All Chapters of これ以上は私でも我慢できません!: Chapter 61 - Chapter 70

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第61話

春日部家にて。玲奈がなかなか戻ってこなかったため、家族たちは食事の時間を遅くしていた。そして、家族全員が食卓を囲んで、楽しく食べた。陽葵は玲奈と綾乃の間に座り、叔母と母親から次々とおかずを分けてもらい、エビの殻を剥いてもらって、嬉しそうに目を細めて笑っていた。「お母さん、おばちゃん、明日は発表会なのよ。わくわくしてるけど、少し緊張しちゃう」陽葵は指をなめながら、興奮と緊張で落ち着かない様子だった。玲奈は微笑んでいたが、気持ちが重かった。綾乃は優しく陽葵をたしなめた。「明日お母さんもおばちゃんもいるのよ。そんなに緊張しなくていいわ。普段通りにすれば十分よ。もし花丸もらえるならもちろんいいことだけど、もらわなくても陽葵は私たちの誇りなのよ」陽葵は楽しそうに笑って、期待に胸を膨らませた。ふと何か思い出したように、彼女は玲奈に向いて心配そうに尋ねた。「おばちゃん、明日本当に大丈夫なの?」陽葵はもう何度も玲奈にそう尋ねたのだ。愛莉と同じ幼稚園に通っている陽葵は、玲奈が愛莉ではなく、自分と一緒に活動に参加することが気になっていた。陽葵は確かに嬉しかったが、愛莉が悲しくなるだろうと心配したのだ。玲奈はこのことをきちんと考えていた。最初は二人が同じ幼稚園だとは知らず、陽葵から聞いて初めてそのことを知ったのだ。何より、彼女が先に陽葵と約束していた。それに、愛莉はもう彼女を必要としていないだろう。じっくり考えてから、玲奈は陽葵に微笑んで言った。「大丈夫よ」娘と一緒にいたい気持ちはあったが、でも、娘はもう彼女を求めていないのだ。娘とは、もう以前のように戻れない。もし愛莉のひどい言葉を聞いていなかったら。もし、愛莉にとって一番大切な存在が沙羅だということを知らなければ……しかし、人生には「もし」というものはないのだ。……翌日、陽葵は朝早く起き、綾乃を起こしてから、また玲奈を起こしにきた。今日は幼稚園での活動の日だ。先生に家でメイクしても、幼稚園に来てからメイクしてもいいと言われていた。綾乃は現役モデルなので、わざわざ幼稚園でメイクさせる必要はないのだ。8時半までに幼稚園に行かなければならないから、綾乃は6時に起きた。陽葵に起こされて、玲奈も起きた。綾乃は陽葵にメイクをして、可愛らしい
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第62話

玲奈は元々美人だった。ただ愛莉を産んでからおしゃれを怠っていたから、智也が見てきた彼女は、いつも子供を世話していて髪もぼさぼさで、適当な姿だった。しかし、沙羅は違う。彼女は常に完璧なメイクを決めていて、毎日違う服を着ていた。少なくとも、沙羅のSNSをこっそり見ていた時期、どの動画に出てくる彼女も違うスタイルだった。優しい系、クール系、セクシー系、知的な感じ、可愛らしいスタイル……あまりにも多面的で、神秘的だった。玲奈は思わず、もし自分が男だったら、きっと沙羅の魅力にやられてしまうだろうと思った。「玲奈ちゃん?」綾乃に呼ばれ、玲奈ははっと我に返った。すると、彼女は微笑んで言った。「確かに、綺麗になったね」綾乃は彼女の肩を優しく叩いた。「もっと自分を磨いて、楽しいことをしてね。あなたが失ったものなんて、大したことないと気付くはずよ」玲奈は綺麗に笑った。「ええ、分かったわ」「じゃあ、私も準備してくるわ。8時に出発しましょう」と綾乃は言った。8時になると、三人は春日部家を出た。幼稚園に着くと、すでに多くの保護者ときれいに着飾った子供たちで賑わっていた。陽葵は同じクラスの園児たちに会うたびに、得意げに後ろの二人を紹介した。「私のお母さんとおばさんだよ、綺麗でしょ?」こうやって他の園児に自慢してから、先生に集合するように言われた。保護者たちは先生に指定された席に着いた。イベントが始まると、まず各クラスのダンス発表からだった。玲奈は観客席に座り、本能的に視線を愛莉へ向けた。どのクラスもダンス発表をした。子供たちはまだまだ小さいから、ハプニングがよくあるが、何とか形になっていた。愛莉も踊っていた。今日はメイクしていたが、シンプルなポニーテールを結んだだけで、飾りもなかった。それでも楽しそうに笑っていた。笑っている愛莉を見ると、玲奈はほっと胸を撫でおろした。何と言っても、愛莉は彼女の実の娘だ。いくらひどいことを言われたとしても、玲奈は娘の幸せを願っていた。ダンスが終わると、子供たちの個人発表の時間になった。優秀な子には花丸と表彰状がもらえるのだ。陽葵はおとぎ話の劇を披露した。おとぎ話を流しながら、それに合わせて演技をするものだった。次々と子供たちが発表を終え、ステージから降り、やがて愛莉の
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第63話

沙羅のピアノ演奏は確かに文句なく素晴らしく、そのオーダーメイドのドレスも目を引くものだった。しかし、今日は幼稚園のイベントで、主役はあくまで子供たちだった。愛莉は旋律に合わせられず、ステップを乱し、動きもだんだんおかしくなっていった。観客席からまた囁き声が聞こえた。「あのお母さん、確かにきれいだけど、自分だけが目立ちすぎなんじゃない?今日の主役は子供たちなのに、彼女一人で全部持っていかれてるわ」「私もそう思うわ。あの子、もうついていけないのに、全然止まらないし。これお母さんたちが競い合う試合みたいになってる」「見て見て、あの子もう止まってるのに、お母さんはまだ弾き続けてるよ」「あの子もあの子で、ダンスが上手じゃないのに、どうしてダンスを選んだわけ?ちょっと歌を歌ってもいいじゃない?」「たぶんお母さんの演奏を自慢したいんだろう?逆に恥をかいてるけどさ」「そうよ。それにあの子、棒みたいに突っ立ってて、頭が悪そうに見えるわ」愛莉は完全に止まったのに、ピアノは全然止まる気配がなかった。ステージの下の声はきちんと愛莉の耳に届いていた。彼女は悲しそうに目が赤くなり、涙をポロポロとこぼした。沙羅は完全にピアノの世界に没頭していたので、周りの声も愛莉の泣き声も全く耳に入っていなかった。やがて、演奏が終わり、ピアノが止まった。沙羅は心を込めてこの曲を弾いたので、激烈な拍手と喝采を期待していたのだが、彼女が満足げに立ち上がった時、観客から冷たく囁かれていることに気付いた。そして、泣いている愛莉を見つけた。「愛莉ちゃん、どうしたの?」沙羅は慌てて愛莉の前にしゃがんで尋ねた。しかし愛莉は沙羅の手を振り払い、何も言わずステージを降りた。観客席に座っていた玲奈は愛莉が人々にあんな風に言われて胸が苦しくなり、愛莉がステージを降りたのを見て、思わず立ち上がろうとした。その時、先生が陽葵の名前を呼んだ。陽葵は玲奈の心配に気付き、こう言った。「おばちゃん、愛莉ちゃんのところに行ってあげて、私はママと二人でやるから」玲奈は俯き陽葵を見つめ、少し躊躇いながら言った。「大丈夫、一緒に発表が終わってから行くわ」春日部家で何度も一緒に練習してきた発表を自分のせいで台無しにしたくなかった。陽葵はまだ彼女を説得しようとしたが
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第64話

ただのありきたりのおとぎ話なのに、どうして?ステージの上で、ずっと愛莉を心配していた玲奈は愛莉のほうへ目線を向けた。玲奈は愛莉の目から羨ましさと困惑が見えた。愛莉も母親の視線に気付き、胸が締め付けられるような感覚に襲われて、また涙が浮かべだ。もし、今日一緒に参加してくれたのが母親だったら、この歓声と拍手は全部彼女のものになったのだろうか?しかし、そう思うと、その感覚が恨みに変わった。ママには時間があったはずなのに、陽葵を選んで、彼女を捨てたのだ。その怒りと不安に潰されそうになり、彼女は悲しくて沙羅に抱き付いた。沙羅はどう慰めていいか分からないので、ただ彼女の背中を撫でるしかなかった。やがて、すべての発表が終わり、陽葵の劇は一位になり、花丸を三つもらえた。表彰式が終わると、先生から次の活動が発表された。みんなで一緒に巻き寿司を作るのだ。愛莉は陽葵より年下で、クラスが違い、二つのクラスが一緒にいられないので、寿司を作るとき、玲奈と愛莉は一緒に座れなかった。子供は五人一組で、親と一緒に一つのテーブルを使い、それぞれの寿司を作り、出来上がったら一緒に食べるのだ。二人のクラスの離れた距離はそれほど遠くないので、玲奈は寿司を作る時、時折顔を上げて愛莉のいる方向をチラッと見ていた。沙羅は愛莉の隣に座り、あまりにも派手な服装をしていたため、その場に全くそぐわなかった。しかし、愛莉の顔を立てるため、沙羅も寿司づくりに参加した。食材を取り、寿司を握ろうとした時、長い爪が反り返り、指先から血が食材に滴り落ちた。周りの人が呆然とそれを見て、言葉を失った。「ちょっと、そこのお母さん、子供の活動に参加しに来たの?それともファッションショーに来たの?その血、食材に落ちたじゃない?子供たちがどうやって食べるのよ」「見た目は綺麗なのに、どうしてこんな汚いことするの?」「こんな人が母親になる資格がある?幼稚園に来る前に、長い爪を切ったり、ドレスを変えたりすることも考えなかった?」「この子、本当に実の子供なの?捨てられた子を養子にしたんじゃない?」沙羅は今までそんな面と向かって嫌味を言われたことがなく、顔を真っ赤にした。痛みで手はすでに感覚を失い、血がまだどくどくと流れ続けていた。愛莉は周りの人たちの嫌味を聞き、飛びつく
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第65話

沙羅は電話を切り、振り返ると心配そうな顔をした玲奈がこちらに向かって歩きながら愛莉の名前を呼んでいた。その時、沙羅の手はまだ爪が折れたせいで血が止まらずにいた。どんなに痛くても、今自分の爪のことなど考える余裕はなかった。愛莉がいなくなったから、智也にどう説明すればいいのか。玲奈が近づいてくるのを見て、沙羅は思わず彼女に声をかけた。「春日部さん」玲奈は冷たい眼差しで彼女を見つめた。「愛莉は?」沙羅がある方向を指差した。「あちらに行ったはずなのよ」玲奈は彼女とそれ以上話すつもりがなく、沙羅をかわすようにして追いかけた。幼稚園の活動はまだ続いていたが、陽葵は玲奈のことを心配して、綾乃に愛莉を探すように頼んだ。玲奈はすべての教室を探し回ったが、愛莉の姿は見つからなかった。最後に、彼女はトイレに向かった。入ろうとした時、ちょうど智也が愛莉を抱いて出てきたところに鉢合わせた。愛莉は泣いたようで、今智也の肩に顔を当てて、体を震わせていた。智也は大きな手で娘の背中を撫でていた。それは慰めの意思も含まれていて、落ちないように支えてもいるのだ。玲奈も娘のことが心配で、優しく声をかけた。「愛莉」智也の顔色が暗く、鋭い視線で玲奈を睨んだ。その視線は人を凍らせるように冷たかった。「これがお前が言った用事か?」唇を軽く動かし、喉の奥から低い声を出した。明らかに玲奈を非難している。さっきトイレで愛莉が泣きじゃくっていた。智也が来て事情を聞き出し、ようやく何があったのか理解したのだった。玲奈の言っていた用事が陽葵と一緒に発表することだったこと、娘がどうして周りに陰口を叩かれたかということ、それと、沙羅が愛莉のために爪を折ったことも、全部知った。玲奈も娘が智也に何か話したと察したが、智也の圧倒的なオーラにひるむようすもなかった。彼女は答えた。「そうよ、私は先に陽葵と約束したから」彼女に少しも後悔の色も見えないばかりか、当たり前のような顔をしているの見て、智也はますます苛立ち、嘲笑うように言った。「随分と当然のような顔をしているんだな」智也から見ると、玲奈は愛莉を最優先にしなかったことが間違いだったのだ。玲奈がもうすべてを諦めていることを、彼は一切知らなかった。玲奈は智也に説明する気はなかった。「どう思
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第66話

彼女の言った言葉は怒りに任せたものではなく、結構前から決めていたことだった。智也は鋭い視線で彼女を見つめ、眉間に深いしわを寄せ、暗い顔をしていた。愛莉は玲奈の言葉を聞き、智也の肩から顔をあげた。二人が喧嘩になるのを恐れたのか、それとも本当に母親に見捨てられることを恐れたのか、小声で「ママ」と呼んだ。玲奈は娘を見つめ、胸が締め付けられたが、前に陽葵に言われたことを思い出し、一歩前に踏み出した。智也は彼女が近づいても愛莉を抱いて遠ざけようとしなかったが、彼女を見なかった。玲奈は手を伸ばし、優しく愛莉の顔を撫でながら言った。「愛莉。ママは言ったわよね、他人を虐めたり、見下したり、悪口を言ったりしてはいけないって、まだ覚えてる?悪いことをしたらちゃんと謝るのよ」愛莉は目を赤くし、涙をこぼしながら頷いた。「分かったよ、ママ」玲奈は彼女の涙を拭き、微笑んだ。「さっきステージでの発表、とてもよかったわ。少しハプニングがあったけど、ちゃんとステージに立っただけで、他の子より勇気がある証拠なのよ。世間の声には良いものも悪いものもあるけど、ちゃんと自分を信じるのが大事なの。今回はうまくいかなかったけど、もっと練習すればいいのよ。次はもっと上手に踊れるわ。他の人の言葉なんて、気にしなくていいんだから」慰められれば慰められるほど、愛莉はますます悲しくなり、泣きじゃくった。玲奈はまた彼女の頭を優しく撫でた。「でもママの言ったことだけは忘れないでね。悪いことをしたらちゃんと直すこと」愛莉は続いて頷き、涙も止まらなかった。「これからはパパのことを良く聞いてね。学校で嫌なことがあったら、パパに話すのよ。分かる?」智也はもうこれ以上聞いていられず、また愛莉を上へ抱きなおすと、険しい表情で玲奈を一瞥した。「余計なお世話だ。娘の面倒は俺がちゃんと見るぞ」玲奈の言葉は、まるで最後の別れのようだった。これから、もう二度と会わないかのような感じだった。なぜか知らないが、智也は胸が締め付けられたように辛かった。彼はもう玲奈のくだらないことをこれ以上聞く気もなく、愛莉を抱いたまま幼稚園の外へ歩き出した。愛莉は智也の肩に埋まり、泣きながら騒いだ。「ママ!ママがいいの!パパ!降ろして、ママが!」智也は全然娘の言葉を聞かず、そのまま彼女を抱いて幼稚
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第67話

黒いロールスロイスの後部座席には、智也と愛莉が並んで座っていた。愛莉は長い間泣き続け、ようやく泣き止んだが、また時々肩を震わせていた。暫く待つと、沙羅は幼稚園から出てきた。智也は相変わらず彼女のためにドアを開けてあげた。沙羅は目を潤ませながら礼を言った。「智也、ありがとう」智也は無理やりに笑顔を見せ、車を回って、向こう側からまた乗り、座った。愛莉は二人の間に、智也と沙羅が左右から囲むように座っていた。沙羅の傷ついた指はまだ手当せず、ティッシュでぐるぐる巻きにしただけで血を何とか止めている状態だった。しかし、彼女は痛みを訴えず、車に乗り込むとすぐ愛莉に謝った。「愛莉ちゃん、私は考えが足りなくて、あなたがあんなことを言われて、辛い思いをさせてごめんね」愛莉はまた目を赤くし、沙羅の胸に飛び込んだ。「ララちゃんのせいじゃないよ。私が上手く踊れなかったから。ララちゃんまで巻き込んじゃって、ごめんなさい」沙羅は愛莉を抱きしめながら、チラッと智也の様子を覗いた。彼の険しい表情を見て、機嫌が悪いことを悟った。彼女は愛莉が具体的に何を言ったのかをちゃんと聞かず、ただ智也に謝った。「智也、ごめんなさい。私、ちゃんと愛莉ちゃんのこと、守れなかった」智也は沙羅に視線を向けた時、その冷たさをうまく隠し、優しく笑いながら言った。「気にすることじゃないんだ。君は母親になったことがないから、これで十分だよ。今日のことは君の責任じゃないから」愛莉も沙羅の胸から顔をあげて言った。「そうよ。ララちゃんはすごく頑張ってくれたのよ。あの人たちが分かってないだけ。それに、一番悪いのはママが一緒に参加してくれなかったことよ。だから私はあんな目に遭ったの」玲奈に愛されていないことは恐れていたが、玲奈が陽葵と一緒に表彰されていたことを思い出すと、また不満が込み上げてきた。明らかに暇があったのに、彼女と一緒に活動に参加してくれなかった。その一点だけで、愛莉の心から恨みが芽生えた。沙羅は二人が自分を慰めるのを見て、ずっと緊張していた神経を緩めた。彼女は愛莉を抱きしめ、優しく「愛莉ちゃん、私はもっとあなたの面倒を見られるように頑張るね。次は絶対うまくやるから」と約束した。すると、智也は口を開いた。「君も大変だろう。愛莉のことは別の人に頼むよ」子供
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第68話

実は彼女はすでに医務室に行っていたが、処置を受けようとした時考え直し、結局受けなかったのだ。智也にこれを見せた方がもっと効果があると思ったからだ。智也は慌てて言った。「今すぐ病院に連れて行くよ」沙羅を連れて病院で傷の手当てを終えた後、智也は二人を連れて小燕邸に戻った。宮下は彼らを見て、出迎えて来た。「智也様、深津お嬢さん、お嬢様、お帰りなさいませ」智也は宮下に命令した。「今夜の晩ご飯はお粥にしよう。沙羅が手に怪我をしたから、脂っこいものや辛いものは避けてくれ」宮下は聞いてから、微笑みながら言った。「かしこまりました、智也様」二人はリビングに入ると、宮下は続いて尋ねた。「智也様の夕食は別に準備いたしましょうか」宮下は智也の好みを知っていて、彼がお粥が好きじゃないと分かっていたからだ。智也は少し考えてから言った。「いい、俺もお粥でいいから」宮下はすぐに智也の意思を理解した。彼は沙羅と同じものを食べるつもりなのだ。二階に上がると、智也は沙羅をゲストルームで休ませた。彼は愛莉を連れて、主寝室につれて行き、ドアを閉めた。愛莉はソファーに座り、父親の行動に首を傾げた。「パパ、どうしたの?」智也は彼女の前に座り、彼女の手を握り尋ねた。「愛莉、パパから一つ聞きたいことがある」愛莉は頷いた。「うん」「愛莉、ママと沙羅姉ちゃん、どっちが好き?」智也は真剣に愛莉を見つめ、彼女の顔から何かを読み取ろうとした。愛莉はまじめに考えてから、顔を上げて智也に答えた。「ママもララちゃんも好きよ」智也は眉をひそめた。「どうしても一人を選ばなければならないとしたら?」愛莉は困ったように俯いた。「そんなの分かんない」心の中で母親の不満をこぼし、恨んでいたこともあるが、母親を完全に捨てることはできなかったようだ。沙羅も素晴らしい人なのだ。彼女は綺麗でキラキラしていて、一緒にいると自慢できる。一人だけ選べと言われても、彼女は本当にできなかった。智也は愛莉の葛藤を見て、彼女の頬を撫でながら言った。「でも、ママはもう俺たちを必要としていないようだよ」愛莉は何かを予感したように、鋭く聞き出した。「パパ。ママと離婚するの?」智也は言葉に詰まり、少し黙ってから返事した。「しないよ。愛莉をママのいない子にするような
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第69話

翌日、玲奈は昼休みに、近くのレストランに行った。彼女は一人で行動するのに慣れていて、いつも一人で動き回っていた。店に入ると、店員が出迎えた。「お客様、おひとり様でしょうか」玲奈は「ええ」と答え、それから「窓際の席をお願いします」と言った。言い終わり、ふと窓側の席を見やると、ちょうど院長が席から立ち上がるのを目撃した。院長の座った席にもう一人が座っていた。後ろ姿だけでも、玲奈はその人が昂輝だと気付いた。二人は何を話したか知らないが、院長が離れた時、顔に暗い表情を浮かべていた。玲奈は院長に挨拶せず、こっそり隠れて、院長が店を出てから、昂輝のいる席を指しながら店員に言った。「私はあそこの席に座ります」そう言うと、彼女は昂輝のテーブルへ行った。昂輝の向かい側の席に座ると、玲奈は彼が呆然としている様子を見て、申し訳なさそうな感情が込み上げ、優しく声をかけた。「何を考えています?」昂輝は我に返り、玲奈が自分の前に座ったのを見て、笑顔を見せた。「玲奈?どうしてここに?」玲奈は微笑んでいた彼を見て、さらに胸が締め付けられた。「あなたがいるのが見えて、ここに来たんです」昂輝はメニューを彼女に差し出した。「何か食べたい?俺が奢るよ」玲奈はメニューを受け取り、なかなか注文せず、ただ昂輝を見つめて、暫く躊躇ったが、やはり口を開いた。「これから、どうするつもりですか」昂輝は玲奈がまだ前のことで心配しているのに気付き、わざと全くおおごとじゃないふりをして肩をすくめた。「別に何もないよ。長期休暇だと思えばいいさ」玲奈はじっと複雑な眼差しで昂輝を見つめた。昂輝は悩む彼女を見て、微笑んだ。「玲奈、本当に大丈夫だよ」玲奈は胸の中が段々苦しくなった。もし本当に大丈夫だったら、彼はどうしてわざわざ院長に会ったのだろう?玲奈はよく分かっていた。昂輝は彼女を心配させたくないから、あえて何も言わなかったのだ。この機に及んでも、昂輝はまた彼女のことを気遣ってくれている。目を赤くした玲奈は昂輝を見つめて、申し訳なさそうに言った。「すみません」このことはすべて彼女のせいで起こったことだから、昂輝に申し訳ないことをしたと思っているのだ。昂輝は訳が分からないようで、笑いながら言った。「どうして君が謝るんだよ」玲奈は顔を上げ、真っ赤
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第70話

薫は歩いて近づき、真面目な表情で尋ねた。「奥さん、もうお昼は済ませた?まだならご一緒に?」玲奈はその嘘っぽい様子が気に食わず、冷笑した。「なれなれしくしないでくれない?私はあなたと親しいわけではないでしょう」それを聞いた薫は声を張り上げ、嘲笑うように言った。「おやおや、もう智也との関係を認めたくないのか?奥様?」以前、玲奈は智也に会うためなら薫にも媚びを売っていたのだ。しかし、今目の前にいる男をじっくり見ると、嘘っぽいペラペラな人間としか見えないのだ。玲奈は彼を見つめ、冷たく言った。「そうよ」玲奈は否定せず、はっきりとその押し付けられた「妻」という罪名を認めた。薫は一瞬戸惑い、玲奈が変わったように感じた。彼女はもう以前のように煩わしい蝿のようではなくなった。しかし、彼女の当たり前のような態度が気に食わず、それに、智也のことを考えると、ますます気に入らなかった。すると、彼は嘲笑したように尋ねた。「どうした?まだ東昂輝のようなひょろっちいもやし男を忘れてないのか?どうやらまだ懲りていないようだね」そう言い終わると、薫は携帯を取り出し、また電話しようとしたら、玲奈に睨まれた。「いい加減にしなさいよ、高井薫!何か言いたいなら私に言いなさいよ。他人を巻き込むなんて卑怯じゃない?」普段はおとなしい猫のように見える女が今鋭い牙を剥きだし、人を食ってしまいそうな狂暴な表情で怒鳴った。薫はこんな玲奈を今まで見たことがなく、面白そうに笑って尋ねた。「意外だね。身内にこんなに甘いんだ」玲奈は薫の言うことを全く理解できなかった。「ただの先輩なのよ。身内でも何でもないわ」薫はまるで聞こえなかったように笑った。「お前は何と言っても智也の妻だから、勝手に手を出すなんてしちゃいけないんだよ」「高井、あんた達本当に卑怯者ね。見た目は立派そうに見えるけど、中身はすでに腐っていて、皮一枚だけ残ってるわよね」玲奈の目は怒りで燃えた光を閃いていた。以前のように、薫に媚びを売ってこなかった。薫は玲奈の鋭い目を見て一瞬たじろいだ。記憶の中のいつもへらへら笑っていた女はいつの間に本当にいなくなってしまったのだ。また何か言おうとした時、沙羅がどこからか現れた。「薫君」薫は振り向いて沙羅を見ると、一瞬にして笑顔になった。「沙羅さん」沙
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