誇らしさに満ちていた。その光のように輝く人物は、幼稚園で自慢できる話題になるという感じだ。自分の母親については、誇れるところなど何も思いつかない。愛莉はステージに上がると、おりて来た幕の裏へ行って沙羅と抱き合った。「ララちゃん、今日は本当にキレイだね。愛莉が大きくなったらララちゃんのような美人さんになりたいの」「愛莉ちゃんってば、本当にお
Baca selengkapnya

第19話

無理強いして作られた関係からは甘い日々は得られない。ましてや、玲奈にはこの婚姻を続ける気力などもう残っていなかった。例え、彼女が離婚を切り出さなくても、第二子を産んだ後、智也の方から離婚を持ち出してくるに違いない。彼女はもう他人のために出産する道具にも、籠の鳥にもなりたくないのだ。昂輝は玲奈が涙をこぼしたのを見て胸が痛んだが、慰めと涙を拭いてあげる以外、何をしてあげられるか分からなかった。愛莉がステージに上がった後、智也はすぐに追わず、横の方へ視線を向けると、ちょうど昂輝が玲奈の涙を拭うのが目に映った。二人の距離がとても近く、彼から見ると、二人はくっつきそうなほどの距離だった。その時、沙羅はもう衣装を着替え、愛莉の手を引いて智也の方へ歩いてきた。「智也」と優しい声で呼んだ。智也は我に返り、沙羅を見て僅かに微笑んだ。「うん」沙羅は提案した。「一緒にご飯食べる?」智也は「いいよ」と快く応えた。愛莉が智也の手を取り揺らした。「パパ、焼き肉食べたい」沙羅は愛莉の鼻を軽くつまみ、笑いながら言った。「まったく、食いしん坊なんだから」ホールの外で、玲奈は冷たい風にあたり、少し気持ちが落ち着いた。彼らが自分を捨てたのだ。別に自分が捨てたわけではない。どう考えても、罪悪感を抱くべきなのは彼女ではないのだ。昂輝は玲奈が落ち着いたのを見て、思わず食事に誘った。「一緒にご飯を食べないか?」玲奈は少し考えてから頷いた。「いいですよ」ちょうどお腹も空いていたし、それに、昂輝の誘いを断るのも失礼だと思った。ある中華料理店に着くと、昂輝は先にドアを開けて、玲奈をエスコートしてあげた。店に入ると、玲奈は固まった。店の一番中央のテーブルには何人か座っていて、その中に智也、愛莉と沙羅もいた。智也と愛莉は入り口に背を向けており、玲奈が入ってくるのに気付いていなかった。沙羅は智也の右側に座り、振り返らない限り入り口は見えないのだ。智也の向いには二人の男と一人の女が座っていた。その二人の男には、玲奈は会ったことがある。彼らの名前は高井薫(たかい かおる)と室町洋(むろまち よう)というのだ。しかし、女性に対しては、玲奈は面識がなかった。上流社会では、男の隣にいる女が頻繁に変わるものだ。たとえ結婚していても、
Baca selengkapnya

第20話

「愛莉ちゃん、君の大好きなララちゃんはね、今年大学院を卒業して博士に進むんだよ。深津さんの家のビジネスも成功しているんだ。彼女はピアノの資格やトロフィーなんかをたくさん持っている。それだけじゃなく、モデルや演技の仕事もしているんだぞ。すごいなんて言葉じゃ足りないくらい、優秀な人なんだ。どんな分野でも成功する才能の持ち主なんだぞ」薫の感嘆する言葉を聞き、愛莉は心から誇らしげな表情を浮かべた。彼女はまた沙羅の方を見て、真面目に言った。「ララちゃん、とってもすごい人なのね。大好き!」沙羅は愛莉の頭を撫でながら、優しく甘やかすように口を開いた。「愛莉ちゃんもきっとそうなるよ。だって、とても優秀なお父さんがいるんだから」愛莉は智也を見て、さらに得意げな顔になった。自分の父親は生まれながら人生勝ち組で、沙羅もみんなに憧れられる女神なのだ。向い側に座っている洋はただみんなの会話を静かに聞いていた。かれは噂話が好きなタイプではない。ただ、入り口の席に座っている女性に見覚えがあるようだと思っていた。暫く考えて、ようやく愛莉の満一カ月のお祝いのパーティーで彼女に会ったことを思い出した。そうだ。あの女性は智也の妻だ。洋は場違いだと思いつつも、それでも呟いた。「ここには知り合いもいるみたいだ」あの女性が本当に智也の妻かどうかはまだ確信を持っていなかったが、躊躇いながらもそう言った。洋の話を聞き、智也、愛莉、それに沙羅も玲奈の方へ視線を向けた。玲奈は背を向けて座っているので、後ろ姿しか見えなかった。愛莉は母親だと気付き、不満そうに文句を言った。「もう、どこに行ってもママがいるなんて、うっとーしいよ」智也は視線を戻し、愛莉におかずを取ってやった。「これを食べて」愛莉は不機嫌になり、なぜか急に食欲がなくなった。音楽会で会ったのはまだしも、食事までも同じ店にいるとは。愛莉は思わず母親がきっとこっそりついてきたに違いないと思った。しかし、考え直せば、母親はやっと我慢できなくなり、自分に謝りに来たのかもしれないとも思った。そう思うと、愛莉は少し気分がよくなった。背中合わせに座っていたため、ずっと見ていられず、愛莉が次にこっそり振り返ったとき、さっきまでいた母親の姿はもうそこにはいなかった。彼女は頭が混乱した。母
Baca selengkapnya
Sebelumnya
123456
...
10
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status