玲奈は、拓海の言った言葉をわざわざ正すつもりはなかった。ただ「行ってきな」とだけ告げた。拓海は病室を出る前、玲奈の不意を突くようにそっと額に口づけし、「先に寝ててくれ。すぐ戻るから」と言い残した。そう言って、彼は病室を離れた。けれど、拓海が出ていったあと、玲奈はまったく眠れなくなった。むしろ、どんどん目が冴えていくばかりだった。頭の中には、この二日間の拓海の優しさと、彼が自分にかけた言葉がいっぱいに広がっていた。玲奈はずっと、拓海が自分に近づくのは何か裏があるからだと思っていた。それなのに彼は足まで洗ってくれた。小さなことではある。けれど、それをしたのが拓海だから、全く違う意味を帯びてしまう。だが今になっても、自分にどんな価値があるのか分からないままだ。玲奈の心は、少しずつ揺さぶられ始めていた。もし――拓海が本気で自分に優しくしているのだとしたら?そんな思いが頭をよぎるほどに、玲奈はさらに眠れなくなった。部屋がどことなく息苦しく感じられ、外の空気を吸いたくなった。歩いているうちに、気づけば廊下の突き当たりまで来ていた。突き当たりには階段室へ続く扉がある。玲奈は小さな扉を押して中に入り、半開きの窓辺に立って冷たい風に当たった。星が点々と瞬き、夜空は静かに美しい。ちょうど窓の真下には、病院の庭園が広がっていた。玲奈は視力がよく、しかも階も高くない。下を覗き込んだ瞬間、拓海と沙羅の姿が一目で目に入った。拓海は沙羅から連絡を受けたとき、最初は相手にする気すらなかった。だが、あることを思い出し、結局こう返信した。【わかった、場所を言ってくれ。そっちへ行く】沙羅が送ってきたのは、病院の庭園の位置情報だった。拓海が庭園に入ると、ベンチに座る沙羅がすぐに目に入った。寒いのか、両腕をぎゅっと抱きしめるようにしている。足音が近づくと、沙羅は振り返り、拓海だと分かるとようやく柔らかな笑みを浮かべた。「須賀さん、来てくださったのね」初冬の空気は冷たい。だが沙羅は薄手の長袖ワンピース一枚で、コートすら着ていない。それを見ても、拓海の表情に情はなく、むしろ皮肉めいた声で言った。「どうした?智也のそばにいてやんなくていいのか?」その言葉は、拓
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