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人気俳優に飼われる女優/3食昼寝付きの生活

Author: Kaya
last update Last Updated: 2025-06-27 11:30:00
 温かい。だけど人の家のお風呂で私は一体何をやってるんだろうと思う。

 湯気でぼやけた視界の中で、微かに汲み上げた湯を見つめる。

 手の中から少しずつお湯は溢れていく。

 それでもまたすくえば、湯は必ず私の手の中に。

 光に反射して揺めきながらも存在していた。

 日本一売れてる俳優は今はいないのに。

 1人なのはいつもと変わらないのに。

 なぜ彼の家にいるというだけで、こんなにも気持ちが変わってくるのだろう。

 死にたかった。

 ————あの夜は、確かに死にたかった。

 もう全てが終わりだと思った。

 空っぽの自分が嫌になって、この世から消えてしまいたかった。

 なのに今は…

 何もかもを失って、自分には価値がないという焦燥感は確かにあるのに。

 それでも何で、こんなに穏やかな気持ちでいられるんだろう。

 *

 夕方————家事代行サービスの人がやってきた。

 「あらあ。もしかして常盤侑さん!?

 初めて生で見た!何てラッキーなのかしら。

 可愛い〜可愛い〜わあ〜。

 あ、ご紹介が遅れました。私家事代行サービスの米本って言います。

 どうぞ宜しくね!」

 お茶目な…乙女心を持った男性《ひと》だった。

 見た目は中年のイケメンなのだが、自分はLGBTだとあっけらかんと明かす人だった。

 ここが昴生の家だと分かっている人に、私の存在が気づかれてもいいんだろうか。

 「うふふ。私はねえ、昴生くんとは旧知の仲なの。

 だから彼のプライベートな事を誰かにベラベラ話したりしないから心配しないで♡」

 「…そうなんですか。……助かります。」

 もし今私がここにいる事をマスコミとかにリークされたら、間違いなく昴生に迷惑が掛かる。

 それだけは避けなければ。

 「あらそんな顔しないで。美人さんが勿体ないわよ?

 あ、ねえ。そうだ、侑ちゃんは何が好き?さっそく夜ご飯作るわねえ。」

 ……侑ちゃん。

 そう呼ばれるのはいつ以来かな。

 「私が好きなのは……」

 私は一体何が好きなの?

 びっくりする。まさか自分の食べ物の好みさえ分からないなんて。

 近頃まで、何を食べても味もしなかった。

 でも昴生と向かい合って食べたご飯は…

 そう言えばちゃんと味がしてた。

 手際よく米本さんが
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