玲奈は、外へ向かう足をふと止めた。堪えきれずに振り返り、涼真を見据えて、冷ややかに言う。「そんな言葉を吐く時点で、あなた自身も大した人間じゃないってことだわ」涼真はもともと玲奈が気に入らなかった。反論された瞬間、かっとなり、声を荒らげる。「もう一回言ってみろ!」玲奈は冷笑した。「何回言っても同じ。表に出せないのは、あなたのほう。ただの出来損ないよ」涼真はついに我慢できず、スマホを床に叩きつけて玲奈の前へ詰め寄る。「死にたいのか!」距離を詰めると、涼真は手を振り上げ、今にも玲奈を殴ろうとした。その手が振り下ろされる前に――二階から、低く重い怒声が響いた。「涼真、やめろ」智也の声だった。兄の声を聞いた瞬間、涼真は理由もなく動揺し、反射的に手を引っ込めた。智也は薄いグレーのパジャマ姿で、階段を一段ずつ下りてくる。その一歩一歩が、涼真の胸を打つ重い槌のようだった。智也が近づいてきて、涼真はようやく声を絞り出す。「......兄さん」うつむいた姿は、叱られる子どものように情けなく、声も掠れている。だが智也は容赦しなかった。無言のまま足を振り上げ、涼真の膝裏を強く蹴りつける。かなりの力だった。涼真はよろめき、立っていられなくなりそうになる。どうにか体勢を保ったところで、智也が低く問いかけた。「誰に向かって、そんな口をきいている」涼真は頭を下げたまま、不満を滲ませて言い返す。「違う。あいつが変わったんだ。飯も作らないし、掃除もしない。だから、ちょっと懲らしめようとしただけだ」智也の声は、さらに低く沈む。「彼女は、お前が懲らしめていい相手か?」涼真は黙り込んだ。智也は畳みかける。「玲奈は、新垣家の家政婦か?」涼真は首を振る。「......違う」「違うなら、なぜ料理をする必要がある。なぜ掃除をしなきゃならない」涼真は顔を上げ、食い下がった。「でも、前は全部やってた。俺に、うまい飯も作ってくれてたじゃないか」智也は怒りを露わにし、涼真の声をかき消すほどの大きさで言った。「なら、これからはやらなくていい。何一つ、する必要はない」涼真は納得できず、なおも言う。「兄さんは、あいつを甘やかしすぎな
Magbasa pa