こうも私が変われたのは、本当に昴生のおかげ。 あれから死にたいだなんて一度も思わなくなった。 それよりも、結婚式はどんな風になるだろうかとか、その先の新婚生活はどんなだろうかと、ワクワクするような未来のことばかり考えている。 私の誕生日に合わせての結婚式。本当に楽しみ。 まさか私が人気俳優の綿貫昴生と結婚するだなんて、一体誰が思っただろう。 だが、待ち合わせした場所にはまだ昴生の姿がなかった。 なるべく人目につかないよう、客室がある階層にしたのだが。周りは静かだ。 そのエレベーターホール付近で人な話し声がした。 気になって近づいてみると———。 「だから、———言ったじゃない!」 フワリと、長く美しい、カールした金髪の髪が揺れる。 そこにいたのは、まさに今夜、主演女優賞を受賞したハリウッドスター「キャスリン・カヴァデイル」と、待ち合わせしていたはずの昴生の二人。 「…昴生?」 「侑さん?」 どうしてあのキャスリンと、昴生が一緒に? 「アナタが、コーセーのパートナー?」 まるで本当に映画の世界から飛び出したかのような美貌のキャスリンは、大胆なスリットドレス姿でなぜか昴生に接近していた。
眩しいスポットライトにも負けないくらい、美しい容姿をした彼。 サラッと艶のある黒髪が揺れ、焦茶色の瞳が輝いている。整った顔立ち。しかもどこか日本人離れした雰囲気。 我妻監督と同じく黒の上品なタキシード姿なのに、華やかなで、エレガントで、かつ大人の色気が漂っている。 他のハリウッドスター達にも決して劣らない。 私の自慢の彼———。 「昴生。」 「侑さん。似合ってますよ、そのドレス。すごく。」 昴生はそう言いながらフワッと笑い、私の手を取り、その隙に囁いた。 そう。芸能プロダクションの社長でありながら、自身も俳優業を続ける昴生。彼もまた、別の映画で主演男優賞にノミネートされているのだ。 「あなたが買ってくれたものだからね。」 彼の私を見つめる瞳が熱いので、急に恥ずかしくなって視線を逸らす。監督も私達の関係を知っているので、和やかに笑って昴生と挨拶をした。 「そうでしょう?俺好みの…ちょっとセクシーなドレスですから。」 相変わらず昴生は、こんな場所にも関わらずとんでもない事を口にする。監督も苦笑い。 だが確かに今回、私が着飾っているもの全て、昴生が用意してくれたものだった。 一体いくらかかったのかと聞いても答えてくれない。ただ、「頭から足の先まで、全て俺の好みにしたいです。」とだけ。 そう言うところ、昴生らしいと言えば、らしいけれど。 「さあ、行きましょうか。侑さん。」 たくさんのフラッシュが向けられる中、私達はゆっくりと授賞式の会場となるドルビーシアターへと入場した。 ハリウッドでの滞在予定は2泊3日。 本当はもっと長くいたかったけれど、昴生の仕事が忙しく、また私も新しい映画の撮影があるためだ。 近郊のホテルにもう一泊して、明日の飛行機で帰る予定。 私達は残念ながら受賞とはならなかったけれど
実は去年出演した我妻監督のあの映画。 私が殺人鬼を演じた役が、何とアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされたのだ。 そのため正式に今回授賞式に招待され、今まさにレッドカーペットを歩こうとしている。 しかも、我妻監督もまた脚本賞にノミネートとされている。 さすが我妻監督だ。昔から才能に溢れている人だから。 むしろ私の方は海外で名前が知られてるとは思ってない。 でも今この場にいる奇跡、私を支えてくれた皆に心から感謝している。 もう二度と、こんな華やかなスポットライトを浴びるなんて夢にも思ってなかったから… それもこれも、全部。愛しいあの人のおかげ。 やがて運転手がドアを開ける。顔を上げ、イメージトレーニング通りに微笑しながら降りる。 その場に打ち合わせ通りに我妻監督が立っていて、降り立った私にエスコートの手を差し出した。 「侑。今夜も完璧だな。」 タキシードを着た、正装着姿の我妻監督が、にこりと笑いかける。 「そうですか?ありがとうございます。」 彼の手を取り、レッドカーペットを歩こうとすると。 「アガツマ!!」「great!!」 「ユウー!!ユウー!!」「It's beautiful!」 と、金属製のバリケードの向こう側にいる数人の外国人が叫んだ。 「ほお。侑もすっかり有名人じゃないか。」 どこか監督は得意げに笑う。 「まさか私の名前まで呼ばれるなんて。」 「相変わらずお前は、自己肯定感が低いなあ。いいか、侑。堂々としていろよ。お前は世界に認められてもおかしくはない俳優なんだから。」 「…はい。」 我妻監督はさり気なく褒めてくれて、レッドカーペットの上を、私を慣れた様子でエスコートしながら歩き始めた。 私達の先には、本場のハリウッドスター達が勢揃いしていた。 どこもかしこも煌びやかで、スポット
私⃞だ⃞っ⃞て⃞嫉⃞妬⃞く⃞ら⃞い⃞す⃞る⃞よ⃞ 私は今、強烈に緊張していた。 と言うのもこの日私は日本を抜け出し、アメリカのカリフォルニア州、ロサンゼルスにいるからだ。 一体なぜそんな場所にいるのかって?それは——— 「侑さん!わあああ!すごく綺麗です!まるで本物のハリウッドスターみたいです!」 一緒にホテルに滞在していた鳥飼さんが、会場に向かう少し前、ドレス姿に着飾った私を見て、やや興奮気味に叫んだ。 「鳥飼さん。本当に?その、大胆じゃない?」 私が戸惑うのも無理はない。 今私が着ているのは、ブランドひんの黒のロングドレス。だが、それだけならむしろ地味な色のはず。 しかし実際は、シンプルながらも随所に特徴があって、背中は広く開き、片足の方は大きくスリットが入っている。 さらに左肩には吊り紐がわりのリボンが付いていて、もう片方は大胆にも肩が露出している。 高価なプラチナのピアスやネックレス、ブランド品のバッグに宝石のついたヒールの靴という有様だ。 これだと、どう考えても、目立つ。 まあ確かに、私は派手な色よりかは黒いドレスの方が好みだけれど…少し派手すぎない? 「何言ってるんですか!今からレッドカーペットを歩くんですよ!このくらい、いえ、もっと派手でもいいくらいです!」 興奮気味に鳥飼さんがそう言う。 「そう?鳥飼さんがそう言うなら…」 「そんな事より急ぎましょう
皆酔っ払って、リビングで眠ってる。 私と昴生はほろ酔い気分で、ベランダに出た。 夜風が気持ち良い。私が外に出ると昴生はすぐに私に上着をかけてくれた。 「侑さん。ずっと言おうと思ってたんだけど」 「どうしたの?改まって。」 なぜか緊張していそうな昴生の手を取る。 いつだってこの手は温かい。 そう思って逞しい手を眺めていたら、逆に手を取り上げられて、指に何かがスッとはまった。 キラキラと輝く、シルバーの指輪だった。 多分いくつものダイヤが付いてる。 私は驚き、すぐに昴生を見上げた。 黒髪が風に揺れ、昴生の綺麗な瞳が輝いている。 「昴生、これって………」 「——————侑さん。 俺に一生、飼われるって約束してくれたよね?」 「言ったね…………」 「それなら、俺と結婚しないとだよね?」 「まさか、それってプロポーズ?」 何とも大胆で。昴生らしい。 「私、年上だよ?売れない女優だし。 今はあれでも……この先仕事無くなったらどうするの?」 「大丈夫だよ。社長の俺がそんな事させないし。 それに、もし侑さんの仕事が無くなったとしても。 それはそれで構わないよ。 その時は侑さんは、ただひたすら3食昼寝をして、ブクブク太って、どうしようもなくなれば良いいんだから。」 ……それ、他の人が聞いたら絶対いじられてるって思うだろうね。 「醜い私でも愛せると?」 「当たり前でしょ。 だってどんな侑さんも、俺が愛する侑さんなのに変わりはないんだから!」 そう言って昴生は嬉しそうに笑う。もう返事を聞いたみたいに。本当に子供みたいに。 「私を一
私達があの後どうなったかと言うと。 実は八重樫が私を追い出したくて、嫌がらせや、業界に残れないように妨害工作を働いていた事が発覚し………何とか昴生と引き離したかったんだろう。 だけど、そんな時に昴生が言った。 「侑さん。芸能界が侑さんを捨てるなら、侑さんが芸能界を捨てればいい。」 「それって、どう言う………」 「俺、あの事務所を侑さんと一緒に辞める。 それで。 新しく事務所を作ろうと思うんだ。」 またいつものように昴生が、勝ち誇ったように笑った。相変わらず綺麗な顔で。 誰も昴生に敵う人なんていない、そう実感せずにはいられなかった。 「侑ちゃんがあの時、弟をブシャーって!」 「あははは、米本さん〜!分かりますよ、すごい迫真の演技でしたよね! 侑さんの殺意がもう何とも」 お酒が進み、すっかり出来上がってきた米本さんと鳥飼さんが盛り上がっている。 「こら〜!鳥飼。お前酔いすぎ。」 「何ですかー、佐久間さん?そう言う佐久間さんこそ、侑さんの演技見て泣いてたくせに」 「わ、バカ、鳥飼〜」 実はあの後、事務所を辞めた昴生が本当に芸能プロダクションを設立した。 小規模な会社だったけれど、昴生が社長というのは案外宣伝効果が絶大で。 しかもそこで私も女優として在籍してる。 さらには、昴生のマネージャーである佐久間さんと、私のマネージャーの鳥飼さんまで引き抜いてしまったのだ。 何だかんだありながらも、私達は充実した日々を送っている。 「皆、本当にありがとう。」 改まって私が頭を下げると。 昴生が真っ先に私に笑いかけ、言った。 「お礼なんていいよ。 皆侑さんの演技が好きで、侑さん自身が好きでこうしてるだけなんだから。ね。」 「そうですよ〜、侑