それからはお互いが忙しくてあまり会う機会がなかったけれど、彼は彼なりに頑張っているという噂を聞いていた。 —————私達には普通の会社員のように朝の〇〇時に仕事が始まって◇◇時に仕事が終わる、という明確な決まりがない。 朝早く仕事が入る事もあれば、深夜近くまで仕事をする時もある。 それぞれが仕事があれば仕事をするし、ない時は演技のためにボイストレーニングや自分磨きをする。 全く別々の時間を過ごす中で、また昴生に接する事になったのは、映画での共演だった。 当時のベストセラー小説を原作とした《真夜中の太陽 明け方の月》という作品。 物語のヒロインは、幼い頃に母親に捨てられた冬美《ふゆみ》という20歳の女性。 その冬美が、自分を捨てた母親がよそで温かい家庭を築いて幸せになっているの知り、復讐を企むというのが大筋の内容だ。 初めは、自分の父親違いである弟・佳《けい》にわざと近付き、自分に惚れさせてからボロボロにして捨てるという計画だった。 しかし冬美は次第に、半分だけ血の繋がった佳に惹かれていってしまい—————。 最大のコンセプトは禁断の愛。 一つの幸せな家族を舞台に、ヒロインである冬美が憎しみと愛との狭間で葛藤し、やがて全てを壊した後で大事なものに気づいた…というドロドロとした愛憎劇である。 ヒロイン役の冬美は私で…昴生はわずかなシーンにしか登場しない、同級生・春希《はるき》という役柄だった。 昴生演じる春希の、最も重要なシーン。 消えた冬美を心配していた同級生の春希《はるき》が、数年ぶりに偶然交差点で彼女を見かけて声をかける。 だが一瞬目が合っても、冬美は春希に気づかず去っていく———というもの。 そのシーンについて、一度だけ昴生に相談された事がある。 「実は、悩んでるんです。俺。 久しぶりの仕事だし。」 撮影の合間に私の控え室を訪れた昴生は、台本を抱えながら溜息を吐いた。 良ければ演技指導して下さいと、彼はどこか暗い顔して言った。 「これ……たったこれだけのワンシーンだけど侑さんと絡む貴重なシーンじゃないですか。 春希は実は侑さんの演じる冬美に惚れていて……目が合っても気づいてもらえなくて、ショックを受けるという場面なんですが。 それがどうもピンと来ないというか。
Terakhir Diperbarui : 2025-06-21 Baca selengkapnya