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Alle Kapitel von 暁を待つ獣: Kapitel 21 – Kapitel 25

25 Kapitel

第21話※

 指が、唇が、肌に刻むように伝えてくる。 ここにいる、お前は俺のものだ、と言っているかのように。 朔夜の舌先が、冬馬の鎖骨をなぞった瞬間――「……ぁ……っ……」 短く震えた吐息が、思わず唇から漏れる。 それは拒絶でも、困惑でもない。 むしろ、堪えようとしても溢れてしまった、無垢な反応だった。 肌を撫でる手が、まるで見えない縄のように冬馬の身体を縛っていく。 押しつぶされそうなほどの熱に包まれて、思考も感覚も朧になっていく。「さく、や……っ……」 その名を呼ぶ声さえ、吐息にまぎれて震える。 まるで誰にも聞かせたくないように、けれどどうしても抑えきれないように。 朔夜の指先が、腰に触れる。「や……っ、そこ……だめ……っ」 甘く途切れた声に、朔夜の目が細められる。 それはどこか愉しげで、けれど真剣な熱を孕んでいた。「言っただろ。もう、逃がさないって……」 そして彼は、躊躇なく冬馬の奥へと踏み込んだ。 声にならない声が、夜の静けさの中に溶けていく。 ――ふたりだけの、ひそやかな再契り。 鼓動と吐息、肌と肌が何度も何度も重なって、まるで過去の欠片までも溶かすように。 冬馬は、目を閉じたまま感じていた。 朔夜に刻まれていく痛みと快さ、それがまるで「生きている証」のように思えて。「……朔夜……っ……」 声が、泣きそうに震えた。 それは悦びであり、許しであり、心の奥からあふれ出た、愛の名残だった。 吐息の熱が肌をなぞり、指先が、胸元からゆっくりと下へ滑っていく。 触れられるたび、冬馬の身体が小さく震え、目元が赤く染まっていった。「朔夜……そんな、触れ方……っ」 震える声に、朔夜はわずかに口角を上げる。 けれどその目には、余裕よりも深く沈んだ熱情が揺れていた。 いつもは無表情に近いその顔が、今は獣のように飢えて見える。 けれどそれは、ただの欲ではない――喪ったものを取り戻そうとする、切実な飢えだった。「痛くしない……だから、力を抜け」 囁きとともに、そっと太腿を押し開かれる。 羞恥よりも先に、冬馬の奥底で何かが疼いた。 深く、満たされたい――そんな感情が、自分の中にあることに気づき、息が詰まる。 準備を整えられたその瞬間、朔夜が腰を落とす。 熱を孕んだものが、冬馬の奥へとゆっくり沈んでいく。「……ぁ、く…
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-02
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第22話

 祭りが終わった村には、奇妙な安堵が漂っていた。 子供たちは再び表を駆け回り、老婆たちは縁側で茶を啜っている。 男たちは畑に戻り、女たちは水を汲みに行く――一見、何も変わらぬ日常が戻ってきたかのようだった。 けれど、冬馬にはそれが『静かすぎる』ことに気づいていた。 鳥の声すら、妙に遠い。 風が吹いているのに、木々が揺れていないように見える。 足を止め、耳を澄ませても、何かが足りない。空気の層が一枚、ぴたりと自分だけに張りついているような、そんな感覚があった。「……誰も、俺を見ていない」 いや――そうではない。 村人たちは、確かに視線を向けている。 ただ、それは人を見る目ではなかった。 まるで、もう『人』ではない何かに対する、敬いと畏れが入り混じった視線。 以前のような拒絶でも嫌悪でもない。だが、それ以上に遠くて、触れられない。 『穢れ』の扱いから、今や『神の伴侶』のように。 それは、身を清められ、選ばれしものとして神に捧げられたという意味だった。 祭りの夜に『選ばれた』者として、冬馬の立場は変わった。 老婆たちは誰も口に出さぬが、その目は言っていた。 ――あの子はもう人ではない。神の隣にいる者だ、と。 冬馬は、ふと視線を落とした。 自分の手が、自分のものではないように思えた。 皮膚の下に、別のものが流れている気がする。 体温が変わったのではない。自分の“重心”が、どこか別の場所へ移動してしまったような感覚だった。 『村を出よう』と思っていた気持ちが、いつのまにか霧のように薄れていることに気づき、ぞっとした。 どこかへ行きたいわけではない。ただ、ここにいることが――妙に『自然』に感じてしまう。 「……まずいな」 自分でもその感覚の異常さに、舌打ちしたくなる。 そして、もうひとつ気づいたことがあった。 ――朔夜が、現れない。 あれから、何度夜を迎えても、戸が開く音はなかった。 耳を澄ませても、あの匂いは流れてこない。 まるで、朔夜という存在が、この村から『抜け落ちた』かのように。 けれど、冬馬は知っていた。 朔夜は『いる』。 確かにこの村のどこかに。 ただ、それが人の姿である必要は、もうないのだ。 ――神は姿を持たぬもの。 今、朔夜は『村の外』に姿を隠したのではない。 『村そのもの』に溶けている
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-02
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第23話

 熱に浮かされたような夜だった。 外は、まだ深い夜の帳に包まれているというのに――冬馬の身体は、まるで火照りに飲み込まれるように、じんわりと熱を帯びていた。 薄い寝巻き一枚では、とても足りない。 だが、熱いのは肌ではない。 もっと奥――胸の真ん中から、焦げつくようにゆっくりと広がっていく、そんな熱だった。 「……朔夜……」 名前を呼ぶ声は、意識の底から滲み出たように微かだった。 ただひたすらに、求めるように。懇願するように――喉の奥で震えながら絞り出された。 その瞬間だった。 ――ふ、と。 閉ざされたままの戸が、音もなく開いた。 軋みひとつなく、まるで風が押したわけでもないのに。 部屋の空気が、かすかに揺れる。 そして、闇の中から、じんわりと沁み出すように、懐かしい『気配』が忍び寄ってきた。 朔夜――。そう思ったときには、冬馬の膝が床に落ちる。。 意思ではなく、身体が、自然と動いていた。 視線を上げる。 夜の影の奥、静かにそこに立つ男の姿が目に映った。「……どうして……来なかったんだ」 喉が震えた。 怒りでもない、責めるでもない。 ただ――寂しさが焼けるように胸を焦がしていた。 朔夜は、答えない。 ただ静かに、音もなく歩み寄ってくる。 その歩みは、まるで夜の帳をまとった影のようだった。 光に溶けることも、闇に沈むこともなく――ただ、滑らかに近づいてくる。 やがて冬馬の目の前で、彼はそっと膝をつく。 そして、言葉もなく、顔を寄せ、額と額をそっと重ね合わせた。「……悪かった」 それだけだった。 けれど、その一言で――冬馬の中に溜まっていたすべてが、崩れていった。 凍っていた想いが、ひとつ、またひとつと、静かに溶けてゆく。「あんたがいないと……俺、どうにかなりそうだった……」 声は震え、指先が朔夜の衣を掴む。 胸元に顔を埋めると、そこには――確かに、朔夜の体温があった。 熱い――けれど、それは自分を焦がす炎ではなく、帰る場所のような暖かさだった。「……怖かったんだ。お前が壊れるのが」 囁くような声が、耳元に落ちる。 朔夜の手が背中をやさしく撫でるたび、心がほどけてゆく。「けれど――もう、離さない。お前が望まなくても、縛りつける」 その低い声に、冬馬の心臓が跳ねた。 次の瞬間、強く、腰を抱き
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-02
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第24話

 風の音が変わった。 かつては冷たさを運んでいた山の風が、いまはただ、やわらかく頬を撫でるだけだった。 冬馬は、村の奥にある古びた家の縁側に腰を下ろし、庭に舞い散った落ち葉をじっと見つめていた。 あの祭りの夜から、いくつの朝を迎えただろう。もはや数えるのもやめていた。「ここ、思ってたよりも……悪くないな」 ぽつりとこぼれた独り言に、背後から静かな気配が重なる。 振り返ると、朔夜が土のついた手で鍋を運んでいた。 肩には湯気がふわりとかかっていて、ほんのりと味噌の匂いがする。「少しずつ、住めるようになってきた」 そう言って、朔夜は座敷の上に鍋を置き、冬馬の隣に腰を下ろした。 湯気がふたりの間をやわらかく揺れ、冬の名残の冷気をやさしく溶かしていく。「……俺さ、外に出なきゃって、ずっと思ってた」 冬馬の声は低く、どこか遠くを思い出すようだった。 「……」 朔夜は黙ったまま、隣でじっと耳を傾ける。「でも今は……なんかもう、いいかなって」 素直な本音だった。誰に向けるでもなく、ただ心から零れた声。 朔夜は、言葉の代わりにそっと冬馬の手を握った。 指先から伝わるぬくもりが、まるで静かな誓いのようにじんわりと沁みていく。 村人たちは、もはや冬馬を避けることはなかった。 ときおり誰かが玄関先に山菜を置いていき、子どもが遠巻きに笑いながら手を振っていく。 ――神の伴侶。 誰も口に出さない。だが確かに、そう『扱われている』ことを、冬馬は知っていた。 けれど、それでもう構わなかった。 朔夜が隣にいて、自分を必要としてくれて――この場所で共に生きている。 それだけで、もう十分だった。「朔夜……お前が、何者でもいい。俺は……お前といたい」 静かに言った言葉に、朔夜が応える。「……その言葉だけで、俺はここに在ることができる」 言葉の代わりに、指が優しく絡み合う。 火の入った鍋の中で、ぱちりと音が弾けた。 小さな音が、ふたりの空間にやさしく染み渡っていく。 冬馬は、そっと肩を寄せた。 そのぬくもりは、これまでに感じたどんな温もりよりも、確かだった。 夕暮れが近づいていた。 山の稜線が、ゆるやかに黄金色へと染まりはじめる。 陽は傾き、空の色が少しずつ赤みを帯びていく。 鳥たちの声も、いつの間にか遠のいていた。 夜の帳が、静
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-02
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最終話

 ――雪解け水が、山の小川をさらさらと流れている。 凍てつく冬の終わりを告げるように、透明な水音が谷に響き、湿った空気が土をほどいていく。 梅の蕾がふくらみはじめ、朝の光が少しずつ長くなっていく。 陽だまりにはやわらかなぬくもりがあり、湿った土の匂いが春の到来を告げていた。 囲炉裏の火が、ぱちり、と小さく弾ける。 そのそばで、冬馬は静かに茶を淹れていた。 鉄瓶から立ち上る湯気が天井へと昇っていく。蒸気の白さが朝の光に溶け込み、ゆらゆらと家の中にやさしく揺れていた。 隣の布団には、まだ朔夜の気配が残っている。 わずかに乱れた寝具と、温もりを帯びた空気。 そこに彼がいた証が、確かに息づいている。 冬馬はふと立ち上がり、障子を開けた。 外には朝靄がまだわずかに残っていて、庭先の石畳に水滴がきらめいていた。 小さな春草が、土の隙間から顔をのぞかせている。 その色は淡く、けれど強く、何もなかった場所にしっかりと命を刻んでいた。 一羽の小鳥が、いつの間にか軒先に止まっていた。 細い声で、ひとこと囁くように鳴く。 ――ああ、春が来たんだ。 冬馬はその場にしゃがみこみ、小鳥と同じ目線で空を見上げた。 風が、枝を撫でる音がする。 何もかもが、すべてが、やさしくなっていた。 茶碗を手に取り、縁側に腰を下ろす。 吸い込む空気には、もうあの冷たい刺すような冷気はなかった。 代わりにあったのは、どこか甘さを含んだ春の匂い。「……起きてたのか」 背後から声がした。 低く、落ち着いた、けれどどこか眠たげな朔夜の声。 冬馬が振り返ると、彼は寝癖のついた髪を無造作にかき上げながら、まだ少し緩んだ着物のまま、縁側にやってきた。 その体温が近づくだけで、心の底まであたたかくなる。「起きたばかり。茶、飲む?」「……ああ」 茶碗を手渡すと、朔夜は静かにそれを受け取り
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-02
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