その夜、心晴はイベント参加の予定があったため、春日部家の人たちが来る頃にはすでに帰っていた。今夜は綾乃ではなく、秋良が夕食を持ってやって来た。玲奈が入院してから、秋良は一度も姿を見せていなかった。今夜が初めての見舞いだった。幼い頃からずっと一緒に育ってきたが、秋良は無口で、何事にもきっちりしていて、短気とは違うが読めない面のある性格だった。兄のことはよく知っている。それでも、二人きりになると玲奈は少し緊張してしまう。玲奈はベッドにもたれ、秋良が持ってきた夕食をゆっくり食べていた。秋良は椅子に座り、手元でみかんを剥いている。剥き終えると、それを小さな容器に入れ、手を拭き、初めて玲奈へ顔を向けて質問した。「拓海は?」あの日、拓海が玲奈を抱えて家から連れ出した。家族が病院に駆けつけ、玲奈が高熱だと分かった時点で、秋良は両親を先に帰らせた。本来なら拓海がなぜ家にいたのか問い詰めるつもりだったが、綾乃がそれを止め、「余計なことは言わないの。帰ってて」と突き放した。綾乃の意図は、秋良にも分かっていた。だからこの二日、妹を心配しながらも病院には来なかったのだ。来て拓海を見たら、怒りを抑えられないかもしれない。それを分かっているからこそ、綾乃も来るのを許さなかった。拓海の名を出された瞬間、玲奈の手がわずかに止まった。「......帰ったわ」玲奈は怯えたように、小さく答えた。秋良は嘲るような声音で言った。「たった二日で面倒みきれなくなったのか?」玲奈は食器を脇に置き、みかんを一つ取り、ゆっくり口に運んだ。それと同時に、秋良が淡々と言った。「所詮は須賀の人間よ。生まれた時から、私たちとは違う世界の人間なの」秋良の言葉には皮肉もあったが、それ以上に妹を思う気持ちがにじんでいた。その秋良の言葉を聞いて、彼は心配そうに言った。「恋愛するなとは言わない。でも地に足のついた相手のほうがいい。綾乃はあの拓海を褒めてやまないが、俺にはさっぱり分からない。二日世話しただけで逃げるように帰った男が、お前を一生守れるか?」玲奈は笑った。「心配しないで。もう簡単に恋愛なんてしないわ」秋良はそんな妹を見つめ、胸が痛んだ。智也との結婚生活で、どれだけの我慢をしてきた
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