その後、別人のように変装して私は昴生と自分のマンションに荷物を取りに行った。 久しぶりの我が家はほとんど物がなくて、今までこんな所に本当に人間が住んでいたんだろうかと目を疑ってしまう。 本当に驚くほど何もない。 思えば無意識に死にたいと考え始めてからずっと、物欲が湧かなかった。 冷蔵庫には水しか入ってなかった。 あるとすればお酒や乾麺、缶詰とかだけ。 万が一の災害時の備えだけ。 クローゼットには数ヶ月ほど前に買った何着かの服が無造作に掛けられている。 メイク道具も靴もバッグも……一体いつ購入したものか分からない。 物がないリビングには、人が生活していたような痕跡がなかった。 カウチの上に置いてあるドラマの台本だけが人が生きていた事の証明みたいだった。 それでも仕事になるとメイクはしたし、ファッションもそれなりに整えてはいたと思う。 かろうじて私の意識を繋ぎ止めていたのは、やはり仕事だったのだろう。 後ろから着いてきて、昴生はテレビ台の上のフォトフレームに触れる。 「寂しい家。 ……侑さんがここに1人で居たと思うと。」 「思うと……何?」 聞き返すが、それ以上昴生は何も言わなかった。 かと思えばそのまま、自然とダイニングキッチンにある冷蔵庫に手をかける。 「本当に何もない。……侑さん、今まで一体何食べてたの? だからそんなに痩せてるんですよ。」 なぜか悔しそうに、何もない冷蔵庫の中を眺めていた。 「……あはは。本当に何を食べてたんだろうね。」 「馬鹿だなあ。そこ、笑うとこじゃないでしょ。」 冗談じみた顔して苦笑いすると、また少し叱られた。 この状況を見て心配……してくれてるんだ。 これまで昴生の意味不明だった言葉の意味が、少しずつ分かるようになってきた。 彼の棘のある、言葉に行動。 全部悪口みたいに聞こえるけど、実際はそうじゃないみたい。 一つ一つの言葉の中にばら撒かれた、深い情のようなものを感じる。 仕事が終わってからわざわざ、こんな夜遅くに私のマンションに着いてきてくれるなんて。 彼の意図は明確で、きっとそれに従ってるだけなのに。 本当に不思議な人だ。 「必要な物だけ持って帰りましょう? 俺達
Huling Na-update : 2025-06-28 Magbasa pa