All Chapters of なぜか人気俳優に飼われています〜消えるはずだった私がまさか溺愛されているなんて〜: Chapter 31 - Chapter 40

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落ち目女優の憂鬱/浅ましい女

あ⃞ん⃞な⃞女⃞嫌⃞い⃞。⃞早⃞く⃞死⃞ね⃞ば⃞い⃞い⃞の⃞に⃞。⃞浅井まりかが綿貫昴生に興味を持ったのは、同じドラマに出演したのがきっかけだった。 遅咲きだが、人気俳優として注目されている昴生は、デビュー当時からチヤホヤとされていた人気女優のまりかにとっても、雲の上のような存在だった。 26歳のまりかと32歳の昴生では年の差があるが、その大人の魅力にハマってしまったのだ。   だからどうして。    自分の大嫌いな女優、常盤侑が綿貫昴生と一緒にマンションから出てくるのか、まりかには理解できなかった。 「なん……でよ!何であの女が綿貫さんのマンションから出て来るのよ……っ!」 ***  綿貫昴生という人気俳優は、あまりプライベートを明かさない事でも有名である。  自身でSNSはやっておらず、いつもドラマやイベントの告知は、事務所が運営するSNSやサイトでだけ。 彼の秘密を知りたりたいファンがするスレもそうだ。  彼のプライベートを明かそうとすると、いつも書き込みがサイト側に消されている。 テレビ番組に出ても適当に流す彼。  謎でミステリアス。大人っぽいのがいい。  そんな称賛までされている。 特にSNSで芸能界の闇が晒され始めたから、事務所側も慎重だ。  発信する人も気をつけなければ訴えられる時代になってきた。  躍起になって彼を暴こうとするのは、熱烈で行儀の悪いファンだけ。 だけどまりかにはその気持ちが分かる。  好きな人の事は、例え些細な事でも暴きたいから。 あの日昴生に断られ、モカに言われて気持ちを再燃させたまりかは、彼女と一緒に昴生の後をタクシーで、こっそり尾行した。 彼を乗せてる運転手は、敏腕だと有名なマネージャー。  彼はマンションに着いて車を降り、マネージャーに手を振った。  幸い尾行はバレてないようだ。 「ここが彼のマンションかあ。」 「凄い!憧れの超高層マンション…!  やっぱり綿貫さん凄いっ」 まだ23歳のアイドル、如月モカが興奮したように叫んだ。
last updateLast Updated : 2025-07-03
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落ち目女優の憂鬱/浅ましい女

   まず彼の住んでる場所もぜんぶ秘密にされていたから、思いがけず知る事になれて嬉しい!と、まりかは興奮する。 数日後、再びまりかとモカはそれぞれ変装して、昴生の住むマンションを訪れていた。 ただ……当然だが正面玄関で、どうしてもセキリュティの関係で中には入れない。  奥には警備員の姿も見える。    「まりかさん、どうします?やっぱり無理かなあ。  住んでる階《フロア》まで突き止めるのは…」 「いや。ここまで来たら諦めたくないんだけど。」 暫くマンションの周りをウロチョロしてると、背後から男に声を掛けられた。    「ねえ…もしかして浅井まりかちゃん!?」 知らないサラリーマンだ。中堅といった風貌の。 「ねえねえ、さっきからマンションの前で一体何してんの?  えっ…まさかそっちは如月モカちゃん!?」 興奮気味に男が近寄ってくるので、モカは笑顔を引き攣らせたけれど、対照的にまりかはニコッと笑った。 「えっと……お兄さんはこのマンションに住んでる方?」 「うん、そうだよ」 「良かった……!  このマンション、綿貫昴生さんが住んでますよね?  私達、仕事の関係で綿貫さんに呼ばれて家に行くとこなんですけど、スタッフさんとはぐれた上に、住んでる階を忘れちゃって……!  良かったら教えてくれません?」 「あー…綿貫さんの?  でもまあ、そういう事情なら教えても大丈夫だよね。  本当はここの住人のプライベートは絶対話しちゃいけないって厳しいルールがあるけど。  まあ、浅井まりかちゃん達と言えば間違いはないよね!」 「良かった〜まりか達、本当に困ってたんですー。ありがとうお兄さん。」 「えっとね、彼は確か……あ、いいや、良かったら僕に着いて来て。  彼の住む階まで案内するよ。」 「わあい!ありがとうございます!」 手を叩いて大袈裟にまりかは喜んだ。  男は完全に鼻の下を伸ばし、上機嫌だ。 そうして女優とアイドルという立場を利用し、まりか達はまんまと昴生の住む場所を把握した。 「え〜。本気で嬉しい。」 「やりましたね、まりかさん。  また誰よりも綿貫さんにぐっと近づけましたね!」 無理やり昴生の家を把握しておきながら、まりかは上機嫌で、そんなまりかを持ち上げるのにモカは必死だっ
last updateLast Updated : 2025-07-03
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落ち目女優の憂鬱/浅ましい女

 そこには侑をまるで恋人のように扱い、肩を抱く昴生がいた。   「なん……でよ!何であの女が綿貫さんのマンションから出て来るのよ……っ!」 見つかったらまずいと、モカが慌ててまりかの腕を引いて建物の死角に一緒に隠れる。  そんなまりか達に全く気付かずに、二人はエレベーターに向かっている。 サングラスとマスクをした女が侑———だと、まりかには何ですぐ分かるのか。 理由は昴生が、侑をやたらと構っていたからだ。   挨拶で訪れた事務所にいる時も、控え室にいる時も、ドラマの撮影の後も。 なぜか昴生の目が侑を追っている事を知っていた。だから。 まりかはそれが不愉快だったし、侑が嫌いだった。ずっと。 人気女優である自分と人気低迷女優の彼女。 愛想はないし、表情はどことなく暗い。  その性格のせいで仕事だってないのだ。  昔は売れていたようだが、今でもそう思ってるなら、勘違いするなと言いたくなる。 どちらが昴生に相応しいか、一目瞭然なのにと。 「うそ……でしょ?何で?」 「まりかさん?まりかさんはあの女の人知ってるんですか?あれが…一般人の彼女?」 あれが侑だと全く気付いてないモカが興奮気味に言ったのが、まりかはますますに気に食わなかった。 「モカ、あの2人の写真撮って。」 「え?でも……」 「いいから!早くしてよ!」 「は、はい!」 怒鳴られてモカは慌ててバックからスマホを取り出し、去っていく二人の背中を写真に撮った。   昴生と侑が車に乗って去ったあと、駐車場に残されたまりかは最高に低いテンションで呟いた。 「ねえ…その写真、全部まりかに送って。」 「は、はい…」 いつもは自信たっぷりのまりかの危機迫る雰囲気に、モカは動揺しながら写真を送信した。 「……ムカつく。  何であんな女が綿貫さんと。おばさんのくせに!  絶対、絶対に認めてやらない。  あんな女綿貫さんには絶対に相応しくない!  まりかの方がいいって、分からせてやる。」 ブツブツ呟きながらまりかはSNSの自分の裏アカを開いた。  〈みんな聞いてー!常盤侑が、綿貫昴生をストーキングしてる〉 〈最低女発見!〉 〈迷惑がりながら神対応する、綿貫昴生〉 さっきモカが撮った写真と一緒に、まりかは自身のSNSにそれを投稿した。
last updateLast Updated : 2025-07-03
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人気俳優の裏側/炎上

 「何て事してくれたんだ……侑。  それに昴生も。」 そこには、深刻な表情でこちらを見つめる佐久間さんが立っていた。 昴生の住むマンション。  あれから私は彼に甘えたまま時間を過ごしていたが、それはSNSからのリークという形で終わりを迎えようとしていた。 ソファに座る私の隣に昴生が。 テーブルを挟んで向かい側に佐久間さんと、青白い顔で慌てふためいている鳥飼さんの姿がある。 ここ数日私は昴生にスマホを取り上げられていた為、内容は全く知らなかった。  テレビは見てない。  ずっと昴生としか話してなかった。 佐久間さんによると、私と昴生の写真がSNSにばら撒かれ、拡散されたらしい。 〈常盤侑が綿貫昴生のストーカーをしていた〉 そんな名目で炎上しまくっているそうだ。 写真を見せて貰ったが、確かにあの日2人でマンションに荷物を取りに行った日の服装だった。 「はあ……まさかこんな形でリークされるなんて。最悪だよ。  [人気低迷女優の常盤侑が、人気俳優の綿貫昴生をストーカーしている]  って……SNS発だからどこまでも拡散し続けてて、簡単に取り消すこともできない。   今事務所はこの件の対応に追われてる。  …一体、何してんだよ。2人とも。」 佐久間さんは深い溜息を吐く。 問題の画像を見せられて、昴生はスマホごと佐久間さんの手から取り上げた。 「……これ、悪意しかないですね。」 「は…?」 「だって侑さんが俺のストーカーだなんて、馬鹿らしいじゃないですか。」 何の動揺も見せずに、昴生は淡々とスマホの画面を見つめる。  しかし佐久間さんも、慌てて立ち上がった。 「侑がストーカーじゃないなら…一体何で2人が一緒に居るんだよ?頼むから分かるように説明してくれ!」 声を荒げる佐久間さんの気持ちは痛いくらい分かる。この中で唯一の40代。  誰よりも大人な彼が焦ってるのが真摯に伝わってくる。 「侑さあぁん〜…」 迫力がある佐久間さんの隣で鳥飼さんは、泣きそうな目で私に訴えていた。 何て弁明したらいいか分からない。  いや、分かっていた。  いずれはこうなるだろうと。
last updateLast Updated : 2025-07-04
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人気俳優の裏側/炎上

   それなのに私は黙っていた。 昴生と過ごす居心地の良さと、謎の優しさに、いつの間にか我を忘れ浸ってしまったのだ。 以前は私のマネージャーだった事もある佐久間さんが、どれだけ昴生を大切にしているかは知っている。  人気俳優の彼を盛り上げ、あらゆる波風から防波堤のように守ってきたのだ。  彼は自分が担当したタレントに対していつも誠実だった。 静かに私は立ち上がり、佐久間さんと鳥飼さんに頭を下げた。 「すみませんでした。今回の事は私が——」 「侑さんが頭を下げる必要なんかどこにもない。  悪いのは俺だから。」 立ち上がった私の左手を握り、昴生はその謝罪を止める。 「綿貫…くん?」 「侑さんがストーカーだって?  そんなの大きな間違いだ。  佐久間さん。侑さんをストーカーしたのはこの俺ですよ。」    「なっ……!?」「!!」  「……?」 一同が絶句した。  何の躊躇いもなく昴生がそう宣言したからだ。 今人気絶頂の俳優が人気低迷女優をストーカーしたと。 「綿貫くん、変な事言わないで……  あなたは単に人助けのような優しさで……」 「何?侑さん。俺何も間違ってませんよね。  初めから侑さんに付き纏っていたのは俺だし、そんな侑さんに同居を持ち掛けたのも俺。  だから侑さんは何も悪くない。  でしょ?」 今言ったのが全て真実だ、とでも言いたげに。  そんな風に真顔で、真剣な目で見つめないで。  力を込められ、握り締められた手が熱い。 勘違いしてしまいそうになる。 彼が本当は体目的じゃなく、実は私の事を想ってくれてるんじゃないかって。 こんな私の事を本当は好きなんじゃないかって……何の根拠もないのに。 「はあ……侑がストーカーじゃないのは俺だって分かってる。  それに…昴生がストーカーとか…  万が一それが事実だとしても、そんな事は今重要じゃない。いや、まあ…それはそれで問題だとしても、だ。」    佐久間さんは困ったように溜息を吐いた。  もちろん私も、昴生がストーカーだとは思っていない。 しかし現状は深刻だそうだ。  なんせマンション周辺にはマスコミが殺到しているという。 「とにかく、侑はマスコミの目を盗みながら、一度自分のマンションに戻ってくれ。
last updateLast Updated : 2025-07-04
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人気俳優の裏側/炎上

 「いやだ。駄目だ。」 昴生は、子供のように拗ねた声を出す。 「それは社長や事務所にとってのマイナスですよね?  俺は発表してもいいですよ。  [ストーカーは誤りで、実際は俺と侑さんが熱愛中]って事なら。  記者会見でも何でもしますよ。  それ、俺にとってのプラスにしかならないんで。」 「……昴生…!」 「何で2人が一緒にいるかって?  今言ったばかりなのに分からないんですか。  侑さんのストーカーは俺で、俺が侑さんを大好きだから一緒にいるんですよ。  侑さんにとっては迷惑かも知れないけど、俺には最高の事なんです。  大好きだから。」    混乱がさらに混乱を招く。 それは昴生に手を握られた、他でもない私が誰よりも。 大好きだから……? 彼が……私を好き………? その言葉をこのタイミングで、今初めて聞いた。 「はあ……くそっ。  昴生、お前は自分の立場ってヤツがよく分かってないみたいだな。  お前は事務所と契約してる以上、自分勝手な行動は慎むべきだ。  誰が…お前を日本一の俳優にしてくれたのか、その恩を忘れたらいけない。  …とにかく、一緒にいるのは駄目だ。  今がいちばん大事な時期なのに。」 顳顬を抑え、佐久間さんは疲労感を滲ませる。 いちばん大事な時期。そう。  綿貫昴生にとって今最も不必要なのは、マイナスにしかならない私とのスキャンダル。 「佐久間さん…………  俺にとって大事なのは侑さんであって、他のはぶっちゃけどうでもいいんです。  そのくらい俺が侑さんを好きだって事を、少しでも理解してくれたら嬉しいですけど。」 「なっ…!昴生、おまっ……  はあ〜……何でこんな事に。」     悪びれた様子もなく、昴生は淡々と言う。  それに振り回されている佐久間さんが、少し気の毒に見えた。 「綿貫くん。…私達はプロなんだから。  マネージャーや事務所を困らせたら駄目でしょう?」 散々、甘えといてよく言う。  元はと言えば私が、彼の優しさに付け込んでいたせい。 死にたがってフラフラしていた私の言うセリフではないのも分かってる。でも。 「侑さんは平気なんだ……?  俺と離れても………」 初めて見た。 寂しそうに瞳を揺らす、あなたのそんな
last updateLast Updated : 2025-07-05
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人気俳優の裏側/炎上

   昴生は、強く握っていた手を、絡まった糸を解くようにそっと離した。  その仕草に、なぜか私の胸はチクリと痛んだ。 「……この写真、マンションの内廊下から撮られたものですね。  ここの住人はルールに厳格だから、こんなことはしないはずです。  佐久間さん、この写真を投稿したアカウント、特定できていますか?」 手を離した昴生は、スマホを手に取り、ふとそう呟いた。 「それが…発信源のアカウントは投稿してすぐ消されたみたいで…  巧妙なファンの嫌がらせだよ、きっと。」    「なら情報開示請求しましょう。  俺はともかく、侑さんの名誉を傷つけた悪意は許せない。だから。」 「…まさか昴生、訴訟を起こすつもりか?」 「はい。勿論ですよ。  ……俺の大好きな人を苦しめた人は、当然苦しむべきですから。」 俺はこの件を許すつもりはない。  穏やかな口調とは裏腹に、昴生の微笑みはどこか冷たく見えた。 その場にいた誰もが息を呑み、動けなくなった。 これまで誰も見たことのない、静かな怒りを滲ませた、綿貫昴生の姿がそこにあったから。 昴生のこの熱量に居た堪れなくなる。 「っ、とにかく私は自分の家に帰るから。」 それが今、浅はかな行動でしてしまった彼への罪滅ぼし。  少なくとも、自分の行動は自分で責任を取らなければ。 佐久間さんと鳥飼さんが「二人でよく話し合うように」と伝言を残して去った後、私は昴生に素直に自分の気持ちを打ち明けた。 「だから、何で侑さんが謝るんですか。  悪いのは俺なのに。」 「ううん、そうじゃない。  あの時———電話をしたのは私だし、心が弱っててズルズル甘えてたのは私だった。」 「だから、違いますよ……!」 昴生の声はなぜか苦しげで、突然私の肩を強く引いた。次の瞬間、彼はそこに顔を埋めた。  まるで主人に甘える子犬のように。 「……綿貫……くん?」 「違うし。  ……電話した時にはすでに、あのホテル街に俺は居たじゃないですか。  ……侑さんが。あなたがあの番組プロデューサーの…クソ野郎の車に乗り込んだのを見て、後を尾けたんです。  嫌だった。侑さんが俺以外の男の車に乗るのが。  あれだけ誘惑したのに俺に助けを求めないのが。  …そして嬉しかった。  あの時
last updateLast Updated : 2025-07-05
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人気俳優の裏側/犯人特定

 情報開示請求しても、あの悪意のあるアカウントの個人情報が開示されるまでには時間がかかる。 せっかく手に入れたのに、あれのせいで侑さんと引き離された。 あの後侑さんは告白の返事もせずに…自分のマンションに戻ってしまった。 やっと手が触れる距離にいたのに。 やっと心を開きかけてくれてたのに。 二人の邪魔をする奴は、徹底的に捻り潰さなければいけない。  そんな時に、社長と他事務所の浅井まりかから、こんな話が持ち上がった。   [人気俳優の綿貫昴生と、人気女優の浅井まりかが熱愛中]という事にしろと。 わざわざ事務所に来てまで、浅井まりかかが頬を染め、そう言う理由は何となく分かっていた。   「綿貫さんと私が熱愛中という事にすれば、今ある常磐さんとのスキャンダルを消す事ができますよ。  それに、ドラマで共演してる二人が熱愛って流れは自然ですし、今二人とも人気絶頂じゃないですか。  これは双方にとって、かなりメリットになりますよね。  事務所も後押ししてくれてます。  もちろん世間には内緒ですけど…」 「だそうだ、昴生。  こんな有難い申し出を、断るわけにはいかないよな?」 応接室のテーブルを囲むソファに、社長が目を輝かせて座り、浅井まりかもまた同じような瞳をして座っている。 「……俺にヤラセをしろと?」 「な…!違う!お前を、みっともないスキャンダルから守るために言ってるんだぞ!」 どこかヤクザのような雰囲気のある八重樫は、やや興奮気味に言った。    ……みっともないのはどっちだよ。 昴生は呆れたように笑みを浮かべた。 「綿貫さん……!私、綿貫さんの事を心から助けたいんです!」 手を握り、まりかはキラキラと目を輝かせて訴える。  今撮影中の刑事ドラマで、ヒロイン役の共演者だ。 「そうなんだ…?でも本当にいいの?  こんな俺が、人気女優の浅井さんとの噂になっても。  ファンが怖そうだね。」 「そんな…私の方こそ、綿貫さんのファンに睨まれちゃいますけど…憧れの綿貫さんを守るためですから!」 「ほらなー。昴生、まりかちゃん本当にいい子だろ?  侑には悪いが、彼女との悪い噂が出回れば今のドラマにも絶対悪い影響になる。  だけどまりかちゃんとの噂なら…二人の知名度もドラマの視聴率もグン
last updateLast Updated : 2025-07-06
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人気俳優の裏側/犯人特定

 とにかく二人で良く話し合ってみてくれ。 そう言って八重樫は、ニヤニヤしながら応接室を後にした。  明らかな互いの売名行為を、両方の事務所が進めている。 浅井まりかは、清楚系の人気女優として売っている。  なのに今日はいつもよりも気合いの入った服を着て、じっくり時間をかけた濃いめのメイクをしている。  そんなまりかが昴生を見つめる眼差しは、どこか熱い。 「浅井さんは本当に優しいんだね。  勇気もあるし。」 「いえ…!そんなっ、単純に人助けですから!  綿貫さんは本当に、気にしないで下さいね。」 この前の冷たい態度が嘘のように、昴生がニコリと笑いかければ、まりかは初心な女のように顔を真っ赤に染めた。 「あ……そうだ。浅井さん。  この前SNSで見かけた、あの写真なんだけど。  あれ、どこで撮ったの?  すごく綺麗だったから気になってて…良かったら花の名前を教えてくれないかな。」 「え?どれですか?」 「あー…えっと。説明し辛いなあ。   もし良かったら、スマホの写真見せてもらえたら嬉しいんだけど。」 「あ、いいですよ!」 誘われるようにスマホを取り出し、まりかは昴生の隣に喜んで座った。  ふわりと香るマリン系の香水に、少し長めの黒髪が揺れる。  その昴生の色っぽさに、まりかはまた頬を染めた。 「あ、これだ。…それと、これも。  いいね。浅井さんは花が好きなの?  花の写真が多いね。  綺麗な心の、浅井さんみたいだね。」    「そ、そんな……」 「ねえ。良かったらこれ全部、俺にも送ってくれない?駄目かな?」 昴生が上目遣いでそう頼めば、まりかはますます顔を真っ赤にして、躊躇いもなく小さく頷いていた。 まるで、綺麗な花の蜜に吸い寄せられる虫のように。   侑さんに対して—————  攻撃的なアカウントがある事はすでに把握していた。  それも大胆不敵に。さも女優である侑さんの行動が、逐一分かっているかのように。 撮影現場での侑さんの悪口。 ロケ先での侑さんの悪口。 番組内での侑さんの悪口。 こんなの……どう考えても一般人が知り得ない情報だ。 彼女を傷つける奴は許さない。 昴生は少しずつ犯人を絞り出す事にした。   彼女と同じドラマや映画に出演した人物
last updateLast Updated : 2025-07-06
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人気俳優の裏側/傷つけるなら消すよ

   今日で撮影がクランクアップする。 昴生演じる主役の刑事の真の敵は、浅井まりかが演じるヒロインだったというオチ。 撮影はいよいよ終盤を迎えていた。 「……どうして、君がっ………」 ヒロインを追い詰める刑事。昴生がまりかに銃を向けながら、驚愕を隠しきれないひょうじをする。 「ふふ、あはははは!  世の中、貴方みたい綺麗事ばかりの人間じゃないのよ!」 「そうか。  何もかも君がやった事だったんだな………  信じていたのに。」 躙り寄る、昴生。狭い路地裏に追い込まれ後退するまりか。  やがて壁にたどり着き逃げ場を失う。 確実に急所を狙い、銃口を向ける昴生。 「あなたに私は殺せないわ……!」 「どうかな……俺は………」 迫真の演技が続く中、誰もが騒ついた。 脚本にない動きを昴生がしたからだ。 昴生が壁際のまりかに詰め寄り、額に銃口を向けながら、耳朶近くで何かを囁いた。 それは……マイクでも拾えないほど小さな声で。 その瞬間まりかが腰を抜かし、恐れたように昴生を見上げた。 「……え?」 「そうだ。俺は綺麗事しか知らない刑事だ。  だから……綺麗じゃないアンタは要らない。  さようなら。」 美しい笑みを浮かべる昴生。 悪役はまりかの筈なのに、まるで立場が逆転したように、悪意にあふれた表情をしている。 そこに仲間が止めに入って……  まりかが捕まり、事件は無事に解決。ハッピーエンドを迎え、全ての撮影が終了した。 * 「おいー、昴生、最後のアレ何て言ったの?  まさかのアレンジ、凄い良かったけど。」 撮影が終了して共演者やスタッフが湧く中で、監督が近寄ってきて、興味津々に昴生に尋ねた。 「えー?秘密です。  何て言ったか分からないままの方が、想像力を掻き立てられて面白いでしょ?」    「何だよー、おれ達にまで秘密か?  あははは、さすがは人気俳優だねー」 一緒になって笑う昴生。  そんな彼を見つめるまりかの表情は、凍えたように引き攣っていた。  あの時耳朶で囁かれたのは……… 【君の裏アカの事、知ってるよ】 そんな事を、好きな昴生に言われたまりかは、もう正気ではいられなかった。
last updateLast Updated : 2025-07-07
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