おそらく足を捻ってしまったのだろう。玲奈は暫く経っても起き上がることができなかった。誰かが彼女の腕を掴んできた時、彼女はおどろいて後ろを振り返った。そこにいたのは昂輝だった。玲奈はその瞬間目を真っ赤にさせて、鼻の奥をツンとさせた。彼女が伏し目がちにすると、瞳から涙が零れてきた。「どうしてまだこんなところに?」昂輝は彼女の傍に屈んで、満面の笑みで尋ねた。「何も問題なんてないのに、俺に銀行カードをくれてどうしようって?」玲奈はまだ顔を下に向けたまま、後悔したような口調で言った。「実は、私のせいであなたが……」彼女が話し終わる前に昂輝がこう言った。「分かってるよ」それを聞いて玲奈は彼へ顔を向けた。その瞳には驚きと疑惑の色が入り混じっていた。「先輩……」昂輝はこの時まだ微笑んだままで淡々とこう言った。「俺は怖くないよ」院長からクビだと通知されたその瞬間、昂輝は心の奥でどういうことなのかだいたい予想がついていたのだ。昂輝の、この医学界における身分をどうこうできる人間と言えば、きっと新垣智也ただ一人だけだろう。ここ暫くの間に起きたことを繋ぎ合わせて考えてみれば、その原因がどこにあるのか想像するのは難しくなかった。玲奈は顔を下に向け、この時も申し訳ない気持ちでいっぱいだった。「本当にごめんなさい」昂輝は彼女の腕を掴んだまま笑って言った。「どうした?こんなところで夜を過ごすつもりなのか?」それを聞いて、玲奈は昂輝の力を借りて地面から起き上がった。捻挫した足が痛くてたまらず、玲奈は全身に冷や汗をかいていた。彼女は足を地面につけることができず、体のほぼ半分の体重を昂輝に任せてしまっている。そしてこの時、近くから突然店員の声が聞こえてきた。「新垣さん」その声が聞こえて玲奈が顔を上げてそちらを見てみると、ちょうど智也が自分の前方から歩いてきていた。智也はもっと早くに玲奈に気付いていた。彼女がレストランから出てきて、入り口のところの段差で転んでしまったのも目撃していた。それに昂輝がこっそりとカードを玲奈のかばんに入れるところも見ていたのだった。それと同時に智也も昂輝がさっき言ったあの「何も問題なんてないのに、俺に銀行カードをくれてどうしようって?」も聞こえていた。智也はその全てを見て、聞いていたのだった。近頃
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