「座っていいよ」玲奈が彼の学生じゃないということも気にしないようだった。有能な人材なら、宮口教授は誰でも気に入るのだ。玲奈が注目されたのを見て、沙羅の心の中に怒りがみるみる膨れ上がった。羨ましさだけでなく、嫉妬も感じていた。苦労して博士になり宮口教授の講義を受けられるという資格を得たというのに、彼女は一度も褒められたことがなく、むしろ叱られることの方が多かった。彼女とは違い玲奈は初めてこの講義に来たのに、もう褒められてしまったのだ。沙羅はそんなことを考えると、ますます心が乱れた。玲奈に負けたくない。しかしよく考えてみれば、玲奈は大学院にも進んでいないのだ。どうやって自分と比べられるだろうか。たった一度教授から褒められたくらいで、大したことではない。それに、先ほど玲奈は昂輝と質問について話し合ったから、さっき言った答えはきっと昂輝が教えたに違いない。4年間も専業主婦をやっていた女が、そんなに医学の基礎理論に詳しいはずがないのだ。沙羅は信じられなかった。そう考えると、彼女は心が少し楽になった。講義が終わり、宮口教授が離れた後、玲奈は昂輝と一緒に教室を出た。下まで行くと、突然誰かに呼ばれた。「春日部さん、東君」振り返ると、白髪の宮口教授がそこに立っていた。年は彼の顔に皺を刻んでいったが、医学への情熱は少しも衰えることはなかった。医学のために、彼は人生の大半を捧げてきた。60代になり、本来なら引退してもおかしくない年齢なのに、まだ職場に残っている。それに、医学のため、彼は一生結婚せず、子供も作っていない。玲奈「宮口教授」昂輝「宮口教授」二人は揃って律儀に宮口に挨拶をした。宮口教授は玲奈の前に来て、にこやかに尋ねた。「今どこで働いてるんだい?」玲奈は恐縮した。「宮口教授、今働いてるのは大したところではありませんよ」宮口教授は彼女に微笑み、さらに興味津々に尋ねた。「じゃ、どちらの先生の教え子かな?」玲奈は少し恥ずかしそうに目を伏せた。「博士には進めていません。仕事だけに専念しています」宮口教授は少し残念そうだった。「そうか、どの科なんだ?」「小児外科です」「おお……大変なところだね」玲奈は笑いながら言った。「はい、でも慣れれば大丈夫ですよ」彼女
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